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デジモンアドベンチャー Miracle Light

作者:setuna
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第19話:魔力の霧

ヴァンデモンを退けたサジタリモンはブイモンに退化するとウィザーモンを見遣る。

「どうだ?俺の力、少しは認めてくれたか?」

「ああ…手傷を負っていたとしてもヴァンデモンを倒す寸前まで追い詰めたんだ。認めざるを得ないよ」

ウィザーモンも苦笑をしながら頷いた。

ヴァンデモンも少しの間は動けないはず、いくらヴァンデモンが高い自己治癒能力と魔力を持っていてもしばらくは回復に専念しなければならない。

「奴が動けなくなっている今が最大の好機だ。急いでヒカリとテイルモンの元に向かおう。」

「「おう」」

ウィザーモンと共に自宅に戻ることにした大輔とブイモン。

途中で黒い蝙蝠っぽいデジモンがいたが、ウィザーモンが魔法で眠らせて水の中に沈めた。

溺死しないのか気になるものの、取り敢えず家に帰ると…。

「お帰りなさい」

小声で挨拶をしたヒカリが窓を開けてくれた。

「ただいま」

ヒカリの安堵の表情を見て心配してくれたことに気付くと大輔は安心させるように笑った。

「ウィザーモン、お前も無事だったか。ヴァンデモンに遭遇しなかったようだな」

「いや、遭遇した。しかし彼が…」

チラリとブイモンを見遣る。

ブイモンもブイモンで誇らしげに胸を張る。

「俺がヴァンデモンを撃退してやったんだ。誰も怪我しないようにしてやったんだ」

「…本当か?」

疑わしげにウィザーモンを見遣るテイルモン。

ウィザーモンは本当だと言うかのように頷いた。

「本当だ。予想以上の力だった。伊達に2人でこの世界を守り続けていたわけではないらしい」

「…信じられない」

「ふっ…所詮は家の隅っこでコソコソしなきゃ何も出来ないネズミ擬き…人の言葉を理解出来る能力もないのか…ああ、嘆かわしいぜ」

小馬鹿にするように言うと、テイルモンのこめかみに青筋がいくつも浮かんだ。

「あんたは本当に人を怒らせる天才ね」

「よせ…照れるじゃないか」

「褒めてないわよ!!」

竜鼠対決が再び勃発しそうになった時、大輔が百科事典を投げてブイモンとテイルモンにぶつける。

そして百科事典はブーメランのクルクルと回転しながら大輔の元に。

「わあ、凄い。百科事典をどうやってブーメランのように投げたんだろう?」

「うーむ、余程器用なのか…」

頭からたんこぶを作りながら床に這い蹲るブイモンとテイルモン。

「帰って早々喧嘩すんじゃねえ!!痛い目に遭いてえか!?」

「「もう、遭ってます…」」

「ああ!?」

「「何でもないです!!ごめんなさい!!」」

大輔に怒鳴られてすぐさま土下座体勢。

テイルモンも大輔を怒らせてはならないと判断したようだ。

「全く…じゃあ、ヒカリちゃん。これが君の紋章だよ」

「ありがとう」

大輔から薄紅色の紋章を受け取る。

花のような模様をしており、大輔の奇跡の紋章に形が近い気がする。

「ん?」

「あれ?」

奇跡の紋章と光の紋章が光り始めた。

突然の変化に大輔とヒカリは戸惑うが、大輔の奇跡の紋章から光が放たれて光の紋章に吸い込まれて白色に変化した。

「ピンクから白になった…」

「ヒカリちゃん、何か変わった?」

「うーん、気のせいかもしれないけど、どこか前より落ち着く気がする。」

