英雄伝説~灰の軌跡~ 閃Ⅲ篇
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第93話
6月20日、演習最終日―――
~演習地~
翌日、演習地から去るリィン達はユーシス達に見送られようとしていた。
「はあ~…………今回の演習は本当に色々滅茶苦茶だったわよね…………」
「アハハ、”鋼の聖女”どころか”英雄王”達まで加勢した上、鉄機隊はメンフィルに投降したもんね~。あのヒトが分校長ってアーちゃんたちも大変だよねー。」
「まあ、さすがに慣れました。―――最も本来なら共有すべき情報を提供してくれなかったリウイ陛下達には苦言を申し上げたいですが。」
「ア、アルティナさん…………」
「ハハ、それに関しては俺達もそうだから、あまり気にするな。」
「そうよ。第一それを言ったらお義父さん達の娘の私なんてアル達と違って、何も教えてもらっていないのよ?」
ミリアムの同情に答えた後ジト目になったアルティナの意見にセレーネと共に冷や汗をかいたリィンとゲルドはそれぞれ苦笑しながら答えた。
「フフ、ゲルドさんに何も教えないのは様々な思惑が混じった”大人の話”にゲルドさんを巻き込むつもりはないという陛下達の親心だと思いますわよ?」
「―――そういえばミュゼ、ゆうべレン教官とどこに行ってたの?」
「あ、外出届けを出して一緒に出掛けたみたいだね?それとエリゼちゃんも二人の少し後に出掛けたみたいだけど…………」
ゲルドに指摘したミュゼの話を聞いてある事に気づいたユウナはジト目でミュゼに訊ね、ミュゼに続くようにトワもミュゼとエリゼに訊ねた。
「ふふ、ちょっと私の実家の方に顔を出していたんです。Ⅶ組に移る前は良くして頂いたレン教官にご挨拶をお礼を言いたいとお祖父様達が仰っていましたので。」
「ま、そういう訳で昨夜はミュゼの実家で泊まらせてもらっていたのよ。エリゼお姉さんは確かリフィアお姉様の専属侍女長としての務めだからでしょう?」
「はい。オルディスでユーディット皇妃陛下達との会談があり、その関係で。」
「ああ、そういう話でしたね。」
「ふふっ、そういえばレンちゃん、性格も似ている事もあってミュゼちゃんとたまに話していたものね。」
ミュゼ達の話を聞いたアルティナとティータはそれぞれ納得し
「……………………」
(………ハン…………?)
(フウ………相変わらず人を欺く事に関しては見事と言うべきね…………)
ミュゼ達の話の内容が気になったリィンは静かな表情で、アッシュが怪しげな視線でミュゼ達を見つめている中アルフィンは呆れた表情で溜息を吐いた。
(うーん、さすがミュゼ君。見事なまでの惚けぶりだねぇ♪)
(ふう、末恐ろしいというか。…………それに昨日の提議は…………)
(………いずれにせよ、今は見守るしかあるまい。)
一方事情を知っているアンゼリカやパトリック、ユーシスは様々な思いでミュゼ達を見つめていた。
「……………………わざわざ見送りに来るなんざ、アンタらもヒマっつうか。」
「こら、せっかく仕事の合間に見送りに来てくれたんだろう?」
「そうですわよ、普通は見送りにきてくれた方々にお礼を言うべきですわよ。」
アッシュは自分の見送りに来た顔馴染みのシスターと飲食店の女性を見つめ、アッシュの言葉を聞いたリィンとセレーネはそれぞれアッシュに注意した。
「フフ、いいのさ。まだランチ前だからね。」
「いいですか、アッシュ君。危ない事には手を出さないように。授業も抜け出さない、それと夜遊びもほどほどに―――」
「ハッ、アンタの方はもう少し遊び慣れとくんだな。そのうち下らねぇ男に食われちまっても知らねぇぞ?」
「なっ…………!…………もう、貴方って人は。」
「ふふ…………元気にしてるんだよ、アッシュ。Ⅶ組の皆さんも、コイツをどうかよろしく頼んだよ。」
「って、オイ―――」
「あはは、任せてくださいっ。」
「まあ一応、同じクラスメイトですし。」
「うん、それがアッシュと同じクラスメイトの私達の役目だものね。」
