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儚き想い、されど永遠の想い

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264部分:第十九話 喀血その十六


第十九話 喀血その十六

「恥を恥と思わなくなった時にです」
「その時にですね」
「最も恐ろしい腐敗がはじまるのです」
「腐敗がですか」
「それも最も恐ろしい」
 そしてだ。さらにだった。
「花には蝶が集りますし」
「腐ったものにはですね」
「それに相応しいものが集ります」
「では人は」
「誇りを忘れてはならないのです」
 それはだ。絶対にだというのだ。
「そのことは忘れないでおいて下さい」
「最後まで、ですね」
「そうです。最後の最後まで」
 そうして欲しいとだ。真理に話すのである。
「御願いします」
「わかりました。それでは」
「それとです」
 さらにだ。真理に話すのだった。
「御主人様と一緒に」
「それを一人でなくですね」
「そうです。二人でなのです」
 義正とだ。二人でだというのだ。
「そうして下さい」
「わかりました。それは」
「くれぐれもです。では」
「それでは」
 こうした話をしてだった。真理は婆やと別れてだ。自分の部屋に入った。
 そこで椅子に座り本を開いた。その本は。
 島崎藤村のその本だ。その本を見ようとだ。
 開いた。しかしそこでだった。
 不意に咳込んでしまった。咳は何度か出た。
 そしてさらに出てだ。最後に。
「!?」
 咳に違和感を感じた。そしてだ。
 口を抑えていた手を見る。するとそこに。
 赤いものが付いていた。それが何か。もう言うまでもなかった。
「そんな・・・・・・」
 それは赤い。しかしだった。
 真理の顔は蒼白になりだ。そうしてだ。
 その赤いものをどうしても見てしまう。見たくはなく否定したかったのにだ。
 そうして見ているうちにだ。部屋の扉から。
 ノックする音が聞こえてきた。そうしてだった。
「お嬢様」
「あっ、はい」
 婆やの声だった。その声に反応してだ。
 すぐにその赤いものをだ。傍にあった紙で拭き取りだ。それからだ。
 婆やにだ。こう応えたのだった。
「何か」
「お茶を淹れました」
 それをだというのだ。
「紅茶ですが」
「それをですね」
「はい、それにシェフが」
 今度はだ。家のシェフがだというのだ。
「ケーキを焼きました」
「ケーキといいますと」
「ホットケーキです」
「ホットケーキ。あれですね」
 ホットケーキと聞いてだ。真理はすぐにわかった。
 
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