ユキアンのネタ倉庫
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Knight's & Magic & Carrier 4
鼻歌交じりに楽曲術式の紋章をオレの専用機の武装に刻んでいく。
「トール、本当にこれを再現するんですか?」
「魔力効率は悪いけど、出来るんだからやっておかないとな。専用機と言いつつ、実験機でもある。それより、新型艦の方はどうなってる?」
「本体の稼働試験も既に終了。全機構問題なしです。今は後ろに引っ張る工房の作成中です」
「順調で何よりだ。手が空いてるなら休暇でいいぞ。たまには親孝行してこい。あと、嬢ちゃんの機嫌もとっとけ」
「そういうトールこそ親孝行しないで良いんですか?」
「義父には専用の装備を送ってある。ちょくちょく手紙も送ってるしな。あと、一応独り立ちしてるからな」
「そうですか。あっ、それと合成触媒、僕の斑鳩の方にも使わせてもらいました。あれは良いものですね。安定度がぐっと増しました」
「安定度では鉱石の方が上だからな。まあ、出力は通常の1.5倍で限界だな。アレ以上は生命の詩を弄る必要があるから難しい」
「トールでも無理ですか」
「アレンジ曲やカバー曲が必ずしも評価されるわけじゃないからな。クラシック曲に歌詞を付けてみろ、批評だらけになるぞ」
「そういうものですか」
「一から組み立てたほうが楽だろうな。結構きついがな。ベートーヴェンの運命以上の名曲を作れと言われているのに等しいぞ」
「ああ、無理ですね、それは」
「そういうことだ。アニソン位しか作曲できないわぁ〜。コテコテの昭和アニソンしか無理だわぁ〜。耳コピ程度なら余裕だけど」
遊びで作ったギターでオレの前世で一番新しかったガンダムのOPを弾く。
「くっ、僕も見たかった!!」
エルが落ち込む中、適当にメカ物の曲を弾き流しながら休憩に入る。
「エルはダブルオーまでだったっけ?ダブルオーはその後も映画化したし、ガンプラのアニメも地上波で放送されたし、この鉄血のオルフェンズなんて内容もぶっ飛んでてすごかったぞ」
「ガンプラのアニメも大分気になりますけど、すごい名前ですね、鉄血のオルフェンズ」
「ガンダム史上、最も装甲が硬いからな。ビームは長時間照射して熱でパイロットを焼き殺すしか無いから廃れた。正規軍ですら格闘戦にチョッパーを装備してるからな。硬いもので殴ってパイロットを圧死させるんだよ。その中で出てきたのがダインスレイブだ。他にはメイスにレンチにペンチなんかも作中で使われたな」
「男らしいというか、普通にヒートソードでよかったのでは?」
「エンジンが周囲の電子機器を破壊してしまうために実用されなかったんじゃないかな?そんなことより殴れって感じで。レンチは完全に工具だったんだが、刀は使いにくいからってコンテナに入ってたのを使い始めた結果だな」
「ガンレオンとは別経緯ですか」
「アレも続編で大分暴れたぞ。それより、そろそろ国王機を新造しないとまずい気がするんだが」
「今の所は依頼が来てませんからね。アンブロシウス元陛下に色々実験中と言ってある所為でしょう。技術が固まってから国王機を新造する形になると思います」
「まあ、そうなるか。実戦で使えない欠陥機だと困るものな。それにしても楽曲術式を使っても空中機動は厳しいな」
「それでも多少はましになりましたけどね」
「何時になったら完全な空中機動が出来るんだかな。斑鳩みたいな強引な機動も悪くはないんだが」
「ああ、報告が遅れましたが実体弾ライフル開発の目処が立ちました。これで継戦能力と補給の効率化が可能になります」
「でかした。とは言えコストと火薬式ライフルの扱いに慣れさせるのがな」
「試作品はツールボックスで扱うことになると思います。その為に右腕をいじってますからね」
「了解だ。そっちは任せるよ」
「若旦那、グルンガストの調子はどうですか」
商会という設定でその若旦那役であるエムリス殿下に確認を取る。
「うむ、やはり開発元で調整を行うのが一番だな。反応が全然違う」
持ち込まれたグルンガストだが、最適化もされずに生産時と同じ状態のまま、シートの位置などの調整しか行われていなかった。それらを最適化し、完全な専用機として仕上げる。
「そいつは良かった。若旦那に合わせて細かい調整を入れてありますんで。それから、新造した剣の方はどうでした?」
「斬艦刀だったか?アレはデカ過ぎて使いにくかったが、この獅子王刀は良いな。オレ用の分も作ってくれ」
やはり常人には斬艦刀は扱いにくい物だったか。
「最初からありますよ、本来はこっちでの訓練が先なんです。生身で扱えるようになってから幻晶騎士で再現する。そういう武器なんですよ」
