ソードアート・オンライン〜Another story〜
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マザーズ・ロザリオ編
第251話 日は沈む
前書き
~一言~
遅れて、ほんとーにすみません……
りあるが忙しいって言うのもあるんですが…… この話が難しくて 何度書きなおしたか…… 何度寝落ちしてPCフリーズさせたか…… 涙涙
そ、それでも何とか完成しましたので 投稿します! 上手く表現できたかどうかは 自信ありません!! 自信たっぷりに言います! 自信ありません!! …………ゴメンなさい(´・ω・`)
最後にこの小説を読んでくださってありがとうございます!
これからも、完結に向けてガンバリマス!!
じーくw
ひとり、またひとりと淡い光の粒子となって消え去ってゆく。
最後には、スリーピングナイツのほぼ全員の姿がこの場から消えさった。
そう――ほぼ全員。全てが消えた訳ではない。
「…………ぁ」
シウネーただ1人だけが、この場に残っていた。
少しだけ時を遡ろう。
それは皆が消え去る寸前の事。
皆の表情。それは まるでこの世の終わりを見たかの様な悲痛なものへと変わっていた。
ユウキとランの止めどなく流れ続ける涙。涙が流れている事に気付いていないのか、拭う事さえしなかった。
涙が流れ続けている。それは まるで心の内に封じていた何かがあふれ出たかの様だった。
ジュンとテッチ、タルケンの男性陣も涙こそ流していないが、表情は女性陣のそれと大差ない程沈んでいた。勿論男勝りなノリも例外ではない(失礼だが)。
遂にはバイタルデータが異常値を示した様で アミュスフィアの安全装置が働いて落ちてしまったのだ。……それ程までの衝撃だったのだろう。
シウネーただ1人が残る事が出来たのはメンバーの中で一番年長者であると言う事と、そして何より彼女自身の内にある責任感にあった。
全てを――――知る者としての。
「シウネー……?」
「シウネー……さん」
「………………」
混乱しているのは こちら側も同じ事だった。
リュウキは ただただ立ち尽くしていて、アスナとレイナは慌てて皆が消えた場所へと咄嗟に駆け出していた。 一番傍にいたレイナがシウネーに話しかけていた。
「どう、して? みんな…… みんなが……。なんで、こんなことに……」
アスナも同じ気持ちだ。
自然と皆が残されたシウネー方へと視線が向いていた。
集まる視線を感じ、シウネーは覚悟を決めた。
何度も何度も深く深呼吸をした後に3人の目を見て、決して逸らせずに言った。
「もう、しわけありません。ひとつだけ確認を……させてください。皆さんは サニーの事を知っている……のですか? 私達の……リーダーのことを」
スリーピングナイツのリーダーは ランだと聞いている。そしてサブリーダーがユウキだとも聞いている。だがシウネーの口からは はっきりと告げられた。
『サニーがリーダー』だと。
それは1つの結論も同時に証明していたのだ。
そう―― 今はリーダーはランに変わっていると言う事。
何も知らなければ、ただゲームを引退したのだろう、くらいしか連想しないかもしれないが、最早それは無い。
その名を聞いてからの皆の状況。それらが1つの結論……解へとつながっていたから。それは即ち……。
「サニーさん……って」
「っ……!」
アスナは、レイナを そしてリュウキを見た。
レイナ自身も表情を強張らせていた。そして悲しみもそこから読み取る事が出来た。 それ以上に深い悲しみに包まれているのがリュウキだと言う事も理解できた。
リュウキ自身は表情には出してい。……だけど十分すぎる程に伝わるのだ。押し殺している事が本当に伝わるのだ。
「……でも も、もしかしたら 同じ名を持つだけで、別人……という可能性は……?」
