前世の知識があるベル君が竜具で頑張る話
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しょっぴんぐ
「むぅ…」
ベルはむくれていた。
「ベル君。そんなにむくれてちゃ勿体無いよ?」
エイナがベルと『同じ目の高さで』話しかけた。
「ベル。具合わるいの?」
アイズの問いかけにベルは頭を振る。
「どうした?可愛い顔が台無しだぞベル」
「貴女が原因だよリヴェリアさん!」
「耳元でさけぶな…」
「おーろーせー!」
「落ちるぞ!おとなしくしろベル!」
ベルはリヴェリアの腕の中で暴れていたが、レベル差がもたらす力の差に諦めた。
ぶすぅっとしたベルの頬をエイナがつつく。
「もちもち~」
「つつかないで…」
ベルはリヴェリアとアイズに連れられ、まずギルドへ向かう事となった。
そしてギルドの前で待つこと数分、私服姿のエイナが合流した。
「それで?これからどこへ?」
「今からバベルに行くんだよ」
バベル?どうして?もしや…
「ダンジョン行っても?」
「良くないからな」
ですよねぇー…
「ベル君はバベルには何があるか知ってる?」
バベル…史実では神々の怒りに触れ雷によって破壊された巨搭。
だがこの世界では違う。
神々の怒りではなく好奇心に触れたのだ。
本来はダンジョンの『蓋』だった物を神々が面白半分に壊し、再建したのが今のバベルだ。
場所の性質上魔石の換金場や冒険者用のシャワールームや医務室が、成り立ちから神々の住居スペースがあるらしい。
「冒険者用のシャワールームとか神々の住居でしょ?」
「うん、正解。でもね、他にも色々あるんだよ」
「そうなんですか?」
「うん。バベルは大きいからね。空いたスペースをテナントとして貸し出しているんだよ」
「へぇ…なるほどギルドの財源の一つって事か…」
「そういう事」
オラリオでもトップを争う美女達が集まっているのを、オラリオの人々は遠巻きに見ていた。
なおこの時リヴェリアがベルを抱いているのを見て隠し子説が公然と囁かれたのは数日後の話である。
side in
バベルにつくと昇降盤に乗って階上へ向かう。
昇降盤…エレベーターだ。
名前もエレベーターらしい。
ようやくリヴェリアさんからおろして貰ったので、コンコンと昇降盤を靴で叩く。
「珍しいか?」
「っええ、そうですね」
「魔石を動力にしているんだ」
魔法式エレベーター…なるほど…あの世界とは違う方式だけど、同じ事を考える人はいるんだね…
チンッ と音がして、ドアが開いた。
「ここだよ」
目に入ったのは《ΗΦΑΙΣΤΟΣ》の文字。
「エイナさん。階層間違ってますよ?」
「いいのよ。ここで」
エイナさんが僕の手を取って歩き出す。
その後ろをリヴェリアさんとアイズさんがついてくる。
「いや!僕にはヘファイストスファミリアの武具は無理ですよぅ!
幾らするとおもってるんですかぁ!」
「だーいじょーぶ!」
売り場に着き、エイナさんが指差した値札は3000ヴァリス……………へ?
「やすい…?」
「ヘファイストスファミリアは末端や新入りの団員にも積極的に作品を作らせて安く売っているの」
ふぅん…
「それって儲かるんですか?」
後ろにいたリヴェリアさんが答えた。
「事実、ヘファイストスファミリアは製作系ファミリアでトップの業績を出しているぞ」
続けてアイズさんも答えてくれた。
「それに、作品を買った駆け出しの冒険者が、ランクアップしたあとも、その鍛冶師の作品を買うかもしれない」
確かに、この値段ならば、僕みたいな駆け出しでも手が出せる。
「つまり駆け出しの冒険者と鍛冶師が互いに高め合うためのシステムって事ですか」
「その通りだ。ベルは賢いな」
リヴェリアさんの手が僕の頭に乗る。
「あの…僕もう14なんですけど」
「そうだな。偉い偉い」
やっぱり子供扱いされてる…
「じゃぁベル君。別れて装備を探しましょう。
私達も選ぶけど、ベル君が気に入った武具があったら、遠慮しないで言ってね」
いや、遠慮とかその前にですね…
「リヴェリアさん。いい加減予算を教えてくださいよ」
僕は未だに今回幾ら使えるのかを聞かされていない。
