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ハイスクールD×D 聖なる槍と霊滅の刃

作者:紅夜空
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ゲーム鑑賞

「さて、では今日はじっくり観察するとしようか」

「ん」

曹操の部屋にテレビを持ち込み、飲食物の調達は部屋の外で待機しているブリギッドにお願いして、私達は二人でテレビの前に陣取る。
曹操は胡坐をかいて、私はその近くにうつぶせに寝転がっている。だって楽だし

「リアス・グレモリーチームとサイラオーグ・バアルチームのカード。各勢力の者たちも注目しているだろうさ。若手悪魔のホープ同士の対決だ」

だからこそ、未来に立ちはだかるであろう彼らを分析するために、見なければならない。
私たちの目的は、どうやっても彼らとの衝突を引き起こさざるを得ないだろうから。

「審判役が『番狂わせの魔術師(アブセッティング・ソーサラー)』リュデイガー・ローゼンクロイツ。解説役が堕天使総督アザゼルと―――『皇帝(エンペラー)』ディハウザー・べリアル、か。全く、どれだけ力を入れたのだろうな、豪華すぎる面子だ」

曹操の感嘆の声を聴きながら、画面に映る灰色の髪の男性を見つめる。
―――皇帝、か。魔王に最も近い、プレイヤー。

「初戦は誰が出るかな?」

「ダイス・フィギュアというシステムのルール上、どう出るかはダイスの目次第だろうが……オープニングで12が出たとしてもサイラオーグ・バアルは出ないだろう」

「そういうもの?切り札っていうのは見せつけて警戒させるものでしょ?…ってそうか、もうそのことは周知の事実だから」

言ってから答えを出した私の髪を撫でて、曹操が続ける。

「そう言うことだ。それに、最初から王が出てしまえばワンマンチームとの評価は免れえないだろうな。眷属の力、持っているカードをフルに使って勝つことこそが戦略性・戦術性を鍛えるゲームでありながら、今回の試合はエンターテイメントとしての側面も少なからずあるだろうからね」

なるほど……そう言うのに疎いからなぁ、私。
そうこうしていううちに最初のダイスがシュートされる。出た目の合計は……3

「一発目で最小の数値が出たか。まあ、ここはグレモリー眷属は木場祐斗だろうね。デュランダルでは手が割れてしまえば中盤以降に差し支えるだろうが」

「木場祐斗の手札は多少割れたところで臨機応変に戦える、と。そう言うことでしょ?」

確かに彼の多彩な魔剣群、その組み合わせによる連携はそう簡単に攻略できるものではない。手が多少割れたところで嵌め手を貰うことは少ないだろう。
攻略するとすればもとはただの人間であるが故の防御力の無さに差し込む、くらいしかないだろうか。仮に私が闘うことになれば、一撃入れれば万霊殺しが浸食していくから仕留めることは容易だろう。テクニックで後れを取ることはあれど、『眼』をフル活用して初動を読み切れば不覚を取ることは少ないはず。

「初手は『騎士』同士か……スピードはどちらも互角と言ったところか。『青ざめた馬(ペイル・ホース)』を手なずける実力は確かなものだろうな」

そう評している間にも試合は始まっている。私の『眼』で何とか追えるほどの速度での剣戟の応酬。多少鍛えた程度の戦士では、位置すらわからないであろう超高速の剣舞。
……私がやるとすれば、動かずにカウンターを狙うのが最善手だろう。見切れはするが、通常状態でついていけるほどの身体能力がないなら、後の先を狙うのが最善手。
しかし、あのフールカスという騎士もよくやる。木場祐斗の聖魔剣による足場破壊からの雷の奇襲を凌ぎ、逆に超高速での幻影で木場祐斗に攻撃を加えていく。

『……初手からあまり勢いよく手の内を見せるのは嫌だったんだけどね……。どうやら、出し惜しみしていたら必要以上の体力を失いそうだ。ゼノヴィアの事を言えないな』

聖魔剣を消滅させた木場祐斗が、聖剣を作り出し手にする。
何かやりとりをした後、静かな呟きが会場を震わせる

『――禁手化(バランス・ブレイク)