シウネーがそう聞いた。
場の雰囲気で 間違いなく知っている、という事は伝わっていたのだが それでも否定をしたかった。
此処から先の話は 悲しみしか生まないから。
メンバー全員が 今も尚引きずっているのだから。
「……現実の、話は…… 彼女としたことはあるのか? 彼女の……名を知っている……か?」
リュウキは、表情を変えずにそう聞いた。
シウネーは その表情を見て、思わず貰い泣きをしてしまいそうになったが、何とか堪えて、そして頷いた。
それを見たリュウキは、ほんの一瞬だけ間を置いた後に……呟くように、懐かしむように声に出した。
「サニー…… 彼女の名前。………日向 春香。オレと一緒に仕事を、していた」
淀みなく言の葉を紡いでいたリュウキだったのだが 嘗ての記憶が揺り起こされていくのを感じたのか、身体が小刻みに震えていたのがハッキリと皆は判った。
「さに……は、…………お、おれ、ぼ、ぼく……… が、す、すくえ……なく……て……、う、うしな……っ」
言の葉が詰まりに詰まる。そして最後まで声に出す事が出来ない。
過去のトラウマが リュウキの頭の中でフラッシュバックを続けていた。目も眩み ただ立っているだけで精一杯だった。いや 今にも倒れそうだったと言えるだろう。リュウキ自身も落ちなかったのが奇跡だと言えるかもしれない程だった。
それ程までに そのトラウマはリュウキに深く刻まれていたのだから。
SAOの世界で支えてもらったからこそ、乗り越えられたが 完全に消える事などは出来ないから。
「リュウキ、くんっ……!」
リュウキの事は誰よりも知っているのはレイナだ。苦しみの理由も全て知っている。始めて心の内を打ち明けてくれたから。
だからこそレイナは 直ぐにリュウキの腕を取り抱き寄せた。
想いが伝わる様に。
――あの時とは違うから。今のリュウキ君は1人じゃないから。私が直ぐ傍にいるから。
そう伝える様に。
「………っ」
そのおかげで 踏みとどまる事が出来た。
話を聞く事が出来る様になったんだ。
「………ぁ、ぁぁ。ほん、とうに………」
そしてシウネーは もうそれ以上聞く必要は無くなった。
それだけで全部判ったから。
目の前の人が。リュウキと言う名を持つこのひとが。
――サニーにとっても大切な人だったのだと言う事が。
だからこそ決めたんだ。
「全て……話します。あなた方には、知る権利が。……知らなければならない話、ですから。私達が 私達になれた話」
――……ずっと眠ったままだった私達を 立ち上がらせてくれた大恩人の話。スリーピングナイツの始まりの物語。
サニーとスリーピングナイツの話を語る上で最も欠かせない要素。欠かせない人物と言えば間違いなく、ランやユウキの2人だろう。彼女と最初に出会った2人だから。
サニー、いや 日向とユウキ、ランの出会いは《病院》だった。
詳しくはシウネー自身は訊いてはいないが、この場で真実を少しだけ語るとする。
初めて出会った時のユウキやランの2人は 精神的にも本当に追い込まれた時期だった。それは病院での検査も深刻と言える数値にも表れだしており、益々 負の連鎖は続いていた。
病院へは家族全員で、母と父も含めた4人で来ていた。
2人の両親も懸命に支えたらしい。2人も同じ病を抱えていたのだが それでも娘たちを第一に考え、支え続けた。そして それに応える様にユウキもランも頑張りに頑張り抜いた。 それでも、数値に現れた以上は現実は非常だとしか言えないかもしれない。
『神様は乗り越えられない試練は与えない』
カトリック信徒である母の言葉だったらしい。その信仰の力と親子の絆で以前も乗り越える事が出来たのだから、今回もきっと乗り越える事が出来ると強く想い願った。
それに応える様にランもユウキも頑張り続けた。