人間大の獅子王刀を取り出して若旦那に手渡して、その重さに取り落とす。
「なんだあの重さは!?」
「幻晶騎士に合わせるとあの重さです。それを使って示現流という流派の剣を扱えて初めて真の威力を発揮できるんですよ」
「ジゲン?聞いたことのない流派だな」
「他国の近衛兵の実力を持った一般兵がごろごろいる戦闘民族が扱う剣ですよ。二の太刀いらず、一撃で相手を葬りさるのを主眼においた剣です。多少の手ほどきしか出来ませんが、それでもよろしければご教授させていただきます」
「頼むと言いたい所だが、後回しで良い。機体の方はこれで万全なのか?」
「いえ、実験機や製造中の機体が他にもありますので、万全ではありません。無論、定員割れは起こしておりませんが」
「普通は定員以上の幻晶騎士が配備されている方がおかしいんだよ」
「いや〜、スレイプニールに使っていた魔力転換炉が丸々余ったおかげで好き勝手出来てしまいましてね。中隊長達は専用機以外に実験機も割り振られてなお実験機が余ってるのが現状です。オレなんて実験機を3機も割り振られてますから」
まだ4基も魔力転換炉が余っている。うち2基はオレの実験機のテストが終了次第使用することが決定しているので2基余っているのが正確だろう。
『若旦那、及び商隊長は至急艦橋まで上がって下さい。先行していた丁稚からの報告です!!』
「若旦那!!」
「おう、急ぐぞ!!」
「ダーヴィド、緊急展開部隊の準備とグルンガストを2頭引きの荷車に乗せておけ!!」
エムリス殿下と共に連絡通路を通って艦橋へと向かう。艦橋には既にエルも到着していた。
「状況!!」
「目標が敵に補足されたそうです。今からならなんとか間に合うはずです」
「すぐに向かうぞ!!」
エムリス殿下が艦橋から飛び出していくので、指示を飛ばす。本来ならエムリス殿下が出さなければならないのだけどな。
「総員戦闘配備!!ムスペル、及びヴィンゴールヴは最大戦速で現場に急行する!!また、緊急展開部隊とイカルガ、グルンガストとそれを引くツェンドリンブルを2機先行させる!!ゴードン、艦の方は任せるぞ!!」
「任されました」
揺れに対する適性が低すぎたために騎操士になれなかったゴードンに艦を預け、連絡通路を通って再びヴィンゴールヴの格納庫に向かう。ムスペルとヴィンゴールヴは分かりやすく言えば、マクロス7とシティ7のような関係の2隻運用が前提の艦だ。元のモチーフと異なるのは、シティ7であるヴィンゴールヴのサイズと、ヴィンゴールヴの中の殆どが格納庫兼工房と言うところだろう。
「準備が出来た奴から出せ!!それからツールボックスに試作ライフルを持たせるから持って来い!!」
操縦席に飛び込みながら指示を出して試作の火薬式ライフルを持ってこさせて右手に保持する。準備ができた所でツールボックスがメンテベッドごとエレベーターでカタパルトまで持ち上げられる。その途中でダーヴィドから通信が入る。
『トール、イーサックの奴がぶるって落ちやがった』
「回収してやれ。ソーラはどうだ」
『思い切りがよくねぇ。目前で着地することになるだろうな』
「要練習だな。オレがなんとかする。ソーラには落ち着いて、機体を壊さないように伝えろ。ツールボックス、出るぞ!!」
カタパルトに押し出されて、緊急展開滑走翼のマギスラスタジェットを全開にして空を駆ける。途中でソーラのカルディトーレを追い抜き、馬車を取り囲んでいる3機の背面武装がある幻晶騎士を照準に捉えて発砲する。
幻晶騎士の標準装備であるカルバリンを超える速度で撃ち出された弾丸が馬車に一番近い幻晶騎士の頭を吹き飛ばす。混乱している内に馬車に当たらないようにだけ注意して、荒い照準でライフルを連射する。連射とは言え、マガジン内には8発しか入らないため、それだけでは仕留めきることが出来ずに1機が残り、それを左手にメイスを握らせて着地しながらランドスピナーで滑りながら振り抜いて操縦席を叩き潰す。
「まだ馬車から出るな!!」
メイスをマウントし直し、ライフルのマガジンを交換する。これで残り8発だが、エルのイカルガが少し手前に着地したのが見えた以上、こいつを使うことはないだろう。更に2機のツェンドリンブルとそれが引いている荷車に乗ったグルンガストが到着する。
「叔母上、無事か!!」
「その声、まさかと思うがエムリスなのかい!?」
若旦那が護衛対象と話している間に簡易点検を行う。思っていた以上にライフルの反動が強かったが、右腕に不具合は見受けられない。だが、通常のままだったら壊れていただろう。威力は十二分にあるから、弾倉の大型化を目指す形でいいだろう。
