笑顔の戦士と絶望に抗う戦士
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6話
「学校…ですか?」
「そうだよ!悟飯君。いや、悟飯!」
突然のことに頭に疑問符を浮かべる悟飯に対し、満面の笑みで答える男性の名は星空博司、星空家の大黒柱であり、みゆきの父親で育代の夫だ。
悟飯の居候の話しがまとまり、悟飯の食欲に育代とみゆきが呆然としているのを見て、次からは食べる量を減らそう、と悟飯が心の中で誓っているとき、父親である博司が仕事から帰宅して来たのである。
育代とみゆきは、帰宅した博司に悟飯のことを説明。
博司は悟飯の滞在を快く了承してくれた。
具体的にはこんな感じである。
「いいよ!いいよ!大歓迎だよ!」
「うれしそうね、あなた」
「そりゃあそうだよ、育代。だって男の子だよ!男の子!」
「?男の子だと、そんなに嬉しいの?お父さん」
いつも笑っている印象がある父だが、いつになくハイテンションな様子にみゆきは首をかしげる。
「嬉しいとも!憧れていたんだ。息子と釣り、息子とキャッチボール、息子と男同士の会話!よっしゃぁぁああああ!」
「……ハハッ」
「……ふ〜ん。そうなんだ」
みゆきにはよく分からなかったが、お父さんがハッピーそうだから良いか、と納得することにした……悟飯は乾いた笑いを浮かべていたが。
すると、みゆきのその態度に何を勘違いしたのか、博司は慌ててみゆきに弁明を始める。
「いや、みゆき!違うんだよ!?別にみゆきに不満があるわけじゃ無いんだ!みゆきの事もお父さんは大好きだよ!」
「え?う、うん」
みゆきは、そんな父の様子に若干引いていた。
「ふふ、悟飯君。部屋はみゆきの隣が空いてるから、そっちを使ってね」
「はい、何から何まで有難うございます。育代さん、博司さん」
住まわせてもらうだけでは無く、部屋まで用意してくれると言う2人に対して、悟飯は深々と頭を下げた。
「ふふ、良いのよ。気にしないで、これから一緒に住むんですもの。部屋を用意するのは当然よ」
「そうだぞ、悟飯君。これからは家族なんだから。お義父さんって呼んでもいいぞ、何ならパパでも良いぞ」
「あら、良いわね。なら、私のことはママって呼んでね」
「ハ、ハハハ……遠慮しときます」
「「え〜」」
悟飯は丁重にお断りすることにした。
2人は不服そうだったが、流石にこの歳でパパ、ママ呼びは恥ずかしいものがある。
「はあ……今じゃあ、みゆきも呼んでくれないし」
「そうね、これが子供の成長というものなのかしらね」
「「……はあ」」
「「…………」」
いや、無理だからね?
悟飯はそう思っていたが、みゆきは違ったらしく、頬を若干赤くし、体をソワソワさせながらも2人の顔を見て笑顔で言った。
「……パ、パパ、ママ」
余程恥ずかしかったのか、言った後は下を向いて顔を手で覆い、顔の熱をはらうかの様に首を横に振っている。
「「みゆき〜〜」」
「きゃあ!」
そんな娘の姿が可愛らしかったからか、余程パパ、ママと呼ばれたのが嬉しかったのか、あるいはその両方か。
2人は満面の笑みで娘の元へ駆け出し、左右から抱きしめ、頰ずりを始めた。
その光景を見て、悟飯は思った。
これが世に言う、親バカと言うものか、と
「さて、それじゃあ、話の続きだけど…」
博司と育代は、みゆきを頰ずりした後、何事もなかったかの様にテーブルに着き、話を進める……2人の肌が先程よりもツヤツヤしているのは気がするが。
「悟飯君はみゆきの隣の部屋を使う。生活用品や着替えとかは明日買いに行こう」
「そうね。悟飯君、明日は私と買い物に行きましょう?…………ご飯も買い足さないといけないし(ボソッ)」
「あっ!はいは〜い!わたしも、わたしも行きたい!」
「僕も!僕も!」
「みゆきは学校があるし、あなたも明日は仕事でしょ?」
買い物に行くと聞いて、みゆきは元気よく手を上げ、一緒に行くと言っていたが、育代の一言で学校がある事を思い出し、不満そうに「はっぷっぷー」と言いながら引き下がった。