それでも一度出来た亀裂は。心の傷はそう簡単に塞がるものではない。目に見えず 痛みも感じないナイフで少しずつ精神を、心を削り取られ続けたのだから。
決して弱音は口にしない2人だった。
口にはしなかったが、それでも検査をして 目に見えて悪化をしていく自分自身を見ながら いつからか『なんで自分達だけが……』と思ってしまったのだ。
暗く沈みそうな心。それなのに毎日は続いていく。
日は沈んでまた昇る。雲一つ無い晴天。痛い程の青い空の日。
何気なく2人はいつもの病院の中の中庭へと足を運ばせていた。まだ比較的自由に歩き回る事が出来た時期だった。だけど、この先はきっと自由などない、という事が2人には判っていた様だ。 だからこそ、求めたかったのだろう。青い空を。……高い高い自由な大空を。翼でもあれば 自由に飛び回る事が出来るのに……と。
そんな時に 日向と2人が出会った。
中庭にいたのは1人だけだった。
1人の少女。車椅子に乗った少女が 空を仰ぎながら目を瞑っていた。
日の光が集中でもしている……とでもいうのだろうか、ユウキとランの目には 太陽の光が 昼間だと言うのに 目の前の少女に降る注いでいるかの様な幻想的とも言える光景に見えた。
軈て、少女はユウキとランに気付いたのだろう。目をゆっくりと開けて2人の方へと視線を向けた。
そして ニコリ……と微笑みこう言ったんだ。
『こんにちは―――。今日は天気が良くて、何だか気分がとっても良いですねー』
「サニー……、日向さんから貰ったんだと。あの人がくれましたとずっと言っていました……ユウキとランは いつもの様に言ってました。日向さんが心からの笑顔を。……命までくれたんだって。そこからでした。私達は まるで導かれる様に ユウキとランに、サニーに出会いました。紡がれた輪はどんどん広がりました。……大切な仲間が増えて。沢山……冒険をして……」
シウネーはリュウキやアスナ、レイナの目を見て話しをしている筈なのに、その視点がズレている様に感じた。自分達の背後。……いや 遥か遠い過去に目を向けているかの様に感じた。
「サニーは 言ってました。『逆ですよ。今の私は空っぽで、皆が満たしてくれたんです。今も満たしてくれてるんです』と」
「からっぽ……? それはどういう意味、ですか?」
「………」
支えてくれているレイナや 辛い今のリュウキに代わって、アスナがシウネーに訊いた。
そして、漸く判った。
サニーが生きていた事。それ自体がリュウキにとっては驚愕する事だ。
だが、判らない事だってある。無事だったのであれば……どうして、今の今まで知らなかったのか、だった。調べなかった訳はない。あの狭山を潰した一度目の件の後。リュウキはサニーの無事を信じて探した。
でも、それっきり会う事は出来なかったんだ。綺堂も手を尽くしてくれたが、無理だったんだ。
その理由が判った。
「サニーは ある時期の記憶を喪失してたんだって言っていました。……父も母も養父母で、自分の昔の事は判らない、と言っていたと」
記憶の喪失。
それはリュウキ自身にも経験はある。失っていた時と現在。なぜ、あの時思い出す事が出来なかったのか 今でも判らないんだ。どれ程重要な事でも どれだけ大切な事でも 人間は喪失してしまう事がある。
「それでも、その時の気持ちは覚えていた、と言っていました。『とても楽しくて、楽しくて、育ててくれた両親には悪いと思いますが、一番かもしれません』とも言っていました。……それが、リュウキさんの、事……だったんですね」
その固く閉ざされた記憶の箱。それを開く為に必要な鍵が無ければ、開かれる事はない。僅かの隙間から 記憶の断片を引き出す事は出来ても、全てを思い出す事は出来ないんだ。
