和-Ai-の碁 チート人工知能がネット碁で無双する
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第二部 北斗杯編(奈瀬明日美ENDルート)
第45話 中国対日本
H14年5月4日 日中韓ジュニア北斗杯初日 対局場
奈瀬が三将の席に座る。対面は趙石三段。彼も普段の屈託のない笑顔とは違って真剣な勝負師の表情をしてる。
女流棋聖戦や竜星戦といったテレビ棋戦で奈瀬の対局を見たことは何度もあるけど公式戦で戦う生の姿を見るのは初めてだ。
僕の部屋で和-Ai-に代わってネット碁を打つときも真剣な表情で画面を見つめているけど……対局場の空気と合わせてまた違った雰囲気がある。
アキラくんや進藤ヒカルの対局を生で見るのも初めてだ。当然ながら囲碁サロンにいるときの二人とは違う。
北斗杯はヒカ碁屈指の名場面だ。佐為編の後はファンでも評価が分かれるけど、僕は北斗杯編は大好きだった。
そこで終わってしまったのを本当に残念に思っていた。ついついミーハーな自分が顔を出す。
元の世界に戻りたくて必死で隠していた感情が蘇ってくる。ああ、僕は彼らの活躍する姿が好きだ。
昨日のレセプションも協賛を務める桐嶋堂の社長として参加した。
楊海に生徒のアキラくんを紹介することもできたし、アキラくんも北京語の筋が良いと褒められて喜んでいた。
大学が夏休みになった中国のシリコンバレーである深センに行くと伝えた。
今日はテレビカメラも入っているが奈瀬もアキラくんもこういった舞台の経験があるし取材慣れもしているから余裕がある。逆に進藤ヒカルは対局場の空気に飲まれて緊張し落ち着かない様子が伝わってくる。
レセプションの最中に和-Ai-から祝電というかたちでメッセージを届けた。
公開対局の相手は、まず1名を和-Ai-が全選手の中から大会MVPとして指名する。
そして優勝チームから大会での活躍を考慮し団長に1名だけ選んでもらうと発表された。
原作を外れてしまった世界でどのような結果が出るかは不謹慎だが楽しみでもある。
順当に高永夏か?それとも塔矢アキラか?進藤ヒカルはどうなるのだろうか?それとも?
いつでも打てるからか奈瀬は和-Ai-との公開対局にはそれほどこだわっていない様子だった。
けど北斗杯の対局の姿はしっかり目に焼き付けて元の世界に戻っても忘れないで欲しいと頼まれた。
だから今日はこの場にいる。
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同日 北斗杯大盤解説会場 side-Kumiko
「三将が奈瀬女流!? なんで?」
パンフを見て思わず声をあげてしまう。実績で言えば副将じゃないの?
「奈瀬女流の三将は志願。因縁のある相手らしい」「へー」
いろはちゃんは北斗杯レセプションの前日まで奈瀬女流とお泊り合宿をしていたそうだ。羨ましいなァ。
「ほら、あかり! 進藤君が副将だよ」「あっ、う、うん」
「こんな綺麗なホテルで対局だなんて凄いよね」
あかりは初めて公式棋戦を観戦するということで少し緊張している。
私はホテルで行われた女流棋聖戦に奈瀬女流を応援に行ったことがあるで今回で二回目となる。
北斗杯はジュニア大会とはいえ国際棋戦だホテルも大会の規模も女流棋聖戦のときより大きい舞台だと感じた。
「奈瀬女流の相手は14歳なんだ。若いっ! それにもう三段?」「中国と日本とは昇段規定が違う」
「あのヒカルの相手は?」「あの短髪眉太の方、細面メガネが大将」
対局は9時から開始だけど大盤解説は10時からだ。その代わり女流棋士の香川いろはちゃんが私たちの隣で解説をしてくれる。考えてみればかなり贅沢な環境?
ニギリの結果は大将の塔矢君が黒。
「ということは進藤君が白で、奈瀬女流が黒?」「そうそう」
「おはよ」
メガネをかけたマッシュルームカットの男の子がいろはちゃんに声をかけてから離れた席に移動して座る。
「さっきの誰?」「いちおう同門? 弟弟子?」
そういえば進藤君と同期で入団した越智康介二段だ。たしか私たちの一つ年下のはず。
「メガネキノコハコレカラソダテルノ」
メガネキノコって越智二段のこと?年下の中学生を育ってるって何だか犯罪のにおいがするよ!!
「あら? ――あかりちゃんも?」「ヒカルのお母さん!?」「え? 進藤君の?」
進藤君のお母さんも、進藤君のお祖父ちゃんと一緒に応援に来たらしい。あかりの近くの席に座った。
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同日 北斗杯検討室
「奈瀬女流は和-Ai-の碁の大ファンを公言するだけのことはある。似たような構えだ」
中国チームの団長である楊海がモニターに映る三将の盤上に注目する。
「この構えも定着してきましたね。Aiの手順の優秀性は今やプロでも評価せざるを得ない」「ええ」
韓国人通訳が口をはさみ。安太善が相槌を打ってから一つの話を振る。
「楊海さん、雲南チームに和-Ai-が肩入れしている聞いてますが、ホントですか?」
「ソチラまで噂が広まってるのか、まあ狭い世界だし仕方ないか」「で、真相は?」
「正式な契約を結んでるわけじゃないがKGSのネット碁では優先的に対局してもらえるのは事実ダ」
「なるほど。雲南チームに所属する陸力の好調にも和-Ai-が関わっていると?」「まあネ」
「そうなると陸力と塔矢の一戦がやはり興味深いな」
「それに比べて進藤の方はパッとしないな。足取りが重いっていうかそんな感じだ」
「威勢がいいのは盤の外だけってことか」「ハハ」
「塔矢アキラは思った以上かもしれないぜ」「楊海さん?」
「宴会場で喋ったときは物腰柔らかな少年の印象だったが、盤に向かう彼は塔矢行洋を彷彿とさせるフンイキを持っていたよ」
「フンイキだけじゃね。ハハハ」
「その塔矢が穏やかじゃない手を打ってきたぞ」「陸力の手は消極的すぎないか?」
「いや、序盤から攻撃的な塔矢の黒番に対して白は穏やかに進めようという意図だろう」
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