干支の巫女
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序章
001話 始まり
前書き
オリジナル小説を始めました。
ハーメルンとなろうで投稿していましたがこちらでも投稿することにしました。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
私は暗がりの道を多分かなり必死の形相で走っていると思う。
息はもうきれぎれで瞳には涙を滲ませて背後から迫ってくる何者かから必死に逃げていた。
だけど、とうとう逃げ道の無いビルとビルの間の閉鎖空間にまで追い込まれてしまった。
私はそれで壁に手を付き、追ってきていたソレを見る。
黒い布切れを全身に纏っており、顔は布が覆いかぶさって見えない、そしてまるで皮などないかのような骸骨のような手で下半身はなぜか足が見えないのに浮かんでいる……。
その怪異を見て私は再度そのありえない状況に恐怖する。
「あ、あなたは……あなたはなんなの!?」
口からなんとか絞り出すような声で、しかし悲鳴に近い声で私はその怪異に問いかけた。
だが、返ってきた言葉と言えば、
『…………干支……巫女……』
「え、干支? 巫女……? 何のこと……?」
『干支の巫女―――!!』
怪異は大声で叫びを上げながらついに私に飛び掛かってきた。
「いやあぁぁぁぁぁーーー!!」
私はもうそれでかなり限界だったのだろう。
甲高い悲鳴を上げたのだった。
―――――ジリリリリ……。
「…………」
けたたましい目覚ましの鳴り響く音が木霊する。
私はそこで目を覚ました。
「……変な夢……」
さっきの怖い夢とは打って変わって私が寝ているのは見慣れた自分の部屋。
まだ春先とはいえ肌寒いのか一回身じろぎをする。
まだ鳴り響いている時計の時間を確認すればまだ6時であるために少々早かろう。
だが、私にとってはこれがいつもの起きる時間であるのは当然であった。
おっと、そうだね。
私の名前は『辰宮 龍火』。
現在高校二年生である。
……でもなぁ、我が両親は私の名前をこれぞとばかりにキラキラネームにしてくれちゃっていつも参っちゃうんだね。
自分で言うのもなんだけど学校の成績は上から数えた方が早いくらいのもので一つ下の義理の妹の『辰宮 鈴架』には羨ましがられている。
でも、この名前がちょっと痛い……。学校の友人達には名前に関してはもう慣れたものでそんなにからかわれはしないんだけど、『ルビィ』とかいう愛称……私にとってはあまりお気にめさない呼ばれ方で親しまれている。
まず、なんでこんな壮大そうな名前を付けたのかを親に聞いてみることが何度もあったのだがそのたびにはぐらかされてしまう。まっこと解せない……。
なによりその親である『辰宮 琴美』……お母さんは普通の名前なのになぁ……。
しかもその母は私たちの通う『聖梁学園』の教師をしており、おまけに私のクラスの担任と来た。これにはさすがに私も天を仰ぐというものである。
―――閑話休題
……ま、愚痴を言ったって今更現実が覆るとも限らない。人間諦めが肝心なんだよ。
そんな事よりもうお母さんが料理を作ってくれている頃だろうから早く鈴架を起こして学園に行く支度をしないとね。
手早く洗面所で顔を洗い髪を梳かす。
その後に制服に着替えて台所に顔を出して、
「お母さん、おはよう!」
「あら、ルカ。おはよう。部活の朝練?」
「うん、そう。それじゃ鈴架を起こしてくるね」
「ええ、お願いね」
そしてまた私は二階に上がっていっていまだに寝ているだろうねぼすけさんを起こすいつもの朝を過ごすのだ。
ただ、今日は鈴架の寝起きが悪かったためにその頭にたんこぶを作る羽目になったのはご愛敬。
その後にお母さんにお弁当を受け取って家を出たんだけど、
「ううー……お姉ちゃん、ひどいよぉ……」
「すぐに起きない鈴架が悪いのよ?」
我が妹はたんこぶが出来ている頭を手でさすりながらも私にジト目を向けてきている。
