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干支の巫女

作者:炎の剣製
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制御困難の火竜編
  002話 ファーストコンタクト

 
前書き
更新します。 

 

「う、うん……」

なんか少し頭が重い…。
それになんかゴツゴツとした場所に寝転がっているみたいな?
そういえば、なんで私いつの間にか寝ているんだろう…?
少し考える事数秒。

「はっ!?」

それですべてを思い出して私は目を覚ました。
そうだ! なんか変な格好をした人間?みたいな人に襲われていたら、いきなり変な光とともに意識がなくなっちゃったんだ。
っていうか、ここどこぉ!?
周りを見回してみればさっきまでの町の風景ではなくてどこかうっそうとした森の中で、私はなぜか地面の上に野ざらしになって寝ていた。

「いったい、なにが……どうなってるの?」

疑問の言葉を口にするも誰も何も答えてはくれない。
冷静になりたいのにいまだ頭の中は混乱の真っただ中の状況で誰でもいいから現状を教えてほしいというものだ。
こういう時に頼りになるのは……、

「あっ! こういう時こそ携帯よね!」

まだ希望は残されている!
ここがどこなのか分からないならスマホのナビで調べるか、最悪警察に電話をして助けに来てもらえばいいんだ。
だけどふと思った。こんな森の中で電波は立っているのかと……。
い、いや弱気になっちゃだめだ!
諦めたらそこで試合は終了なんだから!ネバーギブアップ!
そんなこんなでポケットから携帯を取り出す。
なぜかリュックとか荷物類はどこにもなかったけど、制服のポケットにスマホを入れておいてよかったぁ!
ロック画面から操作してメイン画面を開く。
そして確認した。確認してしまった。スマホの電波状況は……圏外だったー!!

「うう…もうどうなっちゃてるのよ…」

泣き言を言っても状況は変わるわけではない。
ここがどこか分からないけどどうにかして電波があるところまで歩いていくしかない。
なんとか立ち上がってどこに通じているかもしれない獣道をひたすら歩こうと奮起した。
だけど、いきなりガサッ!と草木が揺れる音がして、思わずビクッとしてしまう。
おそるおそる音がした方へと顔を向ける。

「き、きっと猪とかウサギとかだよね…? きっとそうだ、うん」

そう期待したんだけど、先ほどより草木の揺れが激しくなってきていた。
大きさ的にはもう猪なんて目じゃないってくらいの揺れ方だ。
な、なにがいるっていうの!?
じっと視線を逸らさずにそこを注視していた私が目にした光景とは、

「グルル…」

そこには赤い鱗がびっしりと体を覆いつくしていて、三メートルはあるであろう巨躯に背中には赤い巨大な翼、大きな腕…そこから生える鋭利そうな爪、爬虫類を思わせるような顔つきで鋭い牙を持ち金色の瞳は強者を体現しているようで…。
そう、なにが言いたいかというと、そこには物語や幻想でしか語られないであろうドラゴンの姿があったのだ。
ズンッという腕を地面に下ろす音が、その重量感が虚構ではなく本物のものだと認識させてくれる。
そしてそんなドラゴンと目が合ってしまった私。
あ、もしかして詰んだ…?

「い…いやぁーーーーー!!」

私はもう脇目も振らずにその場から走り出してしまっていた。
なに!? なんでドラゴンとかいるの!?
ここは日本じゃないの? いや、そもそも日本じゃなくってもどこにもあんな生物はいないって!
走る。ひたすら走る。
必死に走りながらも頭の冷静な部分ではある事を考えている。
もしかして、ここって日本じゃなくって異世界…?と。
でもそんな事が…アニメでもよくある異世界物が出回っている昨今の世の中で、これはもしかして盛大なドッキリなのではないかと。
誰かがどこかでこんな私の事を監視していて悪趣味に笑みを浮かべているのではないかと。
でも、そんな利益なんてない事を、こんな一般人の高校生でしかない私に仕掛けて喜ぶ人がいるであろうか?
鈴架やお母さんがこんなことを誰かに提案するなんて以ての外だし。
もう…なんていうか、

「一体どういうことなのー!?」

この不条理を嘆く以外に私には出来ることがなかった。
しばらくして背後から音がしてこない事を感じた私は、一回走る足を止めて何度か息継ぎをして走り続けた代償で消耗した体力を回復させることに専念しつつも、あのドラゴンが追ってこない事を確認できた。

