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【アンコもどき小説】やる夫は叢雲と共に過剰戦力で宇宙戦艦ヤマトの旅路を支援するようです

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閑話 ワールドイズマイン

 共通の敵と戦っているとはいえ、互いに隠している事があるのが人の常。
 ガミラス最初の攻撃から、地球側の一勢力はガミラス人だけでなく漂流者艦隊のクローンの死体を解剖し、その秘密を解き明かそうとしていたのである。
 そんな後ろ暗い事を、有能極まりないゴップ提督が見逃す訳がなかった。

 火星。
 アヴァロン・バレー市。ムラクモ・ミレニアム本社研究施設。地下秘密研究棟。
 制圧が済んだその場所をゴップ提督は護衛を引き連れて歩く。

「ウェンズデイ機関及びテロ組織ストラグルの主なメンバーは逮捕・拘束しております。
 火星自治政府もこの件に関しては何も言わず、ムラクモ・ミレニアム運営委員会は『我が社の設備の一部がテロリストに不当に占拠された』と遺憾の意を表明しており……」

「構わんよ。
 彼らの言葉を信用するとしよう。今は。
 後で色々と話を聞くことがあるかもしれないけどね」

 副官の報告をゴップ提督はその一言で遮る。
 ガミラスとの戦いにおける地球側の戦時体制への移行で、強硬に反対していた火星自治政府はこの一件で何も言えなくるだろう。
 火星自治政府がスポンサーでムラクモ・ミレニアムを経由して『ウェンズデイ機関』と反地球テロ組織『ストラグル』に支援をしていたなんて事は現状の地球側においても闇に葬りたい所なのだから。
 表沙汰にしない事を条件に、国連の戦時体制への協力を約束させられたムラクモ・ミレニアム重役の顔色は悪い。

「これかね?」

「は、はい……」

 国連統合軍の緊急査察にムラクモ・ミレニアムの人間はうろたえる。
 開発独裁で発展はしつつあり、地球への自治権拡大運動が広がりつつあったが、火がつく前にガミラスなんてものが現れたので下火になっている。
 とはいえ、いずれ来るだろう自治権拡大、更にその先の独立を視野に入れた兵器実験研究をゴップ提督率いる査察部隊に真っ先に抑えられたのである。
 それは漂流者艦隊が木星軌道においてその超巨大艦で遊星爆弾を迎撃した日と前後していた。
 そして、スポンサーである火星自治政府は、ムラクモ・ミレニアムを切り捨てた。

「漂流者艦隊の戦闘機搭乗員のクローン死体から入手した卵子をベースに細胞を改造し、ここまで育てました。
 既に基礎教育だけでなく高等教育も終えており、その高いスペックは……」

「そのスペックは漂流者艦隊がこれを知って激怒するのが分かっているリスクと釣り合うのかね?」

 ゴップ提督の突っ込みにムラクモ・ミレニアムの重役は言葉を失うが、スピーカー越しに楽しそうな笑い声が聞こえる。
 ムラクモ・ミレニアムの重役の驚愕の顔を見て、どうもこれは向こうの仕込みではないらしいとゴップ提督は思うが口には出さない。
 ありふれた政治ショーでは無い培養槽越しの即興劇はこうして幕を開けた。

「おもしろいわ。
 はじめまして。おじさま」

「はじめまして。お嬢さん。
 とりあえずは名前を教えてくれないかね?」

 培養液の中に浮かぶ少女は笑顔のままその名前を告げる。

「『実験体一号』ですって。
 女の子なんだからもっとかわいい名前が欲しいって言っているのに、聞いてくれないのよ。
 失礼だと思わない?」

「そうだね。
 女の子なのだから、かわいい名前がいいだろうね。
 けど、意外だったな。
 私は、君のことを『実験体二号』だと思っていたよ」

「二号?
 私の前が居たのかしら?」

 培養液の少女は笑顔のままムラクモ・ミレニアムの重役を見るが、見つめられた重役は必死に首を横に振るばかり。

「知らない!
 私は何も知らないんだ!!」

 ムラクモ・ミレニアムの重役必死の叫びをゴップ提督も培養槽の少女も無視する。
 だから、ごく自然なありふれた会話のように、過去の人の罪状がゴップ提督の口から告げられた。

「少し昔の事だ。
 火星開発で独占的な地位を占めているムラクモ・ミレニアムの母体の一つとなったムラクモ重工のお嬢さんが居てね。
 天涯孤独で累計も居ない彼女だが、彼女が居た時のムラクモ重工の躍進は凄く、ムラクモ・ミレニアム設立のきっかけになったそうだ。
 不思議な話だろう?
 天涯孤独なのに、彼女はムラクモ重工のお嬢様として扱われたんだ。
 どうしてなんだろうねぇ?」