「紋章は心の性質らしいから何かあるのかも、でも悪い感じじゃないね」

大輔もヒカリも白色に変化したヒカリの紋章を不思議そうに見つめるが、薄紅色よりもこちらの方が光らしい気がする。

「とにかく、これで一緒に戦えるなヒカリちゃん」

「うん、私…頑張るね」

「俺達と一緒にね」

「うん!!」

今までは大輔と賢に守られてばかりいたが、これからは自分も共に戦える。

「明日からは選ばれし子供全員出動だな!!明日に備えて今日は早めに寝よう。おい、聞いてるかそこの馬鹿コンビ!!」

目を離した隙に喧嘩している馬鹿コンビに怒鳴る大輔。

怒鳴られた瞬間、即座に喧嘩を止めた。

こうして紋章を無事に手に入れた大輔達は明日に備えてゆっくりと眠ることに。

そして翌日、朝起きた時に大輔達が見たのは真っ白な景色でお台場全体を覆う霧であった。

「…どうだった?」

窓から入ってきたのは異常な霧を調べに行っていたウィザーモンである。

大輔が尋ねるとウィザーモンは険しい表情で口を開いた。

「少し見てきたが、どうやらお台場全体を霧が覆っているようだ」

「お台場だけか?」

「正確にはお台場と田町のみが霧に覆われている…お台場と田町と言えば…」

「選ばれし子供が住んでいる街か…」

お台場にはタケルと賢を除く選ばれし子供が住んでおり、田町には賢が住んでいる。

三軒茶屋に霧が出ていないのは多分タケルもお台場に住んでいると勘違いしたのだろう。

「なあ、ウィザーモン。これってもしかして…」

「ああ、ヴァンデモンだ。恐らくこれは使用者の能力を高める結界だ。ヴァンデモンは暗黒系デジモンの中で最も光に弱い。この結界には光が差し込むのを防ぐ効果がある。この結界内ではヴァンデモンは実力以上の力を振るうことが出来る…少なくてもヴァンデモンは追い詰められている。このような結界を私にさえ気付かれないように張るのだから」

魔法を扱うため、このような術の類には敏感のはずのウィザーモンでさえ気付けなかったのだ。

ヴァンデモンも相当焦っているようだ。

「こうなるんなら何が何でも倒しとくんだったな」

「紋章を手に入れられただけでも充分過ぎる。奴が今何処にいるのか分からない以上、あまり派手に動けな…」

次の瞬間、悲鳴が聞こえた。

「母さん!?」

「おばさん!?」

悲鳴に反応した大輔とヒカリが慌ててリビングに向かうとそこには大量のバケモンに襲われているところを目撃する。

「ブイモンヘッド!!ビクトリーパンチ!!ブンブンパンチ!!」

「ネコパンチ!!ネコキック!!ネコラッシュ!!」

ブイモンとテイルモンが間に割り込んで、肉弾戦を得意とするデジモンらしく怒涛の連撃でバケモン達を叩きのめす。

「はあっ!!」

そしてウィザーモンが杖を翳し、残りのバケモン達を眠らせた。

「母さん、大丈夫か!?」

「おばさん、怪我はない?」

大輔とヒカリが駆け寄るが、どうやら母親に怪我はないようだ。

「私は大丈夫よ。それよりもさっきのお化けのようなデジモンがジュンの部屋に…」

「「(お)姉ちゃんの部屋……大丈夫なのかな?そのバケモン達は…?」」

ジュンの部屋の方から複数の悲鳴が響き渡った。

「「…あ~あ……」」

「うぐっ!?な、何だ、この悪臭は…」

「こ、これは毒ガスか!?」

あまりの悪臭にテイルモンとウィザーモンが耐えきれずに鼻を押さえてしまう。

「いや、これは単なるお菓子の食べ屑とか空き缶から出る悪臭だよ。大輔の姉ちゃんのジュンは掃除しない(出来ない)、整理しない(出来ない)、洗濯しない(出来ない)。3つのSが見事に揃った人間として、女の子として終わってる奴だ」

