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世界に痛みを(嘘) ー修正中ー

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空島編
  無法地帯"ジャヤ"

 メリー号では新たな仲間であるビビを迎える宴が行われる。
 酒豪であるナミとゾロは次々とジョッキを積み重ね、ルフィは食べに食べる。

 アキトはメリー号のデッキの片隅で寝転がっている。
 傍にはビビの姿も

「アキトさん、アラバスタ王国ではお世話になりました」

 ビビは真摯に、メリー号のデッキに寝転がるアキトに頭を下げる。

「アキトさんには何度も命を救ってもらいました。本当に感謝しています」

 "夢の町"『レインベース』の地下室でのクロコダイルとの戦闘ないしは脱出然り、爆弾を止めるべく自分の足となり戦場を駆け回ったこと然りだ。
 最後は時限式爆弾を処理し、ペルの命を救ってくれた。

「改めてアキトさんにはお礼を伝えたかったんです」

 姿勢を正し、アキトはビビと対面する。
 彼女の頬は酒の影響かほんのりと赤く染まっている。
 だが、その瞳に宿る意思は本物であった。

「ああ、どういたしまして」

 アキトは微笑を浮かべながら、ジョッキをビビへと差し出す。

「そしてようこそ、"麦わら海賊団"へ」 

 ビビを麦わら海賊団は快く歓迎する。
 寧ろビビなら大歓迎だ。

「はい!」

 心からの笑顔を浮かべ、ビビはアキトと乾杯する。
 周囲ではデッキ上でルフィ達が騒ぎ、ジョッキを揺らしながら宴を楽しんでいる。
 
 ビビは自然な動作でアキトの隣に座り、ルフィ達の騒ぎ様を見据えている。
 ウソップは向こうでニコ・ロビンに尋問を行い、逆に気圧されている。
 何をやっているのだろうか。

