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ハイスクールD×D 聖なる槍と霊滅の刃

作者:紅夜空
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第一部 出会い
  転機

「ギュオオオオオオオオオッ!!」
山奥に不気味な咆哮が響き渡る。
その声の主は体長4、5メートルはある牛頭人身の怪物・ミノタウロス。
手に持った一般的な人の背丈よりも大きい戦斧(バトルアックス)を振り回しながら暴れる姿は、まさに怪物と言うにふさわしいのかもしれない。
ミノタウロスの猛撃をひらりひらりと躱しながら懐に入り込みすれ違いざまに一撃、斬撃を叩き込む。
肥大した筋肉を深々と切り裂いた斬撃。たまらず苦悶の呻きを上げるミノタウロス。
憤怒の感情が乗ったような猛烈な戦斧の一撃が降ってくる。正面から受ければ間違いなく自分の体は押し潰されるだろう。
受け止めた瞬間、刃をわずかに傾ける。火花を散らしながら慣性のままに落ちる戦斧。
地面に埋まった戦斧を踏み台に跳躍する。
「―――終わり」

無慈悲な刃が、怪物の首を刎ね飛ばす。

力を失った巨体が、生命活動を停止してどうと倒れ込んだ。



倒したミノタウロスの肉は絶品だということで私が料理することになったわけだけど…正直、料理の仕方はわからない。なので死体を解体して食べられる部位だけを採取する。
戦闘で少し打ったのだろうか、腕が少し動きにくい気はするが無視して作業を進める。これくらいの痛みなら慣れたものだし、動きにくいといっても少しだけだし。
とりあえず、曹操にどんな料理にすればいいか聞いてみよう…絶品だといったのは曹操なんだし、きっと調理法も知っている…はず。

「ふぅ……」

作業がひと段落したところでさてどうしようかと考える。
基本的には牛肉と変わらない扱いでいいのだろうか、だったら鍋にでもしてみようか…季節的には冬が近づいているから、あったかいものなら喜ぶかもしれない。
そんなことを考えながらナイフを滑らせていると…。

「あ………」

僅かに痛みが走る。見れば指がざっくりと切れているようで、絶え間なく血が流れている。
とりあえず自分で傷口を吸ってみるが、思ったより深かったのか血が止まる様子はない。
流石に肉に自分の血を垂らすのはまずいが、、かといって気になるほどの傷でもない。

「んー……自然に止まるかな?」

「…何をしている」

納得したところで背後に迫っている気配に向きなおる。当然、怪我をした指は背後にさっと隠した。これでばれることはないはず。
が、すぐに隠した腕を掴まれる。あれ、もしかして、最初から見ていたのかな…?
困惑する私の前で、厳しい目で傷口を見ている曹操。心なしか怒っているようにも見えるけど…そんなに怒られるようなことしたかな?

「結構深く切っている……雑菌が入るとまずいな、少し我慢してくれ」

「…ん、分かった」

頷くと曹操は私の手を取り……指先を口に含み、傷口を吸い始めた。
何とも言えない感覚が私の中に広がっていくけれど、別にそれには何とも思わない。ただ少しだけ――――くすぐったいような、きゅんとするような…
表情や仕草には一切出さずそんなことを思っているうちに、曹操が口を離す。

「すぐに手当てをするんだ。料理のほうは俺が作っておく」

「…ん、分かった」

ああいう口調で言うときの曹操は、残念ながら反論をしても無駄だ。
それが分かっているからこそ、私も素直に諦めて手当をすることにする。
ガサゴソと荷物の中を探っていると、ちょうどよさそうな布が出て来たので血を拭う。傷口が見えたところで、止血をしたまたま持っていた絆創膏を貼る。これで傷口の処置は完了だ。
トントンとリズミカルな包丁の音を聞いてしばし考え事をしていると、いい匂いが漂ってくる……結局、どうやって調理したんだろう?
曹操が鍋を持って入ってくる。あ、結局鍋にしたんだ。

「すまない、待たせたな」

「ううん、大丈夫……結局、鍋でよかったの?」

野菜も入って美味しそうだ。それにやっぱり、外は寒いから温かい食べ物がありがたい。
器を渡されて、箸をとる……だけど。
先ほどより腕を動かすのがつらい。どうやら、軽く見ていた負傷は結構深刻だったようだ。

「…どうした?」

そんな自分の動きに気が付いたのか、曹操が怪訝な顔をして問いかけてくる。
こういう時は彼の観察力がちょっとだけ恨めしい。見抜かなくてもいい不調まで見抜いてくるから…隠すのはそれなりに慣れてるのに。