「なんでグルンガストが!?」
聞いたことのない女性の声がグルンガストの名前を言い当てながら実在していることに驚いている声に反応して幻晶騎士のカメラを向ける。
「わお、一国の姫さんが同類か。蝶よ花よと育てられていると聞いていたが、芯が強い姫さんだ。何より、これからの話が速く済む」
拡声器のスイッチを入れて同類に挨拶をする。
「グルンガストはお気に召しましたでしょうか?我ら銀凰商会は色々な物を取り揃えております。今のオススメは安全と戦力、ついでにそこそこ快適な寝床と食事、シャワーもオマケしますよ」
それだけで向こうもこちらに気づいたのだろう。意味深な笑顔をこちらに向けてくる。
「ツケで全部頼みます。それからグルンガストを1機調達していただけますか?」
「生憎と若旦那と大旦那の専用機でして。他にも色々と取り揃えていますので、そちらからでどうでしょう。もしくは、時間を頂くことになります」
「ちなみにオススメは?」
「個人の趣味が入りまくったウォーカー・ギャリアなんてどうでしょう?男の子なんでいざという時にやってくれますよ」
「結構です。勇者は居ますか」
訪ね方が胴に入っているな。無論、勇者はいるけど調整は完璧ではない。とはいえ魔力消費量が多いのと、その先への調整が済んでいないだけで通常運用は問題ない。よし、売ろう。
「居ますよ、とっておきの輝煌勇者がね」
「ゆくゆくは勇者が国王となるでしょうが、構いませんね?」
「無論ですとも。バージョンアップには時間がかかりますが、この戦時中には完成させますよ」
「楽しみにしています」
姫様と若旦那の叔母達をヴィンゴールヴへと案内し、今はオレとエルと姫様だけで一応用意していた貴賓室にいる。
「改めて自己紹介をいたしましょう。私はエレオノーラ・ミランダ・クシェペルカ。王位継承権第1位となってしまいました。ですが、今のクシェペルカのレスヴァントでは敵の黒騎士には勝てません。更に言えば、飛行空母も厄介です。どうにかする手はありますか?」
「銀凰騎士団団長のエルネスティ・エチェバルリアです。最終的に戦況をひっくり返すことは可能です。ですが、それまでにかかる時間と被害、国力の低下なんかを抑えるには強権が必要になってきます」
「銀凰騎士団副団長トルティオネス・グラエンドです。姫様が即位され、ある程度の戦力をまとめた上で一度押し返せば戦況は一気にひっくり返せます。最悪、我ら銀凰騎士団を使って電撃戦を行えばすぐにでも。しかし、それでは」
「売国奴と罵られますか」
「なのでフェルナンド大公領に到着次第、こちらから技術供与いたしますので、時間の許す限りレスヴァントを改良します。そのための資材と機材は用意してありますし、銀凰騎士団を使って北方、南方にも技術供与を致します。さらに遅滞戦術も取ります」
「それで勝てますか」
「こちらには戦闘が可能な特機が4機ありますし、敵の技術のオリジナルは我々の物です。それを数年がかりで再現したのに対し、こちらは更に突き進んでいます。問題は敵の数です。戦争はある程度の質と数で決まるんです」
「数だけなのでは?」
「竹槍で戦車を倒せるわけ無いでしょう?まあ、こっちの世界だとやれないこともないですけど」
「それもそうね。報酬は全部ツケになるけど、大丈夫かしら」
「我々が撃破した残骸から魔力転換炉を頂けるなら販売は友好国価格で利益率1割でツケは幾らでも無担保で年利は6分までいきましょう」
「飛行空母の技術も取れたなら売って頂けるかしら」
「売りましょう」
「契約成立ね。書面なんかは後でまとめさせましょう。と言うわけで、堅い話はここまで。私以外にも同類がいて本当に助かったわ。王族っていうのは不自由と同義語に近いから、ストレスが酷くて。猫を被った所為で箱入り娘に育てられちゃって暇に殺されそうだったわ。それでも、今回の件は効いたわ」
「「お悔やみ申し上げます」」
「ええ、ありがとう。でも落ち込んでばかりもいられないわ。クシェペルカは何としても復興させるし、ジャロウデクは、特にクリストバルは私の手で殺す!!お父様達の敵でもあるけど、それ以上にあんな変な髪型の男に貞操を奪われてたまるものですか!!」
ああ、そう言えば女性だとそっちの危険があったか。男でもそっちの趣味のやつに襲われる危険があるから忘れていた。
「ちなみに変な髪型って?」
「なんと言って良いのかしら?こうコロネパンを頭に乗せているというか、こう悪徳系のデブの髪の量が少ない奴がしているような髪型が一番近いかしら。サイドは剃り上げてるわ」
想像してみて確かに変な髪型が出来上がった。
「確かに変な髪型ですね」
「伝統的なものだったら亡命するぐらいには変な髪型だな」
