デジモンアドベンチャー Miracle Light
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第51話:堕ちる者
前書き
今作では治は生存してます。
因みに賢はウォーゲーム終了後にお台場に
ウォーゲームから1ヶ月後、太一達が紋章の力をデジタルワールドに解き放つ数ヶ月前の田町の道を歩く者がいた。
少年の名前は一乗寺治。
田町に住む少年で田町からお台場にいる母方の祖母の元で暮らし始めた賢の兄であった。
今日も塾の帰りである。
「…………」
無言のまま歩く治。
その姿は天才少年の一乗寺賢の更に上を行く天才少年として有名である少年の姿にしてはやけに寂しそうである。
「…疲れた」
それだけを言うとゆっくりと足を進めていく。
一乗寺兄弟は共に優れた能力を持っていた。
しかし、やはり3年の差はそれなりに大きく、治は賢の才能を凌駕し、2人の両親は兄の方を大層可愛がり、弟を疎かにしていた。
当然両親達からすれば、それはわざとでは無かったし、ちょっと目を掛けているだけに過ぎないつもりで居たんだろう。
しかし受け取る側からすればそうは見られない。
賢は両親の態度を見てすぐさま愛想を尽かして家族に関わることはなくなった。
しかし両親に目をかけられていた治は賢程の自由はなく、多大なストレスを抱えていく。
両親の期待を背負うことに窮屈さを感じていた片割れは、次第に賢に当たるようになっていき、元々それなりに仲が良かったはずの兄弟仲にも亀裂が入る。
2人の仲は兄弟とは思えない程に冷え切り、会話らしい会話も無くなる。
そして治は見てしまった。
ディアボロモンのウォーゲームの戦い…オメガモン、マグナモンX、バンチョースティングモンBM、ラジエルモンの活躍を。
そこには弟の姿があった。
それを見た治は見たこともない世界に興奮し、あそこには自由があると確信したのだ。
そして戦いの映像を食い入るように見つめていた治は全員にある共通点があることを発見する。
それはデジヴァイスだった。
『(あれさえあれば僕も向こうに行ける…自由が手に入る!!)』
しばらくして最後の1体となったディアボロモンを倒し、オメガモン達は消えた。
しばらくして賢が自宅に帰ってきたため、それに気付いた治の行動は早かった。
『賢、お前の持っているそれは僕が没収する』
『はあ?』
治の言葉に賢は何言ってんだこいつ?と言いたげな表情を浮かべる。
『勉強のし過ぎで頭がポンコツになったかい?さっさと薬を飲んで寝れば?大体これには僕専用のカスタマイズがされてるから兄さんが触れても何にも起こらないよ。残念でした』
鼻で笑いながら言い放つと治の表情は険しくなる。
『だったら僕が使えるように改造してやる!それを寄越せ!!』
『嫌だね。欲張りだね兄さんは、悔しかったらさっさとあの2人の所に行けば?弟に口で負けて弟の所有物を奪おうとしたって言う醜態を晒せればだけど』
『この…調子に乗るなよ賢!!』
治が賢に殴りかかろうとした時、賢の鞄からワームモンが飛び出した。
『賢ちゃんに触るな!!』
ワームモンは治の顔面に体当たりを喰らわせ、弾き飛ばす。
弾き飛ばされ、強く床に叩き付けられた治の意識は堕ちていく。
『あら?治ちゃんは?』
『寝てるよ、疲れてたんでしょ。』
『まあ、勉強してたのね。後でお夜食持って行かないと。ところで賢ちゃん、転校の件なんだけど』
『お祖母さんのいるお台場に行ってお台場小学校に通えって言うんでしょ。準備は出来てるから今すぐ出れるよ』
『あらそう?下級生の教室が謎の生き物に荒らされてから大分経つけどまだ直らないから、賢ちゃんも自宅学習ばかりではいけないし…』
ヴァンデモンが暴れたことで田町にも被害があり、田町小学校もそれなりに被害があった。
今では田町小学校では大分子供が減っているらしい。
『助かるよ、お台場なら知り合いが沢山いるし(この家ともおさらば出来るし、この人達やあれとも会わなくて済むし、願ったり叶ったりだ)』
翌日の早朝に賢は繕った言葉を2~3言っただけで一乗寺家から去っていった。
去り際に自分達を見た表情は笑顔だったが、非常に冷めていたことは今でも覚えている。
賢を不満の捌け口にすることで何とか耐えていた治の心はバランスを崩し始めていた。
「何で賢は選ばれて僕は選ばれなかったんだ…僕は賢より、あいつより優れているのに…いや、あんな低レベルな連中が選ばれているのに何故僕だけが…」
以前休みを利用してお台場に向かうと、そこではディアボロモンと戦った面子もいた。
そして申し訳程度の変装をしたブイモン達も。
子供らしく何の柵もなくはしゃぐ姿に治の嫉妬は高まるばかりだった。
治は以前、デジタルワールドが浮かんだ空を見上げた。
近いのに遠いような感覚を感じてしまう。
まるで自分を拒絶しているかのようだ。
「………もう、嫌になった」
「デジタルワールドに行きたいのかな?」
「は?誰だ!?」
治は周囲を見渡したが誰もいない。
気のせいかと思ったが、再び声が響いてきた。
「怯えるな、私は君の味方だ。可哀想な君、心の自由を失いただ生きているだけの人形の君。私は君に同情する。私が君をデジタルワールドに連れて行ってやろうではないか。君の力は向こうで真に発揮される。鳥籠の中での暮らしは終わりだ」
「終わり…僕にも自由が…」
「そうだ…まずデジタルワールドに行く方法から教えてあげよう。お台場のある場所にその鍵がある。」
「分かった、行こう…」
了承の言葉と同時に、いつの間にか周囲に立ち込めていた真っ白な霧のようなものが、治の右耳から彼の中に侵入した。
僅かに残っていた理性を食い荒らされた治は息を詰まらせる。
「さあ、行こうではないか。君が自由となれる世界へ」
「そうだ…僕はデジタルワールドに行くんだ…僕を選ばないであんな奴らを選んだ世界を創り直してやる…」
治は狂ったような笑みを浮かべて声が示す場所に向かうのであった。
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