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艦隊これくしょん~男艦娘 木曾~

作者:V・B
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第七十三話

 
前書き
どうも、高校野球観ながら、新しく届いたパソコンを楽しんでます。タイピングが絶望的に遅すぎる。 

 




「きゃぁぁぁぁああ!?」

 つんざくような悲鳴の後、悲鳴の主である瑞鳳さんが勢いよく駆け出す。

「ちっ、全員逃げろ!」

 俺は舌打ちをし、叫びながら瑞鳳さんの後を追う。

「了解!」
「分かったわ!」
「えぇ!」
「うん」

 と、全員が頷いたかと思うと──四人とも俺の後ろを着いてきた。

「ちょ!?二手に別れるだろこーゆー時は!?」
「あんたそんなこと一言も言ってないでしょ!?それとも何!?今から引き返せっての!?」

 首だけ後ろに向けて文句を言うと、ド正論で言い返してきた五十鈴や他の奴らの向こう側に、ご丁寧に窓を開けて入ってきた阿武隈の姿。

「まさか!こうなったら全員で逃げるぞ!」

 俺は少しスピードを落とし、集団の殿にまで下がる。そのまま後ろを見ると、阿武隈がこちらに向かって猛然と走ってきていた……手に、何かをもって。

「待てー!待たないと撃ちますよー!!」

 俺がそれを目視するのと、彼女が手に持った銃を構えるのは同時だった。

「ちょ!?阿武隈、何でそんなの持ってるのよ!?」
「春雨ちゃんが貸してくれたの!さぁ、止まってくださいー!怪我しちゃいますよー?」
「くっ、卑劣な……!」
「止まれるわけないでしょう!走るわよ!」
「きゃぁぁぁぁああ!?」
「…………」

 阿鼻叫喚と化した廊下。阿武隈は自信満々と言った感じで銃を構えていた……が、俺はその銃──銃口の所が斜めに欠けているに見覚えがあった。
 確か、拓海が持ってたM92Fだったはず……年齢制限十歳のエアガンだけど。
 俺達が小学生の頃に拓海が買ったやつなのだが、銃口のところが斜めに欠けていた。まず間違いないだろう。
 殺傷能力はほとんど無く、この距離で当たったとしてもまず痛くない。零距離だとしても青アザ程度だ。まぁ、実弾でも精々足止めくらいだ。
 つまり……あの銃による脅威はこれっぽっちもない。
 ドヤ顔で一丁前に銃を構えながら走り寄ってくる阿武隈の姿が、俺だけには哀愁漂って見えてしまった。
 
「(……面白そうだから黙っとこ)」

 しかし、俺は有利不利以前に、この後阿武隈が発砲した時の反応が気になってしまったため、何も言わないことにした。別にBB弾を食らったら確保、と言うルールはどこにも無い。

「お前ら!蛇行しながら走れ!」

 一応、一応全員に届く声で指示を出す。銃なんか、(たとえ玩具だとしても)使ったことの無いであろう阿武隈に、マトモに扱えるとは思えない。
 
 俺は念を入れ、廊下の途中にある部屋の扉を片っ端から開けていく。

「あっ!ちょっと木曾さん!開けたらちゃんと閉めないと!」
「律儀かっ!」

 後ろから聞こえてくる阿武隈の的を得ない指摘に、少しだけ頭を抱えつつ走る。毎朝木曾のランニングやらに付き合っていたおかげで、足にはそれなりの自信がある……結局、アイツには一回も勝てなかったが。

「みんなっ!もしここで止まってくれたら、撃ちません!」
「何っ!?」
「捕まえますっ!」
「ヤダよ!!」
「(……阿武隈、普通に面白いなアイツ)」

 かなりノリノリな阿武隈に脳内で座布団を一枚渡していると、前方からガシャァンッ、という音が聞こえてきた。

「なんだ!?」

 あの音は、間違いなくガラスが割れた音だった。
 ここで、俺の脳内では、つい先程の光景──阿武隈がロープを伝って降りてきた光景が浮かび上がっていた。

「全員、こっちに逃げろ!!」

 案の定、廊下の一番向こうの角から、脚とかから血を流しながら走ってくる加古の姿。

「きゃぁぁぁぁああああああっ!!」

 再び悲鳴を上げる瑞鳳さん。まるで、遊園地に来てテンションの上がりまくっている女子高生の声みたいだと思った。ちなみに、俺は生まれてこの方遊園地に行ったことは無い。

「待てやゴルァアアアアアアアア!」

 と、アニメとかだったら間違いなく目を真っ赤にしてそうな程の形相でこちらに走ってくる加古。手には何も持ってない。
 ……草食系も肉食系も両方居るっぽいなー。あと、偏食系も。
 と、中々のピンチな筈なのにしょうもないことを考え始めていた。現実逃避だろうか。

