ソードアート・オンライン -旋律の奏者- コラボとか短編とかそんな感じのノリで
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幻影の旋律
戦慄を誘う魔剣
「リンさん、スイッチ!」
「あっはぁ!」
「ちっ……」
僕の指示が聞こえたのか、はたまたアマリの狂声が聞こえたのか、リンさんは舌打ちをしながらその場を飛び退いた。 殆どギリギリのタイミングでリンさんが先ほどまでいた空間をでぃーちゃんの刃が通過し、突然のスイッチに対応しきれなかったケクロプスの身体が吹き飛ばされる。
それと同時に跳んだ僕は飛んでいる最中のケクロプスに肉薄すると、コンマの間を置かずにソードスキルを発動する。
ケクロプスの身に二重の十字架を刻みつけ、硬直が解けると同時に宙空を蹴って後退した僕のスレスレを通過する矢に内心で冷や汗を流すけど、さすがは《黒の射手》と呼ばれるだけあって、ティルネルさんの放ったそれは寸分の狂いもなくケクロプスの身を穿つ。
矢に塗られた毒がケクロプスの耐毒スキルを貫通して、ようやく麻痺を引き起こす。 ボスであることを念頭に入れればすぐに回復するだろうけど、足が止まれば超高火力の一撃が待っているのだ。
直後に舞い踊るのは鮮やかな純白の風。
今か今かとタイミングを見計らっていたヒヨリさんがいつの間にやらその射程にケクロプスを収めていた。
ユラリと揺れた刀身が淡い紫の光を放つ。 それと同時に僕でさえ視認できないほどの速度でヒヨリさんが弾けた。 ギリギリ、なんとか見えた光景は僕が初めて見る驚愕の剣技だった。
いや、初めてとは言ったものの、僕はそのソードスキルを知っている。 現状公開されている全てのソードスキルを僕は記憶しているので、未だに公開されていないスキルでもない限り、僕が初めて見るなんてことはない。 今までの立ち回りを見た中でヒヨリさんはユニークスキルなんてとんでもない代物を持っている素振りはなかったし、使っている武器も相変わらず綺麗な細剣のままだ。 そして、使われたスキルも細剣ソードスキルのひとつ。
《プリズムミラージュ》
敵の周囲を回るようなステップを交えて4連撃を突き込むそれは、確かに回避が極めて難しいソードスキルではある。 けれど、僕の前で放たれたそれは、明らかに他の誰かが使うそれとは一線を画していた。
ヒヨリさんが有する僕以上であろう敏捷値で放たれた4連撃は、殆ど同時にケクロプスの身体を突き刺したのだ。 それでいて今までのどの攻撃よりもケクロプスのHPを削りとった。 ソードスキルも爆裂も使っていないとは言え、あのアマリの一撃すらをも上回る暴力に、僕は柄にもなく戦慄した。
火力の高さは、恐らく細剣のパラメーターが高いからだろう。 僕が振るうエスペーラスやマレスペーロと同等の魔剣クラス。 隠しクエストで入手したと思われるあれの性能の高さには背筋が凍る。 それに加えてヒヨリさんのプレイヤースキルも驚嘆ものだ。
一撃離脱に特化したスタイルは個人戦では恐れるほどでもないけど、こう言う集団戦では恐怖すら覚えるほどにピタリと嵌る。 ジル・ガルニエ戦では本領が発揮できていなかっただけで、これこそが《流星》の真の姿なのだろう。
硬直が解けるや否や、早々にケクロプスの攻撃範囲から離脱するヒヨリさんを見ながら、僕は薄ら寒い感覚に襲われた。
ヒヨリさん……正直今までノーマークだったけど、あれを放置しておくのは危険かもしれない。 僕と敵対する前に対策を打っておこうかな?
