レーヴァティン
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第四十四話 琵琶湖その五
「だからでありますな」
「そうだ、銭もあるしな」
その通りだとだ、英雄は智にも答えた。ここで峰夫は二杯目を頼んだ。今度は普通の素麺を頼んでいた。
「それならだ」
「一度に二人、三人も」
「してみるか、こうしたことも楽しみという、そしてだ」
「そして?」
「色も人生の学問をいう」
こうしたこともというのだ。
「ならな」
「余計にでござるか」
「そうしてみるか」
「それはまた豪でござるな」
智は英雄の話を聞いてこうも言った。
「一度に二人三人とは」
「豪か」
「はい、色豪でござる」
この場合の業とはこうなるというのだ。
「そうでござるな」
「色豪か、ならだ」
「実際にでござるか」
「俺は色豪になってみるか」
このことに興味を覚えてだ、英雄は言った。峰夫以外の面々もここで二杯目に素麺の方を頼んだ。そのうえでそちらも食べはじめた。
「いっそな」
「色も知りその豪になり」
「そこから学ぶか」
人生、それをだ。
「そうするか」
「色もまた人生の学問でござるか」
「そうも聞くしな」
「そうしたことを言う人はいますね」
仏門にいてそうした話とは縁があってはならない謙二も言ってきた。
「拙僧もそうした方にお会いしています」
「そうなのか」
「はい、あちらの世界で」
「そうか、ならな」
「楽しまれてきますか」
「そうしようか、しかしな」
ここでこうも言った英雄だった。
「だが溺れるとな」
「はい、そうなってしまってはです」
「本末転倒だな」
「確かに色から多くのことが学べるでしょうが」
「しかしだな」
「溺れてしまいますと」
「他のことでもだな」
英雄もこのことはわかっていた、色だけでなく他のことでも楽しむのではなく溺れてしまってはということが。
「溺れると駄目だな」
「それではそれに飲まれてです」
「破滅にも至るな」
「人は溺れると下手をすれば死にます」
実際に溺れるとだ。
「そうなってしまいます、そして色も然りで」
「溺れるととだな」
「破滅することも有り得ます」
「酒や博打と同じだな」
「はい、楽しむのならいいですが」
「溺れると駄目だな」
「そこはお気をつけを」
こう英雄に注意するのだった。
「溺れると非常にです」
「危ないな」
「そうなりますので、しかし貴方はもうわかっておられる様で」
「親戚で酒に溺れた馬鹿がいる」
英雄は声だけを怒らせて言った。
「酒ばかり飲んで家族に暴力を振るう馬鹿がな」
「そうですか」
「よくある話だな、仕事から帰ると毎晩浴びる様に飲んでだ」
「ご家族に暴力を振るいますか」
「他人に絡んで愚痴ばかり言ってな」
「悪い飲み方ですね」
「肝硬変抱えてまだ飲んでいる」
英雄は声だけを怒らせて語る、その間も素麺は食べている。鯖から出ているだしも鯖自体も実に美味い。
ページ上へ戻る