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艦隊これくしょん~男艦娘 木曾~

作者:V・B
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番外編~『最強』の覚悟~

 
前書き
どうも、エイプリルフールの存在を完全に忘れてました。一瞬、単語の意味すら出てこないレベルで。 

 

 
 
―食堂―
 

 
「いやー、一度話してみたいとずっと思ってたんですよ!」
 
と、横須賀の木曾…………めんどくさいから、三号としとこう。三号はオレが奢ったオレンジジュースを片手に実に嬉しそうに話していた。
 
どうやら、こいつらはもうしばらくここで休んでから帰るらしい。
 
……なんというか、今までオレが見てきた『木曾』とはだいぶかけ離れた性格をしているなと思った。
 
「そりゃどうも。オレも聞きたいことがあるしな。」
 
オレは改めて目の前の三号をまじまじと見た。
 
…………なんというか、でかい。
 
何がとは言わないけれども。
 
…………じゃなくて。
 
「お前…………『改二』なんだろ?」
 
オレはさっそく話の本題に入った。
 
「はいっ!つい一ヶ月前になったばかりでして、まだ上手く制御できないところがすこしあって…………えへへ…………。」
 
照れたように頬を掻く三号。くそう、なんだこの妹感。頭撫でてやりたくなる。
 
「ふぅん、練度は?」
 
「六十七です。早く木曾さんに追い付きたいと思ってまして…………。」
 
いや、横須賀で練度六十七ってかなり強いぞそれ。
 
「まぁ、オレもまだまだ強くなれるんだってことが分かったんだ。感謝してるぜ?」
 
オレは三号に向かってニヤリと笑った。
 
「でも…………正直、かなり大変ですよ?何てったって、軽巡洋艦から重雷装巡洋艦に艦種が変わるのが本当に大変で…………。」
 
「マジか。」
 
雷巡に変わるってことは、火力が大幅に上がるってことだ。オレにピッタリじゃないか。
 
となると…………。
 
「なあ、一個聞いていいか?」
 
「はい?」
 
「なんでオレまだ軽巡なの?」
 
「知りませんよ…………。」
 
なんで提督はオレに改二への改造をしてないんだ?三号が言うには、一ヶ月前にはできるようになってたらしい。
 
準備期間にしても、一ヶ月は長すぎる。いくらうちの鎮守府が嫌われてるとしてもだ。
 
「オレ、提督に嫌われてんのかなぁ…………。」
 
いやまぁ、心当たりは有りまくるしな…………。こないだ、提督が明石さんに胃薬頼んでたの見たときは、本当に申し訳なくなった(因みに大淀さんも頼んでた)。
 
「…………大丈夫ですよ!うちの提督と比べて、ここの艦娘の皆さんは待遇が良さそうですし…………。」
 
三号はそう言うと、小さくため息をついた。若干、遠い目をしていた。
 
「ん、そうなのか?」
 
オレは少し意表を突かれた。ほら、首都近いじゃん横須賀って(意味不明ですねby青葉)。
 
「ええ…………うちの鎮守府って、こんな感じの食堂で働く人が居なくて、自分達で作ったりとか。外出が二ヶ月に一回とか。」
 
「確かに、うちは隙あらば飲み会開くしなぁ…………。」
 
ほら、オレ達は決して大日本帝国海軍ではない。だから、そんなに厳しくしなくてもいいだろうってのがうちの提督の意見だ。
 
でも、そんなのは少数意見だ。大半の鎮守府は厳しい規律があったりする。中には艦娘を道具のように扱う鎮守府すらある。
 
「でも、どんなに規律が厳しくても、弱くっちゃ意味ないですけどね。」
 
三号は自虐するように笑った。
 
「弱くなんかないだろ。」
 
オレはすぐさま否定した。演習を少し見ただけだが、こいつの強さは中々のモンだ。恐らく純粋な勝負なら千尋より強いだろう。
 
「弱いですよ。少なくとも木曾さんよりは。」
 
三号は吐き捨てるように言った。
 
「もっと強くならなきゃいけないんですよ。」
 
…………なんかデジャブだな。
 
周りから見たら、オレもこんな感じなのだろうか。
 
「…………なんでそんなに強くなりたいんだ?」
 
オレは敢えて、聞いてみた。
 
なんか、自分に聞いてる気がした。
 

 
 
