和-Ai-の碁 チート人工知能がネット碁で無双する
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第一部 桐嶋和ENDルート
第42話 引退の影響
H13年 4月 第3週の金曜日夜 side-Asumi
「塔矢先生の引退、びっくりしたよね?」
息抜きのネット碁をしながらzelda(和谷)とお喋りをする。
「タイトルホルダーがいなくなった棋戦ってどうなっちゃうのかな?」
「いやいやいや。私だって天元戦の予選Cが始まるし勝ち進めば挑戦者にだってなれるよ!」
「えっと……。来週の木曜に予選C→5,6月に予選Bで3回→本院予選Aで2回。
初段の私でも6回勝てば本戦トーナメントに参加できるんだよ天元戦!!」
「もー。塔矢アキラだって本因坊戦の三次予選まで進めてるじゃん」
「私だって桑原先生に勝っちゃうような碁が打てるんだから!天元戦は本気で上を狙ってるのよ!」
「あー。ごめん。ごめん。話が逸れちゃったよね。え?塔矢先生のこと?」
「うん。緒方先生も理由は知らないって言ってた。やっぱりアノ対局かな?」
「あ、和谷も生で観戦してたんだ。もう凄い名局だったよね。sai vs toya koyo!」
「うんうん。私もAi以外のネット碁対局で初めて感動しちゃった!」
「わー。分かる。分かる。なるほどー。現代の囲碁を学んだ本因坊秀策かー」
「森下先生の研究会でも検討したの?進藤が逆転の一手を?最後に塔矢先生に見逃しがあったの?」
「うわー。次に小宮くんたちと並べるときには私も呼んでよ」
「え?明日の土曜日?ごめん。明日は予定が決まってて…。あ、そうだ」
ついつい口を滑らせてしまう。
「先週に続いて今週の土曜日もネット碁にsaiが姿を現すかもって噂があるらしいよ」
「そうそう。あくまで噂だけどチェックしといて損はないでしょ?」
「へー。二年近くネット碁から姿を消してたんだ。何してたんだろうね?前より強くなってた?」
「もしAiとsaiが対局するなら?私はAiが勝つ方に賭けるよ」
「即答だよ。saiが塔矢先生に勝ってるとしてもね!」
「和谷だって私が世界一のAiフリークだって知ってるでしょ?」
「いーよ。Aiが勝ったら帝国ホテルでケーキおごってもらうからね!」
「うーーん。Aiを最後に見たのは昨年末かな?今年はまだ見てないよ」
「もとからAiは神出鬼没だからsaiが帰って来たんなら対局もありえるんじゃない?」
「うんうん。あ、もうこんな時間か。わかった。おやすみー」
私は知ってる。今週の土曜日にAiとsaiの対局があることを。
和-Ai-のホームページの問い合わせ先にsaiから対局の申し出が送られてきて、彼が今週の土曜日と今月の最終日なら3時間の持ち時間で対局を了承すると返事をしたらしい。
私が知る限りAiの問い合わせに対して返事をしたのは初めてのことだと思う。
彼に尋ねてみたら秀策ファンの彼女ならsaiとAiの対局の棋譜は絶対に喜ぶからって言ってた。
私も塔矢先生に勝ったsaiと和-Ai-の対局には興味がある。けど彼はまるで隠れていたsaiが現れることを知っていたみたいな気がする。――私の勘。
1年前に開設した和-Ai-のホームページでも最初っからsaiを名指しで指名してた。
互いに無敗を続ける正体不明のネット棋士。どちらが強いかずっと比較され続けて来た二人。
この戦いは運命の必然だったように感じる。そして直接対決でその答えがついに出る。
和-Ai-に代わってネット碁の操作を行う打ち手は私。
今までにない重要な対局で操作ミスなんて許されない。
明日に備えて今日はもう寝よう。
5月10日になったら私は17歳の誕生日を迎える。
彼にお願いして美味しいケーキを食べに連れて行ってもらおう。
和谷には帝国ホテルのケーキをおごってもらうのだから、
彼が前に話してた<バラの香りの世界一のケーキ>をお願いしよう。
彼がこの世界に来たのが2年ほど前、saiがネット碁に現れていたのも2年ほど前。
私は和-Ai-とsaiの因縁には気づいてはいたけど、わざと気づかないフリをしていた。
彼が元の世界に戻ることを邪魔したことなんて一度もない。
けど彼が突然消えてしまうのが怖い。彼が目の前からいなくなってしまうのはイヤだ。
まだまだ和-Ai-から学びたいことだって沢山ある。
だから私はソノコトをできるだけ考えないようにしてた。
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