とある3年4組の卑怯者
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102 重圧(プレッシャー)
前書き
各務田の部下は永沢の居場所を突き止める。永沢は城ヶ崎に弟の太郎を託し、逃げようとするが、捕まってしまった!!
城ヶ崎は家を出る前にベスの縄の杭を外した。
「ベス、あいつらを寄りつけさせないでっ!」
ベスは追っ手に向かって吠えた。
「ママ、私は太郎君を無事にさせるために逃げるわっ!」
「姫子、大丈夫なの!?」
「ええ、ここは危ないからママもパパも早く逃げてっ!そして、警察に知らせてっ!」
「分かったわ、気を付けてね!」
城ヶ崎は太郎を抱えて走った。
「太郎君、お姉ちゃんが守ってあげるからね・・・」
「うわ~ん、うわ~ん!!」
全ての出場者の本番前練習が終了した。藤木は和島の他、各出場者の練習に凄いと感じてしまった。
(さすが皆この大会へ強く臨んでいるんだな・・・)
藤木は和島に声を掛けられた。
「やあ、もう周りに圧倒されているのかい?」
「う、そんな事ないさ!」
「まあ、のびのびとやるのが一番さ。プレッシャーなど気にしていると余計にできなくなるからね。せいぜい、へまをしないように気を付けるんだね。まあ、その弱気な態度じゃ、絶対しそうだけど、じゃあ、ボクは本番に備えるよ」
和島は藤木から離れた。
(最後に必ず僕が笑って見せるぞ!)
みどりと堀はスケート場に到着した。ギャラリーには数人が既にいた。
「藤木さん、頑張ってください!」
「吉川さん、藤木君はまだここにいないわよ」
堀が突っ込みを入れた。そして、少し離れた場所に一人の男の姿が見えた。堀はその男の所へ行く。
「あの、片山さん、こんにちは」
「おお、君は藤木君の友達のお嬢さんか。こんにちは」
「私、藤木君が本当に賞を取れるか心配です・・・。大丈夫ですよね・・・?」
「まあ、それは私にもわからんよ・・・。でも、彼の非凡な才能はきっと入賞するに値する。最後まで藤木君を信用しようじゃないか」
「そうですね・・・」
堀は片山の言う通り、藤木が賞を獲れると信じ続ける事にした。一方、みどりはイエス・キリストにお祈りしているような格好で藤木の健闘を祈っていた。
(藤木さん・・・。私はここに来ました。もう大丈夫です。どうか、優勝してください・・・!!)
観客席の別の場所では藤木の両親が息子を心配しながら応援していた。
「茂、大丈夫かしら?まさか、怖くなって逃げるんじゃないかしら・・・?」
「バカな事言うな!あいつはこの大会の為に毎日スケートの練習をしてきたんだろ!いくら茂が学校で卑怯者って言われているからってそこまではしないだろ!」
「そ、そうよね・・・」
藤木は急に緊張のせいで今までの目的がプレッシャーに変わっていった。
(やっぱり、僕には無理かも、いや、なんでここで不安に感じるんだ!卑怯を返上するんだろ!何がなんでも優勝だ!金賞を獲るんだ!そして、和島君を悔しがらせて、さらに不幸の手紙で僕を非難した皆を見返すんだ!!)
藤木は己を不安な心を自分で叱りながら本番までの時間を過ごした。そして、本番の開始時間が訪れた。まずは開会式が行われた。アナウンスが入る。
『会場の皆さん、本日はご来場頂き誠にありがとうございます。これより静岡県男子アマチュアスケート大会ジュニア部門を開会致します。まず始めにスケート協会静岡県支部長小山利夫様よりご挨拶です』
アナウンス係から呼ばれてスケート協会静岡県支部長の小山利夫がスケートリンクの入り口でマイクを持ち、喋り始めた。
「皆さん、ご来場ありがとうございます。スケート協会静岡県支部の小山です。本日は栄えあるこの大会、出場者の皆さんはこの日の為に練習をしてきたと思います。出場者の皆さん、このスケートリンクで自分の持ち味を大きく活かし、そして審査員に最大限にアピールできるよう、頑張ってください!そしてこれは大きな世界に進むためのちっぽけな大会ですが、この大会をバネにさらに大きく羽ばたく事を私は願っています。以上です!!」
小山氏は喋り終わると審査員用に設けられた席へ引き上げた。
『小山様、どうもありがとうございました。それでは審査員のご紹介をします』
アナウンス係が審査員の紹介を終える。そして、参加者用控え室ではエントリーナンバー1番の出場者が誘導係から呼ばれ、スケートリンクへと連れて行かれた。
(じきに僕の番が来るんだな・・・)
藤木は水飲み機へ行き、水を飲んだ。そして、控え室へ戻り、1番の出場者のステップシークエンスの上手さに感心した。
(僕にもこれまでの特訓で鍛えた技を見せてやるぞ!それも僕にしかできないような技を・・・!)
藤木の心は緊張とプレッシャー、そして勝利のための熱意、この三つのみ抱いた。そして今はそれでいっぱいだった。
2番、3番、4番と次々の出場者が華麗な演技を見せていた。しかし、中には失敗した者もいて、トリプルがシングルになってしまったり、体のバランスを崩してしまった者もいた。 藤木はその者を見て失敗の怖さを感じ取った。
(失敗は悔しいよな・・・。どうかあの技、失敗しないでくれ!!)
藤木は祈った。
「エントリーナンバー10番、和島俊君、そろそろ出番です」
「はい」
誘導係に呼ばれ、和島は控え室を出ていった。
(どうか、和島君が失敗してくれますように・・・)
その時、藤木は自分行っている事を顧みた。
(何考えてんだ!自分が自信持てないからってそんな卑怯な事考えるなんて・・・!俺は卑怯を治すと決めたんだった。なら自分が全力を見せなくちゃ!)
藤木は反省した。
『10番、和島俊君、船越小学校』
和島の演技が始まった。藤木は和島の演技をモニターで見る。
(和島君の4回転アクセル、きっと高い評価がつくんだろうな・・・。僕の技はそれ以上の評価をしてほしいな・・・)
リリィは外に出かけていた。これまで使っていた消しゴムが小さくなってしまい、新しい消しゴムを買いに行くためだった。また、ついでに何か飴でも買おうか、それともそれは無駄遣いだからやめようか考えていた。
(それにしても、今日は何かおかしな日ね。永沢君の命が危ないから知らないふりをしてって連絡が来て、外は何か変な人が色んな人の家にあがって迷惑がられているわ・・・、まさか、私の家にも同じ事されているんじゃ・・・)
リリィは異様な雰囲気のため消しゴムを買ったらさっさと帰ろうと決めた。そして、飴を買う事は断念した。みまつやに来たその時、店の前で男が二人、店主と話していた。
「おい、あんた、赤ん坊を抱えた女のガキがここ通んなかったか!?」
「いえ、通ってませんけど・・・」
「ちぇっ、じゃあ、失礼するぜ!」
男達は去った。
永沢は頭の痛みが弱くなった後、その場所は見知らぬ家の中だった事に気付いた。
「よう、君男君!ぶはははは!!」
顔を上げると各務田が立っていた。
後書き
次回:「逃走」
両親の居場所を吐くように各務田から尋問・拷問を受ける永沢。和島の演技に天晴れと思う藤木。リリィは太郎を抱えて逃走する城ヶ崎と遭遇し・・・。
一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!!
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