それを、よく知っている。 リュウキはレイナと言う存在が。最後の鍵があったからこそ思い出す事が出来たのだから。
サニーにとっての鍵は きっと……。
「リュウキさんのお話は沢山聞かされましたよ。話をしている時のサニーはとても楽しそうで、輝いていました。本当に笑顔だったんです」
「……(心の鍵は……リュウキくんだったんだ。凄く辛い事があった。心を守る為に 人は記憶を消す。消す事で、心を守ることができる、から……)」
話を聞いていたリュウキは ゆっくりとシウネーの傍へと近づいた。
その手にレイナを繋いだまま。
「……ありがとうレイナ。大丈夫。大丈夫……だから。傍にいてくれて、ありがとう」
「うん……っ」
そして、意を決する様にシウネーに訊いた。
「もう、大丈夫。……だからシウネー。教えてくれないか? サニーは…… 今、サニーは何処に……?」
「……わかりました」
もう……判っていた。
だけど、はっきりとその口から聞きたかった。
過去を乗り越える為に。……先に進む為に。そして 全てを知り、支えてくれる人達の為にも、立ち止まる訳にはいかないから。
「サニーは……………」
全てを告げられてから―――3日目。
冷たい北風が吹き抜けるコンクリートむき出しの校舎屋上。そこにリュウキは佇んでいた。
広がる街並、吹き抜ける風、ここから見える大空。
本当に不思議だった。心情1つで ガラリと景色が、感覚が、感じ方が全て変わってしまうのだ。 これはきっとまだVR世界でも表現する事は難しいだろう。人間の脳と言うのは、……人の心と言うのは、それ程までに難解だから。
この学校に来て 毎日が勉強だと感じていた。
新しい事を見つけては心に刻む。他人が見れば単純極まりないと思うかもしれないが、それでも一喜一憂し続ける。何よりも楽しかった。そして その傍には愛する人も、友もいる。自分は満ちていたと思っていた。
いや、違う。今もきっと満ちている。今――心に大きな穴が空いて、自分を見失うような事になってしまえば、それこそ皆に合せる顔などない。アレだけ支え続けてくれたんだから。待っていてくれたんだから。
彼女の事。……サニーの事は、決して忘れない。いつまでも心に刻み付ける。彼女が初めてだった。自分の人生で初めて好きになると言う感情を知れた相手だったから。
大切な事を教えてくれた大好きだった彼女の事は忘れない。 それ位なら きっとレイナだって許してくれるだろう。レイナを想う気持ちも決して嘘偽りではないのだから。
「……リュウキ君」
噂をすれば何とやら。
屋上にレイナが来ていた。
いつも学校では此処で話をしたり、昼食を取ったりもしているから別に珍しい光景ではない。
でも 今日も来てくれた、とリュウキが思ってしまうのも半ば必然だった。
「レイナ。……ははっ 今日は早かったみたい、だな。いつもはもうちょっと遅めなのに」
「あはは…… で、でも リュウキくんが早過ぎるんだよーっ! もうっ 綺堂さんに聞いたよ? 夜も遅いんだーって! しっかりと睡眠時間取れてるの??」
レイナは、顔を少しだけ膨らませながら ちょんっ とリュウキの鼻先を突いた。
それを訊いて、リュウキは苦笑いをしていた。
不定期になる事などちょっと前まではしょっちゅうあったから、あまり気にしてはいなかったんだけれど、健康管理に気を使ってくれる人が更に増えたから、その面もしっかりしないと、と思い直したばかりだったのに。
「ごめんごめん。……でも、もうちょっとだけ、頼むよ。絶対無理はしないから。ふふ。大丈夫。ほら 眼を使うみたいな無茶もしないから。うん。してないから」
「もうっ それはとーぜんですっ! リュウキ君が倒れちゃったら、私 泣いちゃうからねっ! 絶対だからねっ!」
「……それは嫌だなぁ。レイナは笑顔が良い。笑顔が一番似合ってる。一番……好きだ」