 
 
 
 
 
 
「そんなの…………一つに決まってるじゃないですか!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
―執務室―
 
 
 
「うーい、提督居るかー?」
 
オレはノックもなしに執務室に入った。中では、提督が事務作業をしていた。大淀さんは席を外していた。
 
「ん、珍しいね。どうしたの?」
 
提督は机の方を見たまま返事をした。なんか、敢えてオレを見ないようにしている感じがある。
 
「いやぁ、今日な?『横須賀の木曾』と会ってな。」
 
オレの言葉に、ため息をつく提督。
 
「やっぱり…………それだよなぁ…………。」
 
どうやら予想してたらしい。なら話は早い。
 
「なんでオレを改二にしない?返答によってはどうなるか分かってんな?」
 
オレの様子を見て、提督はペンを置いた。
 
心なしか、いつもより元気がなかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「…………君は、人間で居たくないのか?」
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
「あ?」
 
全く予想してなかった答えに、思わず気の抜けた声を出してしまった。
 
人間で居たくないのかだぁ?
 
…………意味が分からん。
 
「…………どーゆーことか知らねぇけど、強くなる事ができるのにそれをしねぇってのは、組織の頭としてどうなんだ?」
 
提督は何かを言いかけたが、一回口を閉じると、大きく深呼吸をした。
 
「いいかい…………君たちは一人一人、改二に対しての『適正』がある。」
 
提督は、ボソボソと話し始めた。改二についての説明らしい。
 
「夕立や時雨…………うちの鎮守府の既に改二になっている娘達は、全員改二への適正が無い娘達だ。」
 
……………………はい?
 
オレ思わず聞き間違えたかと思ってしまった。適正が無いのに改二?
 
「適正が無いのに改二になると、ただ単に強くなる。それだけだ。」
 
「いや、十分だろ?」
 
オレは思わず口出ししてしまったが、提督は構わず続けた。
 
「逆に、適正のある娘が改二になると、強くなるだけじゃ済まない。」
 
提督はそこまで言うと、さらに大きく息を吸った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「簡単に言えば…………『始祖』と同じような感じになる。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「!!」
 
思わず息を飲んだ。
 
『始祖』と同じになる…………つまり…………。
 
「人外になるってことだよ。そうなったら、本当の意味で元の日常には戻れないかも知れない。」
 
……………………成る程。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「つまり、オレは改二の適正があるってことだな?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
コクリと、提督は頷いた。
 
成る程、優しい提督だから万が一でもオレ達が死ぬかもしれないことは可能な限り避けたいってことか。
 
だから、オレに改二への改造をさせなかったのか…………。
 
オレは軽く息を吸った。
 
……………………多分、アイツも同じ台詞を言うだろうな。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「だからどうした。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
提督は目を見開いた。オレは構わず続ける。
 
「人外だぁ?将来死ぬかも知れないだぁ?知ったこっちゃないね。そんなことを気にするより、ちょっとでも強くなる方が――」
 
「なんでだっ!!」
 
提督はオレの言葉に被せるように叫んだ。その圧倒的な迫力に言葉を無くすオレ。
 
「なんでだっ!なんでそんなに強くなりたいんだ!?いいか?君は天才だ!間違いなく天才だ!『始祖』だぁ?『呉の英雄』だぁ?んなもん、足元にも及ばないような存在なんだよ君は!!亮太さんが提督をしていたときから!今まで見てきた中で!君は紛れもない、最高の存在なんだよ!!」
 
「なのに!なんでまだ!強くなりたいと思うんだ!!もう良いじゃないか!周りが強くなるのを待てば良いじゃないか!長門や金剛達が強くなるまで待てば良いじゃないか!五年、十年と待てば良いじゃないか!ここにいる全員が強くなれば、レ級にも勝てるさ!なのに…………なんでだよ……………………なんでなんだよぉっ!!」
 
