和-Ai-の碁 チート人工知能がネット碁で無双する
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第二部 北斗杯編(奈瀬明日美ENDルート)
第34話 最強初段 vs 最強女流 前編
case 1 「進藤ヒカル」
中国から帰って来た伊角さんと打って――
オレが向う盤の上に、オレが打つ碁の中に、
こっそりと隠れていた佐為を見つけることができた。
saiの影をずっと追ってきた塔矢は“オレの碁”の中にいる佐為に気付いてくれた。
その日の夜、夢の中で佐為に会えた。
佐為の声は聞こえなかったけど、アイツは微笑んでた。
そしてオレに扇子を渡してくれた。
売店で扇子を買ったとき、オレはアイツの碁を受け継ぐと決めた。
それからは本因坊秀策の碁を何度も並べた。
万札が何枚も消えたけど完全版の打碁集も探し出して手に入れた。
アイツはオレに敵討ちなんて望むようなヤツじゃないってのは分かってる。
けどオレがネットからsaiの存在が消えてしまうのが許せない。
みんなが和-Ai-を最強のネット棋士だと讃える。そしてsaiを忘れていく――それが堪えられない。
オレは院生のときもプロになってからもsaiを隠してた。
ようやく今になって佐為-sai-の碁が好きだと素直に口に出すことができるようになった。
だから和-Ai-のファンを公言してる奈瀬が羨ましい。
奈瀬が仇ってわけじゃないだって分かってるさ。オレの勝手な想い。
北斗杯はエキシビジョンで和-Ai-との公開対局が行われるって聞いてる。
戦うのは各代表チームの団長って話だけど、活躍すれば和-Ai-と戦えるチャンスがあるかもしれない。
これは和-Ai-と佐為-sai-の戦いの続きだ!
白石を持って呼吸を整える。黒の次の手を待つ。
二間ジマリはソスアキと中への侵入があって地になりにくい為あまり打たれない。
白のカカリに黒はウケではなくにハサミを選ぶ。
先ほどの右下の高いシマリと関連した模様志向の作戦だろう。
ここは定石通りの手順。コウの狙いを残して、ひとまず右上を守るはず。
――うっ! この状況で高く打つ意味が分からない
白が必要な守りを打つ。この時点では上辺に弱点が残るだけ黒の損に思える。
黒は中央を指向しているが、右辺の白石が伸びている状況では価値が無い。
さきほどの状況は低い打った方が得だと思えた。
ぐっと手に持つ扇子に力を籠める。佐為、力を貸してくれ。
●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇
case 2 「社清春」
最初は親から碁打ちなんてヤクザな職業はあかんって大反対された。
師匠の吉川先生が何度も両親に頭を下げてくれはって、ようやく進学を条件にプロになることを渋々認めてくれたんや。
和-Ai-の碁を知ったんは昨年の秋に韓国を……いや世界の囲碁界を騒がせた三番勝負や。
韓国語の解説はわからんかったけど、かじりついてライブ中継を見たわ。
あんくらい目立ってもうたら親もちいとは見直してくれるんやろうか。
ほんまに和-Ai-の碁に興奮したんや。あんなかっこええ碁が打ちたいって思ったんよ。
自由奔放で誰にも邪魔をされない圧倒的な力強さで持って我ままを押し通すような碁や。
碁に万能のセオリーは無いっていうやろ?
どんな格言にも例外はあるし、愚形の手が一番ええって場合もよくあることや。
強い棋士が常識外れな手を打つことだって多々ある。
ちゃうな。強いからこそ状況に合わせたセオリー外の妙手を選ぶ力があるってことやん。
師匠は基本を学ぶ生徒にとっては和-Ai-は混乱の元になる面があるっていうて、棋譜並べの教材選びなどの時には各自のレベルにあったものを勧める様にして、アマチュア相手に和-Ai-を並べることはゼッタイにせーへん。
こないだも和-Ai-が2線ハイを多用するので初級者への指導がしにくくなると漏らしとったが甘いわ。
なんやこれ!?
ほら黒は星へいきなり三々入りという、誰もがブッたまげる新手法を平然と打つ。
あかんまたしびれてしまうやろ。
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case 3 「渡辺八段」
ここで三々入りだと!?
一回戦の初手5の五や二手目天元にも驚いたが……そういった初手の選択とは違う。
碁打ちであれば誰もがぶっ飛んだ手が出たと驚く一手だ。
辺にヒラキ無い星にいきなり三々入り。
進藤初段の手が止まる。さぞタマゲたことだろう。
社初段を始め対局を見守る若き棋士たちの注目が集まる。
一回戦とは違った意味で目の離せない一局になりそうだ。
三々入りは隅を荒らす得よりも外を強くするマイナスが大きく、布石の段階では損とされて来た。
なるほど。黒はここで左上を安定させにいく。白は定石の手順。
しかし新鋭の女流が魅せるのは最先端の布石。
これは一柳棋聖がいう「2線を這っても構わない」という考えと一部つながっているのか。
白石はちょうどよいヒラキ。
次の手が入れば黒石は高さがあだになり地も根拠地も失う。
いまさら後手で低く受ける訳にはいかない。
ここでカタツキを利かすのか!
たしかにツケを打てるのが高いところに打った利点といえるが、
この状況ではあまり価値を感じない。
白の手は利きを確かめた手だが、左上隅方面からのヨセでは損になる。
そして黒は左辺をヒライた。白も下辺中央に待望のヒラキ。
これまでは白充分の進行と感じる。
それにしても惜しい。どちらかが落ちるのか。
一回戦の対局を見たときは関西で期待されてる社君の力は思ってた以上のものだった。
社君を上回った奈瀬女流は前評判通りだ。その奈瀬女流を相手に優勢に戦う進藤君。
間違いなくどちらも代表になる力がある。この二人なら中韓を相手にして勝機が望める。
――ッ!!生意気な打ち込み。奈瀬二段が力を出してきた
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