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とある3年4組の卑怯者

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103 逃走

 
前書き
 永沢が捕まり、太郎を抱えて逃走する城ヶ崎。一方で藤木が学校での汚名返上のために参加するスケートの大会が開幕。藤木はさらなるプレッシャーで緊張が増すのだった!! 

 
 和島の演技が始まった。
(和島君、君の4回転アクセルは誰にも真似できないくらい素晴らしいよ・・・。だけど、僕は絶対君には負けないよ!)
 藤木はモニターでその演技を見届けていた。
「和島俊・・・?あの藤木君が会ったっていうあの強敵・・・!?」
 観客席から観賞していた堀が名前を聴いて思い出した。彼女も一度、彼の姿を見た事があった。
「堀さん、どうしたんですか?」
 みどりが聞いた。
「あの和島俊って子、藤木君が手強く思っている子なの。藤木君、あの子の上手さに圧倒されてたみたいなの」
「そうだったんですか・・・。でも、藤木さんがきっと勝つと思います!私、藤木さんのスケートする姿はとても素敵なんです!きっとあのお方に簡単に負ける分けがないって私は信じています!」
「吉川さん・・・。そうね、藤木君を信じなきゃね!」

 永沢は各務田の前で捕縛されていた。
「よう、てめえよ、無駄な手間かけさせやがってよお!いい加減死んでくれよ!」
「じゃあ、さっさと殺せばいいだろ!?」
「俺はてめえの親父とお袋も殺してえんだけどよ、見つかんなくてよ!花輪んとこの別荘にいると思うが、その場所を教えやがれ!でねえとてめえを殺せねえんだよ!!」
「花輪クンは別荘を幾つかもっているんだ!どこかは僕にも分からないさ!」
「んだとお、このクソタマネギ!!」
 各務田は永沢を殴った。
「ったく、めんどいことしやがって!!あの時の火事でてめえらとっとと逝っちまえばよかったのによお、何で生きてやがんだ!?」
「な・・・、って事はあの火事はお前が火を付けたのか!?」
「ああ、そうだ!!とっととてめえらを消すために隣の家に火を付けさせたんだよ!そのまま放火させちゃ、すぐバレちまうからな!!」
 永沢は衝撃の事実を突きつけられた。
(ならあの火事は全てこいつか仕組んだものだったのか!?)
 永沢は各務田への敵意が増した。
「ほら、さっさと俺に花輪の別荘の場所を教えてとっとと殺されろ!!」
「う・・・」
 永沢は口を開かなかった。すると、各務田は怒鳴った。
「吐けっつってんだよ、このクズが!!」
 各務田は永沢を壁に蹴り付けた。
「うわあ!!」
「ホラ、時間かけさせんな!!さっさと終わらせてえんだよ!!」
 各務田は永沢を殴り、蹴り付けた。

 男達が去った後、リリィはみまつやに先ほどの男について質問した。
「さっきの人達誰だったんですか?」
「さあ、なんか赤ちゃんを抱えた女の子を探しているみたいだったけどね・・・」
「そうですか・・・」
 リリィは消しゴムを買ってみまつやを後にした。
(赤ちゃんを抱えた女の子・・・。でも永沢君とその女の子って何か関係あるのかしら?)
 リリィは頭が混乱していた。その時、あーん、あーん、という鳴き声が聞こえた。そして、遠くから一人の少女が駆けてくるのが見えた。
「じょ、城ヶ崎さん!?」
「えっ!?リリィさんっ!?」
 リリィは見当がついた。赤子を抱えた少女とは城ヶ崎の事だと。城ヶ崎は靴を履いておらず、コートも着ていなかった。
「ごめんっ、私達変な人達に追い掛けられてるのっ!永沢も捕まっちゃったし、これ以上迷惑かけられなくて誰かの家に隠れる事もできないし・・・」
「なら、私の家に・・・」
「そんなのダメよっ!リリィさんにまで危害が及ぶわっ!!私で太郎君を守らないとっ・・・!ごめんねっ!!」
 城ヶ崎はそう言って走り去った。リリィは何かできる事はないか模索した。
(どうすれば・・・)
 その時、リリィにはある事を思い付いた。城ヶ崎は笹山と親しい。なら笹山なら彼女のために動いてくれるのではないか?男達が歩き回って城ヶ崎と太郎の行方を探っているという事は笹山の家にも現れて聞いているのではないか?リリィはそう考えて笹山の家へ行き聞いてみる事にした。

