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艦隊これくしょん~男艦娘 木曾~

作者:V・B
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第七十話

 
前書き
どうも、紙面上の戦いより帰還しました。オリジナルの作品も作っているので、だいぶ疲れております。いぇい。 

 

―食堂―
 
 
「ふぁてと、ほぉれからのズズズっ訓練についてんぐっ、連絡しよう。」
 
拓海は素麺をすすりながらそう言った。
 
俺は右手を振り上げ、拓海の頭を容赦なく叩く。その勢いで頭を机に思いっきりぶつけるが、それでもお椀に入っているめんつゆを溢さない辺りは流石だ。
 
「口にモノを入れて喋るなアホ。行儀悪い。」
 
まわりの視線をビシビシ感じるが、華麗にスルー。
 
「えっと…………これから皆には八対八の缶けりをしてもらおうと思ってる。」
 
拓海は後頭部を擦りながらばつが悪そうな笑みを浮かべた。
 
ふむ、缶けりか。小学生の時以来だろうか。
 
…………缶けり?
 
「ルールは、逃チームは一時間以内に缶を蹴るか逃げ切れば勝ち、鬼チームは一時間以内に逃チームを全員捕まえれば勝ちだ。それ以外は、相手を殺さない限りは何をしてもいい。」
 
一瞬疑問を持ったが、拓海の説明の最後の部分で全てを察した。回りを見ると、春雨や冬華も納得したような表情をしていた。
 
呉の連中ならまず間違いなく意識不明レベルの重体が出そうだ。
 
「……ちなみに、勝ったらなにかあるのか?」
 
相変わらず机の一番端に座っている若葉は、お茶のコップを手に取りながら拓海を睨み付けていた。かなり怖い。
 
「…………勝ち負け関係なく、今晩は木曾には頑張ってもらおうと思ってたけど…………。」
 
殺す気かよ。
 
「…………明日の晩御飯のメニュー決定権を進呈しよう。」
 
もっと殺す気かよ。ただでさえ毎食作ってるのに…………。
 
「…………ふむ……………………悪くないな。」
 
納得した模様の若葉。
 
「おいこら拓海テメェ、勝手に賞品にすんじゃねぇよ。」
 
俺は拓海を肘で小突きながら小声で拓海を責めていた。
 
「さてと、早速チーム分けと行こうか。」
 
華麗なスルーを見せる拓海。後で殴ると心に決めた。
 
 
 
―艦娘抽選中―
 
 
 
結果。
 
鬼チーム……拓海、春雨、榛名さん、古鷹、加古、阿武隈、祥鳳さん、文月。
 
逃チーム……俺、冬華、山城さん、瑞鳳、若葉、不知火、五十鈴、弥生。
 
「これまた…………。」
 
悪くないかもしれない。運動神経の塊の冬華がこっちにいるのはありがたい。
 
「さてと、缶は四階の執務室前に置いとくから、逃チームはここスタートで。十分後に開始するよ。」
 
拓海はそう言うと、鬼チームの皆を引き連れて食堂を後にした。
 
「さてと……ルール的には、バラけて逃げた方が圧倒的に良いけど…………。」
 
建物の構造的に考えると、普通の缶けりなら四階への階段の四ヶ所は一人ずつ配置して万全を尽くす。
 
だけど、『暴力OK』と言ってるようなルールとなると、二人以上で攻められたら突破さねかねない。
 
むしろこのルールは、俺たちの若干の不利を和らげるルールなのだろう。
 
「二人一組で行動していこう。基本的には逃げることを優先させる感じで。」
 
そもそも、鬼の勝利条件を考えると、俺たちを必死に追いかける他ない。でも、缶を守る人を二人は置くだろうから、追っ手は減るはずだ。
 
…………と、このときの俺はどっちが本当に有利か分からないまま作戦を立てていた。
 
いや、このときの俺の予想や推理は決して間違っていなかった。最悪、一時間逃げ切れば勝てる、と。
 
しかし、俺は失念していた。
 
一人、そいつが居るだけで勝利に大きく近づくような存在を。
 
「…………ねぇ、木曾?あたしは麻婆豆腐とか言うの食べてみたいから。」
 
しかし、そんなことを知らない俺達は、食べたいものの想像を始めていた。
 
「…………私は、オムライス、とかかな…………。」

「カロリーメイク以外なら、なんでも…………。」
 
…………昨日に比べると、みんなの顔にも少しずつ笑顔が浮かぶようになっていた。
 
…………勝たせてやるか。
 
「…………さてと!そろそろ始まるっぽい!!」
 

 
 
 
ピンポンパンポーン。
 
 
 
 
 
開始時間三十秒前に、館内放送が始まった。
 
『えー、これより、缶けりバトルをスタートする!思う存分暴れてくれ!!』
 
拓海のその合図と共に、俺達は食堂を飛び出した。俺は不知火と共に、一番近くの階段へ向かった。
 
「さてと、暫くは一階と二階を中心に逃げて行こう。場合によっては、三階も視野に入れるけどな。」
 
「了解。」
 
俺達は階段の前までやって来て、二階へと上がる。
 
壁から廊下を覗いてみるが、また人影はない。
 
俺達は二階にある個室の中にでも隠れようかと一瞬考えた。しかし、もし入ってこられたら逃げ場がない。見通しのいい廊下に居よう。
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
『二階南東階段付近に木曾さんと不知火ちゃんが移動してます!その他も各階段へ二人一組で移動中!総員、最初の指示通りお願いします!!』
 
 
 
 
 
 

 
 
「なっ!!?」
 
俺は自分の耳とスピーカーから聞こえてきた放送を疑った。
 
今の放送は、間違いなく春雨のものだった。その春雨が、誰がどこにいるのかを的確に言っていた。
 
しかし、よくよく考えてみると、なんら不思議はない。
 
春雨は『超高性能電探』とも言うべき特性を持っている。このお陰で、海上では半径百キロメートルの範囲はほぼ完璧に、水中にいる潜水艦すら発見してしまう。
 
…………って。
 
「これ、無理ゲーだろ…………!!」
 
俺はスピーカーを一頻り睨むと、その場から走り去っていった。
 
 
 

 
後書き
読んでくれてありがとうございます。僕が最後に缶けりをしたのは、中学二年生の時でした。そのときは、友人が持ってきたBB弾銃で倒すという荒業をやってました。蹴ってないのに缶けりとはこれいかに。

それでは、また次回。 
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