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ゲーテの創作

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第二章

「今でもそうはいない」
「八十過ぎまで生きられるとは」
「おそらく私はそこまで生きていない」
「私もでしょう」
 かく言うゲーテもというだ、実際に彼は当時としては長生きであったが八十二歳までは生きていない。
「八十二歳までは」
「そうだな、しかし君はそこまではだな」
「書いていません」
「彼をドイツ農民戦争で死なせている」
「そうしました」
「そうだな、しかし」
 貴族はさらに言った、食事は彼がゲーテを自覚に招いてのもので見事な食堂の中でドイツ西部の伝統的なジャガイモや豚肉の料理をワインと共に楽しんでいる。
 その豚肉の料理を食べつつだ、貴族はゲーテに言った。
「史実では違う」
「そのこともその通りです」
「そうだな、特にだ」
「彼の性格ですね」
「正義と自由を愛する勇者か」
「いえ」
 ゲーテは貴族のその言葉を即座に否定した。
「騎士道精神に満ちてもいません」
「そうだったな」
「はい、若い頃から柄が悪く」
 現実の彼、ゲッツ=フォン=ベルリヒンゲンはというのだ。
「粗暴でならず者の如き盗賊騎士団を編成していました」
「そして商人達を襲っていたな」
「まさに悪漢でした」
「当時はよくあったことだが」
 騎士達が手下を引き連れ商人達を襲ってその富を奪っていたことはだ。
「しかしだ」
「いいことではなかったです」
「騎士といえば領主だ」
「その領主が盗みを働くなぞ」
「当時の欧州の治安の悪さの象徴と言うべきか」
「酷い話ですね」
「全くだ、イギリスのキャプテン=ドレイクを笑えない」 
 貴族はやれやれという顔で述べた。
「全く以てな」
「貴族が盗賊の首領なぞ」 
 その彼の様にだ。
「あってはならないですね」
「全く以てな」
「そして彼はです」
「そのあってはならない者だった」
「そうです」
 ゲーテは貴族にワインを飲みつつ答えた、北イタリア産のそのワインはイタリア好きの彼には素晴らしい味だった。
「まさに」
「史実とは全く違う」
「私の戯曲は」
「その通りだな」
「はい、しかしですね」
「何故君は全て知っていてだ」
 その彼のことをだ。
「あの様に書いたのだ」
「史実とは全く違う姿にですね」
「正反対と言っていいまでにな」
「それは何故か」
「君自身に聞きたいのだが」
「だから今日私を呼んでくれたのですね」
「そうだ」
 その通りだとだ、貴族も答えた。
「そのことで君と話したかったのだ」
「そうでしたね」
「何故あそこまで変えたのだ」
 全く正反対と言っていいまでにというのだ。
「それはどうしてだ」
「その方が面白いからです」
「面白いからか」
「はい、作品が」
 それがというのだ。
「面白いですから」
「だからなのか」
「あの様にしました」
「作品として面白いからか」
「ならず者を勇者にして」
 正義と自由を愛するそうした騎士にしたというのだ、盗賊達の親玉で粗暴な悪漢を。 
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