| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

真田十勇士

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

巻ノ百十 対面その五

「よいな」
「すぐにですな」
「それは」
「そうじゃ、そしてあ奴と共にな」
 浅野幸長、彼とというのだ。
「右大臣様のお供をするぞ」
「わかりました、それでは」
「お二人で右大臣様のお供をし」
「大御所様とお会いして頂く」
「そうして頂きますか」
「こうすれば茶々様もわかって頂けるであろう」
 その死が近い顔でだ、加藤は目だけを光らせて言った。
「右大臣様を大坂から出される」
「これからの豊臣家を考えますと」
「幕府の中で生きるしかないですな」
「だからですな」
「幕府の中の一藩として生きて頂く為にも」
「ここは」
「うむ、是非じゃ」
 ここはというのだ。
「右大臣様に大坂を出て大御所様に会って頂くぞ」
「それが一番ですな」
「ここは」
「そしてそのうえで、ですな」
「豊臣家の安泰につなげる」
「そうしていきますな」
「そうじゃ」
 加藤の言葉は変わらない。
「わしは覚悟を決めた」
「では」
「そこまでして」
「そのうえで」
「お拾様をお助けする」
 加藤はここでは秀頼を官位ではなく幼名で言った、そうしてここでこうも言ったのだった。
「いざという時は考えておった」
「この城にお迎えしてですな」
「そしてお守りする」
「そう誓っていましたな」
「これまでは」
「そうであった、しかしそれもな」
 その熊本城、彼が今いる城の中での言葉だ。
「あくまでわしがおってじゃ」
「そうしてですな」
「そして出来ること」
「しかし殿がおられねば」
「そうしてもですな」
「わしなら何とか出来るだ」
 秀頼を何があっても守られるというのだ。
「しかしわしはこの通りじゃ、不覚を取ったわ」
「殿、その病はですな」
「かなりお辛いですな」
「今こうしておられるだけでも」
「それだけでも」
「そうも言っておられん、後のことは」 
 ここで加藤が言ったことはというと。
「託せる者に託したい」
「というと福島殿でしょうか」
「若しくは他の七将の方でしょうか」
「いや、市松も他の者達もどうもじゃ」
 加藤はかつて共に石田と争った彼等のことについてはこう言った、その時は肝胆相照らす仲であった。 
 しかしその仲だっただけにだ、加藤はこう考えていた。
「お拾様を護れぬ」
「最後の最後まで」
「それは出来ませぬか」
「他の方々では」
「場所が悪い、この熊本城以上の城はなく」 
 熊本城に絶対の自信があった、彼自身が築城したまさに難攻不落の城である。
「しかもな」
「肥後は天下の端」
「隠れようと思えば隠れられますな」
「しかし他の方では」
「どうもですな」
「幕府の目は侮れぬ」
 天下の隅々まで見ているというのだ。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