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ソードアート・オンライン -旋律の奏者- コラボとか短編とかそんな感じのノリで

作者:迷い猫
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憂いの雨と陽への祈り
  初めての男子会

 「――だから片手用直剣の最大の利点は盾を持てるってことじゃなくて、その総合的なデザインのバランスだと思うんだよね」
 「総合的なデザインのバランス?」
 「そう。 器用貧乏とも言えるけど、特化した得手がない代わり致命的な不得手がない。 これは死ねないって言う現状にとって、かなり大きなアドバンテージでしょ?」
 「まあ確かにな」
 「盾を持てば純タンクには劣るけどサブのタンクくらいできるし、ダメージディーラーとしてもそこそこ。 ソードスキルも多種多様であらゆる戦局に対応可能。 ついでに片手用直剣は武器自体のバリエーションも豊富で、どんなビルドでもそれなりの親和性がある。 パーティー全員が片手用直剣だと流石にあれだけど、ソロだったら多分、一番信頼できる武器種なんじゃないかな」
 「って、薙刀使ってるお前に言われてもな」
 「ごもっとも」

 憮然としたユーリさんの反論に僕はあっさりと頷いてみせた。 熱弁してはみたものの、武器種の選定は個人の自由だと思う。 最終的には愛着、あるいは信頼できる武器を使うのが最も安全であるのは言うまでもない。

 ここはユーリさんたちのホーム……から足を伸ばして22層の主街区にあるカフェ。 森と湖ばかりのこの層の主街区は例に漏れず自然に溢れ、テラス席からは雄大な景色が望める定番のデートスポットだ。
 そんなところに男が2人。 もっとも、僕もユーリさんも外見だけで見れば性別を間違われるので、女の子2人だと思われているだろうけど。 だから男性プレイヤーが殆ど皆無と言っていいこの場所でも奇異の視線に晒されることはない。

 「薙刀なんて趣味武器一歩手前のどマイナー武器をよく使ってるよな」
 「慣れれば結構便利なんだけどね。 リーチの長さはそのままアドバンテージになることが多い。 実際、ユーリさんとのデュエルでも僕が勝ったでしょ?」
 「次は負けねえよ」
 「次があったら僕が負けるからできればやりたくないんだよね」

 コーヒーを啜って言うとユーリさんの目が丸くなる。 そんなに意外そうな顔をされるとは、言わなければ良かったなと反省しそうになってしまう。
 と言うか、やっぱり気づいてなかったんだね……

 「余裕ぶってたけどそこまで余裕だったわけじゃないから。 むしろギリギリだったかな。 公開されていないソードスキルの存在は正直想定外だったしね。 しかも手数と速度が尋常じゃない上に威力も高水準とか、ちょっと羨ましいよ」
 「お前の双剣だって大概だろ」
 「双剣は手数と速度に振りすぎてるから火力面はかなり低いもん。 半減だったら打ち合いになった時点で僕の負けは決定だね」
 「じゃあなんで俺は負けたんだ?」
 「相性と幻影、かな」

 あん、とユーリさんが首を傾げる。

 「抜刀系のソードスキル……いや、ソードスキルに限らず、抜刀には絶対的な弱点がある。 それはわかる?」
 「最初の斬撃の軌道が単一になりやすい。 だろ?」
 「うん、それもある。 でももっと深刻な問題もあるんだ。 抜刀術の基本は納刀状態で敵に接近して、抜刀と同時に敵を斬る、だよね。 つまり、そもそも抜刀できなければ攻撃できない」
 「あ……」
 「ユーリさんの初手はそうやって潰されたでしょ? 柄を押さえられちゃうと抜けないからね。 もちろん、ステータスにモノを言わせて無理矢理抜くことはできるけど、抜くまでにワンテンポ以上の間ができる。 それは、致命的な隙だよ」
 「じゃあお前は……俺が初手で抜刀術を使うってわかってたのか?」
 「その可能性もある、程度の予想だったけどね。 納刀状態でデュエルを始めたってことは抜刀を使うかもしれない。 だから、あえて挑発してユーリさんが最も得意な攻撃方法を選択するように仕向けたんだ。 《体術》は便利なスキルではあるけど決定力に欠ける。 あの状況でフェイントを使ってくるほど性格は悪くないだろうし、そう言う意味だとやりやすかったね」
 「……お前の掌の上で踊らされたってことかよ」
 「抜刀系の攻撃はその間合いに敵を入れてからじゃないと振れない。 薙刀の長いリーチは刀剣武器が相手なら絶対のアドバンテージになる。 掌の上で踊らせたわけじゃないけど、そっちの得意な間合いにならないように立ち回ったかな。 ここまでが相性の問題。 カタナと薙刀、僕とユーリさん。 どっちともの相性的に僕の方が有利だった」

