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艦隊これくしょん~男艦娘 木曾~

作者:V・B
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第七十一話

 
前書き
どうも、暑さにやられたりしてました。こんなの、エアコンなしでどう過ごせと。 

 

 
 
「なんでバレてるんですか!!?」
 
不知火は悲鳴にも近い叫び声を上げていた。
 
俺と不知火は曲がり角に二人で立ち、二方向とすぐ近くの階段を見ていた。気休めに近いかもしれないが、どこから来ても反対方向に逃げれる…………はず。
 
「…………春雨はな、『超高性能電探』とも言うべき能力を持っててな。半径百キロメートルの範囲にいる奴等を感じることができるんだ。水中だろうが空中だろうがお構いなしだ。」
 
完全に忘れていた。最近は出撃どころじゃなかったから、すっかり抜け落ちていたようだ。
 
「そんなの…………反則では!?」
 
「…………クソが……………………だから拓海は『なんでもあり』ってルールにしたのか……!!」
 
あれは、俺たちの不利を和らげるためのものじゃない、春雨の能力を存分に生かすためのルールだったんだ。
 
「卑怯な…………!」
 
不知火はそう溢したが、そうとも限らない。
 
あのときはまだチーム分けをしていなかった。つまり、春雨が拓海の敵になる可能性だってあったんだ。
 
どのみち、狂ってることは間違いない。
 
しかし…………圧倒的不利になった。
 
むこうはこちらの位置が正確に分かって、的確な指示が出せる。
 
こちらはむこうの位置が分からず、携帯もないから指示が出せない。
 
『北西二階階段付近に瑞鳳さんと弥生ちゃんが移動してきました!総員、三階には通さないこと!!』
 
『ちょっ!?春雨、それ言っちゃダメだって言ったじゃんか!!』
 
『へっ?あっ!!そうだ!!て、敵チームの皆さん!!今の放送は嘘ですから!!信じてもらわなくて大丈夫ですよ!!』
 
『相手が信じるわけ無いでしょ!?』
 
「「……………………。」」
 
俺と不知火は自然と顔が緩んでいた。非常に和む。
 
放送室で慌てているであろう春雨…………あー、捕まえたくなる。逃チームだけど。
 
「…………と、兎に角、敵の思惑はよく分かった。恐らく、拓海と春雨が缶を守って、四人が二階から三階への階段を守ってる。そして、残った二人は…………遊撃手かな?」
 
かなり厄介なフォーメーションだ。タッチすれば確保なことを考えると、一対二なら突破される可能性も少ない。
 
缶を守りつつ、こちらの行動範囲を一階と二階に追い込んで、全員捕まえる…………追い込み漁みたいだな。
 
「しかし、そうなると…………敵はこっちが逃げるものと考えてるんだろうな…………。」
 
間違いではない。俺はさっきまで、逃げ切って勝とうと考えていた。
 
しかし、それではジリ貧だ。奴等になぶり殺しにされかねない。
 
…………仕方無い。
 
「不知火、各階段組に伝えてきてくれ。」
 
ジリ貧の反対は、ゴリ押しだ。
 
「やるしかねぇなぁ…………あー、怪我人、増えちゃうなぁ…………。」
 
とことん、やってみるかな。
 
 
 
―執務室―
 
 
 
 
「あーもー…………色々台無しだよ…………。」
 
僕は春雨に放送のスイッチを切らせて、大きな溜め息をついた。
 
大輝さんから春雨のおっちょこちょい加減は聞いてたから、半分くらいは予想してたけどさ…………まさかここまでとは…………。
 
本来、三階の階段に居る四人を少しずつ二階に降ろして、二階に降りきったら、自由行動組で捕まえきるつもりだったのに…………。
 
僕、『作戦を口走らないように気を付けてね』って、わざわざ言ったのに…………。
 
「ごっ、ごめんなさ…………ん?」
 
すると、春雨が何かを感じ取ったようだ。机の上に広げていたこの鎮守府の地図に視線を移していた。
 
「どうしたの?」
 
「逃チームは今のところ、それぞれの階段に二人ずついるんですけど……若葉ちゃんが、階段を降りてるんですよ。」
 
「……………………ふむ。」
 
若葉。本名、一之瀬 瑞希(いちのせ みずき)。自ら望んで艦娘になった稀有な例。
 
現状、この鎮守府の最古参。この三年間の全艦娘の平均寿命が半年なのに対し、既に三年以上生き延びている。
 
練度は資料によれば高くないのだが、千尋の話を聞く限り、かなりの実力を持っていそう。
 
そして、大和のことを知っている……らしい。
 
「…………えっと、医務室に入っていきました!」
 
春雨は何度も地図と何もない空中を見比べながら断言した。
 
「…………ふむ…………ちょっとマイク貸して。」
 
僕は春雨にそう言うと、放送のスイッチを押した。
 
 
 
「Wakaba ist in der Ärztliches Amt.」
 

 
「…………なんで日本語で伝えないんですか?」
 
僕が放送を終えると、春雨が首をかしげながら聞いてきた。
 
…………あぁ、そうか。春雨はドイツ語が分かるんだっけ。千尋と一緒に毎朝勉強してたとか。
 
「そんなの、決まってるじゃないか。特定の人物以外には伝えたくなかったからだよ。」
 
「…………千尋さん、ですか?」
 
無論だ。
 
「さてと…………そこまで賢くないとは思ってるけど、そこまで馬鹿でもないはずだ。察してくれよ…………?」
 
一抹の不安を覚えながら、机の上に広げていた地図に目をやった。

 
 

 
後書き
読んでくれてありがとうございます。先週は色々と不足の事態が発生してしまいました……切り替えていこう。

それでは、また次回。 
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