ゆっくりとティータイムに移ろうとしたところでサイレンが鳴り響く。
『後方上空に艦が浮かんでいます!!』
「エル、お前は控えて騎士団を出せ!!何としてでも鹵獲するぞ!!」
「トールはどうするんですか」
「艦の指揮を執る!!」
「私も指揮を見させてもらっても?」
「時間が勿体無いので許可します。失礼!!」
エレオノーラ様を横抱きにして貴賓室から飛び出す。艦橋前でエレオノーラ様を降ろしてから艦橋に入る。
「状況報告」
「間もなく視認距離に入るそうです」
「何としてでも鹵獲する。逃げられても困るから指揮はオレが取る。全艦戦闘態勢、第1第2中隊出撃用意。特機は待機させろ。ガンタンク部隊も立ち上げろ、対空警戒。目的は敵の鹵獲だ。空を飛ぶ船はエルとイカルガが鹵獲する。敵幻晶騎士は破壊して構わん。残骸で十分だ」
「敵を捉えました。モニターに写します」
モニターに映し出された敵の飛行空母は、本当に帆船を空に浮かべたようなデザインをしていた。大砲の代わりに投石機を装備し、艦首には幻晶騎士の上半身が生えている。エルに通信を繋ぎ情報を伝える。
「艦首に付いている幻晶騎士が本体だろうな。後部に推進機関があるはずだ。ライフルと爆雷を持っていけ。銃装剣は威力が高すぎる」
『了解です。出来るだけ原型を留めて鹵獲しますね』
「浮かしている部分さえ残っていれば構わん。対空防御!!防御態勢!!」
エルに指示を出している途中で敵の投石機が起動するのを確認してガンタンク部隊への迎撃指示と皮膚強化の術式を強化させる。投石機から放たれた礫の殆どは機銃代わりのガンタンク部隊が撃ち落とし、残りの破片の様な物は強化した装甲で弾き、被害は出ない。
投石機で攻撃してきた飛行空母はそのままムスペルを追い越し、ある程度離れた所で反転しながら船底を開放して、そこから重装甲の幻晶騎士を6機、鎖で吊るして着陸させる。
「なるほど。中々考えてる。今までの常識を覆す運用だが、残念だったな」
ヴィンゴールヴから飛び出したイカルガがライフルを連射して飛行空母の艦首に添えつけられていた幻晶騎士を撃ち抜き、そのまま牽引用のワイヤーを持ってマギスラスタジェットで飛行空母に取り付いた。さらに重装甲とは言え6機ではヴィンゴールヴから飛び出していく新型魔力転換炉を搭載し、個々人に合わせてカスタマイズされた20機のカルディトーレとその近接仕様のカラングゥールを相手に生き延びることは不可能だろう。母艦から落とすのは基本中の基本であり、そして戦争は数だ。拡声器のスイッチを入れて一応の降伏勧告を行う。
「あ〜、前方に布陣する黒騎士に告ぐ。貴様らに勝機はない。幻晶騎士と飛行空母を放棄すれば諸君達の身の安全を保証し、捕虜にもせずに開放しよう。我々は大陸最大最強の商会だ。捕虜に食わす無駄飯はない。抵抗するようなら適当にボコった上で身ぐるみを全部剥ぐぞ。30、いや40秒待ってやる」
返答は6機の内4機が飛び出し、エドガーとディーの二人に瞬殺される。1機だけは粘っていたようだが、パワー不足で負けている。全身に剣を装備していたのだが、それらが逆に行動を阻害していたな。鞘ごと装備するのではなく、各装甲に剣を埋め込むようにして全身を剣に見立てたほうが強いだろう。
「レスヴァントが相手にもならなかった黒騎士を瞬殺とは素晴らしいですね」
「技術を盗まれてから数年の間に更に新技術が増えましたからね。特に魔力転換炉の性能が50%増ですから。それを全てパワーに振った結果です。さすがにこの技術は売れませんよ」
「残念ですね」
「残りの2機は降伏するようですね。生きてこの情報を届けなくてはならないでしょうから」
「軍人として立派ですね。逃がすので?」
「逃しますよ。ジャロウデクには誰を敵に回したのか、はっきりと教えなくてはならないのでね。後ろが騒がしい状態では開拓も儘ならない。世界の父を復興したいのなら復興させてやるさ。ただし、ジャロウデクの血はいらない。クシェペルカが筆頭なら最良といったところですかね」
「あらあら、中々欲深いのですね。なんなら王配に付きますか?」
「残念。病気で不能なんでね。何より平民の出なので不可能でしょう。それに体を壊すまでは現場で働きたい」
「振られてしまいましたね。気が合うと思いましたのに。病気では仕方ありませんし、出自も件もありましたか。面倒ですね」
「いやなら男が選び放題になるだけの強権を取りに行くしかありませんな」
「そんなことのために勇者を使いたいとは思いません」
「逆です。勇者を使っていれば強権はオマケで付いてくる。それだけの自信作ですよ。いずれは私の専用機にしようと思っていたのですが」
「あら、それは悪いことをしましたね」