「っ/// そ、それは……リュウキ君も、だよ? リュウキ君も……笑ってる顔が私は一番好きだからね」
吸い寄せられる様に、2人の手は紡がれた。
軈て、話は変わる。
「……お姉ちゃんも、色々と頑張って探してるみたい……だけど。やっぱりわからないって。もう3日も来てないし……」
スリーピングナイツの話。
シウネーから全てを訊いたあの日より、その誰もがALOに入ってきていなかった。
―――もう一度、話がしたい。
そう思ったのは、当然アスナやレイナだけじゃない。
リュウキも同じなんだ。
「……レイナ」
「ん……?」
リュウキは 手の握る力を少しだけ強めて 言った。
「オレが会いに行ったら……拒絶、されないかな?」
それは考えもしない事、まさかリュウキの口からそんな言葉が出るとは思いもしなく、言葉が数秒出てこなかった。
「オレがあの時、……サニーの話をしたから、ランは。……ユウキは涙を流した。他の皆も同じだった。……心の傷は そう簡単には癒えないのはオレ自身がよく知っているから。……だって、皆はオレ以上に 長く一緒に旅をしてきたんだから」
この冷たい風が吹き込む中。その風音にかき消されそうな小さな声でリュウキは続けた。
そう――シウネーからはっきりと訊いたんだ。
ALOへと来る数か月前に、……サニーは、日向春香さんは息を引き取ったのだと。
長く共に冒険を続けたかけがえの無い仲間が。それもランやユウキが『心からの笑顔と命をくれた』とまで言わしめた大切な人が…… ともなれば、精神が崩れてしまったとしてもおかしくない。
簡単に乗り越えられる問題じゃない。
その気持ちが痛い程判るリュウキ。その表情には躊躇っている様にも見えた。
だから、レイナははっきりと言った。
「そんな事ないよっ!」
はっきりと、リュウキの目を見て。その頬を両手で挟み、覗き込む様にしながらつづけた。
「そんな訳ないじゃん。……きっと、2人ともリュウキ君にまた 会いたいって思ってるに決まってるもん。……そう、私も信じたいもん。『大好きだった人がいつも話してた人』。それがリュウキ君なんだよ? ……2人が知らない話を、聞かせてあげたいって、私だって思うから!」
「……………」
レイナの、……玲奈の目を見て リュウキは、隼人は 少し驚いていた表情を和らげた。
そして、そっと手を取り ゆっくりと玲奈との距離を詰めた。
玲奈も少しばかり頬を赤くさせてびっくりしていたが 直ぐに受け入れる様に目を閉じ、軈て2人の距離が零になった。
それは とても優しくて落ち着く時間。不謹慎だと何処か頭の中で思ってしまった隼人だったが、それでも 求めたかった。
「ありがとう。……やっぱり 玲奈を見てると落ち着く。……凄く安心できる。勇気が沸くよ」
「私だって同じだもん。……隼人君には沢山貰ってる。……大好きだ、って気持ち 貰ってるから」
そして、数秒間だけ 隼人が玲奈にしていた様に 額と額を預け合い、ゆっくりと口を開いた。
「オレは判ったよ。……2人がいる場所」
少し時間を遡る事数十分前。
教室を出て、駆け出していく妹を……玲奈を見送った明日奈。行き先は勿論判っている。最愛の人が待つ屋上。そこは2人の場所だと明日奈は思っていた。学校中庭と言う絶好ポイントを譲ってもらってる? という事もあって 屋上は妹の玲奈に譲ったんだ、と自分の中では決めているが、実を言えば 隼人は和人以上に恥ずかしがり屋。カフェテリアから丸見え、と言う自分達の場は、はっきり言って目立つ。
明日奈も和人も、目だったりする事が得意だと言う訳ではないが、隼人程ではない為 ここは快く譲ったのだ。
何にせよ、正直面白くないのは 里香や圭子、果てはこの学校にはいないが、遠くから感じ取っていてもおかしくない 名スナイパーである詩乃だと言うのはご愛敬だ。
