ロックマンX~Vermilion Warrior~
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第19話:Σ
ルインを転送させたエックスとゼロはシグマパレスの長い長い回廊を抜けた先に立ち塞がる巨大な扉の奥からその存在を誇示するかの如く、凄まじい威圧感を感じた。
エックスとゼロは互いに見合いながら頷き、巨大な扉に手を掛けるとゆっくり左右へと開いて行く。
そしてこの戦いの元凶となったかつて最強のイレギュラーハンターと謳われ、自分達の上官でもあったシグマがいた…。
「…………」
エックスは鋭く、シグマを睨み据えた。
全ては奴が元凶だ。
奴さえいなければ戦いなど起きず、ルインも沢山の仲間も死ぬことなどなかった。
対するシグマは不敵な笑みを浮かべて自身を鋭く見据えるエックスを見つめる。
「ほう…いい目をするようになった…迷いがない」
「シグマ!!俺はお前を許さない!!」
「VAVAは来ず、ルインがいないところを見るとあの2人は脱落したか…ふふふ…可能性を持つ奴らもこの新たな時代の流れについていけなかったというわけか…」
「ふざけるな…!!」
怒りに震えるゼロは全ての元凶を睨み据える。
「出来ることなら今すぐにでも手合わせしたいのだが…まずはこれを試させて貰う」
シグマの背後から現れたのは犬型のメカニロイドで、それはエックス達に牙を剥くがエックスとゼロはそれを冷ややかに見つめる。
メカニロイドが凄まじい勢いでゼロに迫るが、ゼロは屈んで回避し、メカニロイドの顎に拳による強烈な一打を与え、吹き飛んだメカニロイドに間髪入れずにエックスがスパイラルクラッシュバスターを放ち、瞬く間(メカニロイドを残骸へと変えた。
「こんな出来の悪いガラクタで今の俺達の相手が務まるか…!!俺達を倒したいならお前の全てを懸けて掛かってこいシグマ!!」
「見事だエックス、そしてゼロよ。やはりお前達には可能性がありそうだ。我々レプリロイドの無限の可能性がな。」
「シグマ!!狂ったお前に可能性なんかない!!」
「エックス…それはお前が本当に考えていることではない。」
「………」
「お前の薄っぺらな…正義だと考えているものがお前にそう思わせているだけだ!!エックス、ゼロ。お前達の可能性は充分見させてもらった。私と共に来い。我々でレプリロイドだけの楽園を共に創り上げようではないか」
「下らんな…」
シグマの戯れ言をゼロは吐き捨てるように言う。
「レプリロイドだけの楽園だと?笑わせるな!!レプリロイドだけの楽園なんて幻だ!!どれだけ優れていようと人間と同じようにレプリロイドも不完全な存在だ。互いに支え合わなければ駄目なんだ。」
「俺達は力なき者達を守るイレギュラーハンターだ!!俺達はルインに誓ったんだ…お前を倒して平和を取り戻すと!!」
ゼロが戦闘体勢に入るのと同時にエックスもバスターを構える。
此処まで来るのに色々なものを手に入れ、失ってきた。
その全てが、今の自分達を此処に立たせてくれている。
怒りも、悲しみも、憎しみも、慈しみも全部引っ括めてシグマを、最強のイレギュラーを倒す。
「そうか…ならばもう何も言うまい。行くぞエックス!!ゼロ!!」
「お前の野望はここで終わらせる!!」
「全て終わりにしようぜ。シグマ!!」
先に放たれたのはエックスのスパイラルクラッシュバスターであった。
リミッターを外され、真の力を解放した一撃はゼロのチャージショットすら上回る程だ。
これをまともに受ければシグマとてただではすまないだろうが、シグマはそれを容易く回避するとエックスに拳を突き出す。
エックスは咄嗟に顔を横にずらしてかわし、シグマの胸に蹴りを入れる。
本来エックスは格闘向きのレプリロイドではないが、ファーストアーマーの出力をそれぞれの部位に回せば、それなりの威力が出る。
「温いぞエックス!!」
額のバスターから放たれたショットを受けたエックスは僅かに吹き飛ぶ。
ケイン博士の最高傑作の名に恥じない頑丈なボディを持っているシグマには格闘向きではないエックスの蹴りは大したダメージにはならないのだ。
「シグマーーーーッ!!!!」
咆哮しながらゼロはシグマに殴り掛かる。
エックスと違って元から高い格闘能力を持つゼロ。