「その分、色を付けて買い上げて頂ければいいですよ。また新しいのを作ればいい」
ダーヴィドに指示を出し、普通の馬車に水と食料を積ませる。それを幻晶甲冑でヴィーンゴールヴから降ろす。
「降伏を受け入れよう。船の人員を下ろすためのロープぐらいはくれてやる。それと水と食料もだ。幻晶騎士から離れろ。船の奴らも余計なことはするなよ。死にたいならやるといい。代わりにオレ達の情報は本隊に一切届かないことになるがな」
交渉はそこで終わり、船からも人員が全員降りたと宣言したので幻晶甲冑を纏った制圧部隊を送り込む。拘束したそれらを突き落とさせ、地面に赤い染みができる。それらを無視して飛行空母を牽引しながらフェルナンド大公領を目指す。
意外なことに黒騎士から新技術が発掘された。テレスターレを正確に模倣して重量機として仕上げただけだと思っていたのだが、こいつは儲けものだな。ほうほう、リミッター解除みたいな物か。魔力転換炉にダメージを入れてでも緊急時には使えるか。合理的だな。魔力転換炉を1基潰してでもデータを取るか。調整してやれば魔力転換炉を消耗させずに魔力生成効率が上げられる。それにしてもよく考えたものだな。オレとエルのように魔力転換炉を好きなだけ潰せる環境ではないというのに。
いや、侵略した相手から奪えば良いのか。そうすればこちら側を全て統一すれば最終的には余るようになると考えたか。馬鹿は馬鹿なりに考えたようだが、それはタコが自分の足を食う行為だぞ。ジャロウデクは人類にとっての害悪になる存在だったか。容赦をする必要はなくなったな。
そして航空母艦の方の解析だが、色々なことが判明している。
「ほうほう、エーテルが高密度になると浮揚力場が発生するのか。それを調整して高度を調整し、魔導兵装で風を起こしてそれを帆に受けて推力を得ているのか。まさかエーテルにそんな性質があるとは思わなかったな。これを複数積んで船体をすっぽりと浮揚力場で包めば良いのか」
「意外と簡単ですね。高密度のエーテルの生成のための元素供給機もありますし、コピーもそこまで問題ないでしょうから、あとは限界実験だけ行えば問題なしですね」
「出来れば緊急展開滑空翼に仕込みたいな。ツールボックスが完全にランスロット・エアキャバルリーみたいになってるから、この際そっちの方に持っていくわ。ランドスピナーの代わりにキャタピラ装備だけどな」
「三次元機動は出来ないですからそれでいいと思いますよ」
「それが終わったらグリッターパーツにも仕込まないと。楽曲術式も新しいのを積まないといけないし。ああ、その前に座席調整と操縦のレクチャーもしないと。やることが多い、影分身の術とか出来ないかな」
「僕もイカルガに搭載したいですが、拡張性がないので外部パーツを組み込む形になるでしょう。となると新造することになって、設計からしないといけないですから。う〜ん、この戦争中は無理そうですね。後発組として安定性が高い技術を突っ込むことにしましょう。今でもイカルガは十分に強いですから」
「けっ、こっちはまた専用機として組んでたファルセイバーを売り払う羽目になったってのに。次は何を作るかな。ゴエモンインパクトでも作るか?」
「微妙に作るのが難しそうなのをチョイスしますね」
「まあ、さすがに見た目だけで限界だろうがな。だが本当に何を作ろうか」
「とりあえず今ある技術の習熟が先では?それからでも遅くはないでしょう?」
「そうするしかないか」
エーテルの濃度を下げて高度を落としてからエルと二人でロープを伝ってヴィンゴールヴに戻る。
「ダーヴィド、ファルセイバーの操縦席を複座に変更するぞ!!」
「なんだって急に複座に変更するんだ」
「飛空船の技術は大まかに分かった。グリッターパーツにその技術を組み込む。副騎操士にそれを扱わせる」
「はぁ!?そんな無茶苦茶なことをするのかよ!!」
「それほど無茶でもないだろう。ツェンドルブと同じだ」
「だが、クシェペルカの国王機になるんだろう?」
「ファルセイバーではただの特機だ。グリッターパーツを装備したグリッターファルセイバーが国王機となる。新技術に特殊技術もふんだんに乗せまくる。王女殿下の許可も取ってある。おっと、その王女殿下は?」
「若旦那の叔母上とその娘が王女様を止めようとしてるんだがな。蝶よ花よと育てられてたんじゃなかったのかよ?若旦那でも止めれそうにない。と言うか、若旦那よりも騎士が似合ってるんだが」
「若旦那はどっちかと言えば山賊とかの方が似合ってるからな」
「誰が山賊のほうが似合ってるだって?」
いつの間にかボロボロの若旦那がやってきていた。どうやら王女殿下に負けたのだろう。
