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楽園の御業を使う者

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CAST22

別にローストビーフが好きって訳じゃないよ。

でもさぁ、今から食おうとしてた物をいきなり引っくり返されたらイラッと来ない? 来るでしょ?

つまりそういう事である。

"氷を操る程度の能力"

"寒気を操る程度の能力"

「フリーズフレイム」

本来であればこの術式は対象物の温度を下げる魔法だ。

しかし俺にエレメンタルサイトのように器用な異能は無い。

だから、干渉力のゴリ押しでエリアごと温度を下げる。

「神の御意志に逆らう悪魔の手先に鉄槌を下す!
総員!ッテー!」

エキサイトして気温が下がった事にすら気付かないアホが命令を出し、部下がトリガーを引いた。

カチッ!カチッ!

「隊長!弾が出ません!」

「なんだと!?」

あぁ、魔法師の出席者がマヌケを見る目で襲撃者を見ている。

「ぬぅ!悪魔共め!」

ぷふっ!

と会場内の誰かが吹き出した。

うん。わかるよその気持ち。

だってまんまギャグなんだもん。

つーか軍大学で配布されてたパンフのオマケ漫画にこんなのあったような…

「銃がダメならば!」

と奴等はコンバットナイフを抜刀した。

よく判らん雄叫びを上げて出席者に突撃するが…

「シルバー・クロウ」

俺が展開した障壁に阻まれた。

シルバー・クロウ…俺が造った術式の内、最も成功した(と思う)術式だ。

背中から障壁を翼のように展開し、攻防に使える上、訓練を積めば飛行も可能である。

「この魔法は貴様か!」

と指揮官(?)がナイフを向けてきた。

「だとしたら?」

「貴様!質葉白夜だな!悪魔の使いめ!」

「はっ! だったらエクソシストでも連れてくる事だ!」

「死ねェェェェェ!」

と走ってきたアホを…

「ていっ!」

シルバー・クロウで殴る。

<CROW-鴉>であり<CLAW-爪>。

「ぐっはぁ!?」

「隊長!?」

部下と思われる輩が吹っ飛んだアホに駆け寄る。

「さて…襲撃者諸君。こんな言葉を知っているかね?」

奴等の所へゆっくり歩きながら語りかける。

途中でハイパワーライフルを拾い…

「『撃っていいのは撃たれる覚悟がある奴だけだ』とね」

奴等にハイパワーライフルを向ける。

"密と疎を操る程度の能力"

「ばぁん!」

「ぐあ!」

弾は出ていない。

出たのは別のもの…

術式解体だ。

正確に言うならば圧縮したサイオンの塊…後に達也が想子徹鋼弾と名付ける物だ。

人間には魔法師だろうと非魔法師だろうと全身にサイオンを通す見えない管がある。

それは全身に張り巡らされており、そこをサイオンで撃ち抜かれると精神が撃たれたと勘違いし、肉体的な苦痛を錯覚するのだ。

「ばぁん!ばぁん!」

なお口に出すと少しばかり威力や圧縮率が上がる。

魔法はイメージが大切なのだ。

奴等もナイフで応戦しようとするが、シルバー・クロウに阻まれ、俺に一撃加える事もできない。

やがて、襲撃者は呻き声を上げてうずくまるだけの存在と化した。

翼をたたみ、戦闘体勢を解く。

「皆さーん、コイツらふんじばってくださーい」

出席者の内数名が出て来て襲撃者を拘束した。




さーて、これで安心…

「君。そこの少年。君だよ。見事だった」

と声をかけられ振り向くと…

げぇ!九島閣下!? と口に出さなかった自分を誉めたい。

つーか来てたのかよアンタ…

「先程の魔法も中々に面白い物だった」

「恐縮です。九島閣下」

「それに魔法力も中々の物だ…
それに慢心していないのは先の魔法を見れば一目瞭然」

「ありがたき御言葉です」

まったく有り難くねーですよ。

面倒くさいのに目をつけられたかもしれん…

「あぁ、それと」

ん?

「気持ちは解るがレディに悪戯するのはほどほどにしておきなさい」

マジか!? 程度の能力でブーストした認識阻害を破ったのかよ!?

「記憶に御座いませんな」

「では、そういう事にしておこう」

九島閣下はすたすたと何処かへ歩いて行った。

その背中を見ながら、九島閣下の言葉を思い返す。

よもやあの認識阻害を破られるとは…

イデアを視認できる達也でさえ一瞬欺いた認識阻害だぞ…?

「トリックスターの名は伊達ではないということでか…」

シルバー・クロウの飛行性能には気付かれていないよな…?

飛行術式が存在しない現時点で飛行可能な術式を持つ事は世間の注目を集める事になる。

そうなれば色々と面倒だ。

攻防一体の利便性故にシルバー・クロウを選んだのは早計だったか?

