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レーヴァティン

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第七十九話 江戸の街その一

               第七十九話  江戸の街
 一行は船に乗ってそうしてだった、江戸に向かう。その途中船旅をしつつ香織はこんなことを言った。
「この揺れてる感じがたい」
「いいのか」
「船に乗ってるって思ってたい」
 それでとだ、揺れる船の中で飲みつつ幸正に言うのだった。
「まことに」
「いいのか」
「そうたい」
「酔わないか」
「もう酔ってるとよ」
 酒にとだ、香織は笑って返した。
「この通り」
「我が今言うのは船酔いだ」
「そちらの酔い方たい」
「そうだ、そちらは怖くないか」
「船酔いしない体質たい」
 香織は朱色の大盃で飲みつつ幸正に返した。
「だから全然平気たい」
「それが凄いな」
「あんたも船乗りだからそうでなかと?」
「最初は違った」
 幸正も飲みつつ応える、ただし盃は香織のもの程大きくはない。
「この世界でもな」
「酔ったとよ」
「そうなっていた」
「そうだったたいか」
「三度目位の仕事まで苦労した」
 船酔いでというのだ。
「随分とな」
「あれは体質たいな」
「そうだ、船酔いはどうしてもな」
「酔う人と酔わない人がいるたい」
「それで我は酔う体質だった、ただ」
「四度目のからはたい」
「酔わなくなった、身体が慣れた」
 そうなったというのだ。
「それでだ」
「今は平気たいな」
「どれだけ揺れても酔わない」
「そうなったたいか」
「そうだ、しかしそっちはか」
「最初から全然たい、起きた時も」
 そちらの世界でもというのだ。
「全然酔わないたい」
「それは凄いな」
「本当に体質たいな、酔うことは」
「酔わない奴は最初から全く酔わないな」
「それがうちたいな、別に神様の道具は使わなくてもとよ」
「酔わないか」
「全くたい」
 笑って飲みつつの返事だった。
「有り難いことに、それでたい」
「今みたいにか」
「こちらで酔ってるたい」
「そちらの酔いも強そうだな」
「これが博多の娘とよ」
「酒は飲むか」
「酒は飲め飲めたい」 
 香織は笑って黒田武士の一節も述べた。
「黒田武士ではないたいがな」
「飲む時は思いきり飲むか」
「福島大夫殿にも負けないたい」
 福島正則のことだ、とかく大酒飲みでしかも酒癖が悪くこの黒田武士の話の元になる逸話を残している。
「飲む時は」
「それで今もか」
「飲むとよ。あんたも飲みんしゃい」
 共に飲む幸正にも言うのだった。
「遠慮はいらんとよ」
「あんたの酒だから」
「そうたい、飲まないとたい」
 それこそというのだ。
「人生の楽しみがなかとよ」
「酒は人生の楽しみか」
「違うたい?」
「そう言われるとそうだ」
 幸正もその通りだと答えた。 
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