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一番の天敵

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第一章

               一番の天敵
 五来珠樹は冷静で知的な小学生だ、勉強は抜群に出来て怒ると悪魔の様に凄まじい。だが貧血気味である。
 その彼女はいつも頭の悪い者は嫌いだと言っていた。
「そういう奴は一回雛に帰ればいいのよ」
「出たわね口癖」
「好きな言葉でもあるけれど」
「とにかく頭が悪い人は嫌いなのね」
「そうなのね」
「卵とね」
 こう付け加えることも忘れていなかった。
「この二つはどうしても駄目よ」
「卵は特にお魚の卵よね」
「タラコとかイクラとかね」
「キャビアも嫌いよね」
 クラスメイトの一人は世界三大珍味の一つを出した。
「そうよね」
「あんなの食べて嬉しいの?」
 これが珠樹のキャビアに対する評価だった。
「気持ち悪いでしょ」
「キャビアも駄目なのね」
「食べたことないし」
 ついでに言うと見たこともない。
「あと運動も嫌いだけれど」
「卵は特に駄目よね」
「とりわけお魚のが」
「頭の悪い人も嫌いで」
「とにかくよね」
「そう、学校の成績云々じゃないわ」
 珠樹が言う頭が悪いとは、というのだ。
「人間としてどうかよ」
「人間として頭がいいか悪いか」
「それなのね」
「テレビでいい大学出てても頭が悪い人いるじゃない」
 珠樹はこのことを指摘した。
「そりゃ学校の成績がいいに越したことはないけれど」
「珠樹ちゃん先生の間違いだって指摘するしね」
「やっぱり学校の成績がいい方がいい」
「そうよね」
「けれどそれ以上に人間としてよ」
 それが大事だというのだ。
「頭がいいか悪いか」
「それがなのね」
「大事だっていうのね」
「そう、本当にね」
 かなり切実に言う珠樹だった、ツインテールに眼鏡の顔で言うのだった。だが彼女はあえていつも言わなかった。
 自分が何よりも苦手でそして嫌う対象のことは、それは何かというと。
 家に帰ると時々それはいる、彼女の兄だ。
 某国立大学で抜群の成績を誇り趣味は料理だ、その彼は家で珠樹を見るといつも満面の笑顔で言っていた。
「珠樹、今日も元気か?」
「今元気でなくなったわ」 
 珠樹はいつも兄にこう返していた。
「一瞬でね」
「それはどうしてなんだ?」
「お兄ちゃんの顔を見たからよ」
 赤髪を立てて無闇に明るい表情で生き生きとした彼をだ。
「それでよ」
「おい、俺に問題があるのか?」
「どうしようもないまでにあるわ」
 こう返すのも常だった。
「最悪と言っていい位に」
「いつも言うな」
「全く、何で今日は帰っているのよ」
「いつも家にいるだろ」
「私が家に帰る時間にいるのよ」
「今日の午後の講義は休講だったんだよ」
 兄は妹に明るい笑顔で答えた。
「それで暇だからな」
「お家に帰ってなの」
「ああ、そしてな」
「またお料理作るの」
「そうさ、お父さんとお母さんにも作るからな」
「つまり今日の晩御飯はお兄ちゃんが作るのね」
「御前にも最高に美味しいもの作ってやるからな」
 妹を可愛がっているのがはっきりとわかる明るい笑顔だった。 
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