ソードアート・オンライン -旋律の奏者- コラボとか短編とかそんな感じのノリで
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幻影の旋律
咎人の最期
僕とニオちゃんとでケクロプスの攻撃パターンを丸裸にする。 頃合いを見計らってクーネさんたちが参戦してHPをガリガリ削る。 HPバーを一定以上削ったらみんなで後退して、また僕とニオちゃんとで攻撃パターンを丸裸にする。
そんなローテーションを数回する頃には、ケクロプスの姿は最初に比べるとずいぶん変貌していた。 変貌の過程を見ていないと、ケクロプスだとはわからないほどの変化。 それはもう、変化と言うよりは進化と言ってしまってもいいだろう。
まず目につくのは身の丈に迫るほど肥大した右腕。 既に魔剣と完全に同化して刀身は見えず、ドクンドクンと気味悪く鳴動している。
次いで背に生えた羽、と表現していいのかは甚だ微妙な何か。 触手状のナニカが寄り集まってできたそれはやはり右腕と同様、鳴動を繰り返す。 飛行能力はないらしいけど、それを背から切り離して飛ばしてくるのは中々肝を冷やした。 これはアマリたちが殺したゴーレム型のモンスターが使用していた攻撃だとか。
他にも一瞬だけ背に腕を生やしたり、肥大化していない左手の爪を伸ばして攻撃してきたり、デバフを大量にばら撒いてくる奇声攻撃だったり、極太レーザーのようなブレス攻撃だったり、とにかくこのダンジョンで遭遇したモンスターたちの特徴的な攻撃のオンパレードだった。
もっとも、本家よりも劣る攻撃なので問題にはならず、今やケクロプスのHPバーは最後の1本を残すだけになっている。
「カ、カカ、殺ス、殺、ス……」
ここまで来てケクロプスの自我は殆ど残っていないようで、ただ壊れたレコードのように呻くのみだ。
そんなケクロプスを見て、僕はポツリと呟いた。
「哀れだね……」
「フォラス?」
それは誰に向けるでもなく呟いた独り言。 返答なんて求めていなかったし、誰かに聞かせるつもりもなかった。 けれど、偶々近くにいたリゼルさんが僕の呟きを拾う。
「……ううん、なんでもないよ」
「その顔はなんでもないって顔じゃないさね。 ほら、このお姉さんに話しちまいな」
「あはは、さすがは姐御」
からりと笑うリゼルさんに微笑を返してから、僕はふうと息を吐いた。
「なんだか哀れだなーって。 だってさ、ケクロプスはその手段の是非は別にして、確固たる目的があったわけでしょ?」
「龍人族の国への復讐、だったかい?」
「その前だよ。 国を襲おうと決めたのは龍皇が殺されたからで、元々の目的は龍皇への復讐……いや、それが本当に憎悪からくる復讐だったかは微妙だけどね」
「そうじゃないって思ってるのかい?」
「どうだろうね。 ただ、ああなったらもう復讐どころじゃない。 目につく全てを殺すことしか考えられないって、それはもう復讐でもなんでもないよ。 それが哀れで、ちょっと悲しいだけ……」
ケクロプスを見ていると胸が締め付けられるように痛い。
それはまるで、いつかの僕自身を見ているようで……。 あの頃の僕自身を見ているようで……。
と、静かに目を伏せた僕の頭にリゼルさんの手が乗った。 何をと思う間もなく、グシャグシャと乱暴な手つきで撫で回される。
「わっぷ」
「あいつはフォラスとは違うさ」
「でも……」
「あれが正しかったなんてアタイは言わないし、言ってやりたいことは五万とある。 けど、あんたはアタイらには敵意を向けなかった」
「でも、他の人には敵意を向けたよ。 キリトにも、アスナさんにも……」
「そりゃ、そいつらがあんたの邪魔をしたからだろう?」
「…………」
「あんたの復讐は目的も目標も見失わなかった。 目につく全てを殺そうとするあいつとは違うさ」
ぺしんと僕の頭を軽く叩いたリゼルさんは、それからもう一度笑った。
「あんたは悩みすぎさね。 物事ってのはもう少しシンプルで良いのさ。 あれは敵で、ニオとアマリを攻撃してるんだ。 《ぶっ殺す》理由としちゃ十分だろう?」
「リゼルさんは結局、それが重要なわけなんだね」
「当然さ」
快活に笑うリゼルさんを見て、僕はついつい吹き出してしまう。
そう。 いかにケクロプスが哀れだろうとそんなことは関係ないのだ。 いつかの僕のようだろうと、そんなことは関係ない。
奴はアマリを攻撃した。 奴は僕の友達を攻撃した。
ケクロプスをぶっ殺す理由は、それだけで十分すぎる。
「……じゃあ、行こっか?」
「はっ、アタイは元からそのつもりさね」
ニヤリと笑って駆け出したリゼルさんと同時に僕も戦場を駆ける。