 城ヶ崎の両親は飼い犬のベスと共に何とか家から脱出していた。ベスが吠えて各務田の部下を足止めさせていたので、何とか逃げる事が出来た。しかし、通報しても警察がいつ彼らを逮捕できるかは見透しがつかない。その時、自転車に乗る警察官の姿が3人ほど見つけた。二人は警官達を呼ぶ。
「すみません!大変です!!」
「どうしましたか!?そんな慌てて!」
「娘が不審な奴に追われているんです!その子はこのくらいの身長で素足で逃走していて、知り合いの 赤ちゃんを抱えています!見つけたら保護をお願いします!!」
「わ、分かりました!今すぐ探すぞ!!」
 三人組の警察官は自転車を走らせた。
「姫子、大丈夫かしら・・・?」
「大丈夫だ、あの子は気が強いから何とかできるだろう・・・。きっと太郎君を最後まで守ろうとするさ・・・!」

 永沢は各務田の質問に対して口を開かず、殴られ、蹴られ放題にされていた。お陰で顔はあざだらけとなり、全身に痛みを感じていた。さっさと言えば楽かもしれないが、言えば自分は殺される。この男の前では命乞いなど無意味だ。なら助けが来る事を信じて暴行に耐えるしかなかった。
「いつまで悪あがきしてやがんだ、タマネギ坊主!!」
「う・・・」
「おめえ、まさか死にたくねえとか考えてんのかあ!?バーカ、俺は親父や俺をコケにした奴らの家族を消すと決めてんだ!!だから、楽してえんだったらてめえは死ぬしかねえんだよ!!」
「じゃあ、さっさと殺せばいいだろ・・・!?」
「うるせえ!!てめえの親の居場所はおめえが知ってんだ!!おめえが言ってくれりゃ一つの事が済むのによ、てめえがさっさと言わねえからいけねえんだろが!!」
 各務田は永沢の顎を殴り上げた。

 御殿場のスケート場では、和島の演技が始まっていた。和島はステップをしだした。そして、まずはダブルトウループ、そして、トリプルサルコウを連続で決めた。
(まだ四回転アクセルを見せないのか・・・。きっと後まで温存する気だね・・・)
 藤木はモニター越しで見て思った。和島はその後、コンビネーションスピンを行った。12回転と基準の10回転をクリアした。そして、ダブルループ、トリプルフリップ、トリプルアクセルを決めた。そして、次にフライングシットスピンを決めた。次にステップシークエンスをここで決めた。そして、ダブルアクセル、アップライトスピンをした。藤木はこれを見てレベル4は確定だろうと思った。
 その時、和島がジャンプを見せた。あの彼が必殺技としている四回転アクセルを。藤木は改めて彼に脱帽した。そして、歓声が沸き上がった。片山も和島の四回転アクセルに魅せられた。
(なんと!あの和島俊という子、あの難しい四回転アクセルができるのか!これはかなりの高得点になる・・・。藤木茂、君は彼を上回る演技を見せる事ができるのか・・・!?)
 みどりも堀も和島の四回転アクセルに驚き、拍手をしない訳にはいかなかった。
「た、確かに藤木さんが強敵と思う訳ですね!」
「そうね・・・」
 堀は藤木が心配になった。
(藤木君、あの和島君に勝つためにこれまで必死に特訓してきたよね・・・。お願い、その成果をここで見せて・・・)
 堀は藤木の評価が和島より上回ることを切実に願っていた。
(和島君、君は凄いよ・・・。でも、僕だって負けられないんだ、金賞を勝ち取るための目的があるからね・・・!!)

 城ヶ崎は太郎を抱えての逃走を続けていた。まるで空襲から逃げるように。ただ路上を走っているだけでは簡単に見つかってしまうので、公園の草木の茂みに隠れたり、柵や塀をよじ登って渡ったりした。しかし、こんな事を続けていてもいずれは見つかる。だが、隠れさせてもらう家もない。また、太郎も泣き続けて居場所を感知されやすい事も問題点だった。
その時、神社を見つけ、城ヶ崎は縁の下に隠れる事を思い付いた。
「あそこなら何とか行方を眩ます事ができるかも・・・!!」
 城ヶ崎は神社の境内の縁の下に潜った。太郎はまだ「うわ~ん!!」と泣いていた。高さが低く、せいぜいしゃがむ事が精一杯だったが、隠れるには最適だった。また、縁が上にあるため、太郎の鳴き声も外には響きにくくなるだろう。城ヶ崎は太郎の手が非常に冷たい事に気付いた。また、コートを着る暇もなく家を飛び出したので、自分の体も冷えて震えていた。
「太郎君、寒いのね、可哀想・・・」
「うわ~ん、うわ~ん!!」
 城ヶ崎は自分と太郎の手を擦るなどして寒さを凌ごうとした。 
 

 
後書き
次回:「必殺技」
 遂に藤木の演技を披露する番が訪れた。両親や片山、そしてみどりと堀が見守る中、藤木は特訓の成果を見せる事ができるのか。そしてリリィと笹山が永沢達を救うために共に動き出す・・・。

一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!! 
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