女神と星座の導きによりて
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星21 射手座とペガサス座
ある日、光政公からそろそろ子供達を聖闘士の修行に行かせるとの知らせを受けました。
いつになるかはまだ決まっていないみたいですけど、話を聞くと今週当たり行き先を決める為のくじ引きが始まるみたいですね。
それに対して沙織は不安そうでした。
折角仲良くなった子達と離れるのは勿論、死ぬかもしれない地獄に行かせられると聞かされては仕方のない事でしょう。
うん、私は結構スムーズに進められたので、死にかけたりしませんでしたけど。それはそれは、腕立て千回とか、腹筋千回とか、肉体的訓練は大変でしたけどねー。
それはさておき、ちょっとした事件がありました。
アイオロスなんですが、なんと、星矢達に会ってみたいって言ってたんですよ。なんでも沙織から話を聞いて興味を持ったとか。
光政公に話して会う事は出来るか―――なんて多分出来ないです。アイオロスが生きている事を、いくら子供でも知れ渡る様な事をしてはいけないのです。
まさに極秘機密。なのですが―――。
「ごめんなさい、おかあさま。お話をちゃんと聞かなかったせいで……」
「いいえー、大丈夫ですよ。沙織。私も注意し忘れていたのが悪いのですからね」
そう、実は沙織ったら、私が沙織から離れる時、習い事のレッスンを受け、予定より早く終わった後、星矢達に会いに行ったんだそうで、そこである拍子にアイオロスの話をしてしまったみたいでして。
話を聞いた星矢達はやっぱりというか、会ってみたい!と言い出し、沙織は慌ててアイオロスの状態を説明すると、星矢は監禁みたいなもんじゃん!とか言い出してしまったそうです。
監禁というか、安静第一なのですが、時々アイオロスは起き上がれる時に無理をして筋トレしだすんですよね。本を読むのは良いのですが、筋トレはもう少し良くなってからではないといけないのに……。
肉体の衰えを感じてしまって、落ち着かないとか言ってるんですけど、そこは沙織に言って止めてもらっています。
懲りてはいないですけどね。仕方のない人です。
まぁ、そんなこんなで星矢ときたら、屋敷に忍び込んでサプライズで会いに行こうとしているんです。
私は止める立場なんですが、アイオロスの”会ってみたい”という言葉を、聞き入れてあげたいという気持ちもあるんですよね。
例え、アイオロスが負傷していなかったとしても、星矢の言う通りアイオロスには監禁に等しい扱いをしなければいけない訳ですからね……。
それから、心配があるといえば星矢の事なんです。
ほら、彼はギリシアの聖域近くでの修行でしょう?
アイオリアに会った時、どうなるのかハラハラすると言いますか。
だって、兄弟だからか、アイオリアはアイオロスにそっくりな訳で。
星矢はなんだかんだ抜けている所があるので、心配なんですよね。……勿論フォローはしますけど。
まぁ、会えるかは分かりませんが、私が出来る事といえば、見逃す程度に留めて星矢が折檻を受けない様にする位でしょうか。
沙織から話を聞いていた私は今日の夜。つまり、今ですね。アイオロスの部屋の扉前で待機していました。
しばらく無音でしたが、突然、屋敷の中が騒がしくなりました。来ましたね……星矢。
━━━━━真名。
━━━━━アイオロス……。
━━━━━星矢という少年が来たのか?
━━━━━そうでしょうね。……会いたいんでしょう?
━━━━━ああ、出来る事なら……流石に無理にとは言わないのだが……。
これではな。っと苦笑するテレパシーが聞こえました。
━━━━━星矢自身が望んだ結果です。貴方だってそうでしょう?貴方の事です。無意味な事を言う訳ではないのでしょう?
会えたなら、ですけどね。
━━━━━真名にはお見通し、という訳か?