「あのアキトさん……」
「……?」

「私に出来ることなら何でもしますから、私を時折頼って下さいね」

 膝元の拳を握り締め、ビビはアキトの紅い瞳を見据える。

「少しでもアキトさんや、ルフィさん達に恩を返したいんです……」

 義理堅い王女様だ。
 恩義を忘れることなく、真摯に返そうとすることはなかな出来ることではない。
 こんな時代ではなおさらだ。 

「勿論、可能な範囲でですよ!」

 念を押す様に頬を染めたビビがアキトへと詰め寄る。
 苦笑を浮かべ、アキトは首肯する。

 それでは早速、ビビに頼み事をしてみよう。
 以前から彼女に頼みたいことがあったのだ。



「じゃあ、"魅惑のメマーイダンス"という踊りを見せてくれないか?」
「え……」

 ビビが早速固まる。
 否、思考が停止した。

「ウイスキーピークでゾロ相手に踊ったと聞いた時から見てみたいと思っていたんだ」
「あの、アキトさん……」

 ビビは答えに詰まる。
 あれは自身の黒歴史と言っても過言ではない。

 ましてやアキトには絶対に見せたくない。
 あのダンスは尚更却下だ。

 だが、アキトとビビの会話を盗み聞きしていたルフィ達が矢継ぎ早に駆け寄ったことで事体が悪化する。

「"魅惑のメマーイダンス"って何だぁー?」

 無邪気なルフィの問い掛けが苦しい。
 悪意無き悪意が此処まで辛いものだとは思いもしなかった。

「へー、あの(・・)"魅惑のメマーイダンス"かぁ……」

ふーん、ほーん、へー

ニヤニヤ、ニヨニヨ

 ゾロはウイスキーピークでの記憶を回顧し、盛大に意地悪気な笑みを浮かべている。
 あの顔はこの状況を心の底から愉しんでいる者の顔だ。


殴りたい、その笑顔


 ビビは殺意にも似た波動に目覚めかける。


だけど、我慢……我慢よ


 此処で逆上してしまえば、ゾロの思う壺だ。

「ビビの良いとこ見てみたい!」
「はい、見てみたい!」
「ビビ、私も!」
「俺も見てみたいなー」
「ビビちゃん!」

 鳴りやまぬビビコール
 完全に酔っ払いのノリだ。
 悪意無き仲間の求めにビビは狼狽えてしまう。

 既に彼女の頬は羞恥心で真っ赤に染まり、瞳からは涙を見せ始めている。
 身体は震え、今にも泣き出し、この場から逃走してしまいそうだ。



「イジメかっ!」

 ウソップの魂の叫び
 今のビビは見ていられなかった。

 対するロビンは微笑を浮かべ、事態を静観している。
 心なしかこの状況を愉しんでいる様にも見える。

「私、私……」

 顔を真っ赤に染め、デッキに顔を伏したビビが言葉を反芻する。
 今にも顔から湯気が出てしまいそうな程今の彼女の顔は赤い。

「……!」

 遂に、ビビは羞恥の余り、その場からの逃走を決意する。
 アキトの手を握り、幾度かアキトの身体をメリー号にぶつけながら、船内へと突撃した。
 
 その後、船内にて要望通り"魅惑のメマーイダンス"を踊り、アキトへ披露したのであった。

 結果、これまでの航海にて蓄積した疲労が影響し、アキトは爆睡した。
 羞恥に身もだえるビビを一人残して

 今後、絶対にこの技は遣わないことをビビは誓う。
 絶対にこのダンスは今後一切使用しない。

 真っ赤に染め上げた顔を両手で覆い、ビビはそう決意する。
 ルフィ達ではなく、ましてやアキトにこの恥ずかしいダンスを披露したことで受けた傷は深すぎた。
 ビビは真っ白に燃え尽きる。

 メリー号は次なる目的地へ向け、舵を切る。
 アキトは爆睡し、目を覚ますことはない。

 空から巨大なガレオン船が落下し、海が大いに荒れる事態が発生しようともアキトが起きることはなかった。

 立て続けに浮上するは"空島"の可能性
 記録指針(ログポース)の"指針(ログ)"が件の"空島"に奪われる。

 沈没した巨大ガレオン船の探索を行うべくサルベージを行うルフィ達
 その最中、出会う猿山連合軍の"サルベージ王マシラ"

 サルベージを行うルフィ達を巨大ガレオン船を丸ごと食す超巨大カメの出没
 だが、更にその超巨大カメを上回る大きさを誇る戦士が突如現れ、ルフィ達を混乱へと陥れた。

 必死にメリー号の舵を切り、その怪物から逃げようと一心不乱にルフィ達は逃走する。
 だがそれでも終始、アキトが目を覚ますことはなかった。

 こうしてアキトのあずかり知らぬところでルフィ達は次なる目的地"ジャヤ"へと辿り着くのであった。







▽▲▽▲







 無法者達が集う町"ジャヤ"
 世界政府も干渉しない人を傷付け、嘲笑う町
 夢を見ない者達が日々、血を流し、死傷者を生み出し続けている。

 その町に現在、ルフィ達は足を踏み入れていた。
 新たな仲間であるビビとロビンを引き連れて

「へー、楽しそうな町だな」
「早速、行くとするか、ルフィ?」

 ルフィとゾロはメリー号から降り、"ジャヤ"の町へと繰り出していく。
 ナミもメリー号から降り立ち、ルフィ達を追っていく。

「アキトさん、私達も町に繰り出しましょう!」

 寝起きで意識が朦朧とするアキトを引き連れたビビがデッキに現れる。
 アキトはまだウトウトと眠たげに瞼を擦っているが

「ニコ・ロビン、あんたも一緒に来るか?」
「私も?」

 意外とばかりに彼女は首を傾げ、アキトに向き直る。
 
「ビビと同様にあんたの服を買い揃えないといけないからな」

 現状、彼女が着込んでいる服はナミの私物だ。
 今後もそういったことが起きないように彼女の服も買い揃えておく必要がある。

「資金なら全部俺が持つから一緒に来て欲しい」
「あら、優しいのね」

 ビビも王女とは言え、お金は余り持っていないだろう。
 ロビンはクロコダイルから奪ってきた宝石をナミを釣る餌として、ナミに渡していたことから余り懐事情は芳しくないはずだ。

