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和-Ai-の碁 チート人工知能がネット碁で無双する

作者:笠福京世
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第二部 北斗杯編(奈瀬明日美ENDルート)
  第50話 キミに呼びかける 後編(vs 塔矢アキラ)

side-Asumi

 大ナダレは非常に難解な為、打つには多くの知識と研究の継続が必要になる。

 塔矢君の手からは才能だけじゃなくって今まで必死に努力して積み上げて来たものを感じる。

 知識も……研究も……技術も……磨いてきた全て……全てをこの盤上の一局で見せようとしてる。

 塔矢君の手は、誰かに想いを呼びかけている手だ。私も似たような想いで打ってきたから分かる。

 縁結びの神様に想いが結ばれますようにと願う。

 ここからは和-Ai-が新手法を見せる。

●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇

side-Akira

 この手は過去に例がない。

 事前研究なくこのような手を打ち、不利にならないなら桁違いの強さといえる。

 ただ本当にこれで白が悪くないのかどうかは疑問が残る。
 低位を多く這うことになるからだ。

 ボクらプロ棋士がタブーとして2線のハイを和-Ai-は平気な顔で打つ。

 しまった!さっきの手はミスだ。先手でここを伸びられるのは痛い。

 白は大場の手止まりとも言える好点に手を入れる。後手に回る。

 白のワリコミを防ぐこの受けも仕方ないが少しツライ。
 こうなってしまうと黒は中央をまとめにくい。
 厚みが消え、左上の白稼ぎ活きる展開になってしまった。反撃が難しい。

 容易ならざる相手だとは分かっていたこと、

 落ち着け!まだ序盤だ――――

 ややカス石であるが取り込んで黒は地を増やす。

 生きてみせる!勝算はある!勝負だ!

●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇

side-Asumi

 白は右辺が厚くなったので、切りから攻める。
 黒は切られて抵抗できない形だ。

 私の目からも塔矢君のツライ進行に見える。
 目一杯、黒も対抗しているが、それでも流れは白のペースだ。

 右辺の利きもあり黒は眼の心配はないけど、白は中央が厚くなり地もつきそうだ。

 この和-Ai-の手は微妙な利かしだ。
 黒はここまで白得だとみている。必死の応戦

 そうか和-Ai-は、ここを打つ前提で中央を先手で決めたんだ。

 白が中央を支配し差が大きく開く前に黒も手を入れる。
 黒が右辺に眼を作る。残るはヨセだ。

 黒は最後のあがきだ――――

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関係者検討室

「もう終局しますね」「半目差か」

 芦原の呟きに緒方が返すと同時に扉が開き行洋が検討室に現れる。

「最後は半目になったが、黒にチャンスはなかったと見るべきだろう」

「先生?」「塔矢さん?」「塔矢先生いつこちらに?」

「向こうでバタバタして予定より帰国が一日遅れてね。昨夜、帰国したところだよ」

「先ほどまでは大盤解説会場の後ろで見させてもらっていた」

「先生、和-Ai-の碁に不要に思える利かしが多いのは“想定し易さ”に関係が無いのでしょうか?」

 緒方が自ら抱いていた疑問を塔矢行洋に投げかける。

「どうだろう。和-Ai-の考えは私とは違う気がする。
 和-Ai-が部分で碁を判断していないのは間違いないが――最善の一手を追求しているとは私は思えない。
 このヨセも細かいことを気にしていない。恐らくは勝つ事以上の最善にこだわりがないのだろう」

「それでも和-Ai-に我々が勝てないのは?」

「我々は勝とうと細部に神経を尖らせながら、おそらく大所で易しい間違いをしているのだろう」

「だが、このアキラの一局は悪いものではなかった」

「最後まで死力を尽くしたのが分かる」

「北斗杯で高永夏君に立ち向かった進藤君の姿に重なるな」

「先生、我々も対局場へ行きましょうか?」 終局を見届けた芦原が声をかける。

「いや、私はこのまま東京の家に戻るよ」

「息子さんに『よくやった』の一言もかけずに?」 同世代の一柳が軽口を叩く。

「台湾に非常に才能のある子がいると聞いてね。早々に台湾に向かおうと思う」

「先生からは、もう“日本”を感じませんね」「次はいつ戻られるんですか?」

「因島で行われる高永夏君の対局も見たいとは思っている。
 今後は国際棋戦で彼と戦うことになる中国の棋士たちもかなり注視している様だ」

「なるほど。その点では同じ和-Ai-が相手でもアキラ君より注目度が上ですか」

 アキラの応援に来ていた棋士たちが検討室から去っていた後、一人になった塔矢行洋は盤上を見つめながら感慨深げに呟く。

「成長したな。アキラも私と同じなのかもしれない――」

「私がsaiの強さを追うように、アキラも東堂シオンの強さを追っている」

「いや、違うな。私はあのとき彼女の強さから逃げたのだから――アキラの方がずっと強いか」
 
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