 そう。 あくまで有利だっただけだ。
 実際にはギリギリの立ち回りだったし、そうと悟らせないように振舞っていただけで、僕とユーリさんとの間にそこまで大きな差はない。 一歩間違えれば僕が負けていてもおかしくはなかったのだ。

 「で、幻影ってのはどう言う意味だ?」
 「リーチの差だよ。 薙刀と双剣はリーチが違いすぎる。 刀身と柄を込みにすれば270cmもある薙刀と90cmに届かない双剣。 その差は、それまでの攻防で染み付いた距離感を容易に狂わせる。 空間識別能力と動体視力、それから戦闘勘が軒並み高いユーリさんだからこそ、その差異は致命傷になった。 距離を詰めることに専心していたのに、今度は距離を詰められる側になる。 そんな状況で全力が発揮できるわけもないでしょ? だから、ユーリさんは薙刀の幻影に惑わされて、双剣の間合いに対応できなかっただけだよ」
 「なるほど、な?」
 「だから次の機会があったら僕は多分負ける。 だって、相性の問題なんて素のステータスでどうにかなるし、リーチ覚えられたら終わりだから結局はその場凌ぎだもん。 もちろん勝ち筋を全力で探すけど、現状の勝率なら3:7で僕の負けだよ」

 あえて言わないけど、抜刀術のポテンシャルは垣間見た限りでも双剣を遥かに凌駕している。 スキルの優劣だけが勝敗を決める要素でないことは確かにしても、勝敗を決める要素のひとつであることも確かなのだ。

 「だから戦わない。 それに、戦わなきゃいけない理由もないしね」

 更に言うならこちらの手の内をこれ以上見せるわけにもいかない。
 ユーリさんとシィさんのことを好ましく思っているのは本当だけど、それと敵対しないこととは同義ではない。 どうやら僕が《戦慄の葬者》としてなにをしていたのかは知っているらしいけど(まあ僕の悪行は有名なので隠しようもない)それでも直接的に非難も忌避もしないのは単純に2人の関係者に手を出していなかったからだろう。 短い時間しか交流していないとは言え、2人が非常に仲間思いで善良な人格であることは理解している。 もしも2人の関係者に手を出すようなことがあれば……もっと直接的に言えば、2人の関係者を殺せば、途端にこの人たちは僕を敵として認識するだろうし、敵はどんな手段を以ってしてでも排除しにくるだろうことが明白すぎるほどに明白なのだ。
 その点で言えば、2人は僕にとっての潜在敵と言い換えられる。 もっともそれは、2人にとって僕が潜在敵だと言っても正解だ。

 敵になり得る相手にこれ以上手札を見せるわけにはいかない。 双剣や爆裂を知られただけで隠し球も切り札もまだまだあるんだけど、だからと言って軽々に開示して良いものでもないのだ。

 「僕たちのスキルのことはこれ以上なにも教えないよ。 その代わりユーリさんのスキルについても聞かない。 今は、それでいいんじゃないかな。 痛い腹の探り合いをしても不毛だよ」
 「お前のそう言うとこは嫌いだ」
 「ユーリさんの物分りが良いところは好きなんだけどね」
 「言ってろ」

 そして互いにコーヒーに口を付けて間合いを取る。 和やかな雰囲気を装った探り合いと線引きが終わった。 僕もユーリさんも互いの領分を踏み越えない不干渉条約を取り決めて、今はそれで良いだろう。

 「ひとつだけ、良いか?」
 「うん?」

 と思っていたらユーリさんが口を開く。 どうしても気になることがあるのか、言っておきたいことがあるのか。 どちらにしても僕としては聞いてあげる理由はない。
 ないんだけどなぁ……ユーリさんには恩があるし引け目もある。 ここで突っ撥ねることはできなかった。

 ので、視線で先を促す。

 「お前、アマリと仲直りできたのか?」
 「……ユーリさん、アマリのことを随分と気にしてるけど、もしかしてもしかするの?」
 「ねーよ。 ただなんつーか、ちみっこいのがちょこちょこしてるの見るとほっとけなくてな。 それにあいつは一応命の恩人だ。 気にするなって方が無理だろ?」
 「命の恩人?」
 「なんだよ、聞いてねえのか?」
 「『ユーリちゃんが言いたがらないことは私も言えないです』だって。 気に入られてるね」
 「完全におもちゃ認定だろ、あれは。 それに別に言いたくないわけでもねえよ。 だからそのわかりやすいジト目はやめろ」
 「別にー」

 ムッと唇を尖らせながら言っても意味はないだろうけど、一応の否定はしておく。 しかしそうか。 アマリがユーリさんのことはどうやら僕にとってそこまで嫌なことのようだ。

 「で、今度はニヤニヤ笑い出しやがって……お前、気持ち悪いぞ」
 「別にー。 まあでも、命の恩人って言うなら大体の内容は察したよ。 アマリも難儀な性格だよね」
 「お前が言うな」
 「むしろ僕だからこそ、かな」