「若旦那、鏡を見て言って下さいよ。王女殿下と若旦那、どっちが騎士かと問われると王女殿下一択ですよ」
「……まあ、そうなるか」
「それで、説得はできなかったんでしょう?クシェペルカの新型国王機ファルセイバーは現在調整中です。現在でも通常戦闘でグルンガストに少し劣る程度の戦闘力はあります。なのでツールボックスで新技術の実証をしてどんどんバージョンアップさせます。最終的には国王機に相応しい性能にはなるかと」
「お前、そんなものを作ってどうするつもりだ?」
「これ以上、背中を気にして前に進めないなんて言う状況は勘弁してもらいたいので。西側で筆頭になってもらいます。王女殿下もそれを望んでおられる」
「それがオレ達に向けられたらどうする」
「通常の騎士団に配備されているカルディトーレと銀凰騎士団で運用しているカルディトーレは別物ですよ。常に先を走り続ける。それには後ろを追ってくる者が複数必要なんですよ。あの飛空船を作った者のように、別の道を爆走するのでも良い。競争することで技術は発展していくんですから。幻晶騎士の発展が遅かったのは、それが原因です。今は、オレとエルが同じようで別の道を走ってお互いを刺激しあっているから速いんですよ。でも、いつかそれに慣れるかもしれない。それを避けるために友好国に刺激が貰いたいんですよ」
「仲の良い親子であろうと時には殺し合いになるが」
「その時は存分に殺し合いましょう。遺恨を残さないぐらいド派手に」
「まあ、私が王位に就いている間はそんなことはさせませんが」
ドレスから騎士服へと着替えたエレオノーラがやってきて話に加わる。
「手合わせ、願えるかしら」
「どれ位で?」
「ある程度本気で」
「ダーヴィド、離れてろ」
傍にあった幻晶甲冑用の大型スパナを生身で構える。勝負は一瞬で着いた。エレオノーラの剣をスパナの口で受けて、そのまま巻き込んで叩き折る。
「物作りの達人は物を壊す達人でもありましたか」
「そういうことです。実戦ならまだ戦えるでしょうけど、手合わせならここまでです」
「ですね。技量がずば抜けているのも分かりました」
「一応、騎士の端くれですから」
忘れがちになっているが、これでも学園では勉学も実戦も主席だったのだ。エルと同じで生活態度が原因で主席にはなれなかったがな。
「さてと、とりあえずファルセイバーの方で相談があるのですが」
「どうかしましたか?」
「機能拡張後に一人では操作が覚束ないと思われるので複座型に改造します。そのパートナーと座席の調整を行いたいのです」
「操縦系統はどのようになりますか?」
「基本的に主騎操士は従来と変わりません。副騎操士に飛行と火器管制の大半を任せるといった形になると思います」
「これからの事を考えると副騎操士はイサドラに頼むしかないですね。ただ、合わせられるかしら?」
「出来るだけ簡易に操作できるようにします。あとは、慣れとしか。一人で操縦しようとするとレバーは3倍、計器類は4倍になりますけど。しかも細かい操作が必要になります」
「イサドラに任せましょう。魔力を何処に送るかなどを操作するのでしょう。それを戦闘を熟しながらはさすがに辛いものがあります」
「でしょうね。複座にするのはこれで確定ですが、席はどのように配置しましょうか?」
「どのよう、ああ、なるほど。後ろ、いえ、前下方でお願いします」
「分かりました。そのように仕上げます。ダーヴィド、聞いてのとおりだ」
「いや、聞いてのとおりと言われてもだな、どうやれば良いんだよ?」
「操縦席を広めにとって、今あるシートを後ろの高い位置に付けなおして、別のシートを前の低い所に付けろ。前の席には後から計器類やレバーを増設するってことを念頭に置いておけ」
「おう、了解した」
「では、操縦席の改造が済み次第座席調整をいたしますのでご協力を」
「エドガーとディーは北、特機勢が南を目指す。必要な物は全部こちらで用意しておいた。そのリスト以外で何か欲しい物はあるか?」
クシェペルカ再興のためにエレオノーラ殿下が陛下になることを決意され、そのためにジャロウデク侵攻軍をどうにかする必要があるのだが、予想よりも北方領と南方領が押されている。いや、保っている方か。それでも少しまずい状態にまで押されているために一当てして戦力を削る必要が出てきたのだ。
「ムスペルは回してもらえるんだね。ヴィンゴールヴはどうするんだい?」
「今回は速度が必要だからな。置いていく」
「そちらはツェンドリンブルが2機と強襲型ガンタンクが3機、それに荷車だけか。大丈夫なのか」
「そこにイカルガとグルンガストと強襲仕様のツールボックスとファルセイバーが加わるんだぞ。過剰戦力だって。魔力転換炉の数だけで言えば特機だけで1個中隊もあるんだぞ。ああ、残りの第3中隊は大回りで北部と南部に城塞パーツの設計図を運んでもらう手はずになっている」
