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和-Ai-の碁 チート人工知能がネット碁で無双する

作者:笠福京世
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第一部 桐嶋和ENDルート
  第41話 藤原佐為

H13年4月 第3週の火曜日夜 side-sai

 永き歳月の中で殆ど薄れてしまった千年もの昔の記憶――――

 平安の世の時代、まだ私が幼かったころ。
 大君の部屋に唐の国から伝わった絵巻物を元にした一枚の屏風絵がありました。

 そこには黄色い冠に朱色の純衣をまとった人物が子供に碁を教える姿が描かれており、囲碁を習い始めたばかりの私は興味を覚え屏風絵の人物について蔵人に尋ねました。

「この御人は唐の国の神話に出てくる聖人で名を堯-ぎょう-と言う。
 言い伝えでは堯は息子の丹朱が賢くないのを嘆いて碁を考案し教えたという」

「それでは堯は神の一手を極めてるのですか?」

「……ふむ。古の書よると堯は、仁は天の如く、その智は神の如くと謳われてはおるが……
 あくまでも五帝と呼ばれる聖人のひとりに過ぎず神である三皇には及ぶまいて」

「描かれている盤面の碁は不思議な石の模様ですね」

「そこにある碁の意味が分かる頃には、お主も少しは神の一手とやらに近づいておろうて」

 ――――あの屏風絵に絵描かれていた盤面をついぞ思い出すことはなかった。

「さい? ……なあ、佐為? ……おいっ! 聞いてるのか佐為!?」

 ヒカルの声にボンヤリとしていた意識を幽世から現世(うつしよ)へと戻す。

――ハイ。聞こえてますよ、ヒカル。何でしょうか?

「なあ、ホントにこの手紙に書かれてることを信じてAiってやつと対局するのかよ?」

――せっかく相手からの招待なのです。何か不都合でも?

「あの怪しいヤツのこと信じるのかよッ!?」

――あの怪しげな者のことは分かりませんが私たちを謀る理由は無いかと。

「まあAiとネット碁で対局が可能な日が4回も書かれてるしな。
 わざわざ都内にある個室が完備されたネットのできる場所がいくつか……。
 それにネットカフェ代金とか書かれた封筒の中には諭吉まで入ってるぜ。
 まさに、いたれり、つくせりってやつか?」

――ええ。それに……あのときヒカルは、のーとと言っておりましたが

――私にはアレが、てれびやぱそこんといった箱に似たものに見えたのです。

「あの手に持ってた普通のノートが?」

―はい

(そして、そこに映る和服姿の女性の姿、おそらく彼女が……)

「ふーん。まあオマエが打ちたいなら反対しないけどさ。こないだは大変だっただろ?」

(この前の一局は、神がヒカルに見せるために用意した対局)

(それなら、このAiというものとの一局にも、何か意味があるのでしょうか)

(Aiというものの棋譜から感じる不思議な胸騒ぎ……)

「なあ!」 ――え?え、えーと?

「なんだよ。また他のこと考えてたのか? ここ最近ずっと様子がおかしいぞオマエ」

「もー、塔矢先生は引退するって決めちゃったし。
 緒方先生にもsaiと打たせろってせがまれるしさ!
 アタマを悩ませるのはいつもオレ。碁のことだけの佐為がうらやましーよ」

――すいません(しょぼーん)

「あー、もう! じょーだんだから暗い顔するなよ。それでどうするんだ?」 ――え?

「Aiとの対局日だよ。対局日! 最短は四日後の土曜日で、次が4月の最終日。
 その次がゴールデンウイークのこどもの日の翌日で、最後がその次の土曜日……」

「って最後の日は若獅子戦のある日じゃん! さすがに無理だから、全て打っても3回な!」

――ヒカル?いいのですか3度も!?

「いいよ。いいよ。約束もしてたしオレもオマエとAiってやつの対局は興味あるから」

――ありがとうございます!ヒカルっ!

「その代わりというわけじゃないけど勝ってくれよな!!」

――ええ。全力を尽くすと約束します

「そういえば奈瀬に貰ったAiの棋譜を熱心に見てたけど、どう思った?」

――そうですね。お城碁を思い出しました

「お城碁?」

――ええ。虎次郎の時代に江戸の城にて、お殿様の前で打った御前試合のことです

「へー」

――ヒカルの時代と違って虎次郎の時代の碁は特に持ち時間というのは決まっていませんでした。

――お城碁では、途中での帰宅は許されず、幾日もかけて対局したため、棋士は親の死に目に会えないとさえ言われていました

――お城碁では持ち時間がありませんから終盤のヨセで時間に慌てて間違えることはまずありません

「なるほどな」

――虎次郎の時代、お城碁は終盤で間違えない。それを前提として互いに序盤中盤を厳しく争っていました

――Aiの序中盤の厳しい踏み込みは終盤のヨセに絶対の自信があるからだといえます

――なのでお互いに序中盤から激しく中央を争うような碁になるでしょう

(ただ実際に打ってみなければ相手の真の技量は分からないというもの)

(ああ、しかし碁が打てるというのに、どうして不安が募るのでしょうか……) 
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