「なぞなそなの?
 おじさま。楽しいわ♪
 つまり私には、お姉さまが居たのね。
 会ってみたいわ」

 叢雲を世に出すための仕掛けは叢雲が去った後も残っていた。
 火星自治政府が密かに研究していた強化人間実験体一号『東雲叢雲』は少女時代よりその高い才能を発揮。
 彼女のアドバイスによりムラクモ重工は躍進し、ムラクモ・ミレニアム設立までこぎつけるまでになった。
 そして、世間に出る段階になって火星自治政府は彼女の事を恐れたのだ。
 開発独裁を進めている火星自治政府は、政府傘下企業としてのムラクモ・ミレニアムを欲したのであって、東雲叢雲が率いる企業集団ムラクモ・ミレニアムを欲した訳では無かった。
 彼女が恋人と共に宇宙船の事故で行方不明となった時、喝采をあげたと同時に『誰がやった』と疑心暗鬼に陥った者が多数いたのである。
 そんな叢雲を生み出した研究機関が、現在ゴップ提督と培養槽の少女が居る『ウェンズデイ機関』であり、火星自治政府のアンダーグラウンドオペレーションを担当していたのが反地球テロ組織『ストラグル』。
 そういう流れの延長線上に培養槽の少女は存在している。

「どうだろうねぇ?
 君のお姉さんはおそらく漂流者艦隊に居るだろうからねぇ。
 あのガードの硬い彼らは君でも一筋縄ではいかない相手だよ」

 なんのことはない。
 真田が気づいた漂流者艦隊の中枢近くに地球人が居る事に、ゴップ提督も感づいていたのである。
 ただ、真田達が叢雲を知っていたから真実に行き着いたのと違って、ゴップ提督の持っていた手札はおぞましいものばかりだった。
 ムラクモ重工が得意としていたロボット・ドロイドの製造過程の類似性と、当時の火星自治政府のアンダーグラウンドオペレーションに使われていた強化人間のDNAデータ、そして叢雲を中心とした不可思議な金の流れである。

「歴史の話をしよう。
 中央というのはどうしても地方を搾取する。
 その代わりに、中央は新たな新世界を見つけ、地方の下にその新世界をつけるのだ。
 あの時の火星は、その新世界だった。
 不満は爆発して戦争という事も国連内部では危惧していたのだよ。
 でもそうはならなかった」

「それはムラクモ重工のおかげ。
 資源確保のための木星開発の前線基地になる火星での火種は起こしてはならなかった。
 少なくとも『ウェンズデイ機関』と『ストラグル』はその為に変えられた。
 お姉さまの手によって」

 打てば響く彼女の言葉にゴップ提督は楽しそうに笑う。
 彼の戦場は言葉が武器だ。
 そんな彼と戦火を交える培養槽の彼女との会話が楽しいからにほかならない。

「そう。
 彼女は地球と火星の戦争回避という手段に、非合法テロ組織という生贄を用意した訳だ。
 火星の住民の怨嗟はこのテロ組織に向かい、火星自治政府が望んだ反地球への怨嗟は広がらなかった。
 テロも小規模で人死を出さない綺麗なものだ。
 彼らのテロが汚くなったのは、彼女が居なくなってからの事だ。
 そしてそれが、私がここに居る理由でもある」

 火星の反地球感情を吸収してくれる『ストラグル』は地球側にとってもありがたい存在だった。
 裏から地球側は叢雲を通じて支援すらしていたのである。
 それは、『ストラグル』が手の内を晒し続けた事を意味する。
 『ストラグル』のテロが大規模に、人死を出す汚いものになった時、今回の取締が成功した原因の一つである。

「ねぇ。おじさま。
 わたし、お姉様に会ってみたいわ」

 ゴップ提督はしばらく何も答えずに、ただムラクモ・ミレニアムの重役を見つめる。
 観念したように重役が首を縦に振ったのを見て、淡々とした声を出した。

「大人の話だけどね。
 ここには何もない。そういう事になってるんだ。
 という訳で、私と一緒に来るかい?」

 培養槽の少女は笑みを浮かべる。
 それは肯定の証。 

「ねぇ。おじさま。
 良かったら私に名前をつけてくださる?」

 しばらく考えたゴップ提督は彼の容姿からは考えられない可愛い名前を呟く。
 
「マナカなんてどうかな?
 私の住む星の極東の言葉で『愛の歌』と書くそうだ。
 あいにく私には無縁な言葉だが、きっとこれからの君には必要な言葉になるだろう」

「素敵ね。
 決めたわ。
 私の名前は愛歌。
 これからよろしくね。おじさま♪」




「で、彼女を私の所に連れてきた訳か……」

 ゴップ提督の説明に国連代表たるペンウッド卿は頭を抱える。
 そんな様子をついてきた愛歌は楽しそうに笑いながらテーブルの上の紅茶を楽しむ。

「うまく戦時体制に移行できた祝い事のおまけと思ってくれると良い。
 私の下だと悪いことしか覚えないからね」

「まぁ。おじさまったらいじわるね。
 私に悪いことをノリノリで教えてくれたくせに♪」

 可愛い声で言ってのけるが、ゴップ提督の私設秘書扱いで地球側の対ガミラス総力戦体制の移行を手伝った時点でその悪いことがろくでもない事が分かる。
 彼女は培養槽の中から出てまだ一年ほどしか経っていないのに、何でもできてかつ何でも理解してしまう鬼札だったのである。

