ソードアート・オンライン -旋律の奏者- コラボとか短編とかそんな感じのノリで
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憂いの雨と陽への祈り
お茶会の続き
「どうした、いきなりニヤニヤし始めて。 気持ち悪いぞ」
アマリからのメッセージを受け取って思わず笑ってしまった僕にユーリさんの冷たい声が突き刺さる。 まあ確かに文面を見てニヤニヤしているなんて気持ちの悪いことではあるだろうけど、それでもオブラートと言うものを覚えたほうがいいと思った。
ちなみにアマリからのメッセージに書かれていたのはシィさんが服を見せて欲しいと頼んできたと言う報告である。 ついでとばかりに『腰抜かすくらいレアでマイナーで高ランクな素材の情報を送りつけちゃる!』との伝言が添えられていた。 なんとも予想通りの反応すぎて面白い。 伝言で頼んでいた条件は僕のほうに不利なようにも見えるけど、実際には半分ほど本音なので助かるのだ。 これで思惑通り一風変わった際物な素材の情報をくれることだろう。 負けず嫌いは乗せやすくてありがたい。
「向こうは結構楽しんでるみたいだよ。 こっちももう少し楽しんでみる?」
「お断りだ。 そもそもお前、そんな気ないだろ?」
「酷いなぁ。 僕、これでもユーリさんたちのこと、結構好きなんだけどね」
「それだ」
「うん?」
突然言われて反応が冴えなかった。 何が『それだ』なのだろう? 幸いにして回答は早かった。
「お前、なんでそんなにシィに好意的なんだ? あいつといるのはそれなりに以上に疲れるだろ」
「うーん、疲れないって言ったら確かに嘘だよね。 実際にかなり疲れるし。 でも、それを加味してもシィさんは楽しい人だから。 ああ言う明るさは僕の周りじゃ希少だよ」
「根暗の周りにゃ根暗が集まるもんだ」
「言うねぇ。 まあ、可愛いからってのもあるし僕に対して忌避感を向けてこないってのもありがたい。 裁縫師としての腕前だって直接見たわけじゃないけど興味がある。 それに、あれを使われたら意識しないわけにはいかないよ」
大鎌はそれだけで僕の心を蝕んでくる。 目で追わないと言えばそれこそ嘘だ。 もちろんそれだけが理由ではないし、シィさん個人を好ましく思っているのも事実だけど。
「そう言うユーリさんもなんだかんだアマリのこと気に入ってるみたいだし、まあそう言うことだよ」
あと、ユーリさんのこともちゃんと好きなんだってば。
そう続けた僕にユーリさんが苦い顔を浮かべる。 そこでそんな表情をされるのは中々に泣きたくなってくる気がしなくもない。 僕でなかったら傷つきかねないだろう。 まったく……。
苦笑いでコーヒーに口をつける。 実を言うとコーヒーは苦手だったりするんだけど、昔からの習慣はそうそう変えられないものらしい。
「それにしてもユーリさんってさ、改めて見ても女の子だよね。 そうじゃないってわかってるのに女の子にしか見えないもん」
「お前が言うな」
「女顔って認めてるし見た目だけなら女の子ってのも僕は自覚してるもん。 自覚して、ちゃんと利用してるから」
「なんでそんなに割り切れるんだよ」
「使えるものは使う主義だからね。 それにどれだけ嘆いたって簡単に変えられるものでもない。 だったらそれをどう使うか考えた方がよっぽど建設的でしょ?」
思うところがなかったわけじゃないけど、それだって既に通り過ぎた悩みでしかない。 僕はもう、諦めて受け入れている。 ユーリさんもどうせそのうちこうなっていくだろう。 どちらが良いかどうかは別にして、だけど。
しかし、それにしたってユーリさんにはこの手の話題転換が有効らしい。 それだけユーリさんにとって無視できない話題と言ったところか。 まったく、それを弄るのは楽しくて仕方がない。
「……それにしてもだったら俺もひとつ良いか?」
「お好きにどうぞ。 答えたくない質問だったら適当に誤魔化すだけだしね」
「アマリの奴って何が好きなんだ?」
「ん?」
「あいつには恩があるからな。 返礼くらいはしないとだろ」
「返礼、ね」
全く以って律儀なことだ。 律儀と言うかクソ真面目と言うか……恩を返すなんて普段の言動からは想像もつかないけど、やっぱりこの人は優しい人だね、本当に。
「アマリの好きなものって言ったら可愛いものかな。 雑貨屋に置いてあるのを物欲しそうに見たりしてるし」
「可愛いもの、ね。 それはあれか、ぬいぐるみとかか?」
「それもあるけど割と無差別だよ。 食器から人形から木箱やらクッションやら、一般的な尺度で可愛く見せて客引きしてる類のものは全般的に。 それで買わないんだからもしかしたら好きじゃないって可能性もあるけど」
「適当かよ」
「って言うか人の好みなんて本人に聞かなきゃわからないから。 それ以外だったら甘いのは結構好きっぽい。 苦いのは駄目で辛いのもアウト。 野菜系より肉系、肉系より魚系。 これは箸の進み具合が違うから間違いないと思う。 で、甘いものはクッキーとかよりもマフィンとかカップケーキみたいな柔らかいのが好きで、でも生クリームは実はあんまり好きじゃないみたい。 紅茶を飲むときはミルクよりもレモン。 コーヒーは砂糖たっぷりミルク少なめ。 果物だったら酸味が強めのが好き。 色の好みは見てわかる通りにピンク系。 あの髪はわかりやすい趣味の反映だね。 他には白系とかも好きで、青系は興味があるけど似合わないと思ってるのか着たがらない。 派手派手しい色調よりも淡い色合いの方が好みには合うのかな。 肌の露出はあまり好んでないみたいだけどあのおへそチラ見せは抵抗がないみたい。 ちなみに脚は何があっても見せないように気を遣ってるね。 最近は眼鏡にも興味を持ったみたいで僕の変装用小道具を使ってるんだ。 本人はバレてないつもりだろうけど耐久値減ってればさすがに気付くって。 ちなみに残念ながら似合わなかったのかな。 僕には見せないように隠れてる。 えーっと、他には――「待て、落ち着け、ちょっと止まってくれ」
ふぅん?
