ONE PIECEを知らないエヴァンジェリン中将が原作を破壊するようです
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第1章 ネオオハラ・イン・ブリザード
第3話 CP9 オハラより愛をこめて
前書き
主人公は海賊絶対殺すウーマンです
ロジャーの処刑から2年。
大海賊時代は予想以上に隆盛した。
弱肉強食と言えば聞こえはいいが、要するに女子供が虐げられる世界に逆戻りしたのだ。
「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック、集え氷の精霊 槍もて迅雨となりて 敵を貫け "氷槍弾雨”!! 」
「ひいいいい、闇の福音がきたぞぁおおおお!!!」
「た、助けてくれぇ!」
命乞いをするくらいなら、海賊になんてなるな!
いつものように氷漬けにしてから、後の処理を部下に任せる。
『闇の福音』という二つ名を聞くと、いつも不思議な感じがする。
これは、原作のエヴァンジェリンの二つ名なのだが、別に私が名乗ったわけではない。
いつしか呼ばれるようになったのだ。まあ、二つ名というのは自称するものではないしな。
曰く、闇の時代、虐げられた弱者を救済する福音。
曰く、闇に囚われた罪人を裁き救済とする福音。
例えるならば、海賊からは "生きたなまはげ" 扱いで、市民からは "救世主" 扱いだ。
まあ、気に入ってはいる。
海軍本部に帰って一息つくが、気分は良くない。
救援先は既に略奪の最中で、一般市民に被害が出ていた。
当然真っ先に犠牲になるのは罪のない女子供だ。
被害を最小限に留められたとは思う。感謝もされた。
けれど、犠牲者を見るたびに昏い気持ちになる。
いますぐにでも海賊を根絶やしにしたい衝動に駆られるが、世界はあまりにも広く、私の手の届く範囲はあまりにも狭い。
一人の力には限界があると気づいてから、後進の育成にも力を注いだ。
おかげである程度戦力は強化できたと思うし、慕われて悪い気はしなかった。
『誇りある悪』というポリシーをもつ私への風当たりが弱くなったのは、思わぬことだったが。
「エヴァンジェリン中将! 海軍本部から 緊急連絡です!」
「緊急だと? カイドウの馬鹿が酔っ払って暴れだしでもしたのか? それとも、あのお菓子好きの太っちょが、糖分切れで癇癪でも起こしたか?」
この電伝虫というのは、カタツムリのような生物を使った電話だ。
電伝虫には、電波で仲間と交信する能力がある。
それを利用した人間が受話器やボタン等を取り付けて、特定の電伝虫と交信する事ができる様になったのだ。
多様な種が居て、この世界の電話やカメラ等の映像、拡声器のように音声関連の様々な機械の変わりになっている。
この世界は変なところで技術が進んでいる。
さて、誰からだろうと思うが――。
「それが……そのシルバーデン電伝虫による連絡だそうです」
「な!? 何だと! シルバー電伝虫とはな……」
これが意味することは――――バスターコール。
◆
「おい、これはどういうことだ?」
不機嫌そうな顔を隠しもせず目の前の少女が問い詰めてくる。
相変わらず元帥に対する態度ではないが、彼女の海軍への貢献を考えれば無下にはできない。
この少女こそ、多くの海兵達から英雄と称えられているガープ中将の戦友であり師である。
そして、新世界の海で名お馳せる海賊達もその存在を恐れる、女性海兵エヴァンジェリン中将その人である。