鈴架も普通にしていれば可愛いのにね。や、私の大事な義妹だから全部可愛いんだけどね。
黒髪の私とは違って少し白みがかった黄色い髪の色をしていてチャームポイントのツインテールにしている。
「あー……お姉ちゃんに誘われてバレー部なんて入るんじゃなかったよー。もう少し寝ていたいのが本音だし……」
「そう言わないの。そういう鈴架だって一年でもう頭角を現してきているのか先輩からは目をかけられているじゃない?」
「そうなんだけどー……基本あたしはものぐさだから」
「ふふ。諦めなさい」
「はぁい……」
そんな感じで私達は学園へと足を運んでいく。
校門が見えてくるといつものように生徒会長様が出迎えてくれる。
「……おや。辰宮君達か。部活かね? 朝から精が出るな」
「お、おはようございます……奈義会長」
「おはよーございまーす……」
「うむ。おはよう」
そう言いながらも眼鏡をクイッと直す仕草が様になっているこの人は奈義久刻(なぎ ひさとき)。
この学園の三年生で生徒会長であり、私が少し苦手とする人物である。
なんでかって、毎回私を生徒会に勧誘してくるからである。
私の友達がそこに在籍していて私も目を掛けられているんだけど、どうにも細々とした事は苦手な私からしたらあんまりやりたくない役目なんだよね。
足を止められると厄介なので早々においとましよう。
「で、では失礼しますね」
「うむ。頑張りたまえ…………――――これからいろいろと大変そうな事だしな」
「えっ? なんのことですか……?」
私はついその言葉が気になったので足を止めて振り返る。
しかしもう奈義会長はこれ以上は無粋とばかりに大きい背中を私たちに向けており、私達の後にやってきていた生徒の子に挨拶をしていた。
いろいろと大変そうな事って、なんだろう……?
「お姉ちゃん! 遅れちゃうよー!」
「あ、うん!」
気になったけど部活の朝練に遅れるのもまずいので私達はそこから立ち去った。
その後にバレー部の朝練も手短に終えて鈴架とも別れて教室に向かう。
教室に到着すれば最初に私を出迎えてくれるのはいつもと変わらずに、
「あら。ルカさん、おはようございます」
「おはよう、クリス」
挨拶を交わしてお互いに笑みを浮かべる。
この子はクリス。本名は『クリスティーヌ・セインティ』。
名前からして外国人でクリスチャンだ。
銀色の髪も相まってふわふわとした不思議な印象を持つ子なんだよね。
うちの学園はキリスト教も取り入れているので、まぁこの子もそこ関連の出身かな?
それはともかくこの子は私の大の仲良しな子なんだ。
だからいつも大抵は一緒にいる感じかな?
さっき言った生徒会に在籍しているのもクリスの事であったりする。
「あ、ルカさん少しじっとしていてください」
「ん? どうしたの?」
「いえ、少しネクタイが曲がっていますわ。直しますのでじっとしていてくださいね」
「う、うん……」
クリスは甲斐甲斐しくも私のネクタイを直してくれた。
こういうところがあるからあまり頭が上がらないんだよね。
「はい。直りましたわ」
「ありがとね」
「いえ、ルカさんの為ですから気にしないでくださいね。うふふー」
「う、うん……」
なんだろう? どこか変な空気になるのは。
それに周りからの視線もどことなく好奇な視線を感じる……ような?気のせいよね、うん。
ルカはまだ知らない……。ルカとクリスの二人は百合の視線で見られている事など。
私は何やら身震いをしながらも席に着く。
それと同時に予鈴のチャイムが鳴る。
それで教室に急いで駆け込んでくる生徒が多くなる中で、お母さんが朝のホームルームをするために教室に入ってきた。
「はい。みんないるわね?」
「起立、礼!」
委員長の号令とともに私達は挨拶をして席に着席する。
その後にお母さんが欠席者はいないかと確認を取って、私たち全員を見渡すように視線を巡らせた後に、
「それじゃホームルームを始めたいと思います。まずは皆さんに伝えたいことがあります」
お母さんがそう切り出してなんだろう?という感じのざわめきが起こる。
