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艦隊これくしょん〜侵食された者の決意〜

作者:村雲恭夜
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第一話 REBOOT〜復活〜

どれくらい航行しただろうか。
恐らく一日以上は海を走っていた事だろう。
道中、別の深海棲艦に襲われる事なくヲ級は今は誰も居ない名もなき鎮守府の工廠に足を踏み入れた。
『…居る?』
声を上げると、奥から足音を立てて一人の深海棲艦が出てきた。
『ナンダ、オマエカヲ級』
名をレ級。ヲ級同様、深海棲艦で在りながら人の営みを楽しむ異端者の一人。今は誰も居ないこの工廠に住み、日々甘味を楽しんでいると聞いている。
『ナンノヨウデアイニキタ…ッテソノニンゲンハナンダ?』
レ級はヲ級が抱えている提督を見ながら驚く声を上げる。
『助けて上げてほしい…この人は、私たちにとっての希望になる』
ヲ級は早速願いを言う。しかし、レ級は首を振る。
『ムダダヨ。モウソイツイキガナイ。モトモトシニタイヲツレテキタトコロデ』
『でもまだ心臓は動いてる』
それを聞くと、レ級は奥に戻ろうとした足を止める。
『ナニ?』
レ級は近づき、心臓に手を当てる。
『…フム。タシカニ』
『…レ級。確か深海棲艦の血を与えると深海棲艦化するかどうかの実験をしてたよね?それ、試せない?』
ヲ級の提案に、レ級は呆れながら言う。
『アレヲ?ムダダトオモウヨ。ソモソモタエラレルジョウタイジャアナイ。ソレニソイツハニンゲンダ』
『でもこの人は私達と同じ匂い…と言うか同じ感じがする』
ヲ級の言葉に興味を示したか否か、レ級は身体を反転してついて来いとレ級にいう。
『レ級…』
『カンチガイスルナヨヲ級。コレモジッケンノヒトツニスギナイ。ベツニノセラレテヤルワケジャナイカラナ』
レ級の言葉にヲ級は少し笑いながら後に続く。
『ツイデニイウガ、ホンライノ深海棲艦ニナルプロセストハコトナルノガコノジッケンダ。ニンゲンヤタノセイブツガ深海棲艦ニナルノカドウカノナ。ダカラセイシハホショウハシナイゾ』
『うん、分かってるよ』
『フン…』
レ級とヲ級は奥の扉へと入り、手術室みたいな場所へ出る。
『ソコニソイツヲオキナ』
ヲ級は手術台に提督を置くと、レ級は注射器と輸血パックを何個か持ち出す。
『サテサテ、ドウナルカワカッタモンジャナイガ…ウンメイッテモンヲシンジルンダナ!』
そして、レ級の実験が始まった。







_______






「…んん」
光が眩しい。少しずつ目を開ける。
窓から海風が通り、太陽が俺を照らしていた。
「何か…どうなっていやがる。あの時俺は…」
俺は起き上がりながら、身体を見る。特に身体には問題はなく、至って健康だ。
「って、なんだこれ。輸血?」
腕に刺さっている物を外して、近くにある鏡を見る。
「特に変わったことは…」
と、もう一度俺は鏡をよく見る。
「変わってんじゃねぇかよ俺ぇ!!」
黒髪が白髪に、目が赤くなっている。それ以外の変化はないが、かなりの変化である。
「どうなってんだ一体…」
そして今更ながらあたりを見回してもう一度いう。
「ここは何処だそしてぇ!」
『ゴチャゴチャウルサインダヨ!ビョウニンハオトナシクネルノガニンゲンジャナイノカ!』
大声と共に扉から誰かが入ってくる。
そちらを見ると、レ級がイライラしながらこちらを見ていた。
「レ級!?」
近くを見るが、ゲーマドライバーも何もない。丸裸同然であった。
『ヘェ。イチニチモタタナイノニウゴケルノカ。ナラ…』
レ級は主砲を俺に向ける。
「オイ、それで何するつもりだ」
『キマッテルダロ。テストサ』
次の瞬間、砲撃音が響く。
不味い。そう思った瞬間、俺の手から光が漏れ__
「だっしゃあ!」
腕に巻き付いた槍で一刀両断していた。ほぼ反射神経のみで。
『オ』
「何のつもりだこの野郎!殺す気かテメェ!」
『イヤ、イチドシンデルカラネ』
レ級の言葉に思い当たる節もあるが取り敢えず槍を出したままレ級にいう。
「どういうことか説明しやがれ下さいこんちしょう!」
『マーキョクタンニイウトダネ』
レ級が説明に入ろうとすると、またも扉から誰か現れる。
「ちょっとレ級。今の騒音何…って」
その人物は、俺もよく知っていた。
「起きたの提督!?」
「なんでお前がいんだヲ級!?」
『オヤ、シリアイナノカ』
ただただカオスな顔合わせでしかないこの場に、ツッコミを入れる余裕すら今はない。取り敢えず誰から説明を聞けばいいか分からない。
『デ、セツメイハ?』
空気を読んだレ級が説明に入りたそうにしていた。ならばお言葉に甘えて。
「どういうことか説明しやがれ下さい」
土下座して頼んだ。