「品行方正は無理でしょうが一線は越えさせないようにします。」
女性の頼みにアッシュが反論する暇もなくⅦ組はそれぞれ答えた。
「ああっ、ありがとうございます!」
「……………クソ、どいつもこいつも…………」
(はは…………)
(フフ…………ラクウェルの人達に大切にされている証拠ですわね。)
アッシュが気まずそうな表情をしている中その様子をリィンとセレーネは微笑ましそうに見守っていた。
「ふふ…………ミュゼも元気でね。どうか無理はしないで頂戴。」
「大変なのは”これから”だろうが…………次に戻る時を楽しみにしている。」
「…………ふふ、お祖父様、お祖母様もどうかお元気で。」
イーグレット伯爵夫妻の見送りの言葉にミュゼは静かな笑みを浮かべて答えた。
「―――お孫さんのことはどうかお任せください。自分達も担任教官として精一杯支えさせていただきます。」
「まあ…………」
「フフ、よろしく頼んだよ。…………ふむ、事によっては次の帰省でめでたい報告などもあるやもしれんな。」
「もう、お祖父様ったら気が早いんですから♪」
「ふふ、首を長くしてお待ちしております。」
ミュゼと伯爵夫妻、セツナのやり取りを見たリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「…………あの、支えるというのはそういう意味では。」
「うーん、手強い家族ねぇ。」
我に返ったリィンは自分の発言の意味を訂正しようとし、ユウナは苦笑していた。
「フフ…………とにかく今回は本当に助かった。グラーフの奪還もそうだが――第Ⅱ分校のおかげで、新海都の被害も最小限に抑えられ、オルディスの被害は皆無でクロスベルとの国際問題も発生しなかったと言えるだろう。」
「はは…………准将もお疲れ様でした。幻影とはいえ魔人との戦い…………正直、気が気ではありませんでしたが。」
「ハハ、凌ぐだけで手一杯といった結果だったがな。亡霊とは言えあれの本物と互角に渡り合えたというアルゼイド卿の御力が思い知れるよ。」
「よく言うぜ…………アンタも十分化物だっただろ。」
「クク…………機会があれば、是非手合わせ願いたいぜ。」
リィンの言葉に対して苦笑しながら答えるウォレス准将をランディは苦笑し、ランドロスは興味ありげな様子で見つめていた。
「さすがは黄金の羅刹の右腕と言うべきか…………」
「ハッ…………やっぱエレボニアは広いっつーか。」
「フフ、第Ⅱにしても地方軍にしても、ギルドの諸君にしてもお疲れだった。サザ―ラントの事件に続いて、重ね重ね礼を言わせてもらうよ。」
「フッ、特に第Ⅱについては華々しいといってもいい働きだ。ひょっとしたら―――皇帝陛下から表彰を受ける可能性も十分あるんじゃないか?」
「こ、皇帝陛下って………!」
「ユーゲント三世陛下ですか………」
「えっと…………という事はその人がアルフィンのお父さんね。」
「さ、さすがに畏れ多いですね…………」
「…………へえ、皇帝か。そういえばエレボニアの皇帝はまだ生で見た事はなかったな。」
「ふふ、威厳と聡明さを兼ね備えた立派な方でいらっしゃいますよ。」
パトリックの言葉に新Ⅶ組のまだ見ぬユーゲント皇帝に対して様々な反応を見せていた。
「それにしても―――各地での結社の”実験”とやら。ここにきて極まった感があるな。」
「そうね、恐らく”神機”の”実験”は2年前のクロスベル動乱の件を考えるとあの機体が最後だと思うし。」
「うーん、神機や鉄機隊も全部”英雄王”達に持っていかれちゃったからね~。そっちはその件についてまだ何も情報が来ていないの~?」
考え込みながら呟いたユーシスの言葉にサラは頷き、意味ありげな笑みを浮かべたミリアムはリィン達を見つめて訊ね、その様子を見たユーシス達とリィン達、それぞれ冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「ハハ、例え彼女達から結社についての情報を引き出せたとしても、そんな早くに俺達にまで回って来ないさ。」
