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ある晴れた日に

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23部分:もう飛ぶまいこの蝶々その六


もう飛ぶまいこの蝶々その六

「あれは」
「あれ?何かあったのか?」
「ほら、あれ」
 未晴が指差したのは蝶だった。見れば一匹のモンシロチョウがひらひらと舞っていた。蝶はマーガレットに止まったかと思うとすぐにチューリップに近付く。それからまた別の花に。実に移り気な様子だった。
「何か落ち着かない蝶々だな」
「そう?」
「だってよ、花から花にってよ」
「蝶々ってこんなのじゃない」
 その蝶を見つつ微笑んで正道に応えてきた。
「そうでしょ?花から花にね」
「それもそうか」
「そうよ。昼も夜もね」
 未晴はこうも言う。
「飛び回ってね。花の周りをね」
「それが蝶々か」
「これがいいのよ」
 そしてこのことを肯定さえする未晴だった。
「蝶々はね」
「何か目につくんだけれどな」
「奇麗じゃない」
「奇麗か」
「それに可愛いわよ」
 今度は可愛いと言った。
「花が大好きなのがわかって」
「花が好きなのか」
「だから花に集まるんじゃない」
「そういえばそうだな」
 蝶が何故花に集まるのかは正道も未晴も知っている。しかしそれをとりあえず置いてまで話しているのだ。あえてそうしているのだ。
「蝶々は」
「ほら、今度は」
 またマーガレットに止まった。
「マーガレットに。そして今度は」
「チューリップか。それも黄色いチューリップだな」
「色々な花から花によね」
「何かな」
 正道の声も微笑むものになっていた。
「いい感じだな」
「そう思うでしょ」
「ああ、今思ったよ」
 その微笑みで未晴に答えた。
「いや、わかったって言うのかな」
「そうでしょ。蝶々っていいでしょ」
「花には蝶々か」
 彼は考える顔で述べた。
「そういうものなんだな」
「ただそこに花があるだけじゃないの」
 未晴は今度は花と蝶を同時に見ていた。
「色々なものが集まるのよ」
「花には蝶が集まるか」
「そう、他の奇麗なものもね」
「何かな」
 正道の声に含まれている微笑みがさらに深いものになった。
「園芸委員はじめてばかりだけれどな」
「どうしたの?」
「面白そうだよな」
 その微笑みで話した言葉だ。
「それもかなりな」
「そうよ、面白いのよ」
 今は正道の横顔を見てきている。
「園芸委員のお仕事ってね」
「あれこれ言われてもやってみるか」
 こう思いはじめもしていた。
「こういうのが見られるんならな」
「ほら、見て」
 また未晴が言ってきた。
「他にも」
「ああ、また蝶々が来たな」 
 蝶だけではなかった。他の虫達も集まってきた。
 ハナアブにコガネムシもいる。そういった虫達が花に集まりそれぞれ花を飾っている。正道も未晴もその光景を見て目を細めさせていた。
「ミツバチが来たら怖いけれどな」
「いえ、怖くないわよ」
 笑顔で正道に告げる。
「ミツバチはね」
「いや、蝿は普通に怖いだろ」
「だから大丈夫よ」
 しかしそれでも正道に言うのだった。
「ミツバチはこっちから何かしない限りは何もしてこないから」
「へえ、そうなのか」
「そうよ。本当は大人しいのよ」
 大人しいとまで述べる。本当によく知っていることが正道にもわかった。
「だから安心していいわ」
「そうか。じゃあいいな」
 わかったうえで頷くのだった。
「それでな」
「そういうことよ。それでね」
「ああ」
「これから。本当に宜しく御願いね」
「こちらこそな」
 笑顔で言い合った。こうして二人の園芸委員としての仕事がはじまった。最初から和やかな雰囲気でのはじまりだった。


もう飛ぶまいこの蝶々  完


                    2008・9・19
 
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