敏捷値の関係で先行する僕の後ろから響くリゼルさんの足音が、唐突に消えた。 《隠蔽》スキルからの派生スキル《無音動作》を発動したのだろう。
リゼルさんの《隠蔽》は精度に特化した僕の《索敵》でも看破するのは難しいほどに極められている。 まして《索敵》が使えないこのダンジョンだ。 まともな手段で看破なんてできるはずがない。
これが他人であれば互いに巻き添えを気にして動けなくなるところだけど、相手がリゼルさんなら気にする必要はないだろう。
そう結論を出した僕は、後ろを気にすることなく雪丸を流しながら目一杯引き絞る。
「ーーーーっみんな退がって!」
恐らくは雪丸に灯った妖しい紅色のライトエフェクトに気がついたのだろう。 クーネさんが切迫した調子で指示を飛ばし、ニオちゃんとリンさんが慌てた様子でその場から離れる。 前線で同じく戦闘中のアマリはそんな指示なんてどこ吹く風だけど、僕も僕でアマリを気にせずに雪丸を振るった。
薙刀重単発ソードスキル《血桜》
単純極まる右斜め下から振り上げる斬撃の軌道にはアマリがいる。
けれど、接触する直前、まるで背中に目でもあるのかと疑いたくなるような正確さでアマリの身体が沈み、雪丸の刃をスレスレでやり過ごした。
雪丸が狙い違わずケクロプスの肥大化した右腕を捉え、その硬質な感触が僕の腕に伝わる頃には、既にアマリの攻撃の準備が完了している。
「あっはぁ!」
ぐわんと持ち上げられた桜色の可愛らしい頭が《血桜》で体勢を崩していたケクロプスの顎をかちあげ、次いで《でぃーちゃん》を手放した小さくて愛らしい右手がその顔面を容赦なく掴む。
《でぃーちゃん》を振るう攻略組屈指の筋力値によるアイアンクローには背筋が凍るけど、残念なことにアマリの攻撃はまだまだ終わらない。
「あーーーーっ!」
狂気の絶叫を迸らせながら1歩踏み込むと、ケクロプスの足が地を離れる。 そして、勢いをそのままにその後頭部が地に振り下ろされた。
「ーーーーっはぁ!」
瞬間、ケクロプスの後頭部による地面への攻撃をシステムが検知したのか、《爆裂》が発動。 着弾地点が爆ぜ、噴煙が立ち上る。
地面に叩きつけられた上に《爆裂》の追い打ちには同情するばかりだ。 夫婦喧嘩でよくやられる身としては、もう他人事とは思えない。 あれは本当に辛い。
と、噴煙からアマリが飛び出してきて、僕の隣に着地した。 キラキラとでも効果音がつきそうな上目遣いは褒めて欲しいのだろう。
戦闘中の緊張感とか、今しがたやった暴挙とか、そんなことは微塵も感じさせない緩い笑顔に負けて柔らかな髪を撫でると、「うにゅぅ」と嘆息なのか歓喜なのかよくわからない声を漏らした。 まあ、可愛いので良しとしよう。
「まだ終わってないけどお疲れ様」
「あはー、ぜんっぜん疲れてないですよー。 まだぶっ殺し足りないです。 暴れ足りないです。 鏖殺が足りないですー」
「それはこーー「気を抜かないで! まだ終わってないわよ!」
「……フォラスくんの声をかき消すなんて万死に値するですよー」
気の抜けた会話中の僕たちを叱責するクーネさんに対してポツリと一言。
内容が危なすぎるし僕がどうこう言える内容でもないのでスルーしておこう。 それにどう言ったところで、アマリがクーネさんたちに危害を加えることは僕がそばにいればありえないので問題はないだろう。 僕がいなければその限りではないのが若干不安ではあるけど。
クーネさんには手を振って返して、僕は噴煙に視線を移す。 今のアマリの攻撃を含めて最後のHPバーは半分を切ったので、ここでまた行動パターンが変更されるはずだ。 警戒を緩めるわけにはいかない。
最後のHPバーの半分。
今までの傾向で言えば、ここからが本番と言っても差し支えはないだろう。 強化具合は今まで以上だろうし、それこそどうしようもないほど強化される可能性だってある。
さあ、ここからだ。
スウと小さく息を吸って気合を入れ直した僕たちの眼前で噴煙が晴れる。
そこにいたのは先ほどまでのケクロプスとは比べ物にならないほど変容した異形だった。
魔剣による侵食は右半身全体を覆い、顔の半分も隠れてしまっている。 背に生えていたナニカは消え去ったものの、右腕の肥大化は遂に身の丈すら超え、それだけ別の個体になったような様相だ。 初対面した際には矍鑠と笑い、人を見下した傲慢な瞳からは最早生命の息吹を感じられない。
ズルズルと、ヌラヌラと、ドクドクと、グズグズと、不規則に胎動する触手状のソレは不気味に鳴動を繰り返し、そこにケクロプスの理性は完全に残っていなかった。
「ーーーーっ」
僕はどうして悔しいのだろう?