「……ユウキやランに、もう会えないのかな」
皆の事情は、全てではないが 理解する事が出来た。
確かに大切な人を失う、と言う気持ちは 明日奈にもよく判る。あの世界で……妹が目の前で経験したあの光景。自分に当てはめて少し考えただけでも 心臓を強く握られる様に感じるのだから。
それでも、たった数日だけの付き合いだったけれど、彼女達とは心の奥深くに拭いきれない印象を受けたのも確かだった。それをこのまま忘れるような事など出来る訳がない。
『ぶつからないと伝わらない事がある』
そう、大切な事を教えてくれたあの人たちとまた会いたい。会って話がしたい。
明日奈は強く願っていた。
自分が会った所で、何かできるとは思えない。だけど……それでも 話がしてみたい。
そう思っていた時だった。
携帯の画面が光った。その画面には『和人君』の文字が躍り出ていて、急いで開いてみると。
『いつもの場所で待ってる』
と言うメッセージが映し出された。
いつもの場所、とは決まっている。言うまでもない。 明日奈は そのまま駆け出していった。
いつもの場所―― そういつものベンチでいつも昼食を取り、時には談笑し 時には身を寄せ合い……憩いの場ともなっている場所。中庭には緑のトンネルが存在し、その木々の合間を縫って歩く事数分で到着する円形の小さな庭園。
その中にある小さな白木のベンチに1人だけ座っていた。
吸い込まれる様に明日奈は駆け寄り、そっと隣へと座る。そして 肩口に額をぶつけた。
そして、開口一番。驚きの言葉を口にした。
「絶剣と剣聖の2人。……リュウキもきっと判ってる筈だ。オレが判ったんだから」
「え……っ!」
明日奈は身を寄せていて、落ち着かせようとしていた身体だったのだが、直ぐにはじかれる様に動いた。
驚きのあまり、少し首筋が痛くなりそうだったが、それを我慢して和人の目を見る。
「ほ、ほんと?」
「ああ。……だけど、その代わり……と言ったらアレだけど 少し頼まれてくれないか?」
和人の顔は暗かった。思いつめた表情をしている、とでもいうべきか。
明日奈はその言葉を訊いてゆっくりと頷いた。
それを見て、和人は続ける。
「リュウキは、今悩んでる。……会って大丈夫なのか、って。拒絶をされるだけじゃないか、って。……オレは ユウキやラン達のこと、明日奈から聞いたから知ってるつもりだ。でも、その場所に、オレはいなかった。だから……、そこにいた明日奈に、……玲奈にもだが、リュウキの事を支えてもらいたい。アイツは悪くなんか無いんだ。勿論、今回の件。悪いヤツなんか誰一人いない。……ちょっとした巡り合わせの違いで、こうなったんだってわかってる。……カミサマってヤツがいるんなら、ソイツは ほんとに性格悪いよ。ここまで頑張りに頑張り抜いた男を、また苦しめようとしてるんだから」
須郷や狭山ばりだ、と口に出しかけたが和人は言葉を飲み込み、ため息交じりに笑いを上げた。
それを訊いて、明日奈は 少しだけ間を置くと ゆっくりと微笑む。
「ふふっ…… 和人君って、ほんと隼人君の事が好きだね? 私、妬いちゃうかもだよ? 勿論、レイだってさー」
「っっ!! お、おまっ! あすなっ!? 何変な事言ってんだよ!!」
「ふふふっ じょーだんだよ」
どわぁっ! と思わずベンチからズッコケ落ちそうになってる和人を見てまた笑いがこみ上げてくる。
「でも、ほんとに想ってるって言うのは伝わるんだよ。……だって、今の和人君。隼人君が初めて心から落ち込んだ時も。……SAOでの世界で、傷を負ったも そんな顔してたから。そんな顔をして、隼人君の事、心配してたから」
明日奈は、つんっ と和人の頬を指先で押した。やわらかな弾力は明日奈の指を返し、そのまま指を引っ込める。