その言葉が終わると同時に、甲冑姿の異形が創り出され、地面から生えてきた聖剣の刃を手に取っていく。
……『双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)』ではない。あれは、おそらく

「……聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)の亜種禁手かな?なんとなく、曹操の『居士宝(ガハパティタラナ)』に似てるね」

「ああ、だからこそ興味深い…次会うときはぜひ体感したいものだな」

話しているうちに、第一試合は終わりを告げた。
……あの騎士団に私が対応するなら、あれでまとめて消すのが手っ取り早いだろう。


◆◇◆◇
第二試合は特に面白いものもなかった。バアル眷属の騎士は言わせてもらうなら「器用貧乏」だろう、くらいだろうか。
さて、三試合目なんだけど……赤龍帝が出るのかな
場所は花畑の様だ。さて、あのバアルの『僧侶』はどんな風に赤龍帝を相手に戦うのか……初手は魔力で近づかせないようにしている。まあ、赤龍帝は禁手になるまでタイムラグがあるから、そこを狙うのは定石なんだろうけど。
あ、赤龍帝が禁手化した……と思った瞬間、なぜか急に視界が塞がれる。

「曹操?見えないんだけど」

「君は見なくていい。というか見るな」

「いや、見ないと対策立てられない」

「見なくていい。こら、暴れるな!」

曹操は寝転がっていた私に後ろから伸し掛かって目を塞いでいる。体勢が体勢だけに、手を外すのも時間がかかる。というか実質無理に近い。
だから曹操をとりあえず上から降り落とそうともがいているのだけど、重心の取り方が巧みなのかなかなか落ちてくれない。
ばたばたと物音がしているからそのうちブリギッド入ってきそう…外まで聞こえてないといいのだけど。
音声から察するになんだか試合らしからぬことが行われているのは間違いないのだけど…ねえ曹操、いい加減に見せてほしいのだけど。
その後、第三試合が終わるまで曹操は私の視界を封じたままでした。そして上に乗ったままでした。いじわる。



「ふむ、アバドンの『(ホール)』はああいう風にも使えるのか。厄介だが対処法がない訳じゃない」

第五試合「雷光の巫女」VSバアル眷属の「クイーシャ・アバドン」の女王対決が終わり、勝利したバアル眷属の能力を分析していう曹操を横目に、私はペットボトルの水を飲んで水分補給をする。
と、画面がいきなり盛り上がる。何かと思って視線を移せば、ダイスの出目は――12

「来るぞ、サイラオーグ・バアルが」

画面の中で上着を脱ぎ、戦闘服に包まれた見事な体躯を露わにするサイラオーグ・バアル。
グレモリー側から出すのは……木場祐斗、ゼノヴィア、ロスヴァイセと言ったか。

「……ほう、悪くない。赤龍帝までに一度涙を使わせる気の布陣だな」

「…始まるね」

四肢に奇妙な文様を浮かび上がらせたサイラオーグ・バアル。その文様が消失すると同時に、サイラオーグを中心に風圧が巻き起こり、足元が抉れる。

「闘気だね」

「ああ、仙術ではないようだがな…おそらく、あれはただ単に純粋な生命力。可視化するほどの濃密さで纏えるとはたいしたものだ。どれだけ自分を鍛え上げたのか」

「…てことは、私と相性は悪いってことだね」

万霊殺しは言うならば“遅行性の毒”。生命力がありすぎる相手には効き目が表れるまで長い時間がかかる。まさに天敵と言えるだろう。
サイラオーグのスピードは速い。しかも…いま一撃打ち込んだだけでヴァルキリーの鎧を粉砕したことから、威力も馬鹿げていると理解できる。
能力上相性が悪く、一発でも貰えばアウト……私にとってはまさに相性最悪と言えるだろう。
そう結論付けて立ち上がる。

「曹操、ご飯取ってくるね。あと、そのあとでいいからちょっとシャワー浴びてもいい?」

「ああ、構わない。着替えがないなら俺のワイシャツでも貸そう」

「ありがと」



◆◇◆◇
戻ってくると、曹操がこちらを見てすぐに目を逸らした。

「どうしたの?」

「……服を着ろ。そのままで出てくるな」

ばふ、とワイシャツを投げつけられる。仕方がないのでお借りすることにしてワイシャツを羽織り、曹操の横に座る。

「髪を乾かせ。風邪をひくぞ」

「はい」

ドライヤーを出しだすと、ため息をつきながら私の髪を乾かし始める。自分でやってもいいのだけど、曹操にやってもらう方が気持ちいいから、つい。
と、テレビの方に注意を向けると……赤龍帝とリアス・グレモリーが同時に出場していた。

