リング
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135部分:ヴァルハラの玉座その十六
ヴァルハラの玉座その十六
「帝国軍は?」
「あと一日の距離です」
「そうか、あと一日か」
ジークフリートはその報告を聞いて頷いた。
「我々の艦隊はどうだ?」
「まず第二、第五艦隊は明日到着です」
「うむ」
部下の報告を聞いて満足そうに頷く。
「第五艦隊が二時間早く到着するものと思われます」
「二時間か」
「はい、それから半日程遅れて第三、第四艦隊が戦場に到着です」
「彼等は同時にだな」
「そうです。これに対して帝国軍は三個艦隊がまとめてこちらに到着します。全ての艦隊をハーゲン提督が指揮しております」
「その数は?」
「およそ百五十」
部下は報告を続けた。
「今の我等の三倍です」
「よし、わかった」
ジークフリートはそこまで聞いてまた頷いた。
「ではまずは我々が向かう」
「我々だけですか!?」
「そうだが。それがどうかしたか?」
「首領」
部下達は強張った声でジークフリートに対して言う。
「御言葉ですが敵軍は我等の三倍です」
「しかもハーゲン提督は」
ハーゲンは実は名の知られた人物である。第四帝国の頃は叩き上げの人物として知られ、下級貴族出身ながら武勲を挙げ続け士官学校を出ただけの一介の少尉から艦隊司令にまでなった男である。貴族の中でもかなり厳密な階級が存在するこのノルン銀河においてこれは稀有なことであったのだ。それだけハーゲンが優れた人物だということである。
「それもわかっている」
だがジークフリートは臆することなくこう返した。
「敵の戦力もハーゲン提督のこともな」
「では何故」
「それだからこそだ」
「それだからこそ!?」
「そうだ」
彼は言う。
「敵の艦隊のこともハーゲン提督のこともわかっている」
「どういうことでしょうか、それは」
「どちらにしろ向かわれるのですね」
「向かうことを変えるつもりはない」
それだけは変わらなかった。
「だが。その理由はすぐにわかる」
「すぐに」
「それは一体」
「このまま敵艦隊に向かう」
ジークフリートは部下に答えるより前にそう指示を出した。
「場所は第七惑星前だ。よいな」
「は、はい」
部下達には彼の真意はわからなかった。だがそれに頷くしかなかった。止むを得なく敬礼をして応える。
この時彼は自身の艦隊の位置を隠さなかった。あえてハーゲン達に教えているかの様であった。このことも部下達を戸惑わせるのであった。
そして次の日。第七惑星の前でジークフリートはハーゲンが直接率いる三個艦隊と対峙していた。
「やはりな」
ジークフリートは自身の艦隊の正面に展開する敵軍を見てまずは不敵な笑みを浮かべた。
「敵軍は前方に集結している」
「一気に我々を押し潰すつもりの様です」
「だろうな。私がここにいるのはわかっているからな」
それはわざわざ自分で知らせている。
「私の首を取り。一気に終わらせるつもりだな」
「どうやらその様ですね」
「面白い。だが果たしてそれが可能かな」
不敵な笑みがさらに強くなる。
「私の首。そうそうやすくはないぞ」
「ここで戦われるのですね」
「そうだ」
その言葉には迷いがない。
「このまま前に進む。よいな」
「前へ!?」
「三倍の敵を相手にですか!?」
「そうだ。それがどうした?」
「御言葉ですがそれは流石に無謀では?」
「そうです。他の四個艦隊もこちらに向かっております。ここは守りを固められた方が」
「案ずることはない。我が軍は勝つ」
しかしジークフリートはそれに取り合おうとはしない。前進を命じるだけだ。
「確実にな。もう一度言うぞ」
彼の考えは変わることはなかった。
「全艦突撃だ。よいな」
「はい」
「心配するな。敵は動けぬ」
「動けないですと!?」
「それもすぐにわかる。では行くぞ」
その言葉を受けてワルキューレは前に進む。そして正面からハーゲン率いる帝国軍に向かった。
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