相談役毒蛙の日常
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二十三日目
前書き
今回のテーマ「男子高校生」。
「えーと…シャー芯とボールペンとカッターナイフと…」
今日は水泳部も休みで、暇なので、街をぶらつく。
ふと文具店が目にはいったので、筆記用具を補充し、ついでにボールペンマスケットの材料を買っておく。
「あれ?相談役?」
ん?
名前…というか役職を呼ばれて振り返ると、線が細く、女顔で、身長が低くて、何とも無害そうな男がいた。
いや、まぁ、キリ…ケ谷和人なんだけどね。
「和人じゃん。どしたの?」
「いや、家がこの近くでさ。散歩してたら相談役を見かけてね」
「ふーん」
和人のホームはこの辺りなのか…
「なぁ、相談役」
「なんだ?」
「今から家来る?」
「は?」
「いやー、知り合いを家に呼ぶとかなかったからさー」
「ボッチなのかお前?」
「ぼぼぼボッチじゃねーし!彼女いるし!」
「彼女って…じゃぁ俺以外に、リアルで同性の知り合いって居るのか?」
「………………」
「お前の知り合いってオッサンか女の子しか居ないな」
「言うなよ…」
「ケッ…このハーレム野郎が」
「はぁ?」
「お姫様だろ、リーファだろ、姉御、シリカちゃん、ユイちゃん…」
「待て、ユイは娘だ」
「成る程、ならリーファと姉御とシリカちゃんは攻略対象か」
「ギャルゲー風に言うな。リーファは妹。
リズとシリカは友達だ」
「お前わかってて言ってるだろ?」
「……………」
「……………」
「いや、何て言うか…『つり橋効果』ってあるじゃん?」
「姉御やシリカちゃんの恋心は偽りだと?」
「そうじゃない…けどさ。
何て言うか、弱みにつけこんだような気がしてさ」
「弱みねぇ…女子ってぇのは弱ってる時に助けてくれる存在…白馬の王子様に憧れるんじゃねぇの?」
「そういうものか?」
「さぁな」
「いや、そっちから言っといてそれかよ」
「『愛が「愛は重すぎる」って理解を拒み、憎しみに変わってく前に』」
「え?」
「いや、何でもない」
「いきなり意味ありげなこと言ったら気になるだろ?」
「いや、本当にどうだっていいんだよ」
とゆー訳で和人の家に来た。
ふむ…
「あー…あー…んっんっ…
『ここがあの女のハウスね』」
「おいばかやめろ。
てか声真似上手!?」
「冗談はさておき、デカいな。
サザエさんの家くらいはありそうだ」
「サザエさんの家よりは大きいぞ。
道場あるし」
「道場?」
「俺のお祖父さんが作ったんだ」
「へぇ…一本やってみる?
型とかそういうの抜きでさ」
「リアルじゃぁ、ちょっと勝てる気がしないなぁ…」
「あっそ」
和人が玄関のドアに手をかけ…る前に。
「相談役」
「なんだ?」
「できるだけ静かに入れよ」
「何故に?」
「親に見つかったら面倒だから」
「そんなに厳しい親なのか?
なら呼ぶなという話になるが…
まぁ、ボッチの和人君の為だ。
頑張って静かに入ろうじゃないか」
「そういう事じゃぁないんだけど…
まぁ、それでいいや」
ガチャ…とドアが空き、なるべく音を発てないよう、家に入る。
そうして和人がそーっとドアを閉めようとした時。
「あら、和人帰ったの…ね?」
「はぁー…」
「?」
廊下の奥の部屋から、若い女性がでてきた。
「えっとぉ…和人のお友達?」
さて、なんて答えるか…
まぁ、当たり障りなく。
「はい」
するとその女性は嬉しそうに笑った。
「ついに和人にもリアルの友達が出来たのね…!」
マジか。
さっきのは比喩とかじゃなくて本当に家に友人を呼んだことなかったのか。
このバカはいったいどんな小中学校生活を送って来たのやら…
「ほら和人、早く部屋に案内しなさい。
ジュースとお菓子は持っていってあげるから、ね?」
テンション低めの和人に連れられ、和人の自室へ向かった。
「お前ってお姫様連れてきたりしてないの?」
「アスナはこの前退院したばっかりだぞ」
「あぁ、成る程」
フローリングの床にドカッと座る。
キリトもその正面に胡座をかく。
「なぁ、相談役」
「なんだよキリト?」
「その大量のボールペンって何?」
キリトの視線は俺が文具店で購入した袋に固定されていた。
「んー…まぁ、ちょっとした工作をね」
「何作るんだ?」
「ボールペンマスケット」
「は?」
ボールペンを一つ取り出す。
「このタイプのボールペンって少し弄ったら銃になるんだぜ」
「おまえはなにをいっているんだ?」
「あー…お前は知らんだろうなぁ…
友達居なさそうだし」
ボールペンを分解し、取り出したカッターナイフで先端から数センチの所を切り落とす。
本体にノッカー、バネ、軸受けの順に入れて、さっき切った物を組み合わせる。
そして先端からペン軸を入れ、カチッとなるまで押し込み、ペン軸をひっくり返す。
それをキリトへ向けて…
「ばぁん!」
ノッカーを押すと、ペン軸が飛び出した。
あぁ、もちろんペン先とは逆方向が前になるよう装填した。
「うわっあぶな!?」
「わかった?」
するとキリトはペン軸を拾い上げ…
「作り方教えてくれ!」
めっちゃキラキラした目で言った。
うん…なんだ…その…
「子供かお前は…」
そこで、キリトのお母さんが入ってきた。
「邪魔するわよ」
「どーぞー…」
彼女はポップコーンの入った皿とコーラの入ったコップを乗せた盆を持っていた。
「改めてこんにちは。私は桐ケ谷翠。
和人の母よ」
「明日葉灯俊です」
「うん。宜しくね灯俊君」
「宜しくお願いします?」
翠さんは盆を俺達の間に置き、自身も座った。
「それで…灯俊君と和人はどこで知り合ったの?」
さて、どう答えるべきか。
ネトゲ仲間ですというのはあまり印象が…
「ALOで知り合ったんだ」
ヲイ!?
「成る程成る程…」
すると翠さんは俺をじっと見た。
フワッとした雰囲気のまま、眼光だけが鋭い。
キリトの親だと、実感した。
「相談役のことは信用していいよ。
アスナを助けた時に協力してくれたのも相談役だし」
「うん。うん…灯俊君」
「は、はい」
「和人のこと、お願いね。
この子友達いな…少ないから」
「母さん、そこまで言ったなら言い切っていいじゃん」
いや、突っ込むのはそこじゃないだろキリト。
「え、いや、いいんですか翠さん?
俺が本当は悪人だったらマズイでしょ」
「いいのよ!和人がお友達を家に呼ぶのなんて初めてですもの!」
あー…成る程。
キリトの顔を見ると、決まりが悪そうに目をそらした。
「それに本当に悪人だったらそんな事は言わないわ」
そりゃそーだ。
「じゃぁ、私はここで退散させて貰うわ」
翠さんはスッと立ち上がり部屋から出て行った。
「あぁ…面倒だ…。今晩絶対色々聞かれる…」
親に見つかったら面倒ってのはこう言う事か…
「お前親に心配されるとか真性のボッチじゃねぇか」
「うっさい…」
「まぁまぁ、そんなボッチの和人君の為に俺がボールペンマスケットの作り方を教えて上げようじゃないか」
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