和-Ai-の碁 チート人工知能がネット碁で無双する
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第二部 北斗杯編(奈瀬明日美ENDルート)
第25話 対局禁止令
H13年11月某日
日本棋院と関西棋院が月例の記者会で、所属のプロ棋士が公の場で許可なく和-Ai-および東堂シオンと対局することを禁止するという発表を行った。
きちんとした公正な対局の環境を用意するためという建前だったが、もしプロ棋士がアマチュアに頻繁に敗れれば「プロはアマより弱い」(理事)というイメージを植え付けることになり、危機感を募らせた理事会が、なし崩し的にアマチュアにプロが敗れることがないよう歯止めをかけたというのが実情だ。
しかし、全面的に禁止になったわけではなく、対局の企画があった場合、棋院に申し出れば慎重に対応するという。
規制をかけた理由の一つに世間を賑わすであろう対局を大きなビジネスチャンスと捉えている者も中にはいるのだろう。
当然ながら、この理事会の判断に異を唱えるプロが続出する。ファンからも批判の声があがった。
中でも一柳棋聖は理事会に掛け合い、自分と和-Ai-の対局の場を用意するように要請したらしい。「和-Ai-と対局できないなら棋聖は返上して塔矢みたいに引退して自由にやる!」と公言し騒動となった。
個人的に気になったのが会見で質疑に応じ「破った者は除名」と強い決意を示した理事の「公の新聞等に載る対局を指す場合には、あらかじめ、棋院に届けなければならない。」という見解だ。
日本の囲碁界(日本棋院)では囲碁の棋譜は著作物だと公式にアナウンスしている。
この辺は日本国内七大棋戦(7大タイトル戦)のスポンサーである新聞社との関係もあるのだろう。
欧米では棋譜は創作物(creation)ではなく事実の記録(facts)であるため、チェス等の棋譜は著作物だとはみなされていない。
ちなみに将棋界の方では棋譜の著作権に関しては連盟は曖昧な態度を取っているが、どうやら全棋士の公式戦棋譜をデータベース化し、プロ棋士が研究などで使えるようにしているらしい。同じ囲碁界でも中国は棋譜を共通の財産として公平に公開して誰でもが勉強できるシステムを作り国際棋戦での競争力を高めようとしている。そう考えると棋院の棋譜に関する扱いは保守的というか閉鎖的ともいえる。
ちなみに和-Ai-の棋譜はホームページで公開し自由に利用・配布してもOKという立場を取っている。
この辺はフリー素材やオープンソースの発想なんだけど、知らず知らずのうちに日本囲碁界の常識に喧嘩を売ってたらしい。
まあ知らんけど。僕は囲碁界の人間じゃないし、ややこしい問題にはノータッチだ。
対局禁止令はそれほど痛手にはならないと思う。
和-Ai-の対局の舞台については北斗杯は前々から動いていたし、楊海かれの提案も受け入れ中国棋院との調整も進んでいる。
来年になれば相応しい舞台が整うだろう。
さて、碁の神様の望みは知らないけど、和-Ai-に挑む資格を得る棋士は誰になるだろうか?
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H13年11月某日 北斗通信システム本社ビル
北斗通信システムは18歳以下を対象とした日中韓Jr団体戦のスポンサーとして大会を主催することになった。実行委員として企画を任された戸刈は一つ難題を抱えていた。
「会長、本気ですか?」
体裁を気にする役員が声をあげるが、会長は暖簾に腕押しの返事だ。
「和-Ai-は韓国では評判が良くないと聞きます。
これからアジア進出を考える我が社にとっては企業イメージの低下に繋がります」
IPO(新規上場)のため引き抜かれて社長になった人物が反対の声をあげる。
「しかし和-Ai-は今や日中韓は勿論のこと世界で最も注目を浴びている囲碁棋士です」
持ち込んだのは戸刈の下でアルバイトとして働いたことのある大学生。
北斗杯の運営にあたり語学に堪能な彼をインターンとして手伝わせようと思っていたが、すでに彼は囲碁とITを繋ぐという会社を起業していた。
しかも投資家として知られ今や北斗通信システムの創業者である会長と直に繋がりがある。
「以上から和-Ai-の起用により北斗杯の注目度は――」
新たに提案されたのは、無断で対局が禁止されている和-Ai-という正体不明のネット棋士によるネット碁の公開対局を北斗杯のエキシビションマッチとして開催して欲しいという申し出だった。
「すでに中国棋院から対局の内諾は得ています」「韓国と日本は?」
「韓国棋院は和-Ai-からの挑戦があれば断れないでしょう。
日本棋院は一柳棋聖など和-Ai-との対局を望む棋士も多いと聞きます」
「新たに必要となる費用については桐嶋堂が協賛として――」
北斗杯は上場記念の企画の一つだが、社長も実行委員も囲碁に関心があるわけではない。
アイドルの東堂シオンの活躍などで囲碁人気が高まっているとは言うが日本ではマイナーな競技だ。
しかし中国や韓国ではメジャーな人気競技として囲碁の国際棋戦は一般のメディアでも大きく扱われる。アジアとのコネクションを強化するためにスポンサーとなった。
「それなら人気アイドルの東堂シオンも起用できるのでは?」
「ウチの会社は彼女の所属プロダクションとコネクションありました?」
社長や保守的な役員はリスクを考えて反対したが、創業者である会長が北斗通信システムはこれからのネット社会を推進する企業であり、上場するからといってベンチャーシップを失ってはいけないと反論。
あと一部の東堂シオンのファンっぽい役員の後押しもあり和-Ai-を起用することを決定する。
余談ではあるが、和-Ai-のネット碁の公開対局は日本と韓国の棋院に受け入れられたが――。
東堂シオンの起用に関しては棋院および彼女が所属する芸能プロダクションとの調整が上手くいかず流れてしまった。
走り回った役員はうな垂れているかと思ったら、握手もできてサインも貰ったと喜んでいた。おい仕事してくれよ。
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