というかあの日、僕が倒したモンスターの魔石を回収した時の総額も知らされていない。
「案ずるなベル。ここにある武具ならフルプレートメイルを一そろい買っても余裕なくらいはあるぞ」
「はぁ…そうですか…」
「足りなくなる事はないから安心しろ」
そうなんだ…
でも動きにくいだろうからフルプレートメイルは買わないだろうなぁ…
三人と別れて、僕は一通り売り場を見て回った。
鋼鉄でできたフルプレートメイル。
チェストアーマーだけの板金鎧。
エッチなビキニアーマー。
ブレードのついたメタルブーツ。
トンファーと融合した籠手。
蹴るとニードルが出てくるハイヒール。
真面目な作品と使えそうなギミックを仕込んだ作品とおふざけ感満載の作品。
ざっと分けるとこの三種類だ。
どれも使いようによっては役に立ちそうな装備だ。
だが、決め手がない。
ビビっと来る装備がないのだ。
そんな時、視界の端で何かが輝いた。
そちらを向くが、光源は無い。
「反射?」
少し動いてみると、チカッと光る物を見つけた。
それは銀色に光る物で、箱に押し込められている。
近づいてよく見ると、それはチェストアーマーだった。
同じ箱に、その一式と思われる武具が入っている。
要所にしか装甲のない、不完全な鎧。
でも、軽い。とても軽い。
僕が身に付けても、何ら問題の無い軽さだ。
値段は…9900ヴァリス。
さっきのフルプレートメイルより安い。
リヴェリアさんの口振りから考えて、予算に収まるはず。
「これにしよう」
「きめちゃった?」
後ろからアイズさんの声がした。
「アイズさん!僕この鎧にします!」
鎧の入った木箱を抱えて見せる。
「ハーフプレートアーマー?」
「動きやすそうなので!」
「ベルは軽装が好きなの?」
「重いと動けないじゃないですか」
「(かわいい……)」
さて、リヴェリアさんに報告しないと…
「アイズさん、リヴェリアさんはどこです?」
「呼んでくるから待ってて」
「いえ、自分でいきますよ」
「大丈夫だから、ね?」
アイズさんにわざわざ呼びにいかせるなんて…
「ベルは重い物持ってるんだから」
「重くないです!ちゃんと持てます!」
やっぱり子供扱いされてた!?
「呼んでくる」
「アイズさぁん! ………はぁ…」
結局アイズさんがスタスタと歩いて行った。
少ししてリヴェリアさんとエイナさんと一緒に戻ってきた。
「ベル、決めたのか?」
「はい」
箱を見せるとリヴェリアさんが頷いた。
「いいだろう。この店の中では良い方だ」
厳しいですねリヴェリアさん…
「どれ、鍛冶師の名は………………」
ん?どうしたのだろうか?
「ベル。その鎧はやめておけ」
リヴェリアさんが苦々しい顔で言った。
「どうしてですか?」
「その鍛冶師は、いい噂を聞かない」
その鍛冶師?リヴェリアさんの知ってる人?
鎧を見ると、ヴェルフ・クロッゾと名が彫られていた。
ヴェルフ・クロッゾ……クロッゾ?
何処かで聞いたような……いや、思い違いか。
「ヴェルフ・クロッゾ…悪人か何かですか?」
「悪人……かどうかはわからない。だがクロッゾという名は、あまりいいものではないんだ」
ふぅん…でもこの鎧が一番しっくりくるんだよね。
「でも僕これがいいんです。
罪人の子供には罪が無いのと等しく。
その鍛冶師が悪人でも、作品に罪は無いはずです」
それを聞いたリヴェリアさんは、笑いだした。
「くく…そうだな。確かに、お前の言うとおりだ。
『作品に罪は無い』か。至言だな。うむ。
覚えておくとしよう」
リヴェリアさんの両手が、僕の頬にふれた。
そして、瞳を細めて微笑んだ。
「ふふ…どうしてお前はこう……」
「ぅゆ?」
リヴェリアさんがぱっと手を放した。
「さて、ではそのハーフプレートアーマーを買うとするか」
カウンターへ行って、お会計だ。
お金はリヴェリアさんが持っているので僕は見ているだけだ。
「ベル君。まるでお母さんの買い物についてきた子供だね」
「言わないでください…」
気にしてるんだから…
「店主。この鎧を黄昏の館まで頼む」
「かしこまりました」
「へ?配送するんですか?」
「ああ。この後よる所があるからな」
また豊穣の女主人だろうか?