「そうか。となるとムスペルが使えるのはありがたいな。ガンタンクを戦力にしても良いんだな?」
「クシェペルカにはドッグがない。本格的な整備ができない以上、ムスペルへの被弾は出来る限り避けてくれ。それを念頭に置いた上で引き抜くのは構わない。それとダインスレイヴは今回は使用禁止だ。反攻作戦時までは伏せておきたい」
「分かった。なら、試作ライフルをありったけ借りていくぞ。予備の弾倉も」
「新型の爆雷も試してきてくれるとありがたい。黒騎士の装甲を抜くには一工夫が必要になってくると思う。余裕があれば検証してきてくれ」
「余裕があればって、一方面軍を相手に余裕なんてあると思うのかい?」
「うん?結構余裕だが。ツールボックスの強襲仕様の武装の7割は試作兵器だし、ファルセイバーに至っては王女殿下共々初陣だ。それでも余裕だと言い切ろう。それだけの化物をオレ達は使っている。追撃にあった時にお前たちもそれを感じたはずだ。油断して良いわけではないが、余裕はある。少し、オレやエルから離れて現実を見て来い。この戦争が終わった後は国内の騎士団との合同演習なんかも入れてやる」
正直言って、徹底的に基礎固めを行なって、他国の国王機以上の高性能機で統一してある時点で倍程度の数に負ける光景が思い浮かばない。サンボルのガンダムヘッドが無印の旧ザクと戦うようなものだぞ。絶対に勝てないほどではないが、勝つのが難しいとは断言できる。
う〜む、ディーはともかくエドガーは一度銀凰騎士団から外へ出したほうが良い気がしてきたな。銀凰騎士団は型に嵌ったままでは成長できない。型をすぐに埋め尽くすだけの物が流れ込むからな。型を大きくは出来ないのが銀凰騎士団の欠点だ。だが、中隊長がそれでは困る。暴走を止めれるだけの力を持った上で銀凰騎士団の長所である多様性を潰さずに活かすだけの器が求められる。その器がエドガーには不足している。
今はオレも現場に出て指揮を取っているため問題はない。だが、オレはいずれ研究開発に専念するために前線から身を引くつもりだ。そうなると指揮官が足りなくなる。ただでさえ、エルもディーも指揮がそれほど得意ではないのだ。エドガーは指揮が取れるだろうが、その指揮は銀凰騎士団に適したものではない。それを理解してもらわなければならない。
「資材は全てムスペルに運び込んでおくよう指示を出しておく。中隊へのブリーフィングは任せるぞ」
今回の件で一皮むけてくれると良いのだがな。
操縦席で瞑想をしながらその時を待つ。これからこの身を血に染め上げることになる。正直に言えば怖い。この手で命を奪うということが怖い。だが、これは義務でもある。王族として何不自由ない、いや、自由はそれほど多くなかったか。それでも十分に恵まれた環境で暮らしてきた。だからこれは義務だ。唯一残ってしまった王族としての義務。国のためにその身を捧げるための行為。直接この手で人を殺すのではないのだけが救いなのだろう。
『緊張しているのか』
トールから通信が強制的に開かれる。
「ええ、とてもね」
『鳩尾より少し下、そこが黒騎士の操縦席だ。そこより上を狙えばいい。それか、頭と両腕を潰せ。手数が必要になるが殺さなくて済む。背面武装は半固定で正面にしか撃てない。うつ伏せに転ばせればそれで無力化できる』
「バレてますか」
『エルは完全にロボを破壊していると割り切っている。操縦者もロボの一部と認識しているというのが正しいか。オレはそこそこ酷い状況に陥ったからな。頭のネジが少し緩んだ。だから、その迷いを捨てるな。こちらには堕ちるな』
「堕ちるな、ですか」
『そうだ。狂人に王たる資格はない。堕ちるな狂うな壊れるな。王とは舞台装置だ。役目を果たせ。それを望んだのだろう?』
「そうね。倒れるわけにもいかない。背中、任せます」
『それ位なら任されよう』
ふぅ、多少はプレッシャーが和らぎましたか。それでも、キツイものですね。
『旦那方、そろそろ目標が見えてきたよ!!』
『荷車を切り離せ!!その後、荷車の護衛を任せる!!殿下、名乗りを上げるなら今だけです!!』
名乗りは、上げる必要があるわよね。北側は減らすだけだけど、南側は殲滅するって決めていたことだし。外部拡声器のスイッチを入れて高らかに戦争への参戦を名乗りあげる。
「我が名はエレオノーラ・ミランダ・クシェペルカ!!己が私欲を黴の生えた国の復興などと言う妄想で誤魔化し、正当な理由も大義もなく、魔獣番と蔑む相手の技術をさも自分達の手柄だとばかりに扱い、宣戦すら行わない野蛮なジャロウデクに仕える芋共に告げる!!ジャロウデクは歴史書に記されるだけの国へと叩き潰すと、私は宣言する!!疾く滅びよ!!」