色々参考になるかなと思いながら喋っていたらストップが掛かってしまう。 はて、なんだろう?
そう首を傾げたらユーリさんは額に手を当てて深い息を吐いた。
「お前がアマリをどれだけ大事に想っているのかは良くわかった。 良くわかったからちょっと落ち着け」
「うん、まあいいけど」
「にしてもそんな細かい好みまでわかるもんか?」
「そりゃ一緒に暮らしてますから。 そうでなくても見てれば大体わかるでしょ?」
「わかるわけあるか」
端的な突っ込みはそれだけ本音の突っ込みなのだろう。 僕に言わせれば見てればわかるって言うのは当たり前のことだけどどうやらそうではないらしい。 誰が何に興味を持ち、何を好みとしているのかなんて最も簡単に弱味を握れる内容なのだから覚えないはずもないと言うのに。 まったく、やれやれである。
「そう言えばユーリさんってシィさんのどこを好きになったの?」
「おい待て、いきなりなんで女子会トークみたいなことを始めた⁉︎」
「いやまあ……ノリ?」
「ノリってお前な……答えるわけないだろ」
プイッと顔を背けられてしまう。 ふむ、なるほど余程触れられたくないことなのか。 それは照れであり、照れると言うことはつまりそう言うことであり、殆ど自白でしかない。 自白と言うか自爆と言うべきかもだけど。 そう言う年頃な反応は僕の周囲にいる人間にはない希少なパーソナリティーだ。
素直に可愛いと思う。
「僕はシィさんのこと、好きだよ。 もちろんユーリさんのこともね。 どっちも一緒にいると楽しいから。 もしかしてユーリさんは僕のこと、嫌い?」
「嫌いじゃない」
「僕は好意を寄せてるよ。 ユーリさんのことは好きだしシィさんのことももちろんね。 それは楽しいし面白いから。 でも、そこに敵対関係にならないと言う保証はない。 ねえユーリさん。 ユーリさんは僕たちの敵になるつもりはある?」
「ねえよ。 お前が俺たちの敵にならないならな」
「まるで禅問答だね。 まあ安心してよ。 さすがの僕も積極的に敵対するつもりはないからさ」
「言ってろ」
深いため息は呆れか諦めか。 これだけ好きだと言葉にしているのに信じる気は更々ないらしい。 そんなに嫌われているとむしろなんだか楽しくなってきた。 どうやっていじめてくれようかを考え、そしてすぐにそんなことをしようものならシィさんとアマリとに怒られそうだと思い直す。 まったく、人気者はこう言う時に得だ。
けれど、そうか。 ユーリさんは少なくともこちらに敵対意思を見せてはいないらしい。 もちろん本人の弁を完璧に信じたわけではないにしろ、それでもそうやって宣言してくれる程度には好意的なのだろう。 言葉は相変わらず尖っているけど、それはつまりただのツンデレと言うわけだ。
ほんと、この辺りが人気者の秘訣なのかねぇ。 なんて少しだけ嫉妬してしまった。
「ユ、ユーリさんのことなんて大嫌いなんだからね!」
「なんでツンデレ風なんですかねぇ⁉︎」
「べ、別にユーリさんのことが大好きなだけなんだから……勘違いしないでよねっ!」
「言い方だけツンデレで言ってる内容はデレデレじゃねえか! つーかなんでこんなところでまで漫才しなくちゃなんねえんだよ」
「とか言いながら律儀に突っ込んでくれるから好きだよ」
いやもう本当に。
「で、そろそろいいだろ?」
ユーリさんは頼んだパフェを完食してから唐突にそう切り出した。 今までの気の抜けた表情から一転して真剣な表情になる。
「そろそろって言うと?」
「とぼけんなよ。 お前、なんか言いたいことがあっるんだろ? だから俺を連れ出した。 違うのか?」
「……勘が良いって言うべきかな。 ちなみにどうして気付いたの?」
「そうでもなきゃお前が俺と2人で外に出るなんてあるわけないからな。 百歩譲って好意的だとして、それでもお前がわざわざ2人きりなんて状況作ったんだ。 俺じゃなくても察するっての」
「僕、そんな排他的に見える?」
「それ以外にどう見えると思ってたんだよ」
「ごもっとも」
ひょいと肩を竦めたのは降参の証だ。 ユーリさんの察しが良いだろうことはそれこそ察していたけど、だからと言ってここまで簡単にこちらの真意を見抜かれるなんて思ってもいなかった。 なるほど舐めてかかると痛い目を見ることになりそうだと、僕は緩めていた気を引き締める。