「…総力戦?」

「ああ。バアル眷属の女王を赤龍帝が倒し、この後の試合の流れはもはや確定的になった。それではつまらないからと、サイラオーグ・バアルが総力戦を希望したのさ。―――ようやく、あの赤龍帝とバアルの壮絶な打撃戦……戦闘が好きな者ならば思わず達してしまうほどに魅惑的だろうね」

曹操も楽しそうだ。そう思いながら、画面に意識を集中させる。
――画面の中では、バアル眷属の『兵士』の少年が、金色の獅子へと変化していく姿が映っていた。

「…ネメアの獅子か!まさか、バアル眷属の『兵士』になっていたなんてね。悪魔の駒は神滅具さえも転生させるのか」

曹操の目が驚きに見開かれ、同時に嬉々とした色を宿す。なるほど、あれは13ある神滅具の一つ……初代ヘラクレスが倒したというネメアの獅子!
それに驚いている間にも、赤龍帝とサイラオーグ・バアルの壮絶な打撃戦は続いている。

龍剛の戦車(ウェルシュ・ドラゴニック・ルーク)ゥゥゥッ!』

『Change Solid Impact!!』

赤龍帝の腕が急に太くなったかと思うと、撃ち込まれた拳の後にさらに撃鉄が撃ち込まれた強烈なアッパーがサイラオーグ・バアルを打ち上げる!

龍牙の僧侶(ウェルシュ・ブラスター・ビショップ)ゥゥゥッ!!』

今度は背中にバックパック、肩にキャノンが形成される。

「あれが俺が京都で足を掬われた赤龍帝の特性…トリアイナと呼ばれる強制昇格のようなものだ。覚えておくといい」

曹操の解説を聞きながら画面を注視する……リアス・グレモリーが獅子にやられているようだ。

『サイラオーグさま!私を!私を身にまとってください!あの禁手(バランス・ブレイカー)ならば、あなたは赤龍帝を遥かに超越する!勝てる試合をわざわざ本気も出さずに――』

『黙れッ!あれは……あの力は冥界の危機に関してのときのみに使うと決めたものだ!この男の前であれを使って何になる!?俺はこの体の身でこの男と戦うのだ!』

「……禁手化?」

それは、できるのだろうか…本来の所有者ではない、あのバアル家次期党首に。
そう疑問を込めて曹操を見やると、興味深げに見ている。それだけでわかった―――可能性は、ある。そして画面の向こうの男は、それをやると。

『―――今日、俺は最高のあなたを倒して勝利を掴むッ!俺たちは夢のために戦ってんだッ!本気の相手を倒さないで何になるんだよッ!?』

赤龍帝の叫びが木霊する。―――戦術的に見れば、勝ちを捨てる愚かな行為。
でも………それでもなお譲れないものが、ある。

『……すまなかった。心のどこかで、ゲームなのだと、二度目があるのだと、そんな甘い考えを頭に思い描いていたようだ、なんて、愚かな考えだろうか……ッ。このような戦いを終生一度あるかないかと想像すらできなかった自分があまりに腹立たしいッッ。レグルスゥゥゥッ!!』

『ハッ!』

『よし、ではいこうか。俺は今日この場を死線と断定するッ!殺しても恨むなよ、兵藤一誠!!』

画面越しにも眩い、黄金の光が弾ける。

『我が獅子よッ!ネメアの王よッ!獅子王と呼ばれた汝よ!我が猛りに応じて、衣と化せェェェッ!!』

フィールドを震えさせながら、周囲の風景を吹っ飛ばし、弾ける。
―――そこにいたのは、金色の王。鬣を思わせる金毛、胸に獅子の顔を模した全身鎧。

「…バアルの―――滅びの、獅子王」

思わず口をついて出た言葉。それがストンと、納得したかのように心に滑り込む。
赤龍帝の打ち込みを、軽く受け止め、返す一撃だけで、昏倒させる……

「……怖いね。一撃当たれば、私達なら即死」

「そうだな。一撃も当れない…怖い怖い…ん?」

曹操の言葉に疑問が混じると同時に、画面の中では理解できない光景が広がる。
……リアス・グレモリーの胸が、光っている?そして高らかに「おっぱい」を連行する子供たち。………なにこれ?