荷車が切りはずされると同時に飛び出し、両肩の魔導兵装を起動させる。そして、叫ぶ必要はないが、叫ぶのがマナーだろうと魔導兵装の名を叫ぶ。
「ファルブレイズ!!」
両肩から放たれた炎の渦が重装甲である黒騎士を飲み込み、操騎士を焼き殺す。トールは殺さないように戦えばいいと言ったが、それは駄目。そんな生温いことが許されるほどクシェペルカに余裕はない。
「エリアルスパーク!!」
理論は説明されたけど全く理解できなかった魔力によって刀身を生成し、通常の剣よりも切れ味が鋭いエリアルスパークで黒騎士を盾ごと真っ二つにする。さらに二度、ファルブレイズを黒騎士達が固まっている場所に撃ち込む。そうしてようやく立ち直ったジャロウデク軍がファルセイバーと対峙しようとした所で次々と頭部を吹き飛ばされていく。
『突っ込むのが早すぎます。グルンガストのハイパーブラスターが死に札になってしまったではないですか』
弾丸が飛んできた方向の上空50mほどの所に滞空するトールから苦情の通信が入る。その後ろからマギスラスタジェットで空を駆け抜けたエルのイカルガが次々と飛空船の艦首に据え付けられている幻晶騎士と艦橋を次々と撃ち抜いて行動不能に陥らせている。
『待たんか、お前ら!!オレを置いていくな!!』
左腕のブーストナックルで黒騎士を粉砕し、右手のシシオウブレードでレスヴァントの腕を切り落としながらグルンガストが走ってくる。
「ジャロウデクに膝に屈したのは許しましょう。ジャロウデクで立場を得るために元同胞に剣を向けたのも許しましょう。ですが、これより先、クシェペルカに剣を向けるのであれば容赦はしません!!選びなさい!!敵と味方を!!」
黒騎士達の中に混ざっていたレスヴァント達は迷いながらも剣を私たちに向ける。
「それが答えというわけですね。あの世でお父様に詫びてきなさい。すぐに賑やかにしてあげますから」
そう言って、エリアルスパークで切り捨てようとした瞬間、急降下してきたツールボックスとイカルガが次々とレスヴァントを斬り捨てていく。
『エル、大暴れしろ!!若旦那!!』
『エリー、一旦下がれ!!呑まれているぞ!!』
呑まれている?一体何のこと?前に出ようとするとグルンガストが前に出て私を進ませないようにする。
「なぜ邪魔をするのです」
『だから、呑まれてるって』
『荷車の護衛に下がって。魔力残量をちゃんと見て』
言われて計器に目を向けると魔力が殆ど残っていなかった。戦闘が始まってから吸気を全く行なった覚えがない。慌てて吸気を行おうとした所で横からレスヴァントが襲い掛かってくる。エリアルスパークで受け止めようとした所を、グルンガストがレスヴァントを蹴り飛ばして難を逃れる。
『下がれ、エリー!!お前を討たれる訳にはいかないんだよ!!ハイパーブラスター!!』
ハイパーブラスターの放射の終わりごろから吸気音が聞こえる。耳を澄ませば、他の三人は動作の合間合間に吸気を行っている。回数の多さではイカルガが一番多く、それより回数は少ないが時間が長いのがツールボックス。グルンガストは大技の後に敵の攻撃を貰うことになっても吸気の時間を多く取っている。
それを見て私もファルセイバーに吸気を行わせる。レスヴァントでは聞いたことのない程大きな吸気音が聞こえるが、魔力の貯まりは悪い。3基の魔力転換炉が全力で稼働しているが、レスヴァントの5倍の魔力貯蔵量があるファルセイバーには足りないのだ。
『エル、西側から突っ込め!!若旦那、その場でファルセイバーの直掩を!!ガンタンク隊、ファルセイバーの退路の確保に法撃支援!!』
トールが次々と指示を出しながらツールボックスの翼に取り付けられたカルバリンの強化型であるアームストロングで上空から狙撃を続けている。
『魔力はそこそこ溜まっているはずだ、ファイルセイバーは後退しろ』
言われた通りに後退する。安全圏まで移動した所でグルンガストが再びシシオウブレードで暴れ始める。後退して初めて呑まれているという意味が理解できた。戦場の空気に呑まれて視野狭窄に陥っていた。それに今になって手が震えてきた。それも殺人という行為に何も感じていない自分が化物になったようで恐ろしいと感じて。
『若旦那、中央突破を!!エル、その周辺は任せる!!オレは退路を塞ぐ』
眼の前でレスヴァントが、私達が守らなければならなかった国民が討たれていく。なのに、私の心には何一つ届かない。私は壊れていたの?
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