…………オレは、幸せ者だ。
 
こんなに良い上司をもって。
 
大切に思ってくれる人がいて。
 
でも。
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「五年後だとさ…………誰か、死ぬかも知れないじゃねぇか。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
オレも、皆を大切に思ってるんだ。
 
皆を…………守りたい。
 
できる限り早く、この戦いを終わらせたい。
 
それは、恐らく艦娘になった奴が、一度は思ったことがあるはずのこと。
 
でも、あまりに長い戦争の中で、皆それを忘れていた。オレもその中の一人だ。
 
…………千尋が、プリンツが、三号が、思い出させてくれた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「オレは、この戦いを終わらせるために強くなりたいんだ!そのためならこの命、幾らでも掛けてやろうじゃあねぇか!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
―屋上―
 
 

 
「よぉ、千尋!元気してるか?」
 
『おう…………と言いたいけど、どうにもまだ皆が心を開いてくれないんだよなぁ…………。』
 
その後、提督はオレに、明日の夜に改二への改造をすることを言い渡した。
 
どうやら提督の中で、心境の変化があったらしい。
 
ありがたかったし、申し訳なかった。
 
オレはその足で屋上にやって来ると、バスケットボールをドリブルしながら千尋に電話をしていた。
 
久しぶりに聞く千尋の声は、若干疲れているような印象を受けた。
 
「まぁ、お前は男だからなぁ。余計にだろ。」
 
『かなぁ。ま、心は開けなくても、胃袋は掴めたけどな!』
 
…………こいつにしろ夕立にしろ春雨にしろ、出撃できてんのか?
 
前に春雨と話したときなんか、「今日は若葉ちゃんがやっと外を歩くようになったんですよ!」とか言う感じだったし。
 
…………不安だ。
 
「そうか。なぁ、千尋。」
 
『ん?どうした?』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「オレはこの戦いを終わらせるために、オレにできる全てをやって強くなる。だからお前も、自分にできることを精一杯やってくれ。」 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
オレは、将来オレの唯一無二の戦友にして相棒になる男に向けて…………いや、自分にも向けてそう宣言した。
 
『人間』である内に、どうしても千尋にそう伝えたかった。
 
『…………そうか。今度会うときまで、楽しみにしてるよ。』
 
「おう。それじゃあな。」
 
オレはそう言うと、電話を終らせた。
 
スマホをポケットのなかに戻すと、オレはバスケットボールをゴールに向かって投げた。
 
ボールは、リングに触れることなく、吸い込まれるようにゴールに入った。
 
 
 
 

 
―翌日―
 
 
 
 
 
「さてと、こっちは準備できてるよ!」
 
明石さんは、オレが一回目の改造を受けたときに使っ酸素カプセルのようなものの前でうで組をしていた。隣には、提督と大淀さんもいた。
 
「うん、それじゃあ、さっそくやってもらおうか。木曾。この中に入ってくれ。」
 
提督はそう言うと、クルリと後ろを向いた。このカプセルの中に入るときは、必ず裸にならなきゃいけないからだらろう。んなこと気にしねぇって言ってんのに…………まぁ、いいや。
 
「おう。」
 
オレはそう言うと、自分の来ていた服をポイポイと投げ捨てていった。
 
最後に眼帯を外すと、完全に生まれたままの姿になった。
 
オレはそうなると、カプセルの中に入り、寝転んだ。
 
「さてと、これから少しの間眠ってもらうからね。起きたとき、あなたはすっかり改二に生まれ変わってるわ。」
 
明石さんの説明に頷くオレ。最早、後悔も躊躇もない。
 
「それじゃあ…………行ってらっしゃい。」
 
提督は後ろを向いたまま、そう言った。
 
「おう。おやすみなさい。」
 
オレがそう言うと、カプセルの蓋がまった。すると、前の改造の時と同じように眠気に襲われ、オレはそれに逆らうことなく目を閉じた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
夢を見た。
 
 
  
 

 
後書き
読んでくれてありがとうございます。次の話で番外編は終了の予定です。予想より長くなったぜ。本編の方はしっかり書けそうだからいいけどさ。

それでは、また次回。 
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