なんて、そんな黒いことを考えていると、多分何も察していないヒヨリさんとバッチリ目が合う。 走りながら、それもケクロプスの隙を探りながらだろうに、ヒヨリさんは弾けるような笑顔でブンブンと手を振ってきた。 全く以って平和なことだ。
急速に毒気が抜かれた僕は控えめに手を振り返し、ついつい苦笑いを零してしまう。 愛想笑いにしてはずいぶん色の濃い笑顔だったけど、きっとあれで愛想笑いのつもりなのだろう。 本当に良い子である。 僕にとっては眩しすぎるくらいに。
さて、状況は予想以上に順調だ。
ケクロプスの実力は、なるほど四天王を従えるだけのことはあると感心させられるけど、かと言って理不尽な強さではない。 精々サラマンダーより少し強い、と言ったところか。
それでもHPバーを6本も持ち、火力も硬度も一級品なので油断はできない。 こちら側が有利にことを進めていられる要因は、やはりメンバーの戦力が圧倒的であることに加え、四天王との戦いが活きているからだろう。
火力はサラマンダーに及ばない。 硬度はノームほど圧倒的ではない。 スピードはシルフよりも遅いし、攻撃の多彩さはウンディーネに劣る。 総合力は高いにしても彼らのようなスペシャリストではなく、そんな彼らを退けてきた僕たちにとって、そこまでの脅威たりえないのだ。
もっとも、それはケクロプスの能力がこのままであれば、だけど。
嫌な予感がしながらも、僕がすれ違いざまに放った双剣ソードスキル《トライエッジ》がケクロプスのHPバーの1本目を吹き飛ばす。 通常のボスであればここで行動パターンの変更があるわけだけど、果たしてケクロプスはどうだろう?
「かっ、かかっ」
低く漏れた笑声はケクロプスのものだ。 ノックバックから回復したケクロプスが項垂れたまま笑う。
「貴様らは強いのう。 あの武人馬鹿を思い出すわ」
「武人馬鹿?」
「貴様らも知っておろう。 龍皇のことじゃよ。 もっとも、貴様ら8人と1匹を揃えても奴の足元にも及びはせんが」
「8人と1匹じゃなくて9人だよ」
「かっ、エルフ族の小娘など、儂から見れば地を這う獣と相違ないわ。 しかしまあ良い。 貴様ら9人を儂の敵と認めるとしようではないか」
「熱烈なラブコールは痛み入るよ、本当に。 で、敵と認めてどうするのさ?」
行動パターンの変更を警戒して後退する面々を尻目に僕とケクロプスは他愛ない話しで時間を潰す。 この先に起こるだろうあれこれを警戒してはいるけど、それでも話しかけられて無視するなんて無礼、良い子の僕としてはできないのである。 まあ、全く以って白々しい限りで、クーネさん辺りから『フォラス君が良い子なら大抵の人は良い子になるわね』なんて言う突っ込みを頂戴しそうだけど。
「決まっておろう。 敵であるなら踏み砕く。 それだけじゃよ」
「へえ、それは奇遇だね。 僕も敵は残らず踏み砕く主義でね。 もちろん、あなたのことも踏み砕くよ、お爺ちゃん」
「かかっ、やれるものならやってみよ」
そこでようやく行動パターンの変更が決まったのか、ケクロプスが持つ血色の魔剣が一層妖しく瞬いた。 ケクロプスから片時も目を離さず見守る僕たちの前で、その変化は割と早く起こる。
魔剣を持つ右腕がなんとも形容し難い音と隆起を伴って変貌する。 さながら魔剣から触手でも生えたかのように血色のナニカがケクロプスの右腕を覆い、一回り以上も肥大化したのだ。 それに応じてか、魔剣自身もその刀身を伸ばし、ドクンと気味悪く鳴動する。
「どう見る?」
端的かつ的確な問いはリンさん。
あの変化が一体どのような種類なのかと聞いているけど、どうせリンさんもある程度の予測はしているだろう。 故に僕が返す答えも無味乾燥としたものだ。
「多分、火力上昇じゃないかな? 予想してた218パターンの内では最も可能性が高かった変化だね」