「……すまん、阿武隈」

 俺は帯刀していた軍刀を抜くと、阿武隈に向けて構えた。練習用の刃が潰してあるものではなく、真剣だ。

「……き、木曾?なっ、なっななな、なにしてるのー?」
「え?いやー、加古に比べたらお前の方が突破しやすいかなーって」
「……な、何言ってるの!?わたっ、私は銃を持ってるのよ!?」
「玩具の、な」

 俺が指摘した途端、顔からサッと血の気が引いていった阿武隈。

「……そそそそそそんなわけ無いですよぉ」
「……声裏返ってるぞ」

 どうやら隠し事は苦手らしい。脂汗をだらだら流しながら、足を止めて俺から目を逸らす。銃を持ってる手も震えまくってた。
 ……なんか可哀想だが、勝負の場では手加減無用。

「……大丈夫、痛いのは一瞬だから」

 俺は軍刀を構え、距離を詰めようとする。

「…………い」
「……?」
「いやぁぁああああああああああああああああああああっ!!」

 しかし、俺が動いたと同時に阿武隈も動いた。自分が降りてきた窓の方向に向かって猛然と走っていった。
 ……まぁ、要するにガン逃げ。

「へ!?は!?ま、待て!!」

 思わぬ反応に一瞬度肝を抜かれた俺は、思わず阿武隈を追いかける。気のせいだと願いたいが、顔が真っ青になっていた気がした。先程俺に銃のことがバレた時とは全く違う、自分の身に危険が及びそうな時の顔色。
 明らかに異常だった阿武隈の様子にただならぬ危機感を感じた俺は、ただ一目散に阿武隈を追い掛けていた。

「きゃああああああああああああぁぁぁ!!」
「ふへへへへへへへへ、ふへへへへへへへへ!!」
「待って待って待って待って待って!怖い!加古怖いってば!」
「……私達になにか落ち度でも?」
「うーん、逃チームだからじゃない?」

 後ろでは変わらず缶蹴りが続けられているようだが、無視。
 今後の俺に大きく関わりそうな気がしたので、ただひたすらに阿武隈の後を追い掛けて行った。




 ─執務室─




「…………頭痛が痛い」

 僕は昨日買ったばかりの胃薬と頭痛薬を水で流し込んでいた。
 おっちょこちょいが過ぎる春雨。
 ふらっと抜け出す若葉を。
 そんな若葉を追いかける冬華。
 逃げチームを目の前にして逃げ出し始める阿武隈。
 それを追う千尋。
 他人は自分の思い通りにならないということを嫌という程理解し始めていた。ここまでとは思わなかったが。

「ちくしょう……千尋は後で説教、阿武隈は春雨にパス、冬華は夜中(自主規制)だ……」

 苛立ちの余り、春雨の前でとんでもない事を口走ってしまう僕。まぁ、春雨と時雨はまず間違いなく僕らの夜の事情とかを知ってるだろうから良いとして。

「たっ!?たったったたた拓海さん!?なんてこと言ってるんですか!?」

 いや本当は良くないけども、あえて完全スルー。

「……はぁ……まぁ、今回は説明しなかった僕が悪いよなぁ……一説明して五、六くらいなら理解出来るけど、十どころか、五十なんて夢のまた夢だもんなぁ……」

 それが理解できて、きっちり配慮ができる人間が、最近言われている『提督としての適性』の一つだ。これが大輝さんや僕、千尋の親父さんなんかならともかく、艦娘である千尋に理解なんて出来る訳ない。

「……拓海さん、話さないと伝わらない事って、沢山あると思うんですよ。例え、幼馴染みだとしても」

 春雨は戦況を伝えながら、そんな事を僕に提言していた。

「……いーぐざーくとりー」
「……すいません、英語じゃわかりません……」
「…… Das ist richtig.」

 僕はそう呟いて、「それじゃあ、」と続ける。

「春雨も、伝えないと伝わんないよ?誰の事とか、なんの事とか言わないけどさ」

 僕はそう言い捨てると、春雨から目線を逸らした。
 僕のセリフを聞いた春雨が、顔を真っ赤にしたのは、言うまでもなかった。
 
 僕は、自分に嫌気が差してきた。

  
 

 
後書き
読んでくれてありがとうございます。何だかんだでこの缶蹴り、かなーり長くなりそうです。プロットだけでレ級辺りの話と同じくらいのページ数……もうね、アホですよ、えぇ。
それでは、また次回。 
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