「サンジも以前話していた鍵付き冷蔵庫を買うために一緒に行くか?」
「勿論、行くぜ!」

 サンジ、即答
 是非もないよネ。

 美少女であるビビと美女であるロビンと共に買い物へと合法的に行くことが出来るのだ。
 迷う必要などあるはずもなかった。

「アキト、お前のことこれから師匠と呼ばせてもらうわ」
「……?」

 自分を自然な形でビビとロビンとの買い物メンバーに組み入れたアキトにサンジは感謝を述べる。
 今のサンジにとってアキトは崇拝すべき対象として、偉大な人物として映っていた。
 アキトは訳が分からず首を傾げるしかなかったが

 サンジの傍で騒ぐウソップとチョッパーには電伝虫を与えておく。
 有事の際にはアキトが即座に駆け付ける腹積もりだ。

「俺達が襲われたら絶対、駆け付けてくれよ!振りじゃないからな、絶対だからな!」
「俺達がピンチに陥った際には3秒で駆け付けてくれよ!」

 苦笑しながらアキトは頷く。
 こうしてアキト含めたビビ達は無法者の町である"ジャヤ"へと繰り出していった。





「どお?」
「似合っているぜ、ビビちゃん!」

「これは?」
「エレメントだぜ、ビビちゃん!」

「それじゃあ、これは?」
「エレガント!」

「じゃあ、これはどうかしら?」
「エキセントリック!」

「これはどうかしら?」
「エロエ……、いや、エレクトリカルだぜ、ビビちゃん!」

 サンジのべた褒め
 今、アキト達はビビの服を見繕うべくビビのファッションショーを見ていた。

 時折、感想を求めてくるビビにアキトは気さくに返事する。
 どの服も美少女であるビビには似合っていた。

「貴方、私に悪意を向けないのね?」
「……?」

 隣で佇むロビンが突如、アキトへと問い掛ける。
 アキトとロビンは現在、ビビ達から少し離れた場所に立っている。

「船長さんとあのコックさん以外は誰もが私に少なからず悪意を向けていることは肌で感じているわ。あの剣士さんは特に私を警戒しているわね」

 突然のニコ・ロビンの独白
 アキトはビビ達を静観し、黙って彼女の独白に耳を傾ける。

「確かに、あんたはアラバスタ王国を無茶苦茶にしたクロコダイルの右腕だった存在だ」
「……」

「ビビの父親であるコブラ王を拘束し、革命軍の混乱を助長したことも知っている」

 コブラ王とペルさん達から彼女のことは聞き及んでいる。

「だが、毒で死の瀬戸際の状態であったルフィを救ってくれたんだろ?」

 本当に彼女が真正の悪ならルフィを救いはしなかっただろう。
 古代兵器の存在が記された歴史の本文(ポーネグリフ)の秘密もクロコダイルには口外しなかったことも聞き及んでいる。

「少なくともあんたが悪い奴ではないことは分かっている」

 ビビも恐らく少しずつ彼女という人間を理解しようとしているのだろう。
 思い返せば彼女の行動は最初から矛盾していた。

 敵であるルフィ達に記録指針(ログポース)を与え、抹殺したはずのイガラムさんが生きていたこと、その全てが矛盾している。

「それに、例えビビやアラバスタ王国があんたを憎んでいるからと言って、俺があんたに悪意を向けるのは間違っているんじゃないか?」

 人が生きている限り、本人の思い知らぬ所で他人を傷付けている。
 人が存在し続ける限り、同時に憎しみも存在する。

 世界には永久に続く憎しみと、癒せない痛みが存在している。
 同じ痛みを知らなければ他人を新に理解することはできない。
 そして痛みを理解したところで分かり合えるわけでもない。
 