ケクロプスでありながらケクロプス以外のモノに成り果てたソレを見て、僕は思わず歯噛みしてしまう。
「……どう、して……」
「フォラスくん?」
「どうして、あなたはそんな道を選んだ……」
ギリリと音が響く。
「あなたであればもっと違う道を選べたはずなのに、どうして……」
隣に誰かが降り立ったのか、トンと小さな音が聞こえる。
「龍皇が生きている内に戦いを挑めばよかったのに……」
すぐそばからガシャリと重厚な金属がぶつかり合う音が届く。
「そうすれば、こんなことにはならなかったはずなのに……」
タンタンタンとこちらに駆け寄る足音が来る。
「勝敗がどうであれ、結果がどうであれ、あなたがそんな無様な姿を晒すことはなかっただろうし……」
タタタンと軽やかな足音が近付く。
「そんな苦しい思いをすることはなかったはずなのに……」
スッと僕の背後に誰かが立った音が控えめに主張する。
「こんな無意味な戦いをする必要もなかったはずなのに……」
コツコツコツとあくまで冷静な足音が転がる。
「……それがあなたの望みか、ケクロプス! あなたの復讐はこんな終わり方でいいのか!」
ポフっと、誰かの手が僕の頭に乗る。
「そんな魔剣如きに呑まれるほど、あなたの復讐は軽いものだったのか!」
ギュッと、誰かが僕の腕を抱く。
「答えろ! ケクロプス!」
そして、そして、そして……
ピシリと言う小さな音が終わりを告げる。
「ガ……ガガッ……カカカ、かかっ、かっか、小僧が、言いよるわ……」
絶え絶えで弱々しい声が聞こえ、次いでバシャンと何かが弾ける音が全ての終わりを告げる。
「かかっ、よもや人間族の小僧風情に復讐の理を説かれるとはのう」
「…………」
「全く以って不愉快じゃ。 貴様のような小僧の言葉で目を覚ますなど、一生の不覚よ」
そこにいたのは魔剣に侵食されたケクロプスだったものではなく、龍人族であり四天王の主人でもあったケクロプスその人だった。
ケクロプスは初めて見た時よりも矍鑠と、いっそ清々しく笑う。
「のう、小僧よ。 貴様は何かを失ったことがあるかえ?」
「……あるよ。 たくさん失った。 数えるのが嫌になるくらい、たくさん」
「かかっ、ならば、貴様になら儂の痛みが理解できよう?」
「うん、わかるよ。 痛いくらい、わかる……」
「のう、小僧よ」
「何?」
「儂は、やり直せるかのう?」
遠くを見る目に最早僕たちは映っていないのだろう。 それは、これから向かう先へと既に向いていた。
だからこそ、僕が言うべき言葉は決まっている。
「できるよ、きっと。 向こうでやり直せる。 思う存分、ケンカしてきなよ」
「楽しみじゃのう。 今度は負けんぞ、我が友よ……」
「それは向こうにいる友達に言ってあげなよ。 ここで惚気られても挨拶に困るから」
「かかか、口の減らん小僧じゃわい」
かかっ、とまた笑って、ヒビだらけになったケクロプスの身体が淡く発光する。
「小僧、最後に名を聞かせてくれ」
「……フォラス」
「かっ、ずいぶん優しい悪魔がいたものじゃな。 これで友へのいい土産話ができたわ。 感謝するぞ、フォラス」
言って、ケクロプスを包む光が瞬き、それが治るとそこには誰もいなかった。
「あなたは、最後に誇りを取り戻したんだね……」
消滅してしまったケクロプスに届くかわからないけど、僕はいつものセリフを口にする。
「誇り高き復讐者よ。 あなたの死後が友と共にあり、心穏やかなることを」
おやすみ
後書き
ケクロプス戦決着(?)回。
と言うわけで、どうも、迷い猫です。
ケクロプス戦が一応のところ終結しました。 とは言え、完結はしていません。
さてさて、普段も意味がわからない話しが多い中、今回は更に輪をかけて意味がわからない話しです。 途中で諦めたりしていないといいのですが……
まあ、書いてしまったものは仕方ないですし(開き直り 次の話しで詳しい状況を書きますし(言い訳 できればもう少しお付き合いください。
ではでは、迷い猫でしたー
PS.スランプです(言い訳2回目
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