和人は少々気恥ずかしそうに 頬をポリポリと掻くと 少し唸りながら言った。
「う、うぅん……。アイツの事が心配になるんだ、って明日奈だってわかるだろ? 普段は人一倍大人びてるって言うのに、時折幼さだって見えだしたりするし。……隼人が怒るから直接は言わないけど、オレは 息子って言うより 弟を持った感覚にだってたまになるんだからさ。……オレ、一応 スグの兄貴だから より思っちゃうんだよなぁ」
「あははは。勿論。私だってわかるよ? 色んな意味で隼人君は凄いのに、時には抜けちゃったトコがあったりして 可愛いと言うか面白いと言うか。……それは 和人君だって一緒かもだね? と言うより、和人君だって負けてないよ? ……あっ、それに 一応兄って、なんか直葉ちゃんが可哀想だよー。お兄ちゃんっ! って言ってるのにさ」
「じょ、冗談だって。言葉の綾ってヤツで……」
隼人の事を幼い、と言った事は薮蛇だったかー と言葉が多かった事に和人は少し反省をした。
それを訊いて明日奈は ゆっくりと顔を上げた。
「私はね。……やっぱり また皆に会いたい。短い時間だったけど、たった数日って時間だったけど、皆は大切な事を教えてくれた。その事のお礼だって言いたいし、もっともっと話しだってしてみたい。和人…… キリトくん達と一緒に加わって、皆で冒険って言うのだって面白いかもって思ってる。……事情があるって事は判ってるけど、それでも 前に進みたい」
「………」
突然の別れだった。
拒絶されたわけではなく、本当に突然別れた。それだけの理由がある事も判った。
それらを踏まえてたとしても、自分達のエゴだって判っていても、また会いたいと言う気持ちの方が強かった。
「それにね。和人くん。……きっと、心配ご無用だと思うよ」
「え?」
「私なんかよりも先に、レイが何とかしてくれるって思ってるもん。……隼人くんはレイが一番で、レイは隼人くんが一番だから。……私が言うまでもない、って思う」
「……ははっ。そう、かな。そうだったら良いな」
「もっちろん。私の自慢の妹だもんね。……ぁ、後……ね」
隼人の言葉を……使うのは少々申し訳ないな、と何処かで明日奈は思いつつも、和人に言いたかった。
「私は和人君が、……キリト君が一番だからね? キリト君が……一番」
「っ………ああ。オレもだよ」
一言一言いう度に、熱いものが身体の芯から飛び出してきそうな感覚になる。
想いが通じ合った恋仲であっても、あったとしても ちょっとやっぱり照れてしまう。
「(……こ、これを自然に言ってるリュウキ君って、やっぱり……)」
「(凄いよなぁ……。ほんと色んな意味で)」
2人して顔を赤くさせ、同時にそう思ってしまったのだった。
「明日奈。……2人の場所だけど、オレはきっと此処だって思う。隼人にも聞いたし、同じ結論が出てたから殆ど間違いないって思ってる」
「横浜の……病院? 横浜港北総合病院……?」
「そこだけなんだ。日本で唯一 データが集まり、試験を成功させて終えた場所。もう普及しているのは。……《メディキュボイド》を実用段階まで進めている場所は」
「メディ……キュボイド……?」
それは、少なからず聞いた事があるものだった。
いつ頃だったか、もう忘れてしまったが VR技術の結晶であったナーヴギアの開発と同時進行だった筈。あの当初は娯楽要素が強いナーブギアに完全に勢いを殺されていたのだ。
確か―― 仮想世界の誕生と同時に、この世界にやってきた医療関係の何か――。
後書き
作者である じーくw は、ハッピーエンド派なのです。大事な事なので、二度良いますwwハッピーエンド派なのです!!
なので、ちゃんと形になる様に……が、ガンバリマス……!
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