「……ちょっとだけ、動かしにくいだけだから、気にしないで」

見抜かれているなら仕方がない、素直に事実を告げよう。
そう思って告げると、また考え込むような顔をしていたかと思うとこちらを手招きする。
器を持ったままではあるけど膝だけでそちらへ寄ると、器が取り上げられ……

「ほら、口をあけてくれ」

…えっと、どこかの本で見た「あーん」の体勢になっていました。なんでこうなったのかな?
けど、私の腕が動かしにくいのも事実。多分、しばらく放っておけば動かせるようになる類のものだと思うけど……今は動かしにくいのなら、食事はとりにくい。
そういう意味では合理的な判断だとは思うけど……流石に恥ずかしい、かな
でも決めた以上はよほどのことがないと覆してはくれないだろう。なら、諦めて身を委ねたほうがいい。
そう考えなおして、差し出された肉を口に含む………美味しい。曹操って料理もできるんだね、私が作るものよりおいしい気がする…

「味はどうだ」

「ん、美味しいよ」

そう返すと「そうか」と言ってまた差し出してくる。私が咀嚼している間は自分の器にも手を伸ばしているので、邪魔になっているわけではないとわかってほっとした。
温かい食事を食べながらの二人だけの空間。そこに…

「―――我にもそれ、分ける」

全く突然に、知らない気配が降り立った。
黒いワンピースを纏った小柄な体、腰まである黒髪の端正な顔立ちの少女―――だというのに、私が感じたのは、息苦しくなるほどの脅威。
脳内で警告のサイレンが狂ったように鳴り響く気がする。
私でもわかる、あれはやばいものだ……敵対したら一瞬で潰される、そんな類のものだ。
今まで相対した何者よりも、強く、強大な―――

「……無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)オーフィス…まさか、世界最強の存在がこんなところに現れるとはな…」

曹操も流石に驚愕したように身構えている。世界最強―――これが、その存在。
正直、全力を尽くしたところで傷一つつけることはできそうにない。それくらいの差がある……
私達の警戒の視線に全く頓着することなく、オーフィスと呼ばれた少女は鍋の中を見つめている。
と、小さな手を突っ込んで肉の塊を取り…咀嚼する。
満足したかのように唇をなめ……来た時と同じように唐突に、姿を消した。



龍神が去った後、私は片づけをして(曹操に手伝ってもらうことにはなったが)、曹操に先ほどのオーフィスのことについて聞いてみることにした。

「オーフィス。全世界の中でもトップの無限と虚無を司る無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)だ。俺の聖槍でも毛ほどの傷も与えられない、“禍の団(カオス・ブリゲード)”と言う集団のトップだ」

禍の団(カオス・ブリゲード)?」

「ああ、三大勢力の和平や協調を快く思わない集団のことだ。トップはオーフィスとなっているが、実権は様々な派閥のトップが握っている形だ。俺が最近、情報を集めていた組織でもある……さて、四織」

唐突に曹操がこちらに話を振ってくる。珍しいなと思いながら目を向ければ、何やら思案している様子の曹操の姿があって。

「……俺は、ある英雄の血をひいて生まれてきた。聖槍などと言うものにまで選ばれてしまった」

「……それで?」

真っ直ぐに瞳を見据えて問いかければ、曹操も意を決したように語る。その姿は、いつもの私が知る彼ではなく……

「祖先の血や聖槍、そう言ったモノを考えて、俺は英雄になるべきだと思い生きて来た。だから、これは挑戦の一つだと思っている。禍の団、異形の敵対者として俺は英雄になる為の挑戦を、人間の頂へ至る為の挑戦がしたいんだ」

―――熱に浮かされているみたいに、見えた。
……ねえ、曹操。気付いてる?貴方は英雄になる「べき」だと思って生きてきたって言ったけど。
でも……『英雄』って、自分で名乗るもの?
『英雄』を選ぶのは、力ある誰かじゃない……守られる側の、無力で、無名の人々だよ。
―――私の様な。
埒もない思考を心の中にしまって、気持ちを切り替える

「……それで、私はどうすればいいの?」

「君にも、共に来てほしいと俺は思っている。共に歩み、英雄になる俺の姿を、見ていてほしい」

曹操の言葉、それを考えるために一度、瞳を閉じる。
だけど、そんなことをしなくても私の答えは決まっていた。
だって、私には―――曹操と共にいることしか、考え付かなかったから。
あなたは様々なものに縛られた私の世界を切り裂き、私を連れ出してくれた。それが私にとって、どれだけの救いになったことか。
だからこそ――――どんな道を歩もうとも、どこに行こうとも。

「……私でよければ、お供するよ」

あなたが拒絶しない限り、ずっとそばにいるから。
 
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