私も気になったので耳を澄ませる。
「みんなももう知っていると思うけど、最近隣町やその近辺で住人が何人も失踪するという事件が起きています。……それで実は一昨日と昨日についにこの町でも人がいなくなるという事案が発生しました」
それでより一層ざわめきが大きくなる。
そっか……。とうとうこの町でも起きちゃったんだね。
「幸いまだこの学園の生徒は誰もいなくなっていませんが、いつどこで誰が被害にあっていなくなるかわかりません。
教育委員会でも対策を講じているところですので、みんなも夜に一人で出歩く際は十分に注意して行動してね。私からは以上」
ホームルームはその後はいつも通りに終わったけど、だけど学園中がその話題で持ち切りみたいで帰りには教師の見回りもするそうで放課後の部活は当分は中止になった。
別にそれで残念がることもないんだけど、注意しないとね。
「それではルカさん。道中お気を付けくださいね」
「うん。クリスもまた明日ね!」
「はい」
クリスと別れて家への帰路に就く。
ちなみに鈴架は友達と先に帰ると言っていたのでたまにある一人っきりだ。
寂しいというわけじゃないけど、今朝のお母さんの話を思い出して気持ちが心細くなるのは隠しきれない。
そんな、感傷的な事を思っている時だった。
「ッ!?」
なに!? 突然背筋が凍りつくような、鳥肌が盛大に立つみたいな感覚に襲われた。
ゆっくりと震える体でなんとか周りを見回す。
そして一周して何も異変はないことを確認してため息を吐こうとして、
「ッッ!!?」
またしても心臓が握られるような恐怖を味わう。
ビルの隙間に忽然と全身黒い布を着ていて顔が窺い知れない。
まるでその姿は今朝に見た夢の人物のような……。
そしてあろうことか顔は見えないのに視線が合ってしまったという直観を感じて、私はすぐにその場を走り出した。
…………そして、何度か背後を見るがアレは私の後を追ってきている!
「ううっ! あれって、もしかしてー!」
まるで夢の通りではないか。
逃げる先々でとうせんぼするアレ。
何度も進路を変えてもうどこを走っているのか分からなくなって、ついに雑居ビルの隙間にまで追い込まれてしまった。
…逃げ道は、ない。
背後を振り向けばアレは一生懸命走ってきた私がバカなんじゃないかってくらいに息切れすらしていなくて、ついにあの言葉をうわ言のように口にしだした。
『……干支……巫女……』
「……!」
この後の展開が夢の通りなら私はアレに襲われてしまう。
人間、非常事態に追い込まれると逆に冷静になれるというもの。
私はどうにかこの場を脱する事を考えようとする。
だけど、どう思案してもいい考えは浮かばない。
『干支の、巫女……』
まるで某呪いのビデオの幽霊みたいに近づいてくるアレ。
もう、お終い、なの…?
諦めかけた時だった。
突然私の下の地面が謎の発光現象が発生して、まるで円状になにかが描かれていく。
だけど、それでアレはなにかを感じたのか先ほどまでの冷静さなどなりふり構わずに私にその長い手から来る腕の振り下ろしをしてきた。
だけど何かが遅かったのか、円状のものから上に向かってまるでガラスみたいに展開して私を覆い隠して、アレの手はその謎のベールに当たって停止した。
「な、なにこれぇ!?」
ようやく声が出せたと思えば他人事のように無様な声を上げてるな、私……。
そして、そんな余裕も次には無くなる。
いきなり視界が暗転して意識が遠のいてきてしまった……。
お母さん、鈴架、クリス……。
…ルカの姿は次の瞬間には最初からそこにはなかったかのようになくなってしまっていた。
怪異はそれを見て無言でその場から消え去った。
そして、まだルカは知る由もない事だが、これから盛大な旅が始まることになる。
これはまだほんの序章に過ぎないのであった……。
後書き
こんな感じで次回から異世界に飛びます。
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