「……これは、これは」

そんな光景を、さらに塗り替えるデタラメが……起こる。
倒れていたはずの赤龍帝が、立ち上がる。今までの赤い鎧ではなく、紅の……真紅の鎧に、身を包んで。

『―――「真紅の赫龍帝(カーディナル・クリムゾン・プロモーション)」と言ったところか。その色は紅と称された魔王様と全く同じもの。―――リアスの髪と同じ色だ』

『―――俺はッ!俺を求める冥界の子供たちと、惚れた女の目の前であなたを倒すッ!俺の夢のためッ!子供たちの夢のためッ!リアス・グレモリーの夢のためッ!俺は今日あなたを超えるッ!俺はリアス・グレモリーが大好きだぁぁぁぁああああっ!』

―――無茶苦茶だ。あんな非常識な出来事、理解を超えた出来事によって、劇的にパワーアップするなんて。こんなデタラメな奇跡、見たことがない。
だけど―――民衆を自らの想いで魅せ、民衆の声援によって再び立ち上がる。
それは………ああ、なんて、英雄(ヒーロー)的で、眩しいのだろう。



――――――――――――――――――――――――――
フィールドを破壊しかねない壮絶な迫力で行われる殴り合い。見るものを熱狂させ、沸かせ、魅せる。そんな戦い。
殴って、殴られて。ただそれだけの戦いが、こんなにも心を震わせる。
ただただ、夢をかけて殴り合うだけの赤龍帝と獅子王は―――楽しそうだった。
赤龍帝のフェイントが入り、殴り飛ばした獅子王に莫大な魔力砲撃が叩き込まれる。…決着だろうか?獅子王がクレーターの真ん中に、倒れている。

「――いや、まだだ」

曹操の言葉に反応するように、徐々に手が動き、足が動き、体が持ち上がっていく。
もうとっくに限界なんて超えているはずだ。あれだけの威力のものを叩き込まれたのだ、普通はとっくに倒れているだろう。

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッ!!』

だが、獅子王は―――雄々しく、しかし、どこか悲哀にも感じる、透き通った咆哮をあげて、立ち上がる。
そして、また始まる殴り合い。赤龍帝がどれほど攻撃を撃ち込もうとも、それと同じくらいの攻撃を、ただただ放り込み続ける。その拳の一撃は、万物を打ち壊すほどに苛烈で、研ぎ澄まされたもの。
―――滅びを持たない大王?冗談じゃない。あれが、あの拳のもたらす破壊こそが『滅び』そのものだ。
アレを相手にするときは、本当に最後の一滴まで、絞り尽くすつもりでやらなければならないだろう。
赤龍帝の良い一撃が入っても、まだ倒れない。赤龍帝は、ついに鎧を持続することさえできなくなる。これは、もう勝負は―――

「……まったく、とんでもないな」

………いや、違う。獅子王は、もう―――意識を失っている。
それでもなお、笑って、ギラギラした眼のまま、赤龍帝を見据えて。

『……ありがとう………ありがとうございましたぁぁあッッ!!』

赤龍帝の叫びと共に、ゲームの終了が告げられた。




「さて、今回のゲームを見てどうだった………四織?」

「どっちも相手にしたくはない。そして……相手をするなら、出し惜しみなんかできる相手では、ない」

「だろうな……だが、彼らと戦ってみるのも、英雄になるためには、必要だと思わないか」

「……悪戯心でちょっかいを出せば、火傷じゃ済まなくなると思うけど」

「だが、どうせいつかはやらなければいけない。それに、彼らはあありえない方向に力を伸ばしている。データとしては極めて稀な存在だ。いずれ神器の究極戦をやるなら、彼らの成長を刺激してみるのも手かと思えてなぁ」

「………………………」
 
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