「全ては予想の範囲内か……」
「王道過ぎて反吐が出るけどね」
「だが、対策は簡単だ、だろう?」
「ごもっとも」
「まずはニオが接敵! それからフォラス君も前に出て頂戴! 後のメンバーは様子見に徹するわよ!」
僕とリンさんの無駄話はクーネさんの指示で終了となる。
火力上昇であるなら対応はニオちゃんが適任だし、この手のお仕事に僕が向いていることは明確だ。 さすがはクーネさんと適当な賛辞を胸中で呟きながら、僕は双剣を鞘に戻してストレージから雪丸を呼び出した。
「だそうだ」
「クーネさんも人使いが荒いよね。 過重労働手当とか出るかな?」
「出るわけあるか」
「ですよねー、っと。 じゃあリンさん。 警戒は任せたよ」
ポンとリンさんの肩を叩いて僕は走り出す。
背中に受ける視線はむしろ僕をこそ警戒しているようだ。 先ほどのヒヨリさんに対して抱いていた黒い思惑を見透かしているのだろう、きっと。
アマリが悪意に敏感なように、リンさんは相棒に向けられる悪意に敏感なようだ。 全く以って虐め甲斐があって、僕としては楽しい限りである。
「あの、フォラスさん。 その顔はちょっと怖いです」
「ん? このプリティフェイスが怖いって?」
「自分で言わないでください」
駆けながら合流したニオちゃんにピシャリとやられてしまう。
アマリとのノーム戦が余程大変だったのだろう。 ずいぶんとニオちゃんらしくないやさぐれ仕様だ。 もっとも、だからと言って生真面目で小心者なニオちゃんなので、こちらをチラリと確認して僕が怒っていないか確かめる辺り、まだまだやさぐれ度は低い。
「さて、ニオちゃん。 頼りにしてるよ」
「任せてください。 攻撃は私が全部防ぎます」
「じゃあ、もしかして僕はいらない?」
「そ、そんなことはありません」
「っと、無駄話はここまでみたいだ、ね!」
射程に入った僕たちを魔剣の横薙ぎが襲う。
腕と刀身の肥大化に伴って伸びたリーチを見極めながら僕は跳び、ニオちゃんはそれを盾で受け止めた。 《ロマン盾》の面目躍如となる抜群の防御能力を発揮して小揺るぎもしないニオちゃんを視界の端に収めながらケクロプスの背後に着地。 振り向きざまに雪丸を強振して背を切り裂いてHPバーの変動具合を確かめると、それは行動パターン変更前と大差ないダメージを叩き出していることがわかった。
つまりは硬度面に関しては特段の変化はなし。 手応えからもそれは明白で、加えて回避パターンも向上していないようだ。
あくまで予想の範囲内から逸脱しない強化具合には少しだけ落胆するけど、それでもこのまま安全にことが進んでくれるならそれでいい。
今は僕とアマリの2人だけではないのだから、無茶も無謀も出来る限りは避けたいのだ。
だから大人しく殺されてね?
そんな言葉を僕は小さく呟いた。
後書き
ヒヨリさんがマジで天使回。
と言うわけで、どうも、迷い猫です。
純真無垢で天真爛漫なヒヨリさんに対してフォラスくんがイケない衝動を抱いています。 ヒヨリさん、逃げて。
それでも天使の笑顔であのフォラスくんの毒気すら抜いてしまうと言う偉業。 天然は最強ですね。
そして途中に挟まれるフォラスくんとリンさんの談笑(ただしどちらも笑っていない)は仲良しなように見えて非常に険悪です。 回を重ねる毎に主人公同士の仲が悪くなるコラボは珍しいのではないでしょうか? まあ、互いの行動理念が似通っているからこそ相容れないと言うやつです。
さてさて、次回もまだまだケクロプス戦が続きます。こんな調子だと一体何話になるのかは怖くて考えないようにしています。
ではでは、迷い猫でしたー
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