「………知ってる天井だ」
「おお!起きたか!この日を待っておったぞシラヌイ!」
ベッドの脇には、ピンと立った狐耳ともっふもふの九本のしっぽを持った幼女がたっている。
「お婆様…俺…僕…おれ…は…」
「案ずるな全て知っておる。お主が転生者という事も、その他も」
「あの、その、えっと…記憶が混乱してるんで、説明していただけないでしょうか…」
「うむ!よいぞ!」
お婆様が言うには、『俺』は殺されてこっちの世界に来たらしい。
━━最期の記憶は殺された所だ━━
そして、この世界の神様が『俺』の記憶を封印し、五歳になった今日その封印が解かれたのだという。
「ところで、ここ五年間の記憶はちゃんとあるかのぅ?」
「はい…しっかりと」
この世界は円環の女神サークリオンが作った世界であり、ここは環状世界フローティアという。
僕のお母様はシェルムで宮廷魔術師。
お父様の名前はブライで王国の騎士。
お婆様はこの国の相談役。
そして僕の名前はシラヌイ。
偶然か必然か前世の『俺』の名と同じだ。
「ならば問題はあるまい!
さぁ!今日はお主の誕生日パーティー故急ぐのじゃ!」
神様。目の前に居るのじゃロリ狐娘のテンションについていけません。
ひるふぇ…。
お主の事はシェルムとブライには黙っておいてやろう!くははははははは!
と高笑いしながら、タマモはシラヌイの手を引いて食堂へ向かう。
タマモはシラヌイよりは背が高いが、それでも小さい部類だ。
「なんじゃキョロキョロしおって。記憶はあるのじゃろう?」
「無茶を言わないでくださいお婆様。記憶が統合されたとはいえ、僕…いえ、『俺』がこの世界を直に見るのは初めてなんですから」
「そういう物かのぅ?」
「ええ…そういう物です…」
「あとその話し方はどうにかならんのか?
すぐにバレてしまうぞ?」
「そう…ですね…」
「さっきから元気ないのぅ?」
「そりゃ…!そりゃ殺されて目が覚めたら異世界で…!なんかよくわかんない記憶があるんですよ…!」
シラヌイは今にも泣きそうな、否、泣きながら叫んだ。
「まぁ、そう悲観するでない。お主は生きておる、それでよいではないか」
「僕は…まだそこまで割りきれません…」
タマモがシラヌイを抱き寄せた。
「その内慣れよう。案ずるな、何かあれば、儂が話を聞いてやる」
「はい…お婆様…」
タマモが食堂のドアを開けた。
「シラヌイを連れてきたぞ!」
「あらあら、シラヌイはお寝坊さんね」
「そう言うてやるなシェルムよ。どうも夢見が悪かったらしくての、ちと儂があやしておったのだ」
「何!大丈夫かシラヌイ!怖い夢を見たのか!?」
「ブライ、落ち着いてください。メイドが笑っていますよ」
食堂にはシェルムとブライ…シラヌイの今生の両親が先に座っていた。
シェルムは腰まで伸ばした金髪に狐耳、一本の尻尾、スタイルは抜群で金の目はたれ目で柔らかな印象だ。
ブライは金髪でイケメンだが、どちらかと言えば童顔。
それもそのはずでブライの耳は細く尖っている。
「お父様。ご心配をおかけしました」
「いや、かまわん!子を心配するのが親の務めだからな!」
「貴方は心配しすぎなんですよブライ」
なおブライは親バカである。
「シラヌイ。早くお座りなさい。朝ごはんですよ」
「はい。お母様」
シラヌイが席に座ると執事が朝食を用意した。
シラヌイがサンドイッチをもきゅもきゅしているのを、シェルム、ブライ、タマモが温かく見守っていた。
「ぅゆ?」
「なんでもありませんよシラヌイ」
「ぅゆ!」
シラヌイが食べ終わるとシェルムがシラヌイに尋ねた。
「シラヌイ、誕生日プレゼントは何がほしいですか?」
つい昨日まで魔法を教えてほしくてウズウズしていたなぁ、とシラヌイは思い出した。
「魔法を教えてほしいです」
「……………」
「……………」
シェルムとブライが黙り込む。
「どうされました?」
「うーむ…魔法か…」
「どうしましょうか…」
「?」
シラヌイが首を傾げていると、タマモが説明した。
「魔法は危険じゃからのぅ…」
「ですがお婆様」
「わかっておるよ」
タマモが二人をみて、言った。
「やらせてみれば良かろう。危険なら、止めれば良いだけじゃ」
「そう…ですね」
「安心しろシラヌイ!お前は俺とシェルムの息子だ!きっと偉大な大魔導師になれるぞ!」
「ブライ…落ち着いてください」
「そうだなぁ、まずは基本の属性魔法を、次は…中級の前に初級魔法の応用を…」
「落ち着けと行っているのです!」
シェルムがティーポッドから角砂糖を取りだしブライの額へ弾いた。
「へぎゅっ!?」
ブライは仰け反った勢いで椅子ごと後ろに倒れ……頭を打って気絶した。
「シラヌイ。今日は私の仕事場においでなさい」
シェルムは宮廷魔術師である。
と、なればその仕事場とは勿論王宮である。
「そうじゃの。儂も久々にアル坊に会いにいくかの」
シェルムとタマモが席を立ち、シラヌイを連れて退出する。
「お父様は?」
「放って置けば眼を醒ましますよ。ブライは熱くなるとああですから」
「しかし遅刻させる訳にもいくまい?」
「それもそうですね…クリエイト・アクア」
シェルムが倒れたブライに手を向けると、少量の水が精製され、ブライの顔に落ちた。
「うをぉぉぉぉ!?冷たっ!?」
ブライが飛び起き、テーブルに頭をぶつける音を聞きながら、シラヌイは食堂を後にした。