「う~む、この惨状なら納得だ。」

ブイモンの言葉にテイルモンは頷いた。

大輔達の目にはゴミの雪崩に巻き込まれて埋もれているバケモン達の哀れな姿が映し出されていた。

「少なくてもジュンは大丈夫だ。あんなの連れて行きたいと思う敵はいないだろうし」

「否定出来ないなあ…」

弟として否定すべき発言。

しかし否定出来ないのが辛い。

「放っておくのも可哀想だし、助けてやるか。あ~臭い」

数十分後、全員無事に救助されたバケモン達。

「あ、ありがとうございました…」

「礼なんか良いから早く行け、臭くてたまらない」

ブイモンが手で払いながら追い出す。

比較的常識がある方だったらしくバケモン達は頭を下げて出て行った。

「ジュンはこのままにしといても大丈夫そうだな」

「そうだな」

ブイモンもテイルモンも助ける気が失せたのか、ジュンは父親に叩き起こしてもらって本宮家を後にした。

「うわ、前もはっきり見えないぜ。」

「だが、使用者のヴァンデモンの視界は良好のままだ。奴と戦う際はあまり距離を取らない方がいい」

「距離を取らなかったらサジタリモンの必殺技を活かせないじゃないか。いや、待てよ…」

「おーい!!」

ブイモンが考え事をしながら走っていると聞き覚えのある声が聞こえてきた。

振り向くと建物の中に身を潜めた太一達の姿があった。

「太一さん達と…」

「悠紀夫おじさん?ハニービーモンやチャックモンまで?」

「おーい、君達。こっちだ!!デジタルバリアが張られている建物内なら安全だ!!」

悠紀夫に手招きされて、大輔達は建物内に入る。

一瞬の違和感の後、大輔達は久し振りの再会となるチャックモンとハニービーモンとの再会を喜ぶ。

「久し振りだねチャックモン、ハニービーモン」

「おう!!姐さんや旦那も元気そうで!!」

「姐さん?旦那?どういうことだ?」

「あ、あはは…お兄ちゃんは気にしないで」

太一の問いにヒカリは苦笑しか出来なかった。

「ふう…それにしても大変なことになった。」

「そう言えば悠紀夫さん、伊織達は?」

周囲を見渡しても火田家の人々は見当たらない。

「伊織君…いや浩樹の家族は全員ロンドンだ。浩樹が怪我をして病院に入院したと報せが入ってね」

「「浩樹おじさんが!?」」

「ああ、警護中に撃たれたらしいが命には別状はないらしい。早く帰ってデジモン達の顔を見たいと言っていたよ」

苦笑を浮かべる悠紀夫だが、あまり大丈夫そうには見えない。

当然だ、親友が命の危機に遭ったのだから。

「そっかあ…ここにいないのは丈さん、空さん、ミミさん、タケル、賢か…確か、田町にも霧が覆ってるんだよな?」

「ああ」

「俺も見てきたから間違いないぜ旦那」

「…よし、じゃあ俺…今から田町に行ってくるよ」

【え?】

「ブイモンをライドラモンにアーマー進化させて全速力で走れば短時間で着けますから」

つまり大輔は霧によって最悪の視界状況とヴァンデモンによって人々が捕らわれていると言う状況を利用して田町に向かうらしい。

ライドラモンのスピードは車より速いからあまり時間もかからないはずだ。

「待って、大輔君!!私達も一緒に行く!!賢君は私の友達でもあるんだから!!」

「ヒカリちゃん……いや、ヒカリちゃんはここに残っていてくれないかな」

「…どうして?」

自分の気持ちを否定されたと感じたのかヒカリが寂しげに見つめる。

「ヴァンデモンは多分、俺達を警戒してると思う。そんな俺達が一カ所に纏まったんじゃ良い的だ。ヒカリちゃんとテイルモンはパートナー同士になって間もないしね」

「…………」

「くっ…」

正論故に返せないヒカリと悔しそうに顔を顰めるテイルモン。

そして“パートナー”の単語を聞いた太一達が反応した。

「ちょっと待て、今パートナーって言ったか?」

「はい、テイルモンはヒカリちゃんのパートナーデジモンです。ほら、テイルモン。挨拶くらいしろよ」

「そうだな……取り敢えず前のことは水に流してくれ。」

「……挨拶じゃねえだろ…それ…」

大輔が溜め息を吐きながら言うと、ヒカリも苦笑して大輔を見遣る。

「…ああもういいよ。あんだけ間抜けな目に遭ったんだから怒る気も起きねえ」

「間抜けな目…ああ、俺がテイルモンにしたメイクか」

太一の疲れたように呟かれた言葉にブイモンが前に自分がテイルモンに施したメイクを思い出した。

「何がメイクだ!あれはただの落書きだ!」

「ははは、それのおかげで簡単に打ち解けられたんだ。俺に感謝しろ」

「誰がするか!!」

「ふん、捻くれネズミめ!!」

「お前~!!」

「やかましい!!」

「「ふぐう!?」」

喧嘩しようとするブイモンとテイルモンの頭に大輔の拳骨が叩き落とされた。

「本当に懲りねえなお前らは」

「「うおおお…」」

「あれ見ると警戒するのも馬鹿らしいな」

「ああ」

太一とヤマトが呆れたようにブイモンとテイルモンを見遣る。

「とにかく、ヒカリちゃんはここで待っててくれ。大丈夫だよ、すぐ帰るからさ。ヒカリちゃんのとこに」

「うん、私待ってるからね。」

「ありがとう、行くぜブイモン」

「おう!!」

「デジメンタルアップ!!」

「ブイモンアーマー進化、ライドラモン!!さあ、大輔。乗って!!」

ライドラモンに促された大輔はその背に跨がり、再びヒカリを見遣る。

「…行ってくるよ」

「うん、気をつけて」

ライドラモンが一気に駆け出す。

機動力が高いアーマー体だけにあっと言う間に見えなくなった。

「本当に気をつけてね…」

ヒカリに出来ることはただ、大輔達の帰りを待つことだけであった。 
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