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一番の天敵

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第二章

「期待していろよ」
「期待したいのは今年の阪神だけだよ」
「阪神は優勝に決まってるだろ」
 兄は妹に真剣そのものの顔で返した。
「今年こそな」
「そうあって欲しいわね」
「そうに決まってるだろ、それで今晩はな」
「お兄ちゃんが作ってくれるのね」
「もう食材は用意してあるからな」
「言っておくけれど」
 ここで兄に強い声で釘を刺した珠樹だった。
「私はね」
「卵は、だよな」
「絶対に駄目だから」
「だからだな」
「卵は出さないで」
 そこは念を押すのだった。
「いいわね」
「わかってるさ、もう覚えたからな」
「覚えるまでに何度私に卵出したのよ、特にお魚の」
「お父さんもお母さんも好きだし俺も好きだしな」
「私は大嫌いなの」
 それも何よりもだ。
「何度お兄ちゃんが出して卒倒したか」
「ははは、そうだったな」
「はははじゃないわよ、私本当に駄目だから」
 珠樹は平気な顔で笑う兄に怒った顔で返した。
「それで死にかけたでしょ」
「そうだったな、そういえば」
「何度もね。他にもよ」
「ああ、キャッチボールをしていてな」
「お兄ちゃんの剛速球が頭に当たったり」
「あと部屋の中で体操をしていてな」
「足がお腹を直撃したでしょ」
 こうしたこともあったのだ。
「いきなり富士山に連れて行かれたり」
「踏破出来てよかったな」
「私ずっと酸欠寸前で引き摺られていったわよ」
 兄は始終笑顔でそうしたのだ。
「全く、いつも行動が無茶苦茶だから」
「それで料理もか」
「何処まで破天荒なのよ」
「俺はこうした人間なんだよ」
「そこで否定しないし」
 むしろ肯定さえしている、そこも珠樹にとっては実に腹立たしいことだ。
「いい?本当に今日はね」
「わかってるさ、今日はステーキだ」
「それ焼いてくれるの」
「安いオージービーフが手に入ったからな」
 それでというのだ。
「一キロ焼くからな」
「一キロなんて私食べられないわよ」
「俺はそれで御前はもっと小さいの焼くからな」
「だといいけれど」
「ああ、じゃあ楽しみしていろよ」
「ええ、ただステーキだけじゃ栄養バランス悪いわよ」
「だから玉葱のスープとポテトサラダも作るな」
 こうしたものもというのだ。
「安心しろよ」
「ええ、卵も出ないならね」
 それならとだ、珠樹も納得した。しかし晩御飯の時にだ。
 自分の前の皿の上のステーキを見てだ、珠樹は兄を殺人未遂犯の目でみながらそのうえで言った。
「あのね」
「少ないだろ」
「お兄ちゃんのに比べたらね」
 そのとんでもなく分厚いステーキよりはだ。
「半分位よ」
「少ないな」
「一キロの半分ってどれ位よ」
「五百クラムだな」
「こんなの食べられる小学生の女の子いないわよ」
 珠樹の顔も言葉も切れていた。
「だから常識で考えてよ」
「それ位食わないと貧血治らないぞ」
「貧血の問題じゃないわよ、食べきれないでしょ」
「安心しろ、食べきれないならな」
「どうするの?」
「お兄ちゃんが食べてやる」
 今回も平然とした返事だった、両親も一緒にいるが喋っているのは二人だけだ。 
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