「―――ま、鉄機隊の取り調べはリアンヌ分校長が直々にするらしいから、パパ達から貰える情報の正確性については保証できると思うわよ。」
「そうですわね…………彼女達の高潔さを考えると少なくても嘘の情報を口にするような事はしないと思いますわ。」
「”槍の聖女”自らが…………」
ミリアムの指摘にリィンが苦笑している中、レンとセレーネの説明を聞いたガイウスは目を丸くした。
「…………いずれにせよ、今後も備えは必要ということだろう。旧Ⅶ組と特務部隊としての”約束”―――果たすべき時が近いのかもしれん。」
「俺達が旧Ⅶ組最後の自由行動日の時の、”あの約束”か――俺達特務部隊と旧Ⅶ組が全員で集まるには確かにいいタイミングかもしれない。」
「うんうん、こうしてガイウスも戻ったわけだし!」
「ああ…………まさに風の導きというものだろう。」
「フフ、日時が決まったらあたしも参加させてもらうわ。」
「ふふっ…………わたしたちもジョルジュ君と集まらないとね!」
「…………ああ。それが叶ったらリィン君たちの所に乱入させてもらうとしよう。」
「フフ、喜んで。」
(ハハ、眩しいねぇ。)
(お前さんもちょっと羨ましいんじゃねえのか?)
トヴァルと共にリィン達の様子を見守っていたアガットはランディに話を振り
(まあな…………だがこちらも似たような約束はしていてね。)
話を振られたランディは苦笑しながら答えた。
「旧Ⅶ組と特務部隊全員の集結、か………」
「…………ちなみにその集まりには当然、私も出席できますよね?」
「ふふっ、心配しなくてもアルティナさんも参加できるように取り計らいますわ。」
「クスクス、それにしても”そこ”を気にするようになるなんて、やっぱり2年前と比べると随分”変わった”わね♪」
「はい…………きっとアルティナさんが変わった一番の影響は将来は自分の夫になるかもしれない旦那様だと思いますわ♪」
ゲルドは静かな表情で呟き、ジト目のアルティナの要求にセレーネは苦笑しながら答え、その様子を面白そうに見つめて呟いたレンに続くようにアルフィンはからかいの表情で答え、それを聞いたリィン達は冷や汗をかいて脱力し
「だから、いつまでそのネタを引っ張るんだよ…………」
「―――兄様だからこそ、未だにその疑いがもたれてしまうのは”当然の事”かと。」
我に返って疲れた表情で溜息を吐いたリィンにエリゼは静かな表情で指摘し、それを聞いたリィン達は再び冷や汗をかいて表情を引き攣らせ
「ううっ、俺にどうしろと言うんだ…………」
「…………?(何故、リィン教官の今の答えを聞いて僅かですが”怒り”を感じたのでしょう…………?)」
リィンが疲れた表情で肩を落としている中、その様子を見たアルティナは何かの感情が芽生えた事を不思議に思っていた。
「アハハ…………でも、なんか凄いことになってきたわね。」
「ああ、なかなか背中が見えないというか…………」
「はは、何を言ってるんだ。―――君達も同じ”Ⅶ組”だろう?」
「今回の一件、君達の力がなければ解決までには至らなかったはずだ。」
「フッ、次も何かあれば是非、お前達の力を貸してもらいたい。―――Ⅶ組の”同輩”としてな。」
自分達の力の足りなさを感じているユウナにリィンとガイウス、ユーシスはそれぞれユウナ達にとって驚く言葉を口にした。
「…………光栄です。」
「あ、あはは…………ちょっと照れますけど。」
「ハッ、四大名門の当主がそこまで仰ってくれるとはな。」
「ふふ、喜んで力にならせて下さい。」
「うん、私達もみんなの”仲間”として全力で力にならせてもらうわ。」
「えへへ、アーちゃん、次も一緒に戦えるといいね!」
「…………考えておきます。」
リィン達の賛辞に新Ⅶ組の面々はそれぞれ自分達が成長している事が認められた事をかみしめながら答えた。
「フフ…………」
「仲間に教え子、そして将来の伴侶達…………フッ、つくづく恵まれた男だ。」
その様子をハイアームズ侯爵は微笑ましく見守り、パトリックはリィンの顔の広さに苦笑していた。
