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和-Ai-の碁 チート人工知能がネット碁で無双する

作者:笠福京世
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第二部 北斗杯編(奈瀬明日美ENDルート)
  第46話 塔矢アキラ vs 陸力

北斗杯大盤解説会場 side-Kumiko

 大盤解説が始まった活躍中の若手棋士が参戦するということでお客さんもかなり集まっている。

 今は渡辺八段が大将戦を解説している。聞き手は春木良子女流だ。

「ここでナダレた白に対して黒がハネるのは『小ナダレ』と呼ばれる古くからある定石で――」

「やや損だと判断され廃れていたのが、ここ数年また評価が変わり打たれだしました」

「ねェ久美子。あのテレビはどうして手ばっかりで顔は映してくれないの?」

「あれはただのモニターだよ。テレビで放送してるわけじゃないから」

「ここの人達のために対局室の盤面を映してるだけだよ」「そうなんだ」

「――現代の小ナダレは、ほぼ、この図になります」

 黒が右下を受けず一旦カカリを打つ。対して白は消極的に見えるけど、どうなのだろう?
 先ほどのカカリから黒は珍しい大々ゲイマを打つ。
 高く打てば、腰高を衝くツメが有効になる。白はそこを狙う。
 ここで黒が定石の続きに手を戻す。

「このあたりは流行手順の通りに進みます――この黒の手は左辺を重複させようという目論みを感じます」

「白の陸力君は地の確定より少し攻撃力を優先した受けでしょうか?」

「ここで塔矢君は右側のバランスをみて下辺の構え方を選んでいます」

「この黒石のノゾキは善悪を真面目に考えだすと難しいですね。渡辺先生はどうですか?」

「どちらでも良いと割り切れば楽なんですが――」

 白が黒への攻めを見せるが、黒が先手を取って大場にまわる。

「塔矢君は細面メガネのこの攻めは怖くないとみてる」 いろはちゃんが解説を加える。

「さっきの手は?」「あれは突破しようというのではなくて味付けの意味の手」

「――白が変化球を投げた?」「上辺だけみればケイマ受けの石の形だけど?」

「そのハザマを衝くのが白の狙い。黒は中央の守備を優先した」

 いろはちゃんが説明するように先ほどのケイマ受けの石をくさらせ白の思い通りに進む。

「貧弱なワタリだけだと塔矢君は、アレで悪くないって判断してるんだ」

 いろはちゃんがモニターを食い入るように見つめる。真面目な女流棋士の顔をしている。

「私が白なら上辺の薄さを衝く手を打ちたい。だけど細面メガネが打たなかったのは良い手がない?」

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北斗杯検討室

「……まいったな。予想以上の強さだな。塔矢アキラは」 楊海が脱帽だと両手を挙げ頭を抱える。

「陸力も慌てずに厚い手を選んでますが?」 中国人通訳がまだ形勢は分からないのではと指摘する。

「塔矢アキラも思った以上に和-Ai-の碁を研究してる。このコスミツケも和-Ai-が多用する手だ」

「左辺の白は堅い一団なので打ちやすいですね」 楊海に安太善が補足する。

「そういう風に持って行ってるように感じるんだよ和-Ai-と同じさ」

「黒がカラく上辺を備えて白への切断をみせる」「さらに調子で左辺を備えた」

「この左下隅は黒が稼ぎつつ眼の足しにもなってる」

「続けて右上隅を守って仕上がった感があるな」

「眼取りを狙ったヨセだ。陸力はツライ手だが仕方ない」

「よし、見事だぜ塔矢!」 今まで黙ってモニターを見ていた倉田が声をあげる。

「眼づくりの為にダメ手を打たされた」「進めば進むほど黒地が多いことが見えてきますね」

「戦いで大きく取られた訳でもないのに、盤面で20目ほど黒が差をつけてる」「驚愕ですね」

「普通はこれだけ大差が付く前に、手順を見て白ダメと思う場面がある筈だが?」

「それが無いまま“終わってみると大差”という印象だな。まいったよ」 楊海がため息をつく。

「大きくリードされていると感じれば早めに勝負手が打てますからね」 安太善は何処か他人事だ。

「そのポイントを失っていることが見えてない証拠だ」

「陸力が何かを呟いてるみたいだが?」

「この様子だと『どこでこんなに差をつけられたのか?』って言ってるな」

「しかし、その“どこで”を自分で気づくことは相当難しい」

「――投了か。これは韓国戦の前に気持ちを切り替えさせないとマズい」

「こうなると高永夏と言えどもさっきの記者に大声で笑われる可能性もあるな」「フフン♪」

「しかも奈瀬女流まで絶好調とは……趙石もコウで粘ろうとはしているが」

「普段の見た目はカワイイのに、碁は和-Ai-を研究しているだけあってえげつないというか何というか」

「こうなると今まで碁の常識が破壊されますね」
 
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