そして老人によりパワーアップした今ならシグマにも有効なダメージを与えられるだろう。
「フ…ッ」
シグマは不敵な笑みを浮かべながら顔を逸らし、ゼロの拳を回避する。
「はああああ!!」
ゼロの強烈な回し蹴りがシグマに向けて繰り出されるが、シグマはそれすら回避してゼロの蹴りはシグマではなく壁を粉砕した。
「今度はこちらから行くぞ!!」
シグマがゼロに向かって駆け出し、ゼロも同様にシグマに向かって駆け出した。
「うおおおおおおお!!」
凄まじい速さで繰り出されるゼロの拳だが、シグマはそれを回避しながらゼロに向けて渾身の蹴りを放つ。
「ぐっ…うわあああああ!!」
ゼロは咄嗟に左腕でガードしたが、耐え切れずに吹き飛ばされた。
「ゼロ!!」
それを見たエックスがダッシュで距離を詰めるとシグマに殴り掛かり、シグマも応戦して互いの拳が激突する。
「うおおおおおっ!!」
咆哮を上げながら、何度も拳を突き出すエックスに対してシグマは余裕の笑みを浮かべながらも拳を激突させながらエックスを称賛する。
「素晴らしいぞエックス!!とても射撃に特化したレプリロイドとは思えん程のパワーだ!!お前は最早B級ハンターなどでは有り得ない!!」
「ここで倒す…倒してみせる!!お前を!!」
「ならばやってみるがいい!」
「が…は…っ」
急速にシグマの拳の速度が上がり、エックスは避ける間もなく鳩尾に拳を受け、僅かに浮き上がった体をシグマに蹴り飛ばされた。
「アースクラッシュ!!」
エネルギーを収束させた拳でシグマの背中を穿とうとするゼロだが、エネルギーを纏っていない腕を掴まれ、地面に叩きつけられる。
「はあっ!!」
「ぐはっ!!」
シグマは天井に向けてゼロを投げ飛ばし、ゼロは頭から天井に激突し、シグマは額のバスターで追撃を仕掛けようとするが、エックスはそれを許さない。
「スパイラルクラッシュバスター!!」
「むっ!?」
シグマに向けて放たれたスパイラルクラッシュバスターを咄嗟にシグマは回避したが、回避したにも関わらずシグマの肩を僅かに溶解させる。
「喰らえっ!!」
ゼロも追撃をかけるようにバスターを構えてショットを連射する。
それに対してシグマはΣブレードを抜き、ショットを全て斬り払う。
「やはり強くなった…この私にΣブレードまで使わせるとはな」
シグマはブレードを構えると一気に距離を詰めてゼロとエックスに斬り掛かる。
ゼロは近くに落ちていた鉄パイプを拾い、それを剣の代わりにして受け止める。
「ぐ…っ!!」
あまりの威力にゼロは腕が痺れるのを感じた。
「フフフ…まるであの頃を再現しているかのようだ!!」
「あの頃だと…?」
「ゼロ、貴様は昔、私と戦ったことがある」
シグマの言葉にゼロは疑問符を浮かべる。
何故ならゼロのメモリーにはそんなことは残されていないからだ。
「馬鹿な…メモリーにはそんなことは残されていない。嘘ならもっとマシな嘘を吐いたらどうだ!!」
「メモリーに無いからと言って何故嘘だと言い切れる?こうしていると懐かしいと思わないか!?」
「……………」
言われてみればゼロは妙な既視感を感じていた。
ゼロの脳裏にある映像がフラッシュバックしていく。
鉄パイプを握り締め、ブレードを持つシグマと戦っている光景が過ぎる。
「(この…光景…どこかで……)」
ゼロの意識がそちらに僅かに向いた途端、シグマはブレードで鉄パイプを両断した。
「っ!?しまった!!」
シグマの口車に乗ってしまい、隙を曝してしまったことにゼロは思わず自身に憤る。
「ゼロ!!」
ゼロを援護するために牽制のチャージショットを放つとシグマは回避のために距離を取る。
「エックス…」
「大丈夫か?ゼロ」
「ああ、すまん助かった。いつもお前に油断するなと言っておきながら…」
シグマとの戦いで致命的な隙を曝してしまったことを恥ながら、助けてくれたエックスに礼を言う。
「気にしなくていい。何としても勝つんだ。絶対に」
「ああ」
「エックス、ゼロ。今からでも遅くはない。これが最後だ。私と共に来い」
「断る」
「冗談じゃない」
シグマの誘いをエックスとゼロは即答で返す。
「そうか…残念だ。お前達は私と似ているというのにな」
「何だと!?」
「俺達とお前を一緒にするな!!」
シグマの思わぬ言葉にエックスとゼロは激昂する。