 はあ、とため息をひとつで意識を切り替える。 言っても仕方のないことをこれ以上話題にしても意味はない。 どうあったところで変えられないことだし、ね。

 「とりあえず結論だけ言うと仲直りはできたよ。 それもこれもユーリさんのお陰だね。 ありがとう」
 「…………」
 「何?」
 「いや、お前、普通にお礼とか言えるんだな」
 「失敬な。 人をなんだと思ってるのさ」
 「人畜有害な捻くれ者」
 「違いない。 けど、感謝してるのは本当だよ? このまま喧嘩別れなんて、嫌だったから」
 「だったらもっと素直になれよ。 そもそも最初から素直にごめんなさいで終わってた話じゃねえか」
 「ごもっとも。 ユーリさんに素直になれって言われるのは心外だけど、確かにもう少し素直になるべきだったね」
 「うるせえ」

 さて、とりあえずの問答はこれで終わりだろう。 これ以上、話すことは互いにない。 と言うか、元はと言えば礼を言うだけが目的だったのでユーリさんをオモチャにする必要はなかったんだけど……そこはまあ、ユーリさんが可愛かったから魔が刺したと言うことにしておこう。
 シィさん辺りは僕がデュエルの賞品を受け取りに来たわけではないことを察しているんだろうけど、何も言わないのは武士の情けのつもりなのか。 助かったのは間違いないので心の中で感謝の念を送ることにした。

 「ああ、僕からもひとつ。 ちょっと聞いときたいこと、教えてもらいたいこと?があるんだけど」
 「なんで疑問形なんだよ」
 「やっぱり教えてもらいたいことかな。 僕の周りにこう言うの教えてくれそうな人っていないから慣れなくて」
 「なんだよ?」

 訝しむ様子のユーリさんを見て思わず苦笑してしまう。 なんでそこまで警戒してるのか、って、僕の自業自得か。
 とは言え、期待してもらっているところ悪いけど、この質問はユーリさんを驚かせたり困らせる類のものではないと思う。 少なくとも変な質問ではなく、純粋に知りたいことがあるのだ。

 「ユーリさんって、どうやってシィさんにプロポーズしたの?」
 「ぶふぉっ」

 あれ?

 「え、そんなに動揺することだった?」
 「…………てね…よ…」
 「え?」
 「プロポーズなんてしてねえつってんだよ!」

 はい?

 そんな馬鹿な。 と言うのがまず初めの感想だ。 そもそもそんな事態を想定さえしていなかった。
 顔を真っ赤にして怒鳴るユーリさんの様子に、けれどそれが真実なのだと悟る。

 「え、じゃあユーリさんとシィさんって結婚してないの⁉︎ なんで⁉︎」
 「むしろなんで結婚してるって思ってたんだよ!」
 「いや、だって、ねえ?」
 「『ねえ?』じゃねえ!」

 予想外すぎる返答に頭が回らない。 いやだって、2人の間に流れる空気感は明らかに明らかで。 相思相愛なのは僕の勘違い、なのか?

 「シィとは幼馴染。 それだけだ」

 ふいとそっぽを向いて言うユーリさんの横顔で合点がいった。 ああ、なるほど、そう言うことか。

 「何かと思ったらヘタれてるだけなんだね。 あんまヘタレてるとそのうち愛想尽かされちゃうよ?」
 「お前が言うな!」
 「僕は結婚してるけど?」
 「うるせえヘタレ!」
 「ヘタレじゃなくて誠実と言ってもらいたいね。 実際に結婚してるわけだし?」
 「あれはあいつが押し切っただけだろうが!」
 「プロポーズはされた側だけどちゃんと結婚してるもんねー。 ユーリさんみたいに日和ってないもんねー」
 「だったらお前、どこまで進んでんだよ!」
 「むぐ……」
 「はっ、ヘタレが」
 「ヘタレじゃないですー。 ただ奥ゆかしいだけですー。 プロポーズもできないヘタレわんこめー」
 「ああいいぜその喧嘩買った」
 「買うの?」
 「買わねえよ!」
 「どっちさ」

 低次元の怒鳴り合い罵り合いだ。 それはもう小学生レベルと言っていい。 でも、それがなんだか無性に楽しくて笑ってしまう。
 なるほど、同性同世代の友達がいたらこんな風だったのかもしれない。

 そんな漠然とした寂寥感に、僕はもう一度笑った。 
 

 
後書き
 初めての男子会(ただし参加者は2名のみ)
 と言うわけで、どうも、迷い猫です。

 久しぶりの更新ですが、特にシリアスな空気になることもなく至って平和に終わりましたね。 ケモミミは良い文明。
 次は女子会になります。 男の子2人が出掛けて放置されてしまった女の子2人のガールズトークが始まるとか始まらないとか?

 ではでは、迷い猫でしたー 
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