何かを食べる気分ではないので畳んでいた翼を消し、再び壁際に行こうと一歩踏み出した時。

くいくい

「んゆ?」

振り向くと、俺よりも少し背の高い、眠そうな眼をした女の子が俺の袖を引いていた。

「あり、がとう。貴女のおかげで、たすかった」

「いや。メシ食うのを邪魔されてイラついてただけだ。
だから、礼なんていらんぞ、北山嬢」

このクセのあるショートカット、眠そうな瞳。

そしてなによりもこのパーティーに出席できる地位の令嬢。

「私のこと、しってる、の?」

「ん?まぁ、ね」

彼女はやはり北山雫だったようだ。

「ストーカー?」

「命の恩人になんて言い草だ…
そもそもなんで俺がそんな面倒な事をしないといけないんだよ?」

「…………できないとは、言わないんだね」

うぐっ!

咄嗟に彼女から顔を反らす。

「あー、や、まぁ、できなくも…ないかな?」

「ヘンタイ」

「やらねぇっつってんだろ」

「本当に?」

「ああ。そもそも俺がそんな輩ならこのパーティーには呼ばれてねぇよ」

「それもそう。
ところで、貴女の名前は?」

「ん?俺は千葉白夜。
一応世間では質葉白夜と名乗っている」

「千葉白夜…うん。やっぱりそうだ」

さて、じゃぁ用は済んだっぽいな。

「どこいくの?」

「え?あ、いや。パーティーとか面倒くさいし壁際で人間観察でもと」

「……………」

うわぁ…バカだコイツみたいな視線だぁ…

「な、なんだよ?」

「暇人?」

こてん、と首を傾げながら問われた。

「いや、俺は今から趣味の人間観察をだな…」

「暇なんでしょ?」

と今度は若干強めの口調で。

「いや、だから」

「ひ ま な ん で し ょ ?」

なんか目が据わってる…!?

「お、おぅ」

北山嬢の気迫に圧された俺は、そんな返事をしてしまった。

「じゃぁ、私の暇潰しに付き合って?」

「お前も暇なんじゃねーか」

「何か言った?」

「いえいえ、喜んで」

彼女に手を引かれて、会場の中心の方へ。

「おい北山嬢。俺は目立ちたくないから端にいたんだが?」

「私と居ればそんなに声はかけられない」

「あっそ」

たしかに、パーティー会場の真ん中なのに、彼女と居ると声をかけられない。

だけど、北山嬢がその中の一人に声をかけた。

「うん?雫、その子は…?」

「おとーさん、この子は白夜。質葉白夜。
さっきの一件静めた娘。
あと、テレビとかにもでてる」

「おお!君がかね!私は潮、雫の父だ」

「お噂はかねがね聞いております北方様」

北方潮、大企業を束ねる重鎮だ。

「うむ、礼儀正しいね。いい娘だ」

その後、パーティーはつつがなく進み、やがて終わった。

あの後七草真由美はみていない。

恐らく部屋で悶絶しつづけていたのだろう。

あと、潮さん(そう呼んでくれと言われた)に気に入られた。

今度潮さんの…というか雫の家に行くことになった。




パーティー会場をあとにすると、水波が待っていた。

「お疲れ様です白夜様」

「お迎えご苦労様」

「いかがでしたか?」

「結構楽しかったよ」

「おや、行きはあんなに嫌がっていたじゃないですか」

「うん、でも雫と知り合えたし、七草真由美のアホ面見れたから満足」

「戦争でも起こすおつもりですか?」

「四葉と俺の関係は七草が探れるほど明確でもないだろう?」

「そうですけど…」

「さぁ、帰ろうぜ。
さっさとベッドに飛び込みたい」

「今日も私の抱き枕にしてもよろしいですか?」

「敬語なのに敬ってないとはこれ如何に」

「敬っておりますとも。
ただ、白夜様に対する『可愛い』が勝っているだけです」

「ああ、もう、どうでもいいから早く帰ろう」

「かしこまりました」



22:17

「はふー…」

風呂は命の洗濯とはよく言った物だ。

「白夜様。お背中流します」

とバスルームの曇りガラスに、脱衣場の水波のシルエットが写る。

「おー…水波か…ちょっと待て」

"なんでもひっくり返す程度の能力"

「いいぞー」

からからと扉が空き、水波が入ってくる。

「おや、今は白夜ちゃんでしたか」

「おまえなー、男女で入る訳にはいかんだろ。
俺が女になれば解決だろー」

「そうですね」

水波と風呂に入った後、ベッドに潜り込むと、隣に水波が入ってきた。

「おやすみ、水波」

「おやすみなさい、白夜様」
 
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