「私はレプリロイドの可能性を見るため…そしてそれ以上に人間を憎んだ。そしてお前達は私を憎んだ。憎しみがお前達を私と同じ域にまで到達させた」
「違う!!」
「何が違うというのだ!?私の人間を憎む心とお前達の私を憎む心のどこが違うのだ!!」
「シグマ…何故そこまで人間達を憎む!?」
何故そこまで人間を憎むのか、此処まで来たら全てを知りたいと思う。
全てを知った上でシグマと戦おうと考えた。
「それを聞くか…いいだろう。教えてやる。かつて私のような第一世代型レプリロイドが生まれた時、我々レプリロイドの権利など無いに等しかった。レプリロイドは人間の命令で戦場、環境破壊により人間では活動出来ない場所へと送り込まれた。」
「それは…仕方の無いことだ。俺達レプリロイドでは人間とは活動出来る範囲が違い過ぎる」
「そうだ。かつてルインも言っていたが、我々レプリロイドはエネルギーが続く限り人間が活動出来ない場所でも活動が可能だ。人間の肉体と我々のボディとでは耐久性だって雲泥の差がある。私もそれを理解していたからこそ、戦場で戦い、そして人間が活動出来ない場所へと向かった…だが、徐々に人間達のやり方は日増しに悪化し、レプリロイドによる実験が繰り返された。」
レプリロイドはどのくらいの熱に耐えられるのだろう?
どのくらいの冷気に耐えられるのだろう?
新たな兵器の実験台にしよう。
最新のウィルスを試してみよう。
人間達のレプリロイドへの暴虐はケインがレプリロイドの権利をもぎ取るまで続いたのだ。
シグマはレプリロイドの権威であるケインの作品であるためにそれから逃れることが出来た。
しかし実験台にされ、スクラップへされていく同胞を見てきたシグマの人間への嫌悪は日増しに増していった。
シグマの拳は怒りに震えていた。
「…エックス、ゼロ。我々が…我々が何をしたというのだ?遥か昔、戦争を起こし、資源を浪費し、環境を破壊し続け、己の首を絞め続けてきたのは他でもない人間達だろう!!」
「………」
凄まじいシグマの…今まで奥底に封じ込めていた怒気にエックスとゼロは気圧されてしまう。
「この世界において人間とは環境を破壊し、資源を浪費するだけの害虫でしかない。私はレプリロイドの進化を信じ、人類と言う不必要な存在を処分するために立ち上がった。レプリロイドの楽園を創った後に…奴らが我々にしたように生かさず、殺さず…地獄の苦しみを味あわせてやるのだ!!」
シグマがブレードを構えてエックスに斬り掛かるが、エックスはルインのZXセイバーでブレードを受け止めた。
「…かつてのお前達の境遇には同情はする。だけど、俺にはお前のしていることが正しい事とはどうしても思えない」
「何だと…!!」
「お前は人間達だけじゃない…レプリロイド達まで傷つけ過ぎたんだよ!!どれだけ正しいことを言おうがお前はレプリロイド達も大勢苦しめたんだ!!」
エックスの脳裏を過ぎるのはこの戦争によって死んでいったイレギュラーハンターの仲間やシティ・アーベルの市民達。
そしてシグマが反乱を起こしたことでアルファに続いて身内を失い、寂しそうなケインの姿。
そしてルインの死顔。
「俺は…この戦いで死んで、傷付いた者達のためにも……お前には負けない!!」
「戯れ言を!!」
「そうだなエックス…俺達はイーグリードやルイン…他にも死んでいった奴らの想いを背負っているんだ…!!」
エックスがシグマを抑えている間に炎を纏った飛び蹴りをシグマの顔面に喰らわせるゼロ。
それを受けたシグマがたたらを踏む。
「やるぞ!エックス!!」
「ああ!!」
ゼロとエックスがそれぞれのチャージを終えたバスターを構え、そしてエックスは左手にセイバーから切り替えたバスターを持ち、シグマに照準を合わせる。
「エネルギー、フルチャージ!!」
「行くぞ!!」
「「クロスチャージショット!!!」」
3つの銃口から放たれたチャージショットは1つとなる。
そしてクロスチャージショットの一撃はシグマの両腕、Σブレード、そして下半身を消し飛ばした。
「ぐぅ…!!」
下半身と両腕を失ったシグマにはもう戦闘能力は残されていない。
額のバスターがあるが、それだけではエックスとゼロの相手にはならない。
エックスとゼロの勝利である。
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