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安住の地

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第一章

                安住の地
 セドリック=ブライトンは今現在宿なしだ、その穏やかな人柄故に友達は多くてそれで彼等の家に居候させてもらって暮らしている。
 幸い仕事は法律への知識を活かしたものがあるので安定したそれも多額と言っていい収入がある。しかし。
 彼は溜息をついてだ、今泊めてくれている友人に好物の紙を食べつつ言った。
「またちゃんとした下宿先を手に入れないと」
「駄目っていうんだな」
「そうだよ」
 こう言うのだった、人間と黒山羊を合わせた姿で。黒髪は後ろで束ねていて右目は青、左目は金色の垂れ目と目立つ外見である。
「やっぱり居候ばかりじゃね」
「しかしだよ、君は」
「うん、紙を見るとね」
 どうしてもとだ、セドリックは友人に困った顔で話した。
「食べずにいられないから」
「そうだね」
「いや、普通に見る分はいいんだよ」
 それなら問題ないというのだ。
「けれどね」
「手に取るとだね」
「本もそうでね」
 読書が趣味だが読んだ傍からだ。
「読んですぐに食べてしまって」
「食事にもなっているね」
「山羊でもあるからね、僕は」
 この属性もあるからだというのだ。
「それでだよ」
「食べてしまうね」
「山羊は羊は紙が好きだから」
「その習性は避けられないね」
「どうしてもね」
「だから家賃を払おうとしても」
 その時もなのだ。
「君は支払おうとしてね」
「紙幣を出したらだよ」
「その傍から食べてしまって」
「家賃を払えなくなってね」
「追い出されているんだ」
「これで二度目だね」
「うん、けれどね」
 そうした状況だが、とだ。彼は友人に切実な顔で話した。
「僕としてはね」
「どうしてもだね」
「また下宿先を探したいよ」
「難しい問題だね、けれど君は収入もあるし」
 それでとだ、友人は深刻な顔になって自分に話すセドリックに応えた。
「その人格だからね」
「下宿もだね」
「また見付かるよ。ただね」
「ただ?」
「君のその習性は考慮しないとけないから」 
 セドリックの空腹時に紙を見ると食べずにいられないそれはというのだ。
「だからいつも紙を持っていて」
「お腹が空いたら食べる様にするんだね」
「そうすればいいし。お金の支払い方も」
 それもというのだ。
「紙幣を手渡しじゃなくてね」
「他の渡し方をなんだ」
「考えてみればどうかな」
「そうだね、考えてみるよ」
 セドリックも友人の言葉に頷いた、そしてだった。
 彼は実際に紙出来るだけ質のいいものを常に持っていて空腹の時は食事あるいはおやつとして食べる様にした。そうして手当たり次第に紙を食べることは防いだ。 
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