人徳?いいえモフ徳です。
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二十匹め
王都の中心から少しだけずれた所に噴水のある広場がある。
三人はそこに来ていた。
否、二人と一匹だ。
メリーとボーデンは噴水の縁に腰かけていた。
シラヌイは獣化し、メリーの腕のなかだ。
「きゅ~…」
尻尾をもふられ、さらにはメリーの羊毛に包まれたシラヌイは気持ちよさそうな鳴き声をはっする。
「ぬいちゃん、きもちい?」
「きゅぅぅぅ……」
「よかった。わたしだけきもちよくなってたらわるいから」
セリフだけ聞くとナニをしてるんだと言いたくなるようなセリフだった。
ボーデンは隣でもふりもふられるメリーとシラヌイを見ていた。
「なんですか、ボーデンさん?」
「お前、シラヌイの事すきか?」
「すき、だよ?」
「なら、それでいい。シラヌイをもふって、もふられて、それでいい」
「?」
無表情でこてん…と首を傾げるメリー。
「まぁ、なんでもねぇよ。ん…寝たっぽいな」
もふもふの羊毛の上で撫でられていたシラヌイは…
「くぅ……くぅ……くぅ……」
いつの間にか寝息を発てていた。
「ぬいちゃん、かわいい…」
ともふり続けるメリー。
異変が起こったのは、一時間ほどした時だろうか。
「はぁ…はぁ………………?」
メリーの息が上がり始めた。
「メリー?」
「ん…?」
ボーデンに名前を呼ばれ、首を傾げるメリーの顔は心なしやつれているように見えた。
ボーデンはその症状を知っている。
魔力切れだ。
「メリー!シラヌイを寄越せ!」
ボーデンがメリーからシラヌイをひったくる。
「あー…もふもふ…」
「そんな場合じゃねぇよバカ!」
ボーデンはシラヌイの持つスキルの一つを思い出していた。
<エナジードレイン>
「くっそ…昨日は何もなかったが…
あぁ…戦闘で魔力使ったからか…」
ボーデンはシラヌイの脇に手を入れて持ち上げながら、自分の魔力が吸われていくのを認識した。
「パッシブ……いや無意識か…」
「ボーデンさん?」
「ああ…もうめんどくせー…」
ボーデンはローブを脱ぎ、それでシラヌイを包み込んだ。
「わお。ボーデンさんナイスバディー」
「うっせ」
ローブを脱いだボーデンは白いカッターシャツにブレザーのような…国家錬金術師の制服を着ている。
だがその豊満な体がカッターシャツとブレザーを押し上げている。
「からまれるよ?」
「いや、国家錬金術師に絡むバカは居ないだろ」
シラヌイが起きていれば『フラグ乙』と言いそうなセリフである。
「いつ頃からキツくなった?」
「ついさっき」
「私がコイツを取り上げるまでどれくらいだ?」
「んー…一分くらい?」
一分、とボーデンは呟く。
「お前の魔力ランクは?」
「C」
「そうか…」
Cランクはエルフなどを除く人型種族では高い方である。
「メリー。寝ているシラヌイには余り触るな。
色々持っていかれるぞ」
「いろいろ?」
「魔力、精神力、生命力…まぁ、色々だ」
魔力は余剰生命力に過ぎない。
であるならば魔力を吸い尽くされればその次は生命力を奪われるという理屈だ。
「自分はもふもふしてるのに…」
「アタシはいいんだよ。少なくともお前の十倍はあるから」
「よのふじょーり…」
魔力ランクC以上は10の乗数で増える。
ランクBのボーデンは『少なくとも』メリーの十倍は魔力があるのだ。
なおシラヌイの魔力ランクは未測定だ。
ステータスプレートに記載されていないのがその証拠だ。
なぜならステータスプレートには魔力ランクの測定結果を記載する義務があるからだ。
ボーデンがシラヌイを包んでから暫くすると、センマリカが戻ってきた。
「よう。早かったなセンマリカ」
「城からとんぼ返りよ。ところで、どうしてシラヌイさんは獣化しているの?」
「獣化はコイツが気を回した結果だ。
流石に女児を能動的に触るのはどうかと思ったんだろうな」
「ああ…それで…」
「で、アタシのローブでくるんでるのは、コイツのパッシブスキルのせいだ。
エナジードレイン。Cランクの魔力を一分で吸い尽くす強力なスキルだ」
「あらあら、じゃぁウチの子が眠そうなのはそのせい?」
「ああ、アタシが気付かなかったらヤバかったぜ」
「ふーん」
「軽いな…」
「タマモ様から聞いてたわ」
「何て言ってた?」
「『シラヌイなら直ぐにでも制御を覚えるじゃろう』だそうよ」
「だろうな」
センマリカがメリーを抱き上げる。
「あー…もふもふ……」
「大丈夫よ。また今度シラヌイさんの家には行くから」
「うー…わかった…。じゃーね、ぬいちゃん」
「きゅー……」
ねぼけまなこで挨拶をするシラヌイ。
一声鳴くと再び眠り始めた。
「じゃぁ、アタシらも帰るか…」
ボーデンはローブに包まれたシラヌイを抱き上げ、広場を後にした。
後書き
途中で『幼女につつまれる』方が変態っぽい…と思った。
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