「そんじゃあな、リィン。今回もロクに話せなかったが次の機会があったらよろしく頼むぜ!」
「ええ、もちろん。こちらも頼りにさせてもらいます。」
「アガットさんも今回はどうもありがとうございましたわ。」
「ハッ、よせっての。そもそも、こういう切った張ったをするためにエレボニアに来たんだからな。」
「おっ、どこかのお姫様を守る為に来たんじゃないのかい?」
「もしくはそのお姫様との”逃避行”じゃないのかしら♪」
「ラ、ランディ教官…………!それにレンちゃんも…………!」
アガットをからかうランディとレンの言葉にティータは恥ずかしそうな表情をし
「てめぇら…………」
「クク…………」
「ほんとラブラブねぇ。」
「くっ、羨ましい御仁だな…………」
「アンちゃん、本気で悔しがらないの。」
ランディとレンを睨むアガットの様子をランドロスは面白そうに見つめ、サラは微笑ましそうに見守り、本気で悔しがっているアンゼリカにトワは苦笑しながら指摘した。
(サラお姉さん。念の為にもう一度言っておくけど…………)
(ええ、言われた通り”猟兵王”のような事が起こらない為にもあたしが引き取った”罠使い(トラップマスター)”と”破壊獣”の遺体はちゃんと焼却して、その灰を彼らの墓に埋めておくわよ。―――フィーと一緒にね。)
レンに小声で話しかけられたサラは静かな表情で頷いて答えた。
「―――ええい、定刻だ!いつまでも喋ってないでとっとと乗り込むがいい!」
その時、リィン達の様子を見守っていたミハイル少佐がリィン達に列車に乗るように指示をした。そしてユーシス達はデアフリンガー号で演習地から去って行くリィン達を見送った。
「あはは、行っちゃったねー。」
「フッ、またすぐ会えるだろう。」
「されと―――それじゃあ私もそろそろ行くとしよう。」
ユーシス達と共にリィン達を見送ったアンゼリカはバイクに乗り込んだ。
「ああ、バーニエに帰る前に帝都に寄るとか言ってたわね。何か用事でもあるわけ?」
「ええ、久々に知り合いの顔でも見ていこうかと思いまして。では教官、ユーシス君達も元気で。―――また会おう!」
サラの問いかけに答えたアンゼリカはバイクを走らせてその場から去って行った。
「さて、俺達はいったんラクウェルに戻らねぇとな。」
「ああ、今回の一件の後始末…………簡単には片付かないだろうしな。それにオルディスにいるエステル達とも情報を交換しておきたいしな。」
「バラッド侯が失脚した事も各方面に影響が出ている筈だ。遊撃士諸君、すまないが市民のためどうか力を貸してあげてほしい。」
「フフ、お任せを。ま、とっとと終わらせて今後のスケジュール調整をしないとね。」
ハイアームズ侯爵の頼みにサラが遊撃士協会を代表して答えた。
「さてと、君達は新海都での手伝いをもう少しお願いできるんだったな?」
「ああ、任せるがいい。」
「それじゃあ、レッツゴー!」
そしてその場にいる全員がそれぞれ演習地から去り始めている中、その場にはガイウスとウォレス准将だけが残っていた。
「―――ガイウス。最後に一つだけ聞かせて欲しい。やはり吹き始めているんだな?…………言い伝えの、”あの風”が。」
「……………………ええ。故郷で感じたよりもさらに昏く、禍々しく。」
ウォレス准将の問いかけに少しの間黙り込んだガイウスは静かな表情で頷いて答えた。
「そうか、この身に流れる血ではもはや捉えることは叶わぬが…………あくまで俺は、帝国の一武門(バルディアス家)の人間としての使命を果たすつもりだ。だが君は―――戦士ウォーゼルの血と、”もう一つ”を継いだ君には。できればこの国の”友”としてその大いなる翼を振るって欲しい。」
「…………勿体ない言葉。ですがもとより、そのつもりです。」
ウォレス准将の頼みに静かな表情で答えたガイウスは決意の表情を浮かべた――――
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