━━━━━どうでしょうね?っと、来ましたよ。
そこでテレパシーを中断しました。星矢が来たみたいです。
「あ、真名さん!」
「星矢」
どうやら一人みたいですね。でも、屋敷内は騒がしいまま。
普通なら子供である星矢一人では来れないハズです。多分、三人の少年達が協力しているのかもしれませんね。この段階でこの団結力すごいです。
「真名さん、ロスさまっていう人の部屋ってココ?」
「さて、どうでしょうね?」
そういうと星矢はうげっ!っと声を上げて後ろを見たり、私を見たり。
「そりゃないぜ、真名さん!ココまで頑張って来たのに!」
「ふふっ、すみません。ちょっとした意地悪です。さぁ、入りなさい」
そういって扉の前から身体をずらしました。
「え?いいの?」
「”彼”も会いたがっていましたから」
騒がしくしてはいけませんよ?と言って扉を開けて促します。
「へへ、失礼しまーす……」
星矢がそう言って部屋に入る際こちらに顔を向けて、
「さんきゅーな、真名さん」
と、片目を閉じてウィンクしてきました。まったくもう。
そして扉を閉めます。
中に入らないのかって?邪魔が入らない様に見張りですよ。
きっとアイオロスの事ですから、沙織の事を話すのでは?と思っています。まだアテナである、という話はしないでしょうけど、アイオロスなりに沙織から聞いた星矢に何かを感じたのでしょう。
五、六分たった頃でしょうか?遠くの方からこちらに真っ直ぐ向かってくる約五名の小宇宙を感じます。
その中の三つは感じ慣れている小宇宙です。
「ああ、真名様。こちらにいらっしてたのですね」
「一人のガキがこちらに来ませんでしたか?」
黒服の大男のSP二人が瞬と紫龍、氷河をそれぞれ片手で持ち上げています。
三人共疲れているのでしょう。息が荒いですし、頬も一発殴られている跡があります。
「来ていませんよ?この屋敷は広いです。恐らく迷っているのではないですか?」
「本当ですか?隠してませんよね?」
そう言って私を疑っているのか、グラサン越しにも睨んでくるのを感じました。まぁ、仕方ないですね。普段から沙織と一緒に星矢達と良く共にいる所を使用人達にも見られていますから。
「私には隠す必要もありません。お疑いならば、この部屋を覗いてご覧なさい。お叱りは私が受けます」
負けじと睨み返します。いけないと教えているのに此処に来た四人にも罪はないとは言いませんが、子供に対しての扱いが酷過ぎます。こう見えて怒っているのですよ?
私から二人に対して軽く殺気を当ててますので、怖気づいたのか後退りするSP。
「い、いえ、知らないのであればいいのです。大変失礼をいたしました」
腰抜けめ!それで沙織や光政公を守る仕事をしているとは思えません。
もう少し骨のあるSPを雇うべきと進言しましょうか?
「あと、その子供達は私が預かります。即刻此処から立ち去りなさい」
SPを睨みながら、そう言い放つとSPの一人が
「え!?さ、流石にそれは……」
「お叱りは私が受けると言ったハズです。いう事を聞かなければ……」
殺気の圧力を上げて睨めば大慌てで三人を離し、この場から走って逃げて行くSPに呆れて物も言えません。貴方達、此処の警護していたのではないのですか?逃げるとか、SPの風上にも置けません。
とにかく今は三人の手当てをしなければ。恐らく頬を殴られただけではないでしょう。この屋敷は沙織には優しいですけど、孤児として連れてこられた子供達の当たりが酷過ぎます。
改善したい所ではあるのですが、恨まれる覚悟を持った光政公に沙織以外の改善はしません。いえ、出来ません。
本来ならばご自分のお子さん達に優しく声をかけたり、抱きしめたりしたいハズなのに、それは出来ないと。そんな覚悟を持った人だから城戸邸の改善は沙織の事しか出来ないのです。
改善と言いましたが私は別に沙織……アテナの親代わりになったと思いあがった訳ではありません。
沙織は幼い内になら我儘放題を許せる立場ですが、女神アテナとして覚醒したら我儘なんて言っていられません。本来はそうだったかもしれませんが、最初のギスギスした沙織と星矢達の関係をなんとかしたかったんです。