side out
「やだぼくおうちかえるー!」
「あっくそっ!暴れるなベル!」
「僕にも男としての尊厳ってヤツがですねぇ!」
バベルから出た四人は、服屋…ブティックへ来ていた。
無論、ベルの服を買うためだ。
だが店を見たとたんにベルが抵抗しはじめた。
明らかに女性向けの店だったからだ。
「ベル。お前服二着しか持ってなかったなだろ」
「二着あれば十分ですよぉ!」
「だめだ!ロキファミリアの一員として身だしなみはしっかりしてもらわねば困る!」
一方アイズは不思議そうに、エイナは面白そうにそれを見ていた。
「アドバイザー。どうしてベルは嫌がってるの?」
「えー? 照れてるだけですよ」
「違うからね!?」
しかし抵抗虚しくベルはブティックに連れ込まれ、着せ替え人形にされてしまった。
試着室内で多少ドタバタしていたが、数分してリヴェリアが出てきた。
そしてシャッとカーテンを開け…
「お持ち帰りしたい…」
「うむ。想像以上だ」
「………かわいい」
試着室の中のベルは、ワンピースを着ていた。
無駄な装飾の無いシンプルな黒いワンピースだ。
丈は膝まであり、肩と首元が露出している。
その夜天のような黒が、ベルの純白の長髪を引き立てる。
黒と白のコントラストが、幼さの他に、艶かしい雰囲気を醸し出す。
その上で、羞じらうようなベルの所作が、庇護欲と母性をくすぐる。
「よし。買おう」
「ちょっリヴェリアさん!?」
「私が出すから安心しろ」
「できるわけないでしょ!」
そしてリヴェリアがもう一着…今度はふりっふりの白いワンピースを持ち出した。
「次はこれだ」
そこでフッとベルの目からハイライトが消えた。
「はは…そうですか…いいですよ…着ますよ」
ベルがリヴェリアの手からワンピースをひったくってカーテンを閉めた。
ベルの着替えを待つ三人だったが、途中でアイズがあるものをとって来た。
「アイズ…いい趣味をしているな…」
「いやぁ…流石にどうかと思いますよヴァレンシュタイン氏」
そこでカーテンが開け放たれた。
白。一言で言い表すならばその一言に尽きるだろう。
レースとフリルをあしらった白いワンピースを纏う白髪の美幼女。
背中に純白の翼があったならば、誰もが天上の住人かと思っただろう。
そして若干諦めたような、悟ったような紅い目がそそる。
三人が無意識の内に唾をのむ。
「どうされました皆さん。僕の女装が下らなすぎて言葉も出ませんかそうですか」
やけっぱちのベルが自虐的なセリフを吐く。
その生意気な感じが更に三人を虜にするのだが、ベルは全く気付いていない。
「ね、ねぇ、ベル」
「なんですかアイズさん」
アイズがベルにある服を差し出す。
「へぇ…アイズさぁん?これを僕に着せるんですかぁ?」
「う、うん…だめ?」
「いえいえ。構いませんよ他でもないアイズさんの頼みですからー(棒)」
アイズから服を受け取ったベルがボソッと呟いた。
「好き者…」
言葉の意味はわからずとも、そこに込められた感情を察したアイズは、崩れ落ちた。
リヴェリアがその肩を叩く。
「大丈夫だ。ベルがお前を嫌うはずあるまい」
「ほんとう?」
「保証しよう」
なんとかアイズを立ち直らせたとき、試着室のカーテンが開いた。
ベルが、スカートの裾をつまみ、一礼した。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
白いヘッドドレス。
黒い修道服の上から着用された白のエプロン。
そう、メイド服。メイド服である。
それもミニスカではなく、丈が長く露出の少ないヴィクトリアンメイドだ。
三人はぽーっと見とれていた。
己をじっと見つめる視線に対し、ベルは…
「いい御趣味をお持ちで」
side in
メイド服やらゴスロリやらを着せられた後、黄昏の館に帰って来た。
何故かメイド服のままで。
しかも間の悪い事に、門の前にロキが立っていた。
「おっほぉ!ベル!そんカッコどないしたん!?」
「うげ…ロキ…」
絶対いじられる…
「メイド服やぁー!かわええなぁ!
ええなぁ!ベルのメイド服!
ナイスやリヴェリア!褒めてつかわすでぇ!」
「ファミリアの経費で落としていいだろうか」
「ええよ!ゆるす!」
いや、ゆるしちゃダメでしょ…
「リヴェリア!今度は主神たるこのロキも連れて行きぃや!」
「いいだろう」
「良くないですよぉ…」
するとリヴェリアさんが僕とアイズさんの頭に手を置いた。
「ちなみにこのメイド服だが、選んだのはアイズだ」
ロキが驚いたような顔を見せた。
「ええ傾向や。やっぱり、正解やったな…」
正解…? 何が? この格好?
「ベル。これからもアイズをたのむで」
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