博司は考え込んでいたが、やがて天啓が降りてきたかの様にハッと表情になり、少し興奮気味に言い放った。
「そうだ!!仕事をやす「あ・な・た?」イエ、ナンデモアリマセン、ハイ」
しかし、その言葉は、僅かに怒気を含んだ育代の言葉によって遮られ、博司は顔を青くして引き下がった。
星空家の上下関係が露わになった瞬間ある。
「そういえば、悟飯君は前はどこの学校に通っていたんだい?」
みゆきの学校の事を思い出し、復活した博司は、ふと気になった事を口にした。
「いえ、俺は学校に通った事はありませんよ」
「「「え?」」」
悟飯の予想外の答えに3人は固まった。
「えっと、それじゃあ勉強は、今までどうしていたのかしら?悟飯君?」
「はあ、ずっと自己学習と通信教育で勉強してましたけど……」
「「「………」」」
何をそんな驚いているのか?と言わんばかりに首をかしげる悟飯。
そして、固まる3人。
悟飯の住むパオズ山は、遥か山奥にある為、学校は当然無く、都にある学校は自宅から数百キロ程離れている。
武空術や筋斗雲で移動すればすぐに着くが、チチはそこまでして学校に行く気は無く、悟飯も自分のペースで勉強する方が良かった……その勉強量は普通に考えれば、尋常ではない量なのだが、戦いを好まず、学者になる夢を持っていた悟飯にとっては、あまり苦にならなかった。
それでも、やはり遊びたい時はある為、そうした時は悟空が悟飯を連れ出し、釣りや組手などをして過ごしていた。
人造人間達が現れてからは、修行漬けで勉強には全く手を付けていないが、そもそも9歳の時点で、こちらの世界の高校卒業レベルまで達していたので、問題ないと言えば問題ない……学力的にはだが
悟飯が学校に行ったことが無いと聞いて、博司の出した答えはこうである。
「よし!学校に行こう!」
そして、冒頭に戻る。
「…学校、ですか」
「そうだよ!悟飯君!いや、悟飯!」
「悟飯君も学校に通うの!?やったー!」
「そうね、学校には行った方がいいわよ。きっと、お友達もたくさん出来るわ」
「友達……」
「勉強も大切だけどね。それ以上に、友達を作る為に学校に行って欲しいな」
学生時代の友人というのは、一生の友になる人もいるからね、と博司は言う。
学校とは社会の縮図だ。
先輩がいて、後輩がいて、同学年の子、先生、色々な人間とコミュニケーションを取ることにより、人間関係や社会生活の勉強をすることが出来る。
それは社会に出る為に必要な事だ。
中には意地悪な人間もいるし、やりたく無い事もやらなければいけない時もある。
だけど、それが全てでは無く、良い人間もいて楽しい事や嬉しいこともあるという事を、学校という集団生活から学んで欲しいそれは『生きる力』になるのだから。
「いえ、でも……お金が」
学校に行くには相応のお金がかかる。
当然、悟飯はそんな大金を持っているわけも無く、そもそも自分たちの世界のお金が、この世界で使えるかも分からない。
しかし、そんな心配も博司は笑い飛ばす。
「ハハハ!心配しなくても、こう見えて結構稼いでいるから大丈夫だよ!」
「いえ、そこまでしてもらうのは……」
住まわせてもらう上、部屋まで用意し、生活の面倒をみてもらい、その上、学校にまで通わせてもらうなど、流石に図々しいにも程があると思い、断ろうとするが
「気にしなくて良いわよ、悟飯君。博司さんが身を粉にして働いてくれるから」
子供が大人に遠慮するものじゃ無いわ、と言って引く様子はない。
さらに……
「………」
キラキラした目でこちらを見つめてくるみゆき対して、悟飯は折れた。
「……申し訳有りませんが、宜しくお願いします」
悟飯は再度、深々と頭を下げた。
「うん!任せておきなさい!」
「良かったわね、みゆき。暫くしたら一緒に学校に通えるわよ」
「うん!宜しくね。悟飯君!」
「ああ、宜しくな。みゆき」
こちらに向けて笑顔を浮かべる3人に、悟飯も同様に笑みを浮かべ、自分が出来うる限りこの家族の力になろう、と誓ったのだった。
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