敵対の意思はない。 それは確かだ。 少なくとも僕にユーリさんをどうこうしようと言う考えは今のところはない。 それでも言っておかなければならないことと刺しておかないといけない釘とがあった。
まさか水を向けられるとは思っていなかったけど、それでも好都合なのは間違いない。 早々に切り出して早々に終わらせるとしよう。
「いやなに、そんな物騒なことじゃないよ。 さっきから言ってる通り僕とアマリはユーリさんたちに対して好意的だ。 友好的、なのかもしれないね。 隔意はないし敵意もない。 まずこれは前提」
「ああ」
「それを念頭に置いてちょっとしたお願いなんだけど、僕とアマリのスキルに関して口外しないで欲しいんだ。 その代わり僕たちはユーリさんたちの情報を誰にも言わないことを約束するよ」
「それがお願い、か……。 脅迫の間違いじゃないのか?」
「まあそう取られても仕方ないけどね。 ユーリさんたちのことを誰にも言われたくないのなら僕たちのことを誰にも言うなって、そう色気のない変換もできるわけだし。 でも、お願い。 あくまでユーリさんたちの善意を信じてるんだよ。 ふふ、『信じる』って良い言葉だよね」
「ほんと、良い性格してるよな」
ったく、とそっぽを向いてしまったユーリさん。 互いに間を保つための逃げ場はもうない。 そもそもそのタイミングだったからこそユーリさんから話を振ってきたのだろう。 逃げ場を潰しておかないと僕が逃げると思ったのか。 けれどそれは甘いとしか言えない。 僕が今まで切り出さなかったのは言いにくかったからではなく、単純にどこまで切り込んで安全なのかを探っていただけなのだから。
探った結果、ユーリさんの懐はかなり深いことがわかる。 だから遠慮なく切り込むことにした。
「それともう一個、こっちはあらゆる意味でお願いがあるんだけど」
「なんだよ」
「アマリとさ、仲良くしてあげて」
「は?」
「いや、ほら、アマリってあの調子だから友達とかいなくてね。 仲良くしてる相手はいることにはいるけど、それはみんな僕の友達だ。 僕の友達だから仲良くしてるだけでしかない。 でもそれって、歪んでるでしょ? けどユーリさんは違う。 僕の友達でも僕と仲が良いわけでもないのにアマリはユーリさんを気に入った。 理由は知らないし知る気もないけど、そう言う意味じゃアマリにとって貴重な普通の繋がりだからね。 その繋がりを大事にして欲しい」
過保護なのかもしれないけどさ。
そう言って苦笑するとユーリさんに鼻で笑われてしまう。
「仲良くしてあげてなんて小学生じゃあるまいし。 悪いけどお断りだ」
「……そっか」
「大体、俺があいつと仲良くやってんのはそんなめんどくせえ事情なんか関係ねえよ。 友達やりたいからやってるんだ。 だったらお前のお願いなんて聞くわけあるか」
「うん?」
「だから、お前にお願いなんてされるまでもねえってことだよ」
……なんだよデレデレかよ。
なるほど、本当にちょろい人なわけだ。 しかもちょろい上に優しくてお人好しときた。 どう言う思惑があるにしろ、ユーリさんはアマリと仲良くしてくれるつもりらしい。 だったらそれ以上僕が言うことなんてない。 ないんだけど……。
「理不尽だってわかってるんだけどなんかムカつく」
「おい」
「言っとくけど、アマリに手を出したら怒るからね」
「出すわけあるか!」
「アマリじゃ不満だって言うの!」
「俺にどうしろと⁉」
さてさて、これで本当にシリアスな話はお終いだ。
今回のちょっとしたイベントの成果は久しぶりに同性の友達を得て、アマリのことを嫌わないお人好しと仲良くなれたこと。 そして希少な裁縫師仲間を得たことか。 その他雑多なアイテムの獲得は特に旨味もなかったので割愛。
アマリと喧嘩してみて結果的には良い方向に転がった。 僕は、そう思った。
「あ、そうだ、フレンド登録しようよ。 気が向いたら新作をまた着てくれると嬉しいから」
「絶対着ない」
「なんなら依頼も承るけど?」
「間に合ってるよ」
「なにそれ惚気?」
「そう言う意味じゃないってわかって言ってんだろお前!」
ああ、楽しい。
後書き
さては手ようやくコラボ終了でございます。 いやー、長かったね←
と言うわけで、どうも、迷い猫です。
後書きのスペースだけじゃ字数が足りないので色々と次話で書きますが、とりあえず一言だけ。
超楽しかった!
ではでは、迷い猫でしたー
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