「はぁはぁ…よかった。追ってきていない…」

安心したのかその場でへたり込む。
するとよほど緊張していたのかポタリ、ポタリと涙が溢れ出してきてしまう。

「あはは…もう本当に最悪な一日…」

学校帰りに変な怪異に襲われたと思えば、気づいたらどこか知らない異世界(?)にいて、スマホは圏外で一切使えず、挙句の果てにはドラゴンと遭遇して惨めに逃げ出してしまうという…。
こんな事は普通の現代なら到底体験できないであろう。
もし無事に家に帰ることができたならお母さんや鈴架に夜通し話してあげたい。…きっと信じてもらえないだろうけど。
さらにはお腹が空いたのか「くぅ」という音が鳴る。
ただでさえ疲れているのに体は正直で参ってしまう。
とにかく、今は食糧確保に動いた方がいいのかな…?
でも、どことも知れないキノコとかを食べるのは遠慮したいし、下手したら先ほどのドラゴンにまた遭遇して今度こそ食べられてしまうかもしれない。
そもそもサバイバル技術なんて持ち合わせていないのにどうしろと…?
さっきも思ったことだけど、色々と詰んでいる現状に諦めの色が濃厚で、気づけば空も暗くなり始めてきた。
季節があるのかは分からないけど森の中で一夜を過ごすのはとても危ない。
肌の感覚ではそんなに寒くはないけど、それとは別にして夜の獣とかに遭遇したら普通に危ないし御免こうむりたい。
だから私はどこかで安心して体を休められるところを探そうとまた立ち上がった。
こんな理不尽な事が連続で起きたんだからきっとどこかで運が巡ってくるかもしれない。それが不運ではないことを祈りつつも…。

「とにかく歩こう…きっとどこかで神様は見ていてくれるだろうし…。こういう時こそ日ごろの行いがいいと思うからね」

そんな根拠のない事を考えつつも、そうでもしないと心が折れてしまいかねない。
今はとにかく進もう。

それからしばらくして森の中にひっそりとだが、決して小さくはない…いやむしろ大きいと言わざるを得ないでっかい洞窟を発見した。
こういう洞窟ってRPGでは絶対なにかあると私の本能が叫んでいるんだけど、今はそんな見え見えな罠にも縋りたいところで私は中に入らせてもらった。
洞窟の中は意外と暖かくて、寒さを凌ぐのにはちょうどよかった。
お腹が空いている事には目を瞑るとしてもここで一夜を過ごすのも割といいかもしれない。
洞窟の奥の方には結構な道が続いていそうだけど、興味本位で奥に進んで迷った挙句に洞窟内に住み着く獣に襲われたらたまったものではないから入り口付近で私は体育座りになって壁に背中を預けて、疲れからか瞼が重くなってきてそのまま眠りに落ちてしまう。
眠りに落ちる直前に「これがきっと夢であります様に…」と願いつつも。



…それからどれだけ時間が経過したのか分からないけど、私は目を覚ました。
私はいまだに洞窟の中にいて、あぁ…これはれっきとした現実なんだなと再認識した。
洞窟の外に目を向ければまだ暗いみたいなので朝は迎えていないのだろうと感じた。
…ふと、洞窟の外から物音が聞こえて来た。
なぜか結構大きい音で嫌な予感を感じつつも私は物陰へと隠れて様子を伺う。
すると悪い予感は当たったみたいで洞窟の外からあの時のドラゴンがやってきて、私はとっさに口を手で覆ってなるべく息を吐き出さないように努める。
でも、まさかこの洞窟ってあのドラゴンの住処だったりしたのかな…?
そしてそんなところにわざわざ入ってきた私はまさしくカモ?
そんな事を思っていたら、ドラゴンが入ってきたと同時に自然と洞窟のあちこちに火が付きはじめて洞窟の奥の方まで明かりを照らしていく。
なに、この現象…。
魔法かはたまた…。
ドラゴンはそんな中をノシノシと歩いていく。
私は必死に隠れてドラゴンが過ぎていくのを待っているんだけど、ドラゴンはそんな私の事を知ってか知らずか、

『ふむ…昨日に出会った少女は何者だったのか』

しゃ、喋った!?
驚きはすれどなんとか口には出さなかった私はえらいと思う。
ドラゴンは言葉を続ける。

『ここは精霊の加護がある森であり、普通の人間は入ってくる事すら困難な場所なのにな』

そう言いつつも、次の瞬間にはドラゴンの体が突然発光しだして、見る見るうちに小さくなっていく。
驚愕の光景を見つつもなんとか見ているだけの私。
そしてドラゴンの体から光が収まると、そこには身長が170センチくらいの肩くらいまである赤い髪をして瞳は金色のどこかの民族衣装のようなものを着ている好青年の姿があった。
どこか真面目そうな佇まいで見ているとなぜか安心を感じられるような雰囲気がする不思議な青年である。

「かっこいい…」

だからという訳ではないんだけど、つい言葉を私は発してしまった。
それが致命打となって「誰だ!?」とドラゴンだった青年が声を上げてついに私の存在は気づかれてしまった。

「ひえっ…!」

思わず尻もちを付いてしまった私の前にその青年が歩いてきた。

「君は…。そうか、こんなところにいたのか」
「お、お願い! 殺さないで…!」
「おいおい…なにを言うかと思ったらなにか勘違いをしているようだな」
「え?」
「俺は別に君を取って食ったりはしないから安心してくれ」
「で、でも…その、ドラゴンですよね…?」

私がおそるおそるそう聞いてみた。
すると青年は少し呆れたような表情になって、

「まずはそこからか…。まぁ俺も君の事を知りたかったからお互いに勘違いをしていても仕方がないし、認識のすり合わせでもしようか」
「わ、わかりました…」
「まず、俺の名前は『リューグ』。今はそれだけでいい」
「えっと…私は龍火(るか)。辰宮 龍火(るか)です…」
「ルカか。いい名前だな」
「あ、はい。ありがとうございます」

こうして私とリューグと名乗る青年のファーストコンタクトはなされたのであった。

 
 

 
後書き
異世界で最初の人(?)との出会いです。 
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