孔雀王D×D
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5・不穏な予兆
星見の星海。
この年老いた高僧は、星の動きを見て、これから起こりうる事象を占うことが出来る。
今、その高僧は、裏高野新座主・日光のもとを訪れていた。
「日光様、急ぎ耳にお入れたきことがありまして、この星海、参上仕りました」
星海は、自分から比べれば随分年下の日光へ平伏し、お辞儀をした。
「もしや、黄幡星のことではあるまいな?」
日光は腕を組み、眼を瞑ったまま言った。
「御気付きでしたか?」
星海は顔をあげ、不安そうに日光を見つめた。
「いや、私ではない。月読から報告を受けてな」
日光は顎で衝立の向こう側にいる人物を招くようなしぐさをした。
日光に呼ばれた人物は、静かにそして華やかに日光に近づき平伏した。
「なるほど、さすが月読様ですな」
星海は、月読と呼ばれた人物を見つめて微笑んだ。
月読は日光の実の妹であり、裏高野女人堂を束ねる長である。
若く美しい女性ではあるが、目が見えないために神通力は日光と同等とまで言われている。が、退魔の術には精通はしていなかった。ゆえに、日光が魔を退治する光なら、月読は、日光を支える影というべきか。
「しかし、なぜまた黄幡星がまた飛来するのか。あやつは孔雀にとって闇に葬り去られたというのに」
日光は苦虫を噛むように眉間に皺を寄せて言った。
「何故、復活したのかはおそらく・・・・・・・」
月読は言葉を濁した。自分の考えに確信が持てなかったのだ。
「月読様の思う通りでありましょう」
星海は月読の気持ちを察し暗い顔で言った。
「月読、いいからお前の思うことを申せ」
日光は月読が察してることを言うように命じた。が、日光にも薄々はわかってはいたが、あえて月読の考えていることを聞いてみたかったのだ。
「月読様、言いにくきことでしたら、この星海が」
月読に気をつかうように星海は言った。
「ありがとう、星海様。ですが、兄上、私から言いましょう」
月読は星海ににこりと微笑んで後に目を伏せるようにして言い続けた。
「おそらく、兄様も感じえてはいるはずです。この黄幡星の復活は多分、父上のせいではないかと」
「やはり、親父の・・・・」
月読の言葉を聞いた後、日光は上を向いて目を閉じた。
前裏高野座主、薬師大医王。
この人物は、まさに日光と月読の実の父であり、ある事件によって壊滅的なダメージを負った裏高野を救うために即身仏になったというのが事実だった。が、今でも生きていて、自らの野心を燃やしていると噂があった。そして、それに賛同する高僧までいる。
(父上にも困ったもんだ)
日光は、その噂を耳にするたびにため息をついていた。そして、今まさに凶星を再び呼び寄せようとしているとは、裏高野での本末転倒であった。
ここで、裏高野とは、なにかを説明しておくことにする。
裏高野。それは、密教総本山である高野山の裏側にあるといわれている。歴史や人には知られてはいない場所であり、魔物などを払う退魔行を生業とした結社である。そして、黄幡星現れしとき、魔王が復活するいう言い伝えがあった。
孔雀もかつて黄幡星の子として裏高野では疎まられていたが、孔雀の師となった慈空により助けられ育てられていたのだった。
「兄上、孔雀様を呼びましょう」
月読は見えない眼をまっすぐに日光を見つめ言った。
「孔雀を呼ぶだと。あやつはアルマゲドン以来神通力はなくなってしまっているのだぞ。呼び出しても役に立つまい」
日光は月読に鼻で少し笑いながら言った。
「いいえ、孔雀様ならやってくれると私は信じておりまする。それに、私に考えがあるのです」
「考えだと?」
「はい」
日光を強い意志がある目つきで月読は見つめた。
「わかった。孔雀を呼び出せ。五輪坊はすでに嵐しかおらぬが、月読、嵐にも召集をかけろ」
「承知いたしました、兄上」
日光の命令に月読は深々と頭をさげた。
「星海殿は引き続き黄幡星の動向を気にしておいてくれ」
「承知!!」
星海もまた頭を下げて日光と月読の前より立ち去っていた。
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