「せっかくだから教えてくれ。
 私は正直、加盟国間の戦争もあると覚悟していた。
 どうやってフォン・ブラウン条約をまとめあげたんだい?」

 それを答えたのは愛歌だった。
 ゴップ提督の養子として踊る会議の中で注目を集め、小娘だからと侮った百戦錬磨の外交官達はその容姿に騙されて次々と敗北を重ねていったのである。

「だって話し合いの皆様、基本経済についてはある程度まとまっていたのよ。
 だから、そこを軸に妥協させて逃げられないようにしただけ♪」

 まるでお菓子の下ごしらえを語るようにあっさりと言ってのけた方法はペンウッド卿は言葉も出ない。
 事実、戦時経済を狙う国連に対して、主要七カ国の内四カ国が国家経済であり、残り三カ国が大きな政府を維持していた。
 そこの所については妥協が成立していた。
 問題は国家主権と軍の統一指揮だが、愛歌はさもあっさりと己の手札をバラす。

「で、おじさま達にこう言ったのよ。
 『私のお姉さまがあの艦隊にいるかもしれない』って」

 それが何を意味するか理解してペンウッド卿は胃が痛くなる。
 今揉めると漂流者艦隊が介入するだけでなく、どこかの勢力に肩入れする可能性を提示したのである。
 しかも義父であるゴップ提督がそれを否定しなかったことで、愛歌の言葉は真実であるとして各国代表に受け止められた。
 ある意味究極の問題の先送りだが、その先送りで得た砂時計の砂はダイヤモンド以上に貴重なものだった。

「でもね。おじさま。
 私にも見えないのよ。
 お姉さまが乗っているのなら、見えると思ったのにまるで何かに隠れているみたいで。
 不思議ね」

 愛歌と時々こういう突拍子もない事を言うことをゴップ提督は知っていた。
 それはある種の未来視に近く、近年オカルトとして研究されている『ニュータイプ』や『イノベイター』に通じるものかとゴップ提督は調べさせているのだが、いまいちそれが分からない。
 まさかフォースで防がれているとはこの少女をもってしても分からないのだった。

「で、私に何をさせる気なのかね?」

 恐る恐る確かめるように、ペンウッド卿は尋ねる。
 それにゴップ提督はあっさりと無理難題を言った。

「そう遠くない将来、正式な形として漂流者艦隊に外交団を派遣したい。
 彼女をその随行員として加えてやってくれないか?」

「……」

 この会見が終わったら胃薬を飲もうと思ったペンウッド卿の前に水と胃薬が差し出される。
 そのお盆を持っていたのは愛歌だったのは見なかった事にしてペンウッド卿はその薬を飲み込んだ。



 東雲愛歌。
 ムラクモ・ミレニアム創業者一族の娘という出身ながら、ゴップ提督の養女になっている。
 そして彼女の姉が東雲叢雲という所まで正規ルートを通して経歴を詐称させた。
 おそらくは漂流者艦隊は彼女について気づいているだろう。
 そして、間違いなくお人好しの彼らは何だかのリアクションを返してくれるに違いない。
 そんな未来を確信しながらゴップ提督は紅茶を堪能したのだった。 
 

 
後書き
元ネタ
『ムラクモ・ミレニアム』『ウェンズデイ機関』『ストラグル』……アーマード・コア
叢雲の背後設定作ろうとして名前を思い出す。

愛歌
……元ネタは『ジョニー・ライデンの帰還』のイングリッド0だが、作者の煩悩とゴップ提督クリティカルによって沙条愛歌(fate)に変更。
 なお、彼女はやる夫スレではまった口である。かわいい。
 当然根源接続者なのだが、この時代だとニュータイプやイノベイターに分類される事に。
 なお、型月的には惑星規模の根源接続者ではあるが、やる夫のシスが銀河規模ゆえに弾いているというオリ設定。
 作者も忘れていた女神特典のハーレム要因候補である。

砂時計の砂はダイヤモンド以上に貴重
元ネタは『銀河英雄伝説』。
この巻のヤンが哀れでならない。

『ニュータイプ』や『イノベイター』
元ネタはガンダム。
人の革新を生み出そうとしたら、根源接続者を生み出した『ウェンズデイ機関』の研究者は天災に違いない。
という訳でうさ耳研究者とナンバーズの生みの親は何処かで出したいと企んでいる。


タイトル
ワールドイズマイン……初音ミクの代表曲の一つ。
お姫様は王子様を見つけられるのだろうか?王子様の隣には既にお姫様が控えているががんばれお姫様。 
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