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アメリカ皇帝

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第三章

「宗教や宗派が違っても仲良くしろと言ったり」
「オークランドとサンフランシスコを結ぶ橋を建設せよと言ったり」
「各国が話し合う場を持てと言ったり」
「言っていることは平和的だ」
「かなり穏健だな」
「しかも市民のことを考えている」
「しかもよく街に出ているが」
 金モール付きの青い軍服と羽根飾りを付けたシルクハットをかぶってだ。
「そしてだな」
「いつもさんクランシスコを見て回ってだ」
「歩道やケーブルカーや公共施設の状況を見ている」
「警官の振る舞いや身だしなみにも言及している」
「個人的には好人物だ」
「色々なことに哲学的な議論をしたがる」
「紳士であるし悪事は行わない」
「見事な一面もある」
 多くの者がこのことに気付きだしたのだ。
「だから無下にも出来ない」
「ユーモアと考えると一流だしな」
「不思議な人物だ」
「おかしいとしか思えないが真面目だ」
「あの人なりの識見を併せ持っている」
「良心は素晴らしい」
 こうしたことが認められだしていた、そしてこの時。
 サンフランシスコでは低賃金で雇われている中国系に対する白人の偏見が強くデモや暴力が行われていた。
 その中で暴徒達が中国系の市民を襲おうとしたが。
 そこに皇帝がたまたま居合わせた、するとだった。
 皇帝はすぐに両者の間に入った、そして頭を垂れて何度もキリスト教の祈りを口ずさんだ。その彼を見るとだった。
「落ち着こう」
「暴力はよくない」
「神がそう言っておられる」
「このおかしな人ですらこうだ」
「俺達も神を思い出そう」
「そうしよう」
 冷静さを取り戻した暴徒達は自分達の醜い姿を振り返った。
 そうして自分達を恥じてその場を立ち去った、皇帝は彼等には何も言わず中国系の市民達を救ってみせた。
 中国系の者達はその彼に驚いて言った。
「あの、我々は」
「肌の色が違いますが」
「それでもですか」
「貴方は」
「この国の民は全て朕の民である」
 皇帝はその彼等と向かい合って答えた。
「ならば守ることは当然である」
「左様ですか」
「それでなのですか」
「そうだ、これは当然のことであり感謝されるには及ばない」
 皇帝はこう言って彼等の前を去った、中国系の者達はその彼を忘れなかった。
 だが彼をおかしいと思う者は多かった、それでだった。
 アーマンド=バービアという警官は同僚達に言った。
「あの自称皇帝がおかしいことはだ」
「自明の理といえばそうだな」
「それはその通りだな」
「やはりあの人はおかしい」
「善良でそれなりの見識はあるが」
「それでもこの合衆国で皇帝を名乗るなぞ」
「おかしくない筈がない」
 同僚達もこう言った。
「犯罪はしないがな」
「それでも何処かおかしい」
「勅令とかいう投書をどんどん出してな」
「街を視察して回ってな」
「だからここはだ」
 バービアは同僚達に自分の考えを言った。 
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