__________






食堂らしき場所に場所を移して、ヲ級手製の朝食を食べながら、俺はレ級の説明を聞いていた。
「つまり…俺は深海棲艦化した事で復活して不死身と深海棲艦の呪いを受けたと。現状悪化したな俺の身体…」
『オドロイタヨ。マサカスデニ深海棲艦ノイチブイショクデ深海棲艦化シテタンダカラ。トハイエシンショクハヒドカッタシソノオカゲデタスカッタトオモエバイイトハオモウヨ』
「今更だが、こうして名もなき狩人の恩恵がここで生きるとは思わなかった…」
俺自身に呆れながらも、生きていることに感謝しなくてはならない。いや実際一度死にかけ一度死ぬと言うのは体験は二度としたくはない。
「何にせよ良かったと言う他無いね」
「ヲ級もサンキュな。あそこにお前いなきゃ本当に死んでたかもな」
『マァシンダラコウカクリツデシンショクタイノ深海棲艦ノタンジョウダロウネ。ヒジョウニワラエナイガ』
レ級の呆れ声に反論もできない。
『ソウソウ。キミノコシニマキツイテタモノダケドネ』
レ級が思い出した様に俺にいう。恐らくゲーマドライバーの事だろうか。
『ソンショウガハゲシイカラカンゼンシュウリトハイカナイケド、シュウフクハシトイタヨ。アトデセイサクシャニデモシュウフクヲタノムンダネ』
懐から取り出すゲーマドライバーとなぜかあるガシャットを受け取る。
『シカシ、艦娘ノギジュツモタイシタモノダ。ニンゲンイジョウジャナイカ?』
「…いや、それはうちの馬鹿だけだと思うから安心してくれ」
鎮守府で今は恐らく苦労人と化しているであろうメロンとチーフを思い出しながら俺はいう。鎮守府の騒動の半分はあいつ等だ。
「ってそうだ!あの後どうなったヲ級!?見てきたんだよな!?」
俺は思い出した様にヲ級にあの後の事を問う。唐突な問いに困りながらも、ヲ級は質問を返す。
「取り敢えず、全員無事みたいだよ。だけど、あの様子だとまた来るかもしれない…厄介だからね、提督の艦娘達は」
「…」
確かに、現状他の鎮守府と比べ、襲撃率が高いのはバカ二人の技術力の高さに加え、再現率の高さ、そしてそれを扱える俺と一部の艦娘。深海棲艦にとっても厄介なのは間違いないだろう。
「直ぐに戻りたいけど…」
レ級をちらりと見ながら言う。
『イワズモガナ、ドクターストップトイウヤツダヨ。シバラクハアンセイニシナイトイケナイ。ツイサッキマデシニタイダッタンダ、ムリスルノハキョカハシナイ』
「…」
『ダガ』
レ級が言葉を続ける。
『マァワタシヲツレテイクトイウナラハナシハベツダ』
「レ級!」
ヲ級が立ち上がって抗議しようとする。
『ムダダトオモウヨ、ヲ級。コイツハネッカラノバカトイウヤツダヨ。イワレテトマルナラクロウシナイ』
「だけど!!」
それでもヲ級は声を荒らげるが、俺はそれに待ったを掛けた。
「悪いなヲ級。コイツは俺の性分みたいなもんだ。いつ終わるかも分からないこの戦いで、少しでもあいつ等に明日を見せられるなら…俺はどうなっても良い」
そう言うと、ヲ級は溜息を付きながら椅子に座り込んだ。
「提督ってこんなのばかりなのかな…」
『マァイイジャナイカ。スクナクトモタイクツハシナイ』
「お、話がわかるじゃんレ級」
「ちっっっとも良くないからね!?」
ヲ級の声が辺りに響き、俺とレ級は大声で笑った。 
 

 
後書き
提督がヲ級達と行動を共にしている頃、鎮守府では嘗てない大騒動が起きていた。
謎の深海棲艦襲撃に加え、指揮系統の全権限者であった提督の消失。
そんな中、再び襲来する深海棲艦。
秘書官である瑞鶴は反撃を決行するが…
次回、侵食された者の決意。
第二話、RESTART〜勇者と龍王〜 
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