 アキトは彼女に恨みがあるわけではない。
 ビビは彼女を憎んでいるかもしれないが、それとこれとでは別の話だ。
 理由無き悪意は憎しみを生み、憎しみは痛みを生み出し、際限なき悪意の本流は憎しみの連鎖に繋がる。

 最早泥沼だ。
 悪意無き憎しみを向けることをアキトは禁忌していた。
 少なくともアキトはそう思っている。
 教鞭を振るうが如く話してしまったが、これは嘘偽りのないアキトの本心だ。

「本当に悪意を向けて欲しかったらもう少し悪役に徹することだな」
 
 最後にアキトは意味深な言葉を残し、ロビンの傍から離れ、ビビの元へと向かう。
 残るロビンは静かに口を閉ざし、アキトの背中を見据えることしか出来なかった。





 メリー号に無事、帰還したルフィ達

 ビビとロビンの二人は服を買い揃え、新たな服を早速着込んでいる。
 サンジも同じ様に鍵付き冷蔵庫を手に入れ、ホクホク顔だ。

 だが、ルフィとゾロの二人は流血し、体中傷だらけであった。
 チョッパーが急いで治療に取り掛かってる。

 ナミ曰く、とある酒場で空島の聞き込みをした折に、爆笑され、ベラミーと名乗る海賊とその一味にボロボロにされたらしい。
 "空島"を否定され、笑われ、夢を馬鹿にされた。

 "このケンカは絶対買うな"と述べた無抵抗のルフィとゾロを多勢に無勢の状況でいたぶり、血だらけの状態に追い込んだのだ。
 剰えナミを金で勧誘し、買い取ろうとした。

 最後のナミの独白を聞き、アキトの心の天秤は傾いた。


 処刑、執行


「アキト、一体何処に行くんだ?」
「その酒場の連中を潰しに行く」

 何を当たり前のことを聞いているんだと言わんばかりにアキトはウソップに首を傾げる。
 
「聞いてなかったのか、アキト!?その件はルフィがケンカを買わないことで収束しているんだぞ!?」
「ウソップ、これはケンカじゃない。一方的な処刑だ」

 アキトは人の夢を嘲笑い、馬鹿にすることをさも正しいことだと言わんばかりに正当化する連中を心底嫌悪する。
 ましてや女性を、ナミを金で買い取ろうとする下種を酷く嫌う。
 反吐が出そうだ。

 そういった連中は放置しておけば今後、更なる被害を発生させるだろう。
 今のうちにそういった愚図は沈めておくに限る。

 リハビリの準備運動くらいにはなるだろう。
 アキトは既に準備万端の状態だ。

「よし、それじゃ、船を出すぞ!」
「ちょっと待ってくれ、ルフィ。先ずは、その酒場の連中を血に染めに行きたいんだが」
「アキト、落ち着けェ!」

 ウソップの絶叫が響く。
 ナミとビビ、ウソップ、チョッパーの総出でアキトを引き留め、メリー号に繋ぎとめる。

 ナミは自分のために怒ってくれることに嬉しさ大半、事態が混沌と化すことを恐れる気持ち約2割でアキトを引き留める。

 こうしてメリー号は"モックタウン"を離れ、この島の対岸に位置する場所に住んでいる"モンブラン・クリケット"に出会うべく舵を切る。

 夢を語り、この島を追われ、はみ出し者として排斥された"モンブラン・クリケット"、彼はルフィ達に何をもたらしてくれるのだろうか。

 ルフィは次なる冒険に心躍らせ、船を出航させるのであった。 
 

 
後書き
少しだけ寿命が延びたベラミー一味 
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