ふふっ、そこが烏滸がましいのでしょうけどね。
所詮は私の個人の我儘、偽善でもあります。
内心で苦笑していると
「あ……、真名さん、痛っ」
殴られて気絶していた瞬が最初に気が付きました。ああ、無理して起き上がってはいけません。
優しく頬に手を当てヒーリングを施します。
すると少しずつ頬の腫れは消え、痛みで歪んでいた顔つきも元に戻り、いつもの優しい顔になりました。
「わぁ、真名さん、本当に魔法使いみたいですね。痛みが無くなりました」
まさか、傷が完璧に癒えた事には気付いていないみたいですね。仕方ありません。
そうして未だに気絶している紫龍と氷河にもヒーリングを使って、傷を癒し終わり、壁に寄り掛かる様に座らせてアイオロスの部屋の扉を見つめました。
瞬から視線を感じたので目線を合わせようと屈みます。
「あの、真名さん。星矢は……?」
此処に着いたのか気になるようですね。瞬を安心させてあげる為に優しく微笑みます。
「ちゃんと此処へ着きましたよ。今はこの部屋の中です」
そう聞くと瞬はホッと安心した顔になって微笑み返してくれました。
それから、少し……、多分二、三分たった頃に扉がゆっくり開きます。
そこから周りを警戒しているのでしょう。ゆっくりと星矢が出てきました。
「あ、星矢!」
「お、瞬!無事で良かった!」
瞬と星矢はお互いが無事(本当は瞬は無事とは言えなかったけれど)で安心したようで、両者とも笑顔です。
「星矢」
「あ、真名さん」
「話は出来ましたか?」
アイオロスと、という意味で話しかけます。
「真名さん、おれ……」
「ん?」
星矢は真っ直ぐに私と目を合わせ、決意したという意思を感じます。
「おれ、おじょ……沙織さんを守るぜ。色んなモノから、守ってやれる男になりたい!」
お、おおう……。中でどんな会話をしたのか、明確に分かる訳ではありませんが、やっぱり沙織関係であった様ですね。
ん?
「”沙織さん”?」
星矢は今、沙織の事を”お嬢さん”ではなく、”沙織さん”と呼びました。何かの決意をしたみたいですし、とにかく見守りますか。
「なんだよ。おれが沙織さんの事を沙織さんって呼んじゃダメなのかよ?」
不貞腐れたように言い放ちます。違うのですよ、星矢。
「いいえ、それは良いのですが……、星矢?」
「ん?」
「沙織を守るとはどういう事か、分かっていて言ってます?」
この子の持つ予定の聖衣は”ペガサス”。
このペガサスはある意味特別な物で、遥か昔の聖戦では、ある偉業を成した聖闘士の聖衣です。
でも、それは昔の話。今のこの星矢が成すかは、私やアイオロスが居る事によって変わるかもしれません。でも、聞かずにはいられなかったのです。
「分かってる……なんて、正直言いきれないけど、男と男の約束だ。絶対に守って見せる!それに……なんだ……」
「はい?」
「……沙織さんは強がりだから、素直に泣ける場所に、おれはなりたい。……へ!女を守るのは!当たり前の事だろ!!」
子供がいきなり大人顔負けの男の顔になったと思ったら、そっぽを向いて顔が真っ赤になっている年相応の少年の顔に戻りました。
うあー、これは!
「はいはい、そうですね。よろしくお願いしますよ。騎士殿」
その辺転がりたいです!萌える!!何この子、私を殺す気ですか!?マジ半端ない!小さいけれどちゃんと男ですねぇ!まだまだ可愛い盛りですけど!
「なんなら、おまけに真名さんだって守ってやらぁ!」
「もう、星矢、恥ずかしいからって調子に乗らないの」
瞬が星矢を諫めました。
瞬、ナイスです!
「さて、屋敷内も落ち着いたみたいですし、部屋に戻りますか」
送っていきますよ。と言うと星矢と瞬にお礼を言われ、紫龍を背に背負い、星矢は氷河を背負いました。瞬も星矢の手伝いしてますね。
さて、くじ引きが始まると直に修行の地に送られます。
それまでにアレの準備を始めますか。
こうしてペガサスは射手座により複数の道の一つを見つけました。
さて、この子はどんな子に育つのか、楽しみですね。
後書き
星矢、アイオロスと出会うの巻。
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