「オハラが『歴史の本文』を解読したらしいそうだ」
「……ッ馬鹿が」
悪態をつくエヴァンジェリンをみて、自分もため息をつく。
オハラという島は、考古学者が集う島だった。
歴史の研究も盛んで、空白の100年の『歴史の真実』にたどりついてもおかしくはない。
むろん隠していたのだろうが、CP9のスパンダインが嗅ぎつけたそうだ。
哀れだが、愚かだ。好奇心は猫をも殺すのだから。
「――――コング元帥、私もバスターコールに参加せよということだな」
「そうだ。クザンやサカズキを含めた最大戦力であたる」
「クザンがいるなら、私は必要ないんじゃないか?」
「実は、そのクザンが勝手な行動をしたようでな。オハラの方に行くとはいっていたそうだが」
「あのボウヤはまた勝手な行動をとったのか……」
エヴァンジェリンは、仕事モードへと変わった。
公私を区別しないようで、要所要所は締めてくれる。
クザンの勝手な行動のお影で、良い結果が出ることも多い。
有能な人間ほどクセが強いのは何故なんだろうな。その筆頭が目の前にいる。
「ならなおのこと私が赴くのは非合理だろう。あやつなら、あれで必要な時に必要な場所にいるはずだ。アラルコン中将の方が組み合わせとしてはよいだろう?」
「その言はもっともだだが、世界政府からのお達しだ」
「ははははは、私の忠誠心を試そうというわけか」
だが、世界政府からの指示と聞いて機嫌を悪くしたようだ。
まあ、無理もない。
『誇りある悪』を掲げる彼女は、世界政府から当然のように危険視されている。
海軍への多大なる貢献と天秤にかけて中将としての活動を許されているが、やはり両者とも思うところはあるのだろう。
真っ当な海兵でも嫌うバスターコールへの参加要請がその証明だ。
バスターコール。
それは、軍艦10隻と海軍本部中将5名が参加する殲滅作戦。
国家相手に殲滅戦争を仕掛けるようなものだ。文字通り、対象を殲滅することを目的としている。
オハラは地図から消滅することだろう。
人も家も土地も何もかもが無に帰る。
考古学者の暴走の結末として片づけるには、あまりにも陰惨すぎた。
とはえいえ、あくまでも "もし" 発動されればの話だ。
まだスパンダインは決定的な証拠をつかんでいるわけではない。
これまでバスターコールが要請されても実際に発動しなかったケースもある。
戦争というのは政治の延長であり、外交と戦争は複雑に絡み合っている。
とくに樹齢5000年ともいわれるオハラの全知の樹は、唯一無二の希少遺産である。
そのことは世界政府も重々承知している。
なにせ、五老星自ら通信により対話をしようというのだから。
「バスターコールに参加してやろう」
ほう、正直断られることも覚悟していたのだが。
「フン、今の世界政府がベストだとは思わん。だが、ベターではあるだろうよ。奴らはよくやっている。老人どもも骨を折るようだしな」
「その言葉、できれば五老星の前で言ってほしかったな」
「そこまでのサービスはできんな――エヴァンジェリン中将、任務を確かに拝命した。これより現場へと向おう」
「ああ、よろしく頼む。それと、実際に発動を指示するのはセンゴク大将になるだろう」
「……厄介ごとは新任の大将へ押し付けるか?」
「いや、彼を信頼しているからこそだよ。よい実績作りの機会でもある」
「その言葉、今は信じてやる」
最後に聞き忘れていた。
万一、オハラ全域にバスターコールが発動されてしまったら、どうする?
そう尋ねると、エヴァンジェリンは凄みのある雰囲気へと変えて吐き捨てた。
「愚問だな。そのときはオハラの馬鹿にはキツイお灸が必要だろうよ。"誇りある悪" と "世界の敵" ……勝つのはどちらだろうな?」
「女子供は殺さない、のではなかったのかね?」
「……」
沈黙する。踵を返しそのまま退出するかに思えたが、背中を向けつつもつぶやくように声をだした。
「この世界は、アニメじゃない。本当のことさ。嫌というほど思い知らされたよ。奇跡も、魔法もないんだよ。 それだけだ」
謎の言葉を残し、彼女は振り返らずに去っていった。
◆
海軍本部中将が座する大型艦が艦隊を組む。
マリンフォードを出発し、西の海へと向かう艦列は壮観だった。
緊張した様子で大勢の海兵が乗り込んでいる。
抱く胸中は様々だった。
ある者は正義に燃え、ある者は野望を秘め、ある者は諦観し、ある者は恐怖に震えた。
合計10隻もの戦艦が向かう先は――考古学の島、オハラ。
「本日天気晴朗なれども波高し、と言ったところか」
甲板に立ち気だるげにつぶやいたのを聞いた副官が尋ねる。
「上手いたとえですな」
「……聞かなかったことにしてくれ」
なぜか嫌そうな顔をして訂正した少女こそエヴァンジェリン中将だった。
嫌そうな顔をするのも無理はないか、と彼は思う。
バスターコール。
エヴァンジェリンと組んで経験の長い副官は、当然それを経験している。
正直気は進まない。
けれども、やれと言われればやるのが軍人だ。
それが敬愛する上司からの命令とあらば従うのが当然だった。
本部大佐という高級将校とはいえ、オハラの詳しい罪状は知らされていない。
表向きは、古代の大量破壊兵器の復活を阻止するためらしいが、それだけではあるまい。
なにせ、相手は考古学者なのだ。知ってはいけない何かを知ってしまったのだろう。
つまり、真実は闇の中ということだ。
しかし、エヴァンジェリンがバスターコールを必要と判断した。
理由はそれだけで十分だった。
「ケケケ、ビビッテルノカ」
「い、いえ、そういうわけではありません」
表情に出ていたのだろうか、可愛らしい少女の人形――チャチャゼロに指摘される。
チャチャゼロは悪魔の実の能力によって作られた意志を持った人形である。
その実力は高く、悔しいが接近戦なら自分でも勝てない。
それはさておき、不安そうな表情をするなど将校失格である。
上官が不安を表せば、部下の士気にかかわる。あってはならないことだ。
慌てて気を引き締めると、くすくすという笑い声が隣から聞こえた。
「エヴァンジェリン中将、申し訳――」
「ああ、すまん。笑って悪かった。謝る必要などない。歴戦のお前でも不安になる。私だってそうだ。だが、それが人間というものだろう?」
「はっ」
同意するように短く返事をする。
中将でも不安になると聞いてどこか安心した。
「せめて『誇りある悪』として葬ってやろうじゃないか。世界に弓を引いたのだ。その覚悟はあるのだろう」
「我々も全力を尽くします」
闇の福音としての顔を見せた中将をみて、本気を感じとった。
『誇りある悪』という言葉を使った以上、手抜きなど許されない。
自らが羽織るコートの背には『正義』の二文字が記されている。
バスターコールが正義なのかは、正直分からない。
ならば、悪として手を汚し、引導を渡す役目も必要だろう。それが自分たちというだけだ。
矛盾している。だが、彼にとってエヴァンジェリン中将の言うことがすべてであり、他は慮外であった。
だからこそ、自分が『誇りある悪』の一員であることに疑いはない。
正義と悪は相対的なもので、一方にとって正義でも他方にとって悪になりうるのだ。
それに救われた"家族" たちのためにも、自分たちは悪となる。
『絶対正義』に見捨てられた人々を『誇りある悪』は救ってきたのだ。
そして、『誇りある悪』とは、エヴァンジェリンと同義である。
ゆえに、副官の自分を含めてこの艦の全員が志を同じくしている。
細かいことは気にしない。エヴァンジェリンを信じてついていけばいい。ただそれだけ。
「オハラ領海を超えました! 旗艦より信号確認! 微速前進!」
「ヨーソロー!」
「よし、戦闘準備開始! まだバスターコールは発動していない、次いで別命あるまで待機!」
不敵な表情を浮かべた中将のもと、副官の自分が大声で命令を伝える。
それぞれの信念のもと戦いは始まろうとしていた。
◆◇◆
・CP9 オハラより愛をこめて
007 ロシアより愛をこめて。名作です。ジェームズ・ボンドの代わりにスパンダインが登場しました。
・リク・ラク・ラ・ラック・ライラック
始動キーと呼ばれる色々な詠唱の初めに共通する部分。人によって個性がでる。
原作と同じにしてある。ちなみに『ニクマン・ピザマン・フカヒレマン』が強烈に印象に残っています。
・集え氷の精霊 槍もて迅雨となりて 敵を貫け "氷槍弾雨”!!
多数の氷の槍を飛ばして攻撃できる。そこそこのザコ多数の相手に便利な中級魔法。
・闇の福音
ネギま!原作では魔法世界におけるおとぎ話に登場する恐怖の代名詞だった。なまはげ。
・なまはげ
秋田県の記号として用いられるほどの知名度を持つ。そもそもは男鹿半島周辺で行われてきた年中行事のことで、お面をつけ藁の衣装をまとった神の使いを指している。
恐ろしい姿をしたなまはげが「悪い子はいねがあ”あ”あ”あ”」といって子供を泣かせる光景が毎年見られる。
・バスターコール
海軍大将以上の4人がもつゴールデン電伝虫から発令される最終指令。
中将のもつシルバー電伝虫へと命令は下達され、速やかに現地へと向かい対象を殲滅せんとする。
原作では2回発動された。オハラは死ぬ。
・オハラ
西の海にある島で、麦わらの一味の考古学者ニコ・ロビンの故郷。
島の中央に "全知の樹" と呼ばれる巨大な木があり、その中に世界中の資料が集められた図書館があった。
世界中から多くの考古学者が島に集結し、この図書館の中でクローバー博士を中心に日々歴史の研究を行っている。
その研究の中には、世界政府により調査が禁じられている『空白の100年』や『歴史の本文』に関する研究も含まれていた。
学者達は政府にバレぬよう図書館の奥深くで研究を行っていたが、世界政府の諜報機関の目は欺けなかった。
・歴史の本文
空白の100年が記された碑文。アンタッチャブル。主人公も中将としてある程度の知識は与えられているが、すべてを知るわけではない。
・CP9のスパンダイン
原作キャラ。後述します。
・コング元帥
原作では詳しい描写はされていない。とりあえず、エヴァンジェリンよりも戦歴のながい伝説の海兵であることは間違いない。
主人公も、その能力を認めているが、不遜な態度は崩さなかった。エヴァンジェリンだしね。
コングは主流派に属し、エヴァンジェリンは非主流派に属している。しかし、そんな彼女をコングも認めている。
ちなみに、非主流派は昇進が遅いため、ゼファーとセンゴクは昇進速度がかなり違う。
・クザン
海軍本部中将。強力な悪魔の実の能力者。詳しくは後程。
・サカズキ
海軍本部中将。強力な悪魔の実の能力者。詳しくは後程。
・アラルコン
海軍本部中将。銀河を股にかけるオリジナルキャラです。出番の予定は特になし。
・五老星
世界政府を支配する5人の老人たち。だが、そのさらにうえには天竜人がいたりもする。
その実態は危うい世界の均衡を保つために努力する中間管理職、と主人公は認識している。
実は主人公のおかげで、原作よりも少しだけ丸くなっていた。
なので、オハラには交渉の余地がある。…………修正力さんがアップを始めたようです。
・アニメじゃない、本当のことさ
機動戦士ZZガンダムの主題歌に出てくるフレーズ。いやアニメだろ。と思ったのは私だけではないはず。
・奇跡も魔法もあるんだよ
魔法少女まどかマギカ屈指の名台詞。残念、さやかちゃんでした!の風潮にさやかファンは怒っていい。
・本日天気晴朗なれども波高し
記憶の片隅にあった日本海海戦の名言。
・副官
エヴァンジェリン中将の副官で海軍本部大佐の階級をもつ優秀な将校。
歴戦の士官であり、彼女の "誇りある悪" を誰よりも理解しているようでいない信奉者。ナイスミドルな狂信者である。
そんな彼ですらバスターコールは気が進まなかった。名前あり。
・大量破壊兵器
現実世界でもこれを口実に戦争をしかけた国があった。いやな事件だったね。
・エヴァンジェリン艦隊
エヴァンジェリンが指揮する海兵は彼女が手ずから育てた精鋭である。
とある理由により家族同然である。明らかに異色の部隊だが、成果を上げているために危険視されつつも一目置かれている。
エヴァンジェリンを極度に妄信している点が難点